第四章「紅の堕天使・紫暗の悪魔」・7
暗い……暗い空間が広がっていた。
頭が少し痛い。ただズキズキとするような痛みではなく痺れから開放されたようなもの。
とりあえず、傷がないか確かめようと手を動かすが……動かなかった。何かに固定されているようで、がちゃがちゃと金属が擦れる音がした。
「それに……ここ、どこよ」
目を凝らしてはみるが、目を開けているのか、閉じているのかさえわからないほど深い暗さが広がるばかりだ。
一つのことを除けば……
「目が覚めましたか?」
眼前に浮かぶようにしていた紅い眼からそう言葉が発せられた。途端に辺りが明るくなる。無機質なコンクリート打ちっぱなしの部屋だった。どこかほこりっぽいにおいがする。
自身の体は十字架のようなものに固定されていた。両手首両足首が金属の輪で繋がれている。これでは身動きがとれないわけだ。
「あなた、は?」
梓は金髪の男に問うた。
黒いスーツに身を包み、肩口まで伸ばされた金色の髪……そして……あまりにも紅いその瞳……その持ち主は微笑を浮かべた。同性異性問わず惹きつけてしまいそうな魅力的な顔立ちではあるが、梓には不気味にも思えた。あまりにも完璧すぎて。
「挨拶がまだでしたね……ミシェル・ハイドフックという者です。あなたのご友人、天城真咲と同類、と言えばご理解いただけますかな?」
同類……
それが指し示す意味は……
「あなたも堕天使なんですか……?」
「まさか……同類というのは悪魔という意味で、ですよ」
やはり、そうなの。梓は男の放つ雰囲気が不気味な意味がわかった。人外ゆえに発する雰囲気なのだろう。ヒトを惹きつけるアヤカシのもの。
「それで……わざわざあたしに何の用ですか?」
憮然とした、強気とも取れる態度で応じる。
少しでも隙を見せたら駄目だと、本能的に感じ取っていたからだ。
「ははは……おもしろいお嬢さんだ。そんな目で見ないでください。こちらはあなたに協力を求めようというだけなのですから」