28 聖女歓待
「お嬢様、リボンがズレています」
「すぐズレますねこれ⋯⋯」
今日はセーラム領の領主邸にて聖女が歓待される日だ。
そう、シグマと聖女を再会させる日でもある。
侍女に扮して領主邸に入るため、朝から私は侍女服を着せられていた。
この服、動きやすいことには動きやすいが、リボンだったりがズレやすくなかなか面倒くさい。
セセリアはよくこんな服を一切乱さず動けるものだな⋯⋯
「⋯⋯目立ちますねこれ」
「どういうことですか?」
「シグマ様と共に時間になるまで壁際に居ていただくつもりでしたが⋯これは⋯」
普段あまり変なことを言わないセセリアが変なことを言い始めた。
「⋯何もしませんし何もできませんよ。侍女の心得なんてありませんから」
「当然です。お嬢様に何かさせれば私の首が飛びかねません。何もせず立っていていただくつもりですが⋯」
セセリアはずっと何かを考えているような様子のまま支度を手伝ってくれた。
支度が終わったので屋敷を出る前にお母様に挨拶をする。
お母様も参加はするものの、私たちは侍女として行くので先に出ることになっている。
「どう思われますかシャルアリア様」
「これは⋯⋯ダメねぇ⋯⋯」
お母様とセセリアが私を見てそんなことを言う。何がダメだと言うんだ。
「せっかくならと思って少し監修したけれど⋯しない方が良かったかしら」
「おそらくあまり変わらないかと。この完璧な体型と綺麗すぎる顔は隠せません」
「そうよねぇ⋯」
特にどちらも意識して何かをしているというわけでは無いが、体型はまぁ⋯崩れすぎない程度にはしている。
が、そこまでだろうか⋯
「どうしましょう」
「どうしましょうか」
2人揃ってそんなことを言う。2人がここまで悩むのは聖女の歓待パーティに参加する貴族たちの裏の目的があるからだ。
聖女の歓待パーティなどと言っているが、本質的には貴族のお見合いに近い。
聖教国もその事実は認識こそしているものの、不利益があるわけでもないし、何より歓待パーティとしてのやるべき事は貴族たちもちゃんとこなすので文句を言うに言えないのだ。
特にセーラム領は場所柄参加する貴族は多種多様なため、数少ない機会でもあるのだ。
で、おそらく侍女に扮するはずの私が目立ちすぎると思ってるらしい。
「お母様⋯最悪気配を薄くしますよ。それぐらいはできます」
「⋯気づかれたらどうするのよ」
「その時はその時でしょう」
「⋯⋯⋯」
半ば諦めた様子のお母様。どうせ立ってるだけなのだから気配を薄くしてしまえばそれまでだろう。
心配はありがたいし嬉しいが、何も問題は無い。
「まぁお嬢様もこうおっしゃってますしこのまま行きましょう。こうなればお嬢様を信じる他ありません」
「⋯⋯そうね。メアリ、ちゃんと気配を限りなく薄くして注目を集めないように。一部の貴族はあなたの顔を知ってるわ。あなたも知ってるでしょうから特に見られると面倒だわ」
真剣な顔でお母様は言う。今回こんな無茶に協力してもらっている以上迷惑はかけたくない。
隠蔽の方は普段よりも真面目にやろう。シグマも居るから尚更気を引き締めなければならない。
「分かっています。しっかり気配を消していきます。ついでにシグマも含めておこうと思います。子供連れが居ないわけでは無いですが、子供の侍女は目立つと思いますので」
「そうね。シグマちゃんもいい子にしてるのよ?」
「はいなのです!」
すっかりシグマはお母様に懐いている。私ですらそう簡単ではなかったというのに⋯⋯一体何が違うのだろうか。
そんなことを考えつつ、セセリアたちの乗る馬車に乗る。
普段乗る馬車と違い飾り気は無いが、乗っている面子はお母様が居ないぐらいだ。もう1人乗れるのだが、誰も乗りたがらなかった。恐れ多いらしい。
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「よく来たわね2人共」
領主邸に着くと伯母が出迎えてくれた。一応こちらは侍女として来ているのだが。
「シャルから聞いてるわ。あなたたち2人は端っこで立ってるんでしょ?」
「はい。気配もかなり薄くしますので認識すら難しいかと」
