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第1話夜の相性も大切です

大人のラブコメ、始まります!


恋愛経験はある。

結婚だって経験した。

仕事も、それなりにできる。


なのに、好きな人の前では驚くほど不器用。


45歳のバツイチ医師・小鳥遊優と、婚活に疲れた42歳・東海林喜咲。


二人を引き合わせたのは、運命でも理想の条件でもありません。


「夜の相性も大切です」


プロフィールに残ってしまった、たった一行の誤記でした。


名前を読み間違えて減点され、余計なひと言で怒られ、いい大人二人が恋愛だけは初心者のように右往左往。


それでもなぜか、また会いたくなる。


「条件の合う人」と「好きな人」は、本当に同じなのでしょうか。


笑って、すれ違って、ときどき胸がきゅっとする。

そんな二人の面倒で楽しい大人の恋を、ぜひ見届けてください。


第1部「婚活アプリは恋を保証しない」

七文字で婚活人生が終わった

「終わった」


東海林喜咲、四十二歳。


食品メーカー企画職。


婚活歴五年。


そして今。


たった七文字で、婚活人生が終わった。


スマートフォンの画面には、つい数十秒前に更新した婚活アプリのプロフィールが表示されている。


そこには堂々と。


《夜の相性も大切です》


と書いてあった。


「違う。そうじゃない」


喜咲は自宅のソファで頭を抱えた。


本来書きたかった文章は、


《夜型なので、生活リズムの相性も大切です》


だった。


食品メーカーの商品企画なんて仕事をしていると、帰宅が遅くなることも珍しくない。


朝五時に起きてジョギング。


夜十時には就寝。


休日は朝市へ。


そんな太陽光発電みたいな男性とは、おそらく生活時間が合わない。


だから生活リズムの相性は大切。


ただ、それだけを書きたかった。


ところが文章を修正している途中で、余計なところを削って保存した結果。


《夜の相性も大切です》


になった。


「どこの肉食系四十二歳よ!」


削除。


今すぐ削除。


そう思って指を伸ばした瞬間。


ぴこん。


通知が来た。


《小鳥遊 優さんから「いいね!」が届きました》


「早い!」


公開から四十七秒。


婚活男性は、こういう時だけ反応速度がF1だった。


恐る恐るプロフィールを開く。


小鳥遊優。


四十五歳。


医師。


バツイチ。


趣味、読書。映画。散歩。


写真は清潔感あり。


自己紹介文も普通。


むしろ、かなりまともだった。


《お互いに無理をせず、自然体でいられる関係を希望しています》


「……まとも」


だからこそ。


怖い。


こんなまともそうな男が。


なぜ、


《夜の相性も大切です》


に四十七秒で食いついたのか。


「絶対、変な目的じゃん」


喜咲は婚活仲間の水野奈緒へスクリーンショットを送った。


三秒後。


『医者じゃん』


返信が来た。


『そこじゃない』


『夜の相性じゃん』


『そこ』


『会えば?』


『なぜ』


『五年婚活してる女が、プロフィール一行で逃げるな』


正論だった。


婚活歴七年の女に言われると、重みが違う。


ただし。


その女も独身である。


『で、顔は?』


『普通』


『年収は?』


『知らない』


『医者』


『職業は見れば分かる』


『四十五』


『書いてある』


『バツイチ』


『読んだ』


『じゃあ、何が不満?』


喜咲は少し考えた。


『いいねが早すぎる』


奈緒から返ってきた。


『そこ減点する女、初めて見た』


「うるさい」


喜咲はスマートフォンを睨んだ。


もう一度、小鳥遊優の写真を見る。


悪くない。


むしろ。


悪くないから困る。


そして。


喜咲の親指は。


《ありがとう》


を押した。


マッチ成立。


「……何やってんだ、私」


その頃。


画面の向こうでも。


一人の男がスマートフォンを見つめていた。


「……かなり積極的な女性なのか?」


小鳥遊優、四十五歳。


医師。


バツイチ。


仕事中なら、多少のことでは動じない。


ところが恋愛になると。


彼の診断能力は、驚くほど役に立たなかった。


優はもう一度プロフィールを見る。


《夜の相性も大切です》


やはり。


強い。


他の文章が全部かすむほど。


そこだけ強い。


しかし。


写真の女性は上品に見える。


仕事もしっかりしている。


文章も普通。


例の一文だけが、火力がおかしい。


「人は見かけによらないな……」


「何が?」


後ろから声がした。


優はスマートフォンを伏せた。


同僚の神崎隆之が立っていた。


「何でもない」


「婚活アプリ?」


「なぜ分かった」


「四十五歳の独身男がスマホ見て眉間にしわ寄せてたら、株か婚活だろ」


「偏見がひどい」


「見せろ」


「嫌だ」


「友達だろ」


「友達なら見るな」


神崎は既婚者だった。


そして自称、恋愛マスターだった。


なお。


その称号を認定しているのは本人だけである。


「マッチした?」


「した」


「どんな人?」


「食品メーカー勤務。四十二歳」


「美人?」


「写真では」


「性格は?」


「まだ分からない」


「特徴は?」


優が黙った。


「何だよ」


「……夜の相性を大切にする人」


神崎の顔が止まった。


三秒後。


「お前」


「何だ」


「今日、当直代わってやろうか?」


「何の話だ」


「友情」


「絶対違うだろ」


「今夜は長くなるかもしれない」


「会ったことすらない!」


医局に。


優の声が響いた。


その話題に触れない男

最初のメッセージは。


優からだった。


《はじめまして。マッチありがとうございます。小鳥遊です》


喜咲は画面を見る。


普通。


あまりに普通。


《こちらこそ、ありがとうございます。東海林です》


送る。


数分後。


《食品メーカーの商品企画をされているんですね。面白そうなお仕事ですね》


そこ?


