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召喚から始まる人生二周目〜今度の召喚は赤子から!?〜  作者: 谷口 水斗
学園 初等部編

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20/21

20 聖女

お久しぶりです。おまたせしました


目が覚めてから二週間ほど経った。


学園は半壊した影響で初等部の授業は行われていない。ので、療養に専念できた。


毎日誰かは見舞いに来るので見舞い品が大量になってしまった。そもそも兄上たちが見舞い品を持ってくるというのもよく分からないが。


シグマも私への見舞い品を分けていたのもあってかなり元気になった。


ちなみにマーシャは一度も来ていない。殿下に聞いたところ、あの神器の扱いでミレーヌ家は分家などと大変揉めているらしく、そういうのがよく回ってくるマーシャもあんなものを押し付けられるのは困る、ということでそちらに参加していて手が離せないということなのだそうだ。


今日は屋敷に戻る日なのだが、途中寄らなければならない場所がある。


「どこにいくのですか?」

「剣を受け取りに鍛冶屋に。注文していたものが完成したそうなので」


ジークの鍛冶屋は奥まったところにあるので大通りから外れることになる。シグマは王都に慣れていないので路地に入るのは少し怖いのか小さくなっている。


「ここ⋯なのです?」

「えぇ」


一言で言い表すなら寂れている、といった様子の鍛冶場。


鍛冶屋の扉を開ける。来客を知らせる鐘が鳴る。


「おう嬢ちゃん。来たか」

「すみません。受け取りが遅くなってしまって」

「大変だったんだろ?構わねぇよ。その子は?」

「シグマです。詳しくは話せませんがいろいろあってうちで預かることになったんです」

「そうか。剣はバッチリだ。来い」


ジークに手招きされて奥に行く。シグマも恐る恐るといった様子だが付いてきている。


「こいつだ。嬢ちゃんの要望通りにしたが⋯どうだ?手にとって確かめてくれ」


壁に掛けられていた剣を手に取る。重さも重心も完璧といえる。

やはりジークに頼んで正解だった。


「もう一本も確認しても?」

「構わない」


もう一本。そう、マーシャの剣として注文したものだ。

こちらの剣も重心も重さも完璧だ。


「完璧ですね。剣身の素材も注文通りですし、デザインも完璧です」

「でも良いのか?嬢ちゃんの剣に刻印と銘を入れて」

「この剣に命を預けるという覚悟とも言えることです。ちゃんと作ってくれているのでしょう?」

「⋯そりゃそうだ。剣が原因で命を落とすようなことがあればそれは鍛冶師の責任だ」

「だからこの刻印と銘はお互いの覚悟ということです」

「そうか」


受け取った剣を鞘に納め、腰に携える。マーシャへの剣は布で包む。


「お金は⋯」

「あぁもう貰ったよ」

「え?」

「ネーデル侯爵夫人が払ってくれたんだよ。プレゼントとして受け取ってくれと」

「もう一本の方もですか?」

「あぁ。そっちは嬢ちゃんのじゃないって言ったんだがな。誰に渡すつもりなのかはバレてたなありゃ」

「そうですか⋯」


お母様はこうやって裏でやってくれることが多い。多分表立ってやるのは気恥ずかしいのだろう。私としてはむしろこちらのほうが嬉しいが。


「ではまた」

「おう」


鍛冶屋を後にした私たちは再び大通りに戻ってきた。


「あそこでシグマさんの武器を買っても良かったですね」

「え?」

「魔法、使えませんよね?」

「はい」

「でも剣は少しは使えるのでは?」

「はい」

「だからあなた用の短い剣を買っても良かったかなと思いまして」

「け、剣は嫌なのです⋯」


む、ちょっとトラウマになっているか。まぁ仕方のないことか。

無理に持てというわけではないからまぁいいか。


「すみません。配慮が足りませんでしたね。別に持てというわけではありませんよ」

「は、はい」


まだ私に対する恐怖心は完全に消えていないか⋯。まぁ時間がかかるだろう。気長にやっていこう。


─────────────────────────────────


「おかえりなさいませお嬢様」

「泣かないでくださいよ⋯」


屋敷に帰ってきてセセリアと目が合うと、泣いてしまった。