「そんなことできるのね。分かったわ。無事にあなたたちの目的が達成できることを祈ってるわね」
「⋯ありがとうございます」
それだけ言うと、伯母は領主邸の使用人達へ指示を出すために行ってしまった。
「お嬢様、何もしていただくつもりはないとは言いましたが、前準備ならお嬢様の顔は割れてませんし参加しても問題は無いと思われます。この待ち時間をシグマ様がじっとして居られるとは思えませんので⋯」
「それもそうですね。何か簡単なことを手伝いましょうか」
「では調理場に行きましょう。シグマ様、つまみ食いはダメですからね」
「は、はいなのです⋯」
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調理場は準備に追われる料理人と使用人が入り乱れており、さながら忙しい飲食店のようになっていた。
「何か手伝えることはありますか?」
「ならこのお皿をこの辺りに並べてほしい!」
40枚ぐらいの大きめの皿を渡された。見た目は華奢な女の子のつもりなんだがな。
これぐらいならば容易いのでさっさと並べてしまう。
シグマも食器の仕分けを頼まれたらしく、せっせと仕分けていた。
一挙手一投足、全ての動きが大きいのだが、あんなにズレやすい侍女服を全く崩さずに動いている。
謎の敗北感を感じた。
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そうこうしているうちに歓待パーティに招待されている貴族たちが到着し始め、私たち侍女はずらっと入口に並ぶこととなった。
私たちも並んではいるが既に気配遮断を使っている。シグマにも魔道具を着けるように言ってあるため、この場で私たちを認識できる人は居ないだろう。
到着した貴族たちにセセリア含め他の侍女も挨拶をしているが、気配遮断をしているため声を出せない私たちは動かない。というか動けない。
シグマが動きたそうにウズウズしているが、賢い子なので我慢しているようだ。
いくつかの貴族家を出迎え、次を待っていると、やけに見覚えのある、煌びやかな馬車が領主邸の前についた。
確かあの馬車は⋯⋯
「王家⋯?」
誰にも聞こえないような大きさではあったが、思わず声に出てしまった。
馬車から出てきたのは見覚えがあるどころではない人物だった。
ルークだ。マーラカルト王国第二王子。
ほぼ形ばかりとはいえ王国と親密な関係にある聖教国の聖女を迎えるパーティであるからだろうか。
わざわざセーラム領まで来たようだ。
領主邸の門をくぐり、侍女たちが並ぶ間を行こうとした直前、ルークは立ち止まって|なぜかこちらを見ていた《・・・・・・・・・・・》。
間違いなく私たちを見ていた。きょとんとした顔で「なんで居るの?」といったふうに。
「⋯⋯⋯」
見られていることは分かっているがここでルークを見るわけにはいかない。
一瞥もくれてやらず、無視を決め込む。
やがてルークは少し落ち込んだ様子で領主邸へ入っていった。
その後も貴族たちを出迎え、他の侍女が解散しているのを見て、私たちもその場を後にする。
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「バレた⋯ですか?」
「えぇ⋯明らかにルークがこちらを見てましたので」
「気のせいではありませんか?たまたま立ち止まって見ていただけかもしれませんし」
「そうだと良いんですが」
そう信じる他は無いが明らかにこちらを認識していた。
おかしいな。帝国に潜り込んだ時よりも気配遮断には気を使っていたのだが。
シグマには私以上に気を使っていたから、それこそ神でもない限り見つけることなんて不可能なはず⋯
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パーティ会場では貴族たちが談笑をしていた。
といってもお互い腹の探り合いなのだが。
裏で何を考えてるのか。想像するだけで面倒くささを感じる。
壁際でそんなことを考えていると、セーラム領領主が出てきた。
「まもなく聖女様がご入場される!」
