第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・9
「万全の体勢、というわけでもないのよ。ハンデはこれぐらいで十分でしょう? それともまだ足りない?」
絶対的な余裕。
そんなものを感じさせそうな台詞を吐く。
ただ……
「真咲……」
梓が心配そうな声を上げる。それもそのはずで、真咲の着ている制服のあちこちに切れ目が見えたからだ。鋭い刃物で切られたようなものから、引き千切られたようなものまで。薄っすらとではあるが、血が滲んでいるようだ。
「私は大丈夫だから」
「はは……笑えたものだな」
ミシェルは何を思ったか、真咲と梓の間にいたにも関わらず、そこから移動する。
「何のつもり?」
「最後になるかも知れないだろう? 最後ぐらい言葉を交わす時間があってもいい。それで、 お前が満たされるのであればな……くくく。
私はな、真咲。ここまでお前が人間たちと馴れ合っているとは思わなかった。堕天使の末裔が、ここまで堕落するとは。神にしろ、天使にしろ、悪魔にしろ、人間と馴れ合うなどということはないのだ。もし馴れ合いが続けば、最終的にはお前自身が死ぬことになる。そんな死に方など望んではない。
ゆえに、お前がそれで満たされるというのならば、完全に満たされたお前を殺すことが私の最高の喜びとなるのだ」
真咲はそう言う男を一瞥すると、梓に歩み寄った。
「大丈夫なの、真咲?」
「それはこっちの台詞。傷は……ないみたいね。安心した」
真咲はほっとした顔で微笑を浮かべた。優しげな笑み。
「これから、ちょっとあいつを殺さなきゃならない。あなたを助けるために。たぶんだけど、もう少しで翼たちが助けに来てくれるから、あなたは彼らと逃げるの。いい?」
「そんな。真咲はどうするの?」
「私は……」