51 孤立無援
「やあ、アンナ。久しぶりだね」
笑顔で手を振るマシュー・ガンナバルトは、幼少期からの付き合いであり、長年の友人でもある。
だからこそ、ポーラド村にいることが信じられない。
「商会を留守にしていいのか?」
自分の命と妻の命の次に、大事な場所だ。
「問題ないよ。愛するセセリと、信頼できる従業員に任せてきたからね。それに、今はアンナの問題もあって、閑古鳥が鳴いてるよ」
「王都はそんなにヤバイのか?」
「いや、市民生活に変わりはないよ。慌ててるのは、一部の貴族だけだね」
「危機感が伝わってないだけ、ってことはねえよな?」
「言論統制をすれば別だけど、市民のほうが危機には敏感だよ。なにせ、人の口に戸は立てられないからね」
「そう言われればそうだな。俺のゴミ屋敷も、いつの間にか魔女の館やら闇の組織の拠点にされてたもんな」
「ウソも真実も全部知ったうえで、みんな変わらぬ日常を営んでいるよ」
「なら、マシューがここにいるのはおかしくねえか?」
王都に変化がないなら、商会だってにぎわっているはずだ。
「僕がポーラド村にいるのは、アンナの足跡を探るために来たからだよ。そしてこの場にいるのは、アンナがここにいると教えてくれた人がいるからだね」
「密偵か」
「違うよ。教えてくれたのは家の従業員さ。買い付けの途中で、たまたまアンナを目撃したらしいよ」
マシューはガンナバルト商会の奴隷部門を任されているが、奴隷だけを扱っているわけじゃない。
奴隷に見合う様々な服や靴といった衣料品はもちろんのこと、食器や文具などの日用品も数多く取り揃えている。
だから、バイヤーがポーラド村にいても不思議はない。
けど、解せなかった。
ジ~ッ、と見つめる。
「ははは。そんな目を向けても無駄だよ。僕は本当のことしか言ってないからね」
「まあ、ウソをつく理由がねえのはそうなんだろうけど……マシューがここにいるのが、どうしても解せねえ」
「アンナの意見はよくわかるよ。正直、僕もこんなことはしたくないからね。けど、王様に直接頼まれちゃったからね。断れなかったんだよ」
王様というパワーワードに、全員が目を見開いた。
もちろん、俺も例外じゃない。
「そ、それは本当なのか? ……いや、本当なんですか?」
「ええっと、ムシアラさんだっけ? 別に口調をあらためる必要はないよ。王命だ何だと言ったところで、僕が偉くなったわけじゃないからね。それと、この役が回ってきたのは、アンナのせいだから」
「いや、俺関係ねえだろ」
「あるんだよ。そもそも今回のことは、アンナの人付き合いが希薄なのが原因なんだから」
「んなバカな話があってたまるか! 人付き合いが希薄なだけで、指名手配犯されていいわけねえだろ!」
ニートや引きこもりも同じ扱いなら文句はないが、そうじゃないから許せない。
断固抗議して、即刻解除してもらおう。
「ご主人様。そういうことではないと思いますが……」
「いや、そういうことだ。いろいろ問題が起こっても落ち着いていられたのは、俺が自分の無実を確信してたからだ」
悪いことはしていない。
それだけは胸を張って言える。
「そのことなんだけど、ポーラド村を武装強化したのは、アンナだよね?」
「違う」
「そうだ」
俺とムシアラの答えは正反対だった。
「間違いありません」
レアハムの加勢もあり、劣勢になった。
チラッとパルマに目線を送ると、しっかりうなずいてくれた。
これで盛り返せる。
「ご主人様の御業です」
はしごはあっさりと外された。
仲間の裏切りにくず折れた俺を慰めるように、子ナイトウルフが駆け寄ってきた。
「わん!」
どうだ! 凄いだろ! って言ってる気がする。
「よし。それじゃ証言も取れたし、王都に行こうか」
孤立無援になった俺に、マシューの提案を拒む元気はなかった。