その言葉の後、貴族たちはみな出入り口の方に向き直る。
それとほぼ同時に聖教国の人間に囲まれながら聖女が入ってきた。
ふむ、意外に様になっている。私の知っている聖女はしなしなになっているか怒っているか寝起きぐらいなものだ。
そのイメージからすれば今の聖女はなかなか様になっている。威光というのか?こう、少し偉大さを感じる。
舞台の上に到着した聖女は、会場を見渡す。
そしてグラスを手に持ち、乾杯の音頭をとる。
「本日は私のためにこのような場を設けていただきありがとうございます。皆様に神の御加護があらんことを。乾杯」
グラスを少し掲げ、その声を合図にパーティが始まった。
といっても私たちは何もせず壁際につっ立ってるだけだが。
パーティが始まってしばらく、私は聖女のことを見ていたが、貴族たちの相手を上手くやっている。立場柄慣れていると言ったところだろうか。
聖女は立場上婚姻は結べないため、婚姻を考えているような貴族は居ないだろうが、聖教の影響力は強いため、聖女と繋がりを持ちたいと考える貴族は絶えない。
「メ、メアリ様⋯」
「シグマさん?どうしました?」
「こっちに来る人が居るのです⋯」
こっちに?私たちのいる場所には料理も何もない。人も来ない場所であるからここにつっ立って居たのだが。
「逃げないでくれよ⋯」
こちらに来た人物は明らかに私たちに向けて寂しそうにそんなことを言う。
第二王子殿下⋯ルークだ。
「⋯なんで気づいてるんですか?ここに来た時から気づいてましたよね?」
「なんでだろうね。私にも分からないよ。ここに来た時にやけに認識しにくい君がいてびっくりしたぐらいだからね」
本当になんで認識できているんだ?気配遮断に関しては真面目に本気なのだが。
「それで、2人はどうしてそこまでして潜入しているんだい?」
怪しまれないように誰もいない風な雰囲気を出しながら聞いてくる。
「あの聖女に用がありましてね。この後彼女は退場するでしょう?」
「その子に関わることかい?」
ちらっとシグマに視線を向けるルーク。シグマはルークのことは苦手らしく、私の後ろに隠れている。可愛い。
「どうやら嫌われてしまっているみたいだね」
「⋯嫌ってるわけではないですよ。ただ⋯ちゃんと覚えてしまっていますから」
「あぁ⋯なるほど」
シグマはあの時のことを覚えている。試しに聴取してみたことがあるのだが、フェル兄上の報告や学園でのこと、食い違いなくはっきりと覚えていた。
そう、覚えているのだ。
だからこそ、マーラカルト王国の第二王子相手にはいつもの調子でいけないのだろう。
「⋯⋯シグマ、といったかい?」
「⋯⋯⋯」
「私は確かに、国の人間だ。第二王子という立場の存在だ。だから君が私に対して罪悪感のようなものを持つのは分かる。それは⋯そうあるべきだろう。それは無くなってしまったらダメだと思う」
ルークは会場の中心を見つつ、シグマに語りかける。
「⋯私自身は君の事を嫌っていない。君がネーデル家の者と接するように接してくれると嬉しい。もちろん立場的なものは君の学んだとおりにしてくれ」
「⋯⋯⋯」
「⋯メアリ嬢が君を許したんだ。君を生かしたんだ。そこに私は口出しする権利はないし、するつもりもない。なら私はメアリ嬢が望む形で君と接しようと思う」
こちらに誰も意識を向けていないことを確認し、ルークはシグマと視線を合わせるために片足立ちになる。
「すぐには無理かもしれないし、そもそもあまり会うこともないけれど、次会った時には君とまた言葉を交わせることを期待しているよ」
「⋯⋯⋯」
ルークはスっと立ち上がると私を見てきた。
「もう少し話していたいけれどね。あまり長く離れていると君たちがバレてしまうだろうから行くことにするよ。君たちの目的が果たされることを願っている」
「⋯⋯ありがとうございます」
ルークが私たちの元を去ったと同時ぐらいに聖女を含む聖教国の面々も会場から退場した。
私たちもセセリアに近づき、事前に決めた合図を行い、会場を出る。
シグマと聖女の再会に向けて、私たちは動き出した。
お久しぶりです。少し開いてしまいました。




