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ファンタジー世界のリアルとは()の巻

元勇者インタビューのお時間です。

 なんだかんだで世にあふれるラノベには勇者ものの変形が多いわけだけど。


「だからって俺にコメント求められましても」

「元勇者としてぜひ一言」


 作品の参考にしたい、って絶対役に立たないと思うんですが。


「リアルであれだったら、勇者本人にとって黒歴史確定でしょ。フィクションだから成り立ってる話ばっかりじゃない?」

「そこらへん詳しく」

「あのさ母さん、なんでそう聞きたがるわけ」


 さすが例大祭(コミケ)常連の創作()()(じん)、息子の黒歴史発掘をまったくためらいません。


「自分の事は黒歴史黒歴史っていう割に、ラノベ好きでしょ?なんでかなーと思って」

「そりゃーフィクションだし?」


 行軍中はもちろん風呂に入れないから臭くて困ったとか、同じところで陣を張り続けるとすぐに糞尿の匂いで悩まされたとか、かっちかちのビスケットと干し肉かじってる食事は味気なかったとか、そういう話って全然出てこないクリーンな冒険世界。リアルのあれこれを思い出さずに済むんだから、楽しまなきゃ損でしょ。

 だから、勇者がかなり恥ずかしい言動を繰り返して黒歴史を積み上げまくってるのも、単なるフィクションとして笑い話にできる。

 平和な日本にいるからできることです。


「似たようなことしてたわけ?」

「まさか。ラノベみたいに簡単に済んだことなんて一回も無いよ」


 勇者アルバスさんの実態って、敵地に潜入する暗殺部隊のリーダーでしたからね。

 それも生きて帰ってくれば儲けもの、いざとなったら使い捨てて惜しくないというポジションの。

 ちなみに巨乳の女の子なんて部隊にいるはずもありません。全部むさくるしい男でした。


「女の子とのイチャイチャって、男性読者には必須っぽいんだけどね。そういう願望は無いの?」

「俺に聞かないでよ?」


 リアルの話をするなら、イチャイチャなんてしてる暇あったら寝ます。体力回復が先です。

 そりゃあ俺たちも全員男だったから、()()()()()()はあったけど……行軍中には無理でした。アレの途中はどうしても無防備になるから、無理です。発見されて死にます。

 だいたい、女性の肌が恋しければ、町に戻った時にプロの女性をお願いすればよかったしね。


 もっともこんな話、母親にしたいものじゃないので誤魔化すわけですが。


「え、ダメ?」

「良いわけないでしょ、下半身事情だよ!?」

「あ~、うん、なんかゴメン?」

「恋愛事情、じゃないんですね……」


 同席してた小動物がジト目になっていた。


「え、いや、その、男ばっかだったから、ね……」


 つい目を逸らしたのも無理ないと思ってください。うう、小動物の視線が痛い。

 そこで吹き出す母さんもどうかと思うけどな!?


「小暮ちゃん、リセットかけたんだから大目に見てやってよ。『雄太』はこれで純情な子だし」


 母の余裕をここで披露しないでください、いたたまれないです。


「判ってますけど、下半身って口走っちゃうあたりがオジサン臭くないです?」

「ちょ~っと若さが足りないわよね」

「アルバスさん死亡時28歳!30になってないよ!?」

「え、そんなおじさんだったんですか?」


 何かがぐっさり刺さった気がしますがキニシナイヨ。


「にじゅうだいはおじさんじゃないですヨ?」

「棒読みになってますよ?」


 酒が飲めない年の小動物が容赦ないです。


「ショック受けるのも若さよねー。二十代の若造が、このこの」


 母さん、40代の余裕ぶちかまして人の頬をうりうりしないでください。

 ついでに言うと、山西さんちの雄太君はまだ20代になったばっかりですが。


「じゃあ恋愛事情は置いといて、魔法とかどう思います?」

「うーん、いろんな作品あるからなー」

「イメージが重要!とか言ってる作品、多いじゃないですか」

「ああ、あれ。高校化学の始めのほうの内容だけで話が進むよね」


 なんというか中途半端なんだよね。


「中途半端?」

「だってさ、現代日本人が主人公なら、核融合だってイメージできるでしょ?」

「何に使うんですかそんなの」


 小動物、そこでまたジト目にならない。


「え、敵を倒すんなら、敵の本拠地で核融合を起こすイメージでどかっと一発やればよくない?」


 ちなみにアルバスさん、程よく離れたところから最大火力を叩き込むのも得意としてました。

 近寄って斬りあいばっかりやってたら、潜入部隊なんてすぐ死にますからね?

 敵は効率的に倒さないとね。

 あの時は暗殺目標(まおう)(ベタだけどそういう呼ばれ方もあったんだよ)を倒せるのは聖剣だけだったけど、核兵器が使えたら絶対試してましたよもちろん。死亡確認がしにくくなったかも知らんけど。


「それじゃ話が始まった瞬間に終わるでしょ」


 母さんが笑いながらツッコミを入れてきた。


「まあほら、そこが物語とリアルの違いってことで?」


 結局、そういう事なんだよね。


「フィクションだから、お話は適当に盛り上がらなきゃいけないし、そんなに簡単に終わっても詰まんないし。間違ってもポジションとってそこから遠距離魔法で攻撃するなんて話にしないでしょ」

「それはそうですけど、なんか殺伐としてますね……」

「リアルなんてそんなもんです」

「聞いといて言うのもなんですけど、ぜんっぜん参考にならないですよね」

「うん、だから創作の魔法なんて好きに書けばいいと思うよ?」


 夢が無いのはデフォルトです。


「じゃあ、ステータスとかってどうです?」

「ああ、あれ。分かり易くていいんだけどさ。誰がスコア化すんの?」


 尺度決めてそれを個人ごとに数値化して、て相当な手間だよね。


「ゲームが基本になってるファンタジーで、話の分かり易さのために導入するシステムだよね、あれ」


 仮に出来たとしても、じゃあ誰の作ったどんな尺度で評価しますか、という話になって、単位系をめぐっての戦争になるとしか思えないんですが。

 升の大きさですら争いごとの原因になってたんだし、さらに便利な『個人の能力のパラメータ化』なんて、さらに争いのタネになるとしか思えないけどね。


「ヤードポンド法とメートル法みたいなものかしらねえ」

「ヤードポンド法は滅びるべきなんだよ、十進法じゃないもの死すべし」


 ついでにインチねじも断固滅ぼさねばならない。


「わぁ理系だった」


 小動物が他人事みたいに言った。

「これだから理系は」の巻。

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