39話 強敵との戦い・前編
手に入れた短剣がクエストに関係していると考え、また予定を変更し短剣の落とし主を探すため色々と歩き回ることにした。
始まりの街周辺のフィールドもそれなりに調べて回ったが進展はなく、昼時になった為、探索を一時切り上げ冒険の街へ向かい食事を済ませる。
その後、もしかして谷の強風が吹く場所の先に行けるようになっているかもしれないと思い足を運んだが、ここも空振りだった。
「カメは復活してるんだけどなぁ……」
湿原と湖をまわれば、現状行けるフィールドは全てまわったことになる。そこで進展がないようならクエストの進展は諦めよう。
山麓の村に転移し湿原に向かう道中、花畑には無数の敵が湧いていた。
さらに湿原にもモンスターがウヨウヨ湧き、ぬかるんだ地面に足をとられながらも湿原を抜け、湖に辿り着いた。
「おっ!?当たりか?」
湖の中央にある陸地に遠目からだが、人影のようなものが見える。
「おーーーーーーい!!!!」
思いっきり声を張り上げ、手を振ってみる。
すると人影も動きを見せ、俺達に気付いたようだ。
急いで中央の陸地に向かう。
そこで待っていたのは、肩まで伸びた綺麗な黒髪、妖艶な色気を醸し出すNPCで、どことなくミラに雰囲気が似ている。
『やぁ!』
「コレ、アンタの落し物か?」
そう言って短剣を見せると、安堵の表情を見せるNPC。
『良かった……とても大事な物で探していたんだ。ありがとう』
「どういたしまして」
『是非礼をさせて欲しい。いきなりで悪いが拠点まで同行してくれないか?』
「気にするなって言いたいけど、拠点が近くにあるのか?」
『ふふ、ついてくれば分かるさ』
そう言ってNPCが手を差し出してくる。
「俺だけ?」
『勿論、その子達も一緒だ。どうだ?』
「じゃ、お願いするよ」
そう言ってNPCの手をとると、湖全体が光り出す。
「うわ、えっ!?これ魔法陣……」
直後眩しい光に包まれ思わず目を閉じる。
NPCが手を離した事が分かると同時に、ゆっくりと目を開けると森の中に転移したようで、そこには1軒の家があった。
「転移したのか……」
『さぁ、行こうか』
NPCがそう言った瞬間だった。
家の扉がゆっくりと開き、焦げ茶色で乱暴に前髪をかきあげたイケメンのNPCが姿を見せる。
『おぉミラ、おかえり…………あっ!!お前』
ミラ!?疑問に思い、俺のズボンを掴んでいるミラを見てみるが、キョトンとした表情で見上げてくる。
「えっと?アレは誰?聞いた事ある声だけど……」
『ふふ……マスター、彼は君の知り合いだろう?』
『っ!…………なるほど。お前達はミラに招待された訳か!あの時は名前も言わないままだったが、俺はアクセルだ。モモチューにはちゃんと会えたようだな!』
『私はミラ。君が届けてくれた短剣は転移に必要な物で、拠点に帰れず途方に暮れていたところだった。本当にありがとう』
マスターと呼ばれた男NPCが【アクセル】、黒髪の女NPCが【ミラ】という名前のようだ。
「あぁ、ちょっと状況が飲み込めないけど、俺はゼルだ」
『ま、中で茶でも飲もうぜ!』
そう言って家に案内され、中を覗くとさらに見知った顔があった。
『『あっ!』』
「あっ!」
『えへへ、また会ったね!ボクはステラだよ』
『ソニアだ。君からマスターやステラの匂いがしていたから知り合いだとは思っていたが……』
ボクっ娘ウサギ獣人の【ステラ】に、ドラゴンと人の混血で赤髪ポニーテールの【ソニア】だ。
「全員知り合いだったのか……」
テーブルに案内され、皆で席に着く。
召喚者達はキョロキョロしながらも、足をプラプラさせ落ち着いているようだ。
出されたお茶を飲みながら話を聞くと、アクセル一行は世界を股に掛け自由に旅をしているらしい。
そして冒険の街周辺を各々が思うように探索していたところ、俺に出会ったそうだ。
こうやってNPCと親密になり色々と話すのは初めてで、普通の人と喋っているような感覚で話してしまう。AI凄い!
