魔王討伐からの帰還〜それぞれの選択〜大聖女と剣聖のプロポーズ
ようやく魔王を討ち果たした勇者パーティ。
しかし、彼らの帰還後を待っていたのは、人間同士のドロドロとした権力争いだった…
勇者、大賢者、剣聖、大聖女の4人だけでなく、王族(王太子、第一王女、第二王子など)、門閥貴族、教会組織など、様々な立場の思惑が交錯する群像劇です。
創世神話からしっかり組み上げたハイファンタジーの世界観をお届けします。
お楽しみいただけましたら幸いです!
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした勇者パーティ。
その帰還後、絶大な影響力を持つ彼らを政治的に取り込みたい王家の思惑から、内々に王族との婚姻話が持ちかけられていた。
勇者と賢者はすんなりとその申し出を受け入れたが、剣士レオンハルトはやんわりとそれを断り、聖女フィオナは返事を保留していた。
立身出世に興味のない二人は、好きでもない王族と結婚して政争に巻き込まれるより、好きな人と一緒に過ごしたいという気持ちの方が強かったからだ。
そして、二人に剣聖と大聖女の称号が贈られる事が決まった、その日の夜――。
【王城中庭】
「あの二人は上昇志向が強かったからなぁ。この先、国を牛耳って行くつもりだろうなw」
レオンハルトが軽口を叩くと、フィオナはあきれたようにため息をつく。
「国の行く末を考えていらっしゃるのですよ。剣にしか興味のない剣聖様と違ってね?」
「む! 剣だけではない! ……君も……その……君のことも……」
そこまで言うと、レオンハルトは急に口籠もってしまった。
「あら、私のことが、なんですか……?」
フィオナはおもしろ半分、期待半分で、からかうように彼に水を向ける。
「……い、いや、なんでもない……」
ここまで来てまだ煮えきらない態度に、フィオナはふっと拗ねたような、しかしどこか楽しげな顔を見せた。
「そうですか。……ああ、そうだ! 私にも、王族との婚姻話が持ちかけられておりまして……」
「な、なんだって……!」
「そんなに驚きます? 剣聖様にも、第二王女様とのお話があったときいていますよ? だったら、私にだって同じようなお話はくるでしょうに」
呆れたように彼女はふうと息を吐きだす。
「そ、それで……その……君は……なんと?」
「さぁ、どうでしょう? まだお答えはしてませんが……私も、上昇志向が高いかもしれませんね?」
レオンハルトは慌てた様子で、ぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことはないだろう! 聖職者は、現場から離れて高位に登ると堕落する! と、いつも上層部を批判していたではないか!」
「…だからこそ、上からの改革が必要と考えてるかもしれませんよ……? 王族ともなれば、腐敗した組織の改革に着手できるかもしれませんしね?」
「そ、そんな……」
絶望感に打ち拉がれている彼をみて、フィオナはわざとらしく小さく肩をすくめる。
「剣聖様は、お話をお断りしたと聞いていますが、なぜですか?」
「それは……俺は剣のこと以外は分からんし……政治的なことに利用されるのは……」
「それだけですか……?」
「……は?」
「理由は、それだけですか……?」
「それは……その……」
歯切れの悪い態度に、フィオナは冷たく言い放つ。
「ま、私には関係ないですかね。……王族になったからって、急に態度を変えたりしないので、気軽に会いに来てくださいね?」
「なっ……それでは……!」
「私も、教会組織の一員ですしね。王家と教会の関係性を考えると、大した理由も無いのに、王家の申し出を断る訳にもいかないですし……」
「そ、そんな……」
「それに、内々の話で一応表には出ないとは言え……王族の方にだって立場ってものがありますし……。剣聖様に断られた王女様、ショックで引きこもってるそうですよ? かわいそうに……」
ジロリと、鋭い視線でレオンハルトを睨みつける。
「うぅ……それは……その……」
口の中でモゴモゴと言い訳を呟く彼を一瞥すると、フィオナは諦めたようにふっと表情を緩めた。
「もういいです。勇者様が、『あいつにチャンスをやってくれ』って言うので来たんですけど……」
レオンハルトは急な展開に事態が飲み込めず、怪訝そうに眉を顰める。
「いいんですか? 返事の期限、今日中なんです! このままだと、私、会ったこともない第三王子様と結婚しちゃいますよ? ねぇ、いいんですかぁ!?」
「っ……!」
圧倒的な勢いに押されて、レオンハルトはフルフルと慌てて首を横に振った。
「そうですよねっ!? 嫌ですよねっ!?」
今度は、カクカクと激しく縦に振る。
「私のこと、好きですよねっ!? 大好きですよねっ!?」
そのまま逃げ場を失ったように、カクカクと頷き続ける。
「じゃあ結婚っ! しましょう!」
レオンハルトの目が、信じられないものを見るように大きく見開かれた。
「まだ、交際もしてないのにっ……!?」
「もうっ! 一緒に五年も旅してたんですよっ!? お互いのこと、ヘタな夫婦よりよく分かってますよねっ!? もう、ほとんど付き合ってたようなもんでしょうがっ!」
フィオナは一歩踏み込み、レオンハルトの胸にツンと人差し指を突きつけた。
「それにっ! 大聖女が王族との婚姻を断る理由なんてっ! もう『結婚が決まってる』くらいじゃないと無理ですよ! ねっ、そうですよねっ!?」
またもや魔法にかかったように、レオンハルトはカクカクと頷くしかない。
「決まりですっ! ほらっ、懐に隠してる指輪! 薬指にハメてください!」
「な、なぜ指輪のことを……っ!?」
「もうっ! 旅の途中、お店で私が気に入って見てた指輪ですよね?
後でこっそり一人で買いに行ったのも、告白しようと思ってできないまま、ずっと懐にしまっていたのも! 全部! ぜーんぶ! 知ってましたよ!」
「な……なっ……!」
「もうっ、驚いてないで! それが婚約指輪で良いですから! ね?
は・や・く!
ハメてくださいっ!」
夕闇の中、真っ赤になりながら薬指に指輪をはめていく男の頭を、フィオナは愛おしそうに見つめる。
不器用で、決断できなくて…でも、いざとなれば誰よりも頼りになる私のパートナー。
彼女はそっと彼の耳元に顔を寄せ、悪戯っぽく、けれど最高に甘い笑みを浮かべて囁いた。
「幸せになりましょうね?
…あ・な・た♡」
お楽しみいただけたでしょうか?
投稿初日は、一区切りが着くまでの査問会議編まで投稿します。
ある程度の結末までと多数の番外編のストックがありますので、その後も順次更新していきます。
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