相当心配していたようだ。だが死ぬ気はないので心配のしすぎだ。


とはいえ他の人からしたら心配というものか。


「心配かけましたね」

「お帰りなさって大変安心いたしました⋯」

「そんなに心配していたのなら見舞いにでも来たら良かったじゃないですか」

「お嬢様がどういう状態なのか我々には伝えられておらず⋯心の準備ができる気がせず行けなかったのです」

「そ、そうですか⋯」


おそらくお父様も忙しくて時間が取れないのだろう。お母様もその補助で大変なのだろう。あとは変な噂が立つのを嫌ったのだろう。

貴族というのは常にお互いの顔色を疑っているからな。


「そちらの子供は⋯」

「シグマというんです。私が預かることになったので面倒とか頼んでもいいですか?」

「お嬢様からのお願いとあらば」


セセリアは私かお母様のお願いならなんでも聞き入れそうだから怖い。


「とりあえずは教育などをお願いしてもいいですか?作法とかは結構ですので勉強だけ⋯」

「承知いたしました」


作法なんかやる必要はないだろう。貴族ではないのだし。立場的にも表に出ることは無いだろうから要らないだろう。


「シグマさん、この人はセセリア。私の専属の侍女です。何かあれば私か彼女に言ってください」

「は、はいなのです」


シグマは返事こそするが、目線は天井や壁に向いている。


「初めてですか?こういう場所は」

「えと⋯はい⋯」

「そうですか」


まぁ仮に実験体だったのだとしたら確かにこういう場所に行く機会は無いだろう。

あえてなのかは知らないがあまり世の中のことを知らされていない節もある。

興味が出るのは理解できる。元気ならそれに越したことは無い。


「あら、あそこに居た子じゃない」

「お母様」

「ふふ、おかえりメアリ。もう大丈夫なの?」

「えぇ。お陰様で完全に」

「それはよかったわ。すぐに抜け出そうとするルレイを抑えるのは大変だったのよ?」


ルレイ兄上⋯この国一番の実働隊長が抜けるのは不味いだろう⋯

だが、一度兵舎に顔を出しておいた方が良いか。


「その子はうちで?」

「あぁはい。そうです」

「あなた、お名前は?」

「しぐま⋯」

「シグマちゃんね。よろしくね。私はシャルアリアよ。シャルって呼んでくれていいわ」

「は、はい。しゃるさま」

「ふふ」


もう警戒心を解きかけている⋯

恐ろしいものだ。圧倒的実力。さすがお母様といったところか。


─────────────────────────────────


「どこにいくのですか?」


部屋に戻るやいなや身支度を再び整えているとシグマから声を掛けられた。


「少し、ある場所に行ってきます」

「あるばしょ?」

「近くですよ」


まぁただ神殿に行くだけだ。今回の件で聞きたいことがかなりある。


「すぐ帰ってきますので。では」


そう言い窓から飛び出る。シグマが窓から見ているが既に『インビジブル』は使っているので見えることはないだろう。


─────────────────────────────────


『⋯⋯⋯』

「お久しぶりです。半月ぶりなので前回よりは早く来ることになりましたね」


目を伏せて何も言わない神に少しからかうように言う。


『よく⋯生きておられましたね⋯』

「まぁ⋯少しだけ制限を外しましたから。ただあまり制限は外さないほうが良いでしょう?魂の修復に影響が出そうですし」

『それは⋯はい⋯』


この世界のルールに則らない力や魔法は使わない。これがまず一つ決めていることだ。これは世界の理に触れると面倒だからだ。

そして魔力の出力に段階を設けて魂の修復に影響が無いようにすること。

この間は魔力の出力段階を一つ上げた。


普通に面倒になったことと苛ついたからだ。我ながら幼稚なものだ。


『その⋯生きていてよかったです』

「前にも言いましたが死ぬつもりはありませんよ。いざとなれば全部捨てて放浪するだけです」

『⋯⋯⋯』


能力に制限を設けているのはこれも理由だ。あんまり人外なことをすると排斥されるのがオチだ。

今の生活を捨ててまでそうなりたいとは思わないが、死ぬか生きるかなら後者を選ぶというだけだ。


「聞きたいことがあるんです」

『答えられることであれば』

「シグマ⋯あの子はあの神器の適性者として育てられたんですか?実験だとかそんな事はどうでもいいんですが⋯」

