第7話:唐揚げは飲み物 ですか?はい、そうです。エリクサーですか?絶対に違いたい……
テンプレのカレーを作るぞイベントを終えた次の日は、「瞳さんにゆっくり寝てていいわよ」と言われていたが、時計塔の6時を告げる鐘で目が覚めた。元日本でもいつもこの時間に起きて、両親2人の朝ご飯とみんなのお弁当を作っていたので、すっかり習慣がついていたのだ。
お母さんには「暁のお弁当を食べると元気が出て、午後からも仕事が進むのよ」と言われ、お父さんからも「暁のお弁当を食べるのがお父さんの楽しみなんだ。絶対暁は嫁にはやらんぞ」と謎の発言をされながら、うまくおだてられて3人分(自分の分も含めて)作っていた。前の夜の残りや冷凍食品がほとんどだったけれどね。だって私まだ13歳だもん……。
なんてベッドの上でぐだぐだしていたら、いきなり扉が叩かれた。
瞳さんが慌てたようにドアの外で叫んでいる。(宿泊してるお客さんが他にいるのにいいのだろうか?)
私は目をこすりながらドアを開けると、瞳さんが飛び込んできた。
「暁ちゃん、お願いがあるの! 昨日のカレーのルーってまだある? ちょっと外を見てみて、すごいみんな殺到しているんだけど……それで昨日のカレーを出してってさっきから大騒ぎなのよ。どうしよう……」
私は慌てて窓の外を見た。そうすると、結構な数の人たちが宿屋の前にたむろしている。
「瞳さん、あれって……」
「そうなのよ。昨日のカレーの匂いが外にも漏れ出てて、食べた人たちの噂が一晩のうちに広がったみたいで、みんなあれを食べさせろって。もう売り切れてないって言ったら、何時間でも待つから食べさせろって言うのよ」
(キタ〜! まさに飯テロやってしまいましたねぇ)
「カレールー,まだ少しならありますけど、そんなに在庫がないんです。今日の分ならとりあえず出せますけど……お客様には『昨日と今日だけの特別なスペシャルディナーとランチだったよ』って言ってもらえますか?」
「わかったわ。どれくらい数が作れるかしら?」
「逆に、理さんはどれぐらいの量だったら作れるんですか?」
「そうねぇ……少し魔法を使って野菜や肉を切ったりフル回転すれば、炊飯器でご飯を炊いて、100人分ぐらいは何とか……」
「そんなにですか! わかりました。何とか間に合いそうです。でももうこれ以上は無いので、ほんとにそれはお客様に説明してくださいね」
「わかったわ」
「それから、何かツボか何かありますか? カレー粉を入れて下に持っていくので」
「今、理に持って来させるわ。何か手伝うことある?」
「とりあえず、外のお客様への説明と、カレーは少しだけにして他のものも添えるようにしましょうよ」
「他のものって、今から間に合うかしら?」
「鶏肉ってありますか?」
「鶏肉なら大量にあるわ。それに今から市場に行って急いで買ってくることもできるわよ」
「一応、一口サイズに切った鶏肉を用意できますか?……念のため200人分いけますか?」
「わかったわ。近所のお友達の奥さんたちにもお願いして、目一杯やるわ!」
「並んでいる人の整理だけしといてくださいね。もし200人超えたら大変だから、その人数だけは厳守してください」
そう言って私たちは準備に入った。今日もツッコミができないほど忙しそうだ。
理さんが大きなツボを持ってきてくれたのでテーブルの上に置いてもらい、「用意できたら声をかけるから取りに来て」と伝えた。その間に肉を切ったり炒めたり、取りあえず100人分のルーを入れるだけの状態にしてもらう。買いに行ってもらった鶏肉も一口大に切って待ってもらうように言った。
さぁさぁ、飯テロ第二弾。定番の唐揚げ大作戦に行きますか。
とりあえずルーを100人分、懐中時計のショッピング機能で買って、それと唐揚げ粉も買った。……待てよ。そのまんま使うとエリクサーになってしまって大変なので、懐中時計の検索機能で調べたら、私の亜空間収納の中のゴミ箱機能で、外から通ってくるオーバーテクノロジーなエネルギーを軽減できることがわかった。なんだ、こんなに便利な機能があったなら、先にゴスロリちゃん(女神ヴォルプタス)が教えてくれればいいのになぁ。まぁいっか。