喜咲は眉を寄せた。


例の一文には。


触れない。


《ありがとうございます。忙しいですが、楽しいです》


《新商品を考えたりするんですか?》


《そうですね。実際は会議と資料作りもかなり多いですが》


《医療と同じですね。外から見える仕事以外が多い》


「……普通に会話できる」


その後も。


映画。


食べ物。


仕事。


休日。


旅行。


会話は驚くほど普通だった。


例の話題。


ゼロ。


三日目。


まだゼロ。


五日目。


ゼロ。


一週間。


ゼロ。


喜咲は奈緒へメッセージを送った。


『夜の相性に一切触れてこない』


『紳士じゃん』


『怪しくない?』


『触れたら怪しい、触れなくても怪しい。じゃあどうしろと』


「……確かに」


認めるのが腹立たしい。


その夜。


優からメッセージが来た。


《もしよろしければ、今度お食事でもどうですか?》


続けて。


候補日が三つ。


店も三つ。


駅からの距離。


料理のジャンル。


予算まで書いてある。


「仕事できる男の誘い方……」


喜咲は思わず呟いた。


減点ポイント。


今のところ。


なし。


それが。


逆に気に入らない。


『会う』


奈緒へ送る。


『夜?』


『食事』


『夜?』


『だから食事!』


難読名字頂上決戦

初デート当日。


喜咲は約束の十分前に店へ着いた。


五分前。


一人の男性が現れる。


ネイビーのジャケット。


白いシャツ。


写真より。


少しだけ柔らかい印象。


清潔感。


合格。


服装。


合格。


プロフィールとの顔面誤差。


許容範囲。


身長。


盛っていない。


合格。


歩き方。


普通。


合格。


喜咲の婚活脳内採点機が。


高速で稼働する。


男性がこちらに気づいた。


「あの」


「はい」


「東海林さん……ですか?」


喜咲が。


止まった。


「読めました?」


「え?」


「東海林」


「しょうじ、ですよね?」


「……正解」


これは。


ちょっとポイントが高い。


東海林。


読めない人は、けっこういる。


「すごいですね」


「病院だと、珍しい名字を見る機会も多いので」


「なるほど」


男性が頭を下げた。


「小鳥遊です」


喜咲は答える。


「たかなしさん」


今度は。


優が止まった。


「読めるんですか?」


「読めます」


「すごい」


「難読名字界では有名ですよ」


「難読名字界?」


「今、作りました」


優が。


笑った。


思ったより。


ちゃんと笑う。


喜咲も。


少しだけ笑った。


「じゃあ、入りましょうか」


「はい」


店へ入る。


席へ案内される。


メニューを開く。


ここまで。


減点なし。


むしろ。


名字を読めたので。


少し加点してもいい。


そんなことを考えていた時。


優が言った。


「東海林さん」


「はい」


「お名前なんですが」


「はい」


「喜咲さんって」


嫌な予感。


「きしょうさん、で合ってます?」


喜咲は。


静かにメニューを閉じた。


「帰ります」


「えっ!?」


「まだ注文してないので、被害が少ないうちに」


「待ってください!」


「喜咲」


「はい?」


「き・さ・き」


「あ」


「きしょうって何ですか」


「すみません」


「患者さんの名前も間違えるんですか?」


「患者さんは間違えません」


「婚活相手は?」


「今後努力します」


「減点二十」


「持ち点いくつですか?」


「もうマイナスです」


「開始五分で!?」


喜咲は。


吹き出した。


優も。


困った顔で笑う。


「厳しくないですか?」


「婚活は競技ですから」


「いつから?」


「五年前から」


「公式ルール?」


「私ルール」


「それは勝てない」


「今のところ小鳥遊さん、予選落ちです」


「まだ料理も来てないのに」


「名前を間違えたので」


「名字は読めたのに」


「加点はありません」


「理不尽だ」


「婚活に公平な審判はいません」


「名言みたいに言わないでください」


また。


笑った。


変な人。


喜咲は思った。


この男。


真面目なのに。


なぜか。


しゃべると面白い。


夜の相性、読んでますよね?