『すみません。その質問に答えることは出来ません』

「そうですか」


想定通りだ。知っていたところで教えてはくれないだろうと思っていた。が、まぁ反応からして正解と見ていいだろう。


シグマはあの神器を解放するために実験体となっていた。

あの子のもう居ないと言っていた姉たちもそう考えて良い。

だが聖教国との繋がりはどういうことなのか。


聖教国がそのような人体実験に協力するとは思えない。

そもそもシグマの唯一の姉が聖教国の人間である保証はないのだが⋯


「では少し趣旨を変えましょうか。今、聖教国に背信者(・・・)は居ますか?」

『はい?背信者ですか?』

「はい」

『居ないわけではありませんが⋯⋯あなたの世界でもよくあることでしょう?』

「まぁそれはそうですが」


だがこれで可能性は残る。帝国と聖教国が繋がっている可能性だ。

だが聖教国がマーラカルト王国を攻撃する理由がいまいちピンとこない。両国間の関係はむしろ良好なのだから。


シグマの姉を探すのも兼ねて聖教国に行くのも一つか⋯⋯


『大怪我をしたばかりだと言うのに活発ですね⋯』

「半月も安静にしてたので身体が鈍って仕方ないんですよ。むしろちょうどいいぐらいです」


聖教国までは王都からだとかなりの距離だが、この身体の鈍りを治すにはちょうどいいだろう。


一度行ってしまえば最悪、転移魔法を使えば良い。

別世界の魔法で便利なものはこの世界の魔法に翻訳している。『インビジブル』もその一つだ。


『他の世界の力は使わないとしておきながら、この世界の魔法に翻訳しているからOKという判定ですか⋯』

「何言いました?」

『いえ⋯』


野暮なことを言っていると早死にするぞ。

余計なことは言わないことだ。


『聞きたいことは以上ですか?』

「そうですね。無いわけではありませんけど答えてもらえなさそうなものばかりなので」

『そうですか⋯』

「また来ますよ。年単位で来ないということは無いと思うので安心してください。それでは」


周りの景色が神殿に戻る。神域のパーソナル空間だと言うのに殺風景だったな。


そんなことを思うと遠くからうるさいですよという声が聞こえた気がした。


─────────────────────────────────

〈???side〉


あの子が実験に行ってから半月が経った。


未だに帰ってきていない。何度もあの場所に訪れたがあの子の姿はなかった。


また⋯⋯また犠牲になったのだろうか。


私はなんて無力なのだろうか。全てを知っておきながら何もできない。

できるのはあの場所であの子達に少しの幸福を与えることだけ。


帝国の実験はここ二年で加速している。このわずか二年で十人の子どもたちが犠牲になった。

生まれたときから実験体として定められた子どもたち。


知っていても何もできないもどかしさ。あの子達を助けることすら出来なかった。

ただ失われるのを見ているだけだった。


「私にできることは⋯ただ⋯祈ることだけ⋯」


どうか生きていてほしい。あの子は⋯今までの子の誰よりも優しかった。どうか生きていてほしい。


「〜♪」


聖歌第四曲。知る者が少ない曲。しかし私はこの曲が好き。

そして嫌い。

ただ祈ることしか出来ない無力な私を示しているようで。


「あの子に⋯どうか⋯」

「聖歌第四曲「幸せがあらんことを」。バカバカしい曲ですよね」

「!?」


背後の誰も居ない部屋から声がした。

私が振り返ると、そこには綺麗な女の子が立っていた。

歳は十二ぐらいだろうか。十二歳にしては大人びている。


「あなたは⋯」

「幸せとは自分で掴むものだと思うんですよ。祈るだけのあの曲はバカバカしいと思いませんか?」

「⋯っ」


彼女の言葉が刺さる。見ていることしかできなかった、祈るしかできなかった私に深く⋯深く⋯


「聖歌を⋯愚弄するのですか⋯っ!」

「⋯生きてますよ」

「⋯⋯⋯え?」


唐突に彼女から発せられた言葉。まるで全てを見透かしているような言葉。


「生きてるって⋯何がですか⋯」

「帝国の実験体、その十八番目。シグマ」

「っ!?」


生きて⋯いる?あの子が⋯?


「大変だったんですよ?二年前に盗まれた王国貴族の家宝である剣の力を解放した挙句、その力に呑まれて暴れたんですから」

「⋯⋯⋯」


暴れ⋯た⋯?二年前⋯?