それと、下味にお醤油も買って、あと油も大量に買った。とりあえずこれだけあればいいだろう。また下から新たなツボを持ってきて、唐揚げ粉と油はそのままじゃヤバいのでツボに入れ替えた。重くても収納できるカバンがあるってことで意外と便利だと今気がついたのだ。空間収納なんて元日本じゃ持ってなかったからね。なかなか馴染まない。
さっき理さんに「用意ができたら取りに来て」って言ったけれど、とりあえずカレー粉は私が収納カバン(本当は亜空間収納)に入れて持っていったので、先に煮込んでくれるだろう。
全部準備ができたが、このまますぐ下に降りると朝食を今度は食べそびれるので、朝は1日の力の源ってことで昨日、元日本で買ったおにぎりを1人でぼそぼそと食べ、牛乳をパックからそのまま飲んだ。これでフルチャージができたぞー! そして支度をして下に降りていった。
そうすると、もう下は戦場だった。
瞳さんの近所の友達も3人手伝いに来てくれて、みんなで切ったり炒めたり煮たり大騒ぎだ。そして私が持ってきたカレールーを理さんが寸胴鍋に投入して、かき混ぜていた。
それから鶏肉にまず醤油とお酒で下味をつけてもらった。この世界は胡椒が貴重なので、胡椒自体は使わないで今回は唐揚げ粉を使う(結局スパイス入ってるんだけどね! まぁ秘伝の粉ってことにしよう……)。近所のお友達の名前も紹介される暇もなく、バタバタとしているうちに何とか準備ができた。
準備している間も、理さんは宿泊している人たちの朝食も作らなきゃいけなくて、瞳さんも接客をしている。花ちゃんは学校だ。「朝食はどうするの?」と聞かれたので「手持ちにあるものを食べたから大丈夫」と伝えた。
まだ10時半だけれども準備ができたので、そろそろ開店することになった。
(さぁ〜飯テロ第二弾。唐揚げ行きますよー!)
ジューッと音をさせて、どんどん鶏肉を揚げて、唐揚げにしていく。私が初め作っているのを見て、さすがプロの理さんはすぐに覚えて2人体制で揚げていく。
お客さんがどんどん入ってくる。もう何がなんだかわからない。
私のスローライフはどこに行ったんだ〜!
気がつくと、カレーも唐揚げも残り数人分になっていた。もう後は理さんに任せて、私も休憩させてもらおうとフラフラ食堂を通ると、シャーロック・ホームズの服を着た「チョココロネを買った人」と、「モガのあんぱんを買った人」が食堂に座っていて、私に声をかけてきた。
「やっぱり君がこのカレーと唐揚げを作ったのかい? 今朝、同僚から噂を聞いて急いできて並んで、やっと今入れたんだよ」
「私は昨日ここを通り掛かったらすごくいい匂いがして、どうしてもこれは食べなきゃいけないと思って並んだんだけど、少し遅かったみたいで大行列ができてたのよ。食べれるか心配だったけれど、何とか食べれてよかったわ」
「急に今まで聞いたこともない料理の話が出たから、もしかして昨日のチョココロネの君が絡んでいるのかなあと思ってたんだよ。やっぱりそうだったんだね」
「いえいえ、そんな、こちらのご主人の腕ですよ。私は故郷の料理を少しお教えしてただけですから……」と営業スマイルをしつつ(何せ2人で2万円稼がせてもらいましたからね!)。
「では申し訳ないんですが、ちょっと急いでるので失礼します!」
私は面倒なことに関わりたくないからと、急いで3階の自分の部屋に上がっていった。スローライフにめんどくさいものは絡んできてほしくないからね。
とにかく「昨日のディナーと今日のランチ限定の特別メニュー」と言うのは徹底されたみたいだ。よかった。やっぱりスローライフがいいよ。早く歯車を貯めてポイントゲットしなきゃねと自分の部屋に入り、ゴスロリちゃん(女神ヴォルプタス)の特別製の服のおかげでカレー臭くも唐揚げ臭くもならないで済んだことに感謝しつつ、ベッドで爆睡してしまった。……まだ外は明るいと言うのに。
やば! また、お昼を食べ損ねた……。