前菜が来た。


会話は。


不思議なくらい続いた。


「食品メーカーの商品企画って、実際どうやって商品を考えるんです?」


「小鳥遊さん」


「はい」


「今、私が一番嫌いな質問しました」


「えっ」


「『どうやって商品を考えるんですか?』」


「すみません」


「次に嫌いなのが『自分の好きな商品作れるんですか?』」


優が口を閉じた。


「聞こうとしてました?」


「……はい」


「減点五」


「また!?」


「でも」


喜咲が笑う。


「仕事の話を聞いてくれるのは、プラス三」


「差し引きマイナス二?」


「計算早いですね」


「医者なので」


「関係ないでしょ」


優は。


思っていたより自慢しない。


医師という職業を。


会話の武器にしない。


喜咲はそれを。


少し意外に思った。


そして。


一時間。


例の話題。


なし。


一時間半。


なし。


デザート。


まだなし。


喜咲は。


とうとう我慢できなくなった。


「小鳥遊さん」


「はい」


「私のプロフィール」


「はい」


「ちゃんと読みました?」


優のスプーンが止まった。


「読みました」


「全部?」


「全部」


「本当に?」


「はい」


「へえ」


じっと見る。


優の目が。


少し泳いだ。


分かりやすい。


「何か」


喜咲は聞いた。


「気になるところ、ありませんでした?」


「食品メーカーの商品企画」


「それはさっき聞いた」


「映画」


「ほか」


「旅行」


「ほか」


「料理」


「ほか」


「……」


「小鳥遊さん」


「はい」


「医者って、都合の悪い質問された患者さんにも、こうやって逃げるんですか?」


「患者さんからは逃げません」


「私は?」


「かなり逃げたいです」


喜咲が。


噴き出した。


「読んでるじゃないですか!」


「読みましたよ!」


「だったら何で触れないんですか!」


「触れたら失礼でしょう!」


「触れない方が怪しいの!」


「どうすれば正解なんですか!」


「知らないわよ!」


二人とも。


声が大きくなった。


隣の席のカップルが。


こちらを見る。


「……すみません」


優が小声になる。


喜咲も。


声を落とした。


「……あれ」


「はい」


「誤記です」


「誤記?」


「本当は」


喜咲は。


少し恥ずかしくなりながら言った。


「『夜型なので、生活リズムの相性も大切です』って書きたかったんです」


「ああ」


優の顔に。


巨大な納得が現れた。


「なるほど」


「その顔やめて」


「全部つながったので」


「何が?」


「プロフィール写真との温度差が」


「温度差って言うな」


「正直」


優は言った。


「かなり積極的な方なのかなと」


「やっぱり思ってたんじゃない!」


「思いますよ!」


「じゃあ何でいいねしたんですか!」


優が。


止まった。


「そこ?」


「そこです」


喜咲は腕を組む。


「その文章を見て、いいねしたんですよね?」


「見ましたけど」


「ほら!」


「でも」


優が。


普通の顔で言った。


「それ以外のところが、いいなと思ったので」


喜咲が。


止まる。


「……」


「東海林さん?」


「今の」


「はい」


「口説いてます?」


「え?」


本当に。


分かっていない顔だった。


「……もういいです」


「何がですか?」


「減点」


「また!?」


「今のでマイナス二」


「何点引かれたんですか?」


「三」


「ということは、その前マイナス五だったんですか?」


「細かい男はモテませんよ」