話が一段落したところで、アクセルが話を切り出した。
『よしっ!せっかくここまで来たんだ。ちょっと遊ぼうぜ』
「遊ぶ?」
『まぁ普段は絶対しないんだけど、お前のこと気に入ったし、ちょっと力試しでもしてみるか!』
「突然だな……」
『俺に勝ったら良い物やるぞ?まぁ、持て余してるだけなんだけど』
こんな感じで話が進み、クエストが進展を見せる。結果、4人それぞれと力試しする事になった。
『まずは私からだ!』
赤髪ポニーテールのソニアが最初の相手らしく、内容はそのまま戦闘。死ぬことはないようで、俺1人でも、召喚者達と一緒でも、どちらでも良いらしい。
「余裕だな……」
『正直、負ける気はしないのでな。安心しろ、全力を出す気は無い』
「じゃ、俺は皆と一緒にやらせてもらう。コイツらは俺の召喚者、俺の半身達なんでね!」
『構わない。もちろん私に勝てば人数に関係なく褒賞は渡そう』
全員で家を出る。
テラ、レラは戦闘には参加させず安全な位置から応援してもらう。
『では始めようか』
「よしっ皆、全力でいくぞ!」
最初の相手、ソニア戦が始まった。
いつもと変わらず一気に距離を詰め、【フルバースト】を放つ。
しかし腕を振るうだけで爆撃が払われる。そしてソニアは拳を握り、俺に狙いを定める。
いきなりピンチだが、拳が繰り出される寸前でセラが銃を連射。ソニアは拳を繰り出すことなく、後方に跳躍する。
ソニアの着地を狙いドラが【暗黒の腕】を伸ばし殴りつけるが、ソニアはそれを腕で軽く弾き、ドラに向け超スピードで肉薄する。
ドラも盾を構え防御の姿勢を見せているが、ソニアは腕に炎を纏い拳を繰り出す。
俺が空中から強引に割って入り、武器を振り下ろすが寸前で躱され、膠着状態となった。
(くっっっそ強いな……攻撃が当たる気しない)
『ふむ、中々やるな』
「そりゃどうも」
一瞬の静寂の後、セラが真っ先に動き空中から【アサルトレンジ】を使用し銃を連射する。
腕を交差させ、セラに突っ込むソニアに再び俺が割って入り、拳をガードで受ける。その隙にドラとミラが攻撃を仕掛けるが器用に躱された。
着地をセラが超距離ライフルで狙い撃ち、それを防ぐソニアに俺が【ダブルホイール】で斬りかかる。
直撃を受けたソニアだったが、それを意に介さず拳を繰り出すが、ドラが盾でそれを防いでくれた。
俺の背中を飛び越すように鎌を振りかぶったミラがそのまま武器を振り下ろし追撃を与える。
距離をとろうとするソニアを【魔装】を使ってそのまま追いかけ、【連続斬り】を放つが全て躱される。ここで俺も追撃を諦め皆と合流する。
今の攻防で減らせたHPは2割ほど。このまま押し切りたいが、そう上手くはいかない。ソニアは攻撃時だけではなく両腕に炎を纏い、防御にも工夫を加えてきた。
炎を纏った腕を斬りつければこっちが炎でジリジリと削られ、削られた俺のHPを回復しているミラが狙われる様になった。
一進一退の攻防がしばらく続いたが、ドラとレラが的確に攻撃を挟んでくれたお陰で誰も欠くことなく、ソニアのHPを半分まで削る。
『やるな、少し本気を……と言いたいが、ここまでにしよう!私の負けだ』
「……それは助かる」
『次はもっと本気でやろう!』
あのまま続くのであれば完全に負けていた。
俺の攻撃は警戒されほとんど通らず、ドラは炎でジリジリと削られている。ミラも魔力が尽きかけ、セラの攻撃はほとんどダメージを与えられていなかった。
『内容はどうであれ、私の負けだ。私に勝った証としてこれを贈ろう』
受け取ったのは【串焼き】という料理のレシピだ。
このレシピさえあれば、スキルのない俺でも素材があれば【串焼き】にして料理が出来る。食材を売る事しか出来なかった事を考えるとめちゃくちゃ有難い。
『他の3人は私より強いぞ?しっかり準備して挑むんだな』
「忠告ありがとう。ゆっくり時間をかけさせてもらうよ」
全員のHPとMPを自然回復させるため待機している間、再び全員で雑談が始まる。
その中で、ソニアは料理が得意だということを知り、アクセル一行の食事を一手に引き受けているとの事だ。
戦うコックさんとか……良いね!!
読んで頂きありがとうございます。




