50 死ぬ覚悟より生きる覚悟
「反対です! ご主人様」
「駄目だ!」
「いけません!」
「わん!」
王都に行くと宣言したら、全員に否定された。
正直、ここまで強く言われると思っていなかったので、驚きだ。
「でも、行くしかないだろ。ここにいても魔族領に住む許可はもらえねえし、手配書も発行され続けるんだから」
「そ、それはその通りですが……」
「駄目だ! 自ら危険に飛び込む必要はない。まあ、魔族領に住む許可はおれじゃどうにもできないが、手配書の件は任せとけ。なんとかしてみせる」
ドンッと胸を叩くムシアラは心強いが、そこに頼ってはいけない。
だれであれ、危ない橋は渡るべきじゃない。
それが組織の長であるなら、なおさらだ。
「気持ちはありがたいけど、ムシアラは村人の安全安心を最優先に考えるべきだろ」
「その通りだな。けど、それができるのは、アンナの救いがあったからだ。あの塗料とゴーレムがいなければ、ポーラド村は滅んでいた」
「いやいや、そんなバカなことはねえだろ」
「あるんだよ」
ムシアラは至極真面目な表情であり、レアハムも重々しくうなずいている。
もしかしなくても、俺が思っている以上に切羽詰まっていたのだろう。
「なら、なおのことポーラド村を大事にすべきだろ」
「もちろんそうする。けど、そのために恩人を見捨てることは、絶対にしちゃいけないんだ! もし仮にアンナを処刑するというなら、おれたちはドワルムント王国に矢を向ける」
「ムシアラ様の想いは、ポーラド村の総意です」
腹をくくっているのはよくわかる。
だからこそ、こう言わせてもらおう。
「いや、俺はだれとも争う気はねえぞ」
発火するほどの熱量はありがたくもあるが、俺の手に余る。
というか、困る。
これではまるで、手配書の通り国家転覆を狙っているようではないか。
俺が魔檻の森に移住するのは、錬金術の神髄を習得するためだ。
(うぅ~ん)
なぜこんな話になっているのだろうか。
考えるまでもない。
手配書があるのがいけないのだ。
「ご主人様。差し出がましい意見ですが、手配書の件が片付くまで、身を隠しませんか?」
「パルマが心配してくれてるのは、理解してる。けど、それはダメだ。やらせるつもりはねえけど、ムシアラに危険な橋を渡らせるのに、俺が安全なところでぬくぬくしてるわけにはいかねえだろ」
「アンナ、そんなことは気にするな。おれは冒険者だから、死ぬ覚悟はできている」
「覚悟の問題じゃねえだろ! 第一、だれかのために死ぬ覚悟をするくらいなら、生きる覚悟を示せ! それが正しい生き方だ!」
仲間、恋人、夫婦。
具体的な関係はわからないが、ムシアラとレアハムが特別な関係なのは、疑いようがない。
だからこそ、その人を前に口にするのは、先のようなモノであってほしい。
…………
俺の一喝に、部屋が静まり返った。
だれもなにも言わない。
そんな静寂を破ったのは、
「アンナは変わらないね」
笑顔で部屋に入ってきたマシューだった。
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