第五十話
アパートに帰ると神崎は早速料理に取り掛かった。
「優也さんはゆっくりしてて下さいね。」
「なんか手伝わなくていいのか?」
「料理出来ないのに手伝えるんですか?この狭いキッチンだと邪魔にしかならないと思うのでそっちでゆっくりしといて下さい。なんなら寝ててもらってもいいですよ。」
「さすがに寝るのは悪いわ。テレビでも見ながらゆっくりさせてもらうよ。」
テレビをつけてテキトーにザッピングしたりスマホを見たりしながら時間を潰す。
時々、神崎のほうを見てみるがさすがの手際の良さで料理をしている。
俺にはなにをしているのかわからないような工程もあるようで料理の進行具合が全くわからない。
「優也さん、そういえば飲み物ってどうしますか?アタシはなんでもいいんですけど優也さんはワインとか飲みます?」
「いや、お前に飲むなって言っといて俺だけアルコールは飲まないよ。」
「アタシは未成年だから仕方ないですけど優也さんだけでも飲んでもらっていいですよ。」
「一人では飲まないよ。ノンアルコールのなにか買ってくるか?」
「あっ、それならノンアルコールシャンパンがあるらしいので飲んでみたいです。」
「あー、見たことあるな。よし、俺が買ってくるよ。」
「え?アタシだけ家に残っていいんですか?」
「いいよ。今さらお前が変なことすると思わないし信用してるからな。ちょっと行ってくるわ。」
「ちょっと待って下さい。お金を……」
「いらん。それぐらい俺に出させろ。じゃ、行ってきます。」
料理で手の離せない神崎の言葉を遮って家を出る。
「……いってらっしゃい。」
俺は酒の種類が豊富に置いてあるドラッグストアに来てすぐに目的の酒を見つけた。
神崎の好みがわからないので二種類のノンアルコールシャンパンとついでにノンアルコールワインを一本買って帰った。
「おかえりなさい。」
「ただいま。飲み物冷蔵庫に入れとくな。」
「はーい。だいぶ出来上がってきましたよ。運ぶの手伝って下さい。」
「はいよ。そっちのはまだですけど、この辺のは運んで大丈夫です。」
「わかった。」
神崎に言われた物と箸やグラスなどを運ぶ。
それから少し待っていると全ての料理が完成した。
「出来ましたー!優也さん、一緒に運びましょう。」
「おう、ありがとな。」
料理を運び終わり、飲み物を出す。
「神崎、どっち飲みたい?」
二種類のノンアルコールシャンパンを神崎に見せる。
「飲んだことないからわからないですけどそっちでお願いします。」
右手に持つ方を指差しているので反対のは冷蔵庫に戻す。
二人でローテーブルの前に座り、改めて料理見てみるが思っていた以上に豪勢だ。
質の良さそうな肉を使ったローストビーフにいい香りのフライドチキン、家で作れるものなのかと思わせるパイシチュー、サーモンのカルパッチョにポテトサラダとよくこの狭いアパートのキッチンでこれだけの料理が作れたなと思わせるメニューだ
どれも旨そうで一品一品がそれぞれ日々の晩ご飯のメインディッシュになれる料理と言えるだろう。
シャンパンのキャップを開けお互いのグラスに注ぐ。
「ちょっと早いけどメリークリスマス。」
「メリークリスマス、かんぱーい。」
「かんぱい。しかし凄い料理だな。ホントありがとな。」
「いえいえ、こうしてイブに付き合ってもらえるんですから気にしないで下さい。ほんとは優也さんといい雰囲気のレストランとか行きたかったんですけどね。」
「家でお前の料理食べるほうがゆっくり出来るし気楽でいいけどな。」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。」
「どれも旨いな。あんまり食に対するボキャブラリーがなくてなんて言ったらいいのかわからないけど全部旨いよ。すまんな、細かい感想が言えなくて。」
「いえいえ、優也さんの食べてる表情見てたらほんとに美味しいと思ってくれてるのがわかるからそれで十分ですよ。けっこう量があるんで食べきれなかったら冷蔵庫に入れておいて明日にでも食べて下さいね。」
「そうさせてもらうよ。飲み物なくなりそうだな。ノンアルコールのシャンパンとワインどっちがいい?」
「せっかくだしワインの方飲んでみたいです。」
「りょーかい。」
俺が冷蔵庫にワインを取りに来たところで神崎も自分のバッグのところに移動した。
ワインを持って戻ると神崎が俺にリボンの付いた小箱を持っていた。
「…これ、クリスマスプレゼントです。よかったら使って下さい。」
渡された小箱を開けてみるとシンプルなデザインの白いマグカップだった。
「ありがと。使わせてもらうよ。」
嬉しそうに笑顔を見せた神崎だがすぐに下を向いて足元に置いてあった別の小箱を開けながら小声で緊張しながら聞いてきた。
「……あの、……それでですね。……自分用にも買ってきたんですけどここで使っちゃダメですか?」
神崎が出したのは俺に渡した物より少し小さな同じデザインのマグカップだった。
所謂ペアカップというやつだ。
「ダメなら自分ちで使います。」
「いいよ。ここで使って。俺からもプレゼントがある。」
ベッドの影に置いてあった箱を取り神崎に渡す。
「えっ?ほんとですか?ありがとうございます!」
嬉しそうに受け取った箱を開ける。
そこまで喜ばれる物ではないのだが。
「まだ好みの物とかわからないから今回は消え物にしたよ。」
「あっ!ハンドクリームですね。」
「ああ、いつも料理とかしてくれてるから実用性重視で選んだよ。」
「ここに置いておいて使ってもいいですか?」
「いいよ。」
「ありがとうございます。プレゼント準備してくれてるとは思ってなかったからびっくりです。」
「わざわざクリスマスに渡すような物でもないけどな。」
「そんなことないですよ。クリスマスだからって選んでくれたんですから嬉しいです。」
それから旨い料理と会話を楽しんだが食べ終わって片付けが終わった頃にはけっこう遅い時間になっていた。