呆然とする私に彼女は言葉を続ける。


「でもまぁ、精神は破壊されずに済んでましたし、今は特に不安定な様子もありませんからね」

「⋯⋯あの子は⋯今⋯どこに⋯」

「私の家に。一応ある程度の自由は認めてますよ」


彼女の家に居る⋯?つまり今は王国に⋯


「あぁ紹介が遅れましたね。私はメアリ・ハル・ネーデル。マーラカルト王国の侯爵の娘です」

「侯爵の⋯⋯娘⋯⋯」


侯爵家ならば⋯あの子はきっとお腹いっぱい食べられているのだろう。


「要塞を破壊して多数の死者を出したり、学園を破壊してくれましたが、あの子に問う気はありませんのでご安心を」


多数の死者⋯あの子が⋯


「⋯呑まれていた時の記憶があるらしく、半月経った今でもうなされているぐらいです。気丈には振る舞ってますが罪悪感が無くならないようです」

「⋯⋯あの子は⋯優しいから⋯」

「ですね」


きっとずっと苛まれるだろう。あの子はそういう子だ。


「⋯シグマさんは、あなたの言いつけを守ってましたよ」

「言いつけ⋯⋯?」

「聖女であるあなたがあの子と会っていた上、帝国が何をしているのか知っているとなれば大問題でしょうからね。あなたはあの子に自分が何者なのか言わないように教えていたのでは?」

「⋯⋯どうして⋯私にたどり着いたんですか」

「聖歌第四曲」

「!」


確かに聖歌第四曲は知っている人は少ない。歌えるとなるとかなり絞られる。しかしそれだけでは私にたどり着くわけが⋯


「いつも歌ってあげてたそうですね。あの子がそう言っていました」


確かにあの子に聞かせた聖歌は第四曲が多い。あの子の幸せを願っていたからだ。


「毎晩、ベランダで歌うんですよ。うろ覚えでほとんど鼻歌なんですけどね」

「⋯⋯⋯」

「毎晩、歌う理由を聞いたんです。聖歌は毎日歌うようなものではないですからね。あの子はこう答えたんですよ。『しぐまはいま、しあわせだからこんどはおねえちゃんのしあわせをねがうのです』って」


涙が溢れて止まらない。

ずっとお腹が空いていたはずだ。

今も罪の意識で苦しいはずだ。

それなのに私のために、と言ってくれている。


「⋯処理しきれなくて困った見舞い品を押しつ⋯あげてただけなんですけどね。それだけで幸せなんだそうで」

「⋯実験体の扱いは酷いものですから」

「そうでしょうね。あの子の身体、傷だらけでしたからね。お風呂に入れた私の侍女が絶句してましたよ」

「⋯⋯⋯」


想像は難くない。私も初めは絶句していた。いつの間にか慣れてしまっていた。当たり前のように思ってしまっていた。だがそうではない。おかしいことなのだ。


「付き合いは私のほうが長いはずなんですが、私のお母様に凄く懐いてしまって。基本お母様の側に居るんですよね。でも、夜は私に抱きついてくるんですよ」


彼女は少し笑いながらそういう。どこか不満げに、しかし嬉しそうに。


「⋯会えるならあなたにも会いたいと言っていましたよ。だからあの子の「おねえちゃん」を探すの頑張ったんですよ?」

「⋯⋯⋯」

「あの子が知ってる聖歌第四曲はあなたのだけです。同じなんですよ。歌い方が」

「!」

「だからあなただと分かったんです。それにあなたからは帝国に充満する淀んだ魔力を感じますしね」

「そう⋯ですか」


あの子はどうやら、私の歌い方まで完璧に真似しているらしい。まさかの特定法だ。


「いつか、近い内に会えますよ。会わせます。あの子のためにも」

「⋯⋯⋯」

「今日はこのぐらいで失礼しますね。また来ます」

「ちゃんと⋯正式な形で来てください⋯」

「それは無理な話ですね」

「⋯⋯⋯」


そう言うと彼女は消えるように居なくなってしまった。

シグマは全てのセリフがひらがなとなります。見にくいことこの上ないことは分かっておりますが…かといって普通の書き方だとシグマらしくなくなってしまうので…ご容赦ください。

また約半分ほど、聖女視点となりました。少し前からですが、たまにこうやって他キャラ視点を入れていくつもりです。

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