「採点してる人に言われたくない!」


喜咲は。


声を上げて笑った。


優も。


笑った。


初対面。


なのに。


ずいぶん前から。


こんな会話をしていた気がした。


ナシではない。腹立つけど

食事が終わった。


駅まで。


二人で歩く。


「今日はありがとうございました」


優が言う。


「こちらこそ」


「楽しかったです」


喜咲は。


少しだけ。


返事に迷った。


こういう時。


婚活なら。


無難に。


「私もです」


と言う。


相手を傷つけない。


期待させすぎない。


便利な言葉。


でも。


今日は。


本当に。


楽しかった。


「私も」


喜咲は言った。


「楽しかったです」


「よかった」


優が笑う。


「ただ」


「はい」


「名前間違えた件は忘れてません」


「まだ言うんですか」


「一生言います」


「長い付き合い前提なんですか?」


二人。


止まった。


「……」


「……」


先に。


喜咲が目を逸らした。


「言葉の綾です」


「はい」


優も。


少しだけ耳が赤い。


その反応を見て。


喜咲は思う。


この人。


意外と。


かわいいところあるな。


いや。


違う。


何を考えてる。


四十二歳。


初デート。


医者。


バツイチ。


名前間違えた。


現在。


マイナス二点。


かわいい判定は早い。


駅へ着いた。


「では」


優が頭を下げる。


「今日は本当にありがとうございました」


「はい」


「また」


そこで。


優が止まった。


「……」


「何です?」


「いや」


「言いかけたなら言ってください」


「また、お会いできたら」


「…………」


「嬉しいです」


喜咲は。


すぐには答えなかった。


三秒。


その三秒で。


婚活脳が働く。


医師。


四十五歳。


バツイチ。


真面目。


天然。


空気は。


たぶん読めない。


名前を間違える。


例のプロフィールを見ても。


変なことは言わなかった。


そして。


今日。


かなり笑った。


「考えておきます」


喜咲は言った。


「はい」


「減点が戻ったら」


「まだマイナスなんですか」


「当然です」


「厳しい」


「では」


喜咲は改札へ向かう。


三歩。


振り返った。


優も。


ちょうど振り返っていた。


目が合う。


「……」


「……」


優が言った。


「何か忘れ物ですか?」


「そういうところ!」


「えっ!?」


「何でもありません!」


喜咲は。


今度こそ。


改札へ消えた。


その夜。


奈緒からメッセージが来た。


『どうだった?』


喜咲は。


ソファに座る。


『普通』


『普通の男と二時間以上いたの?』


『話は面白かった』


『顔は?』


『普通』


『医者』


『職業は顔じゃない』


『夜の相性は?』


『確認してない』


送信。


すぐ。


返信。


『「まだ」確認してない』


『言葉尻取るな』


『じゃあ、男としてどうだった?』


喜咲は。


指を止めた。


どうだった?


婚活なら。


判断材料はたくさんある。


年齢。


職業。


離婚歴。


年収。


家族。


住居。


生活習慣。


でも。


今日。


一番覚えているのは。


そんなことじゃない。


名前を間違えた時の顔。


減点されて本気で困っていた顔。


そして。


自分が笑ったこと。


喜咲は。


入力する。


『ナシではない』


一度。


画面を見る。


それだけでは。


何となく負けた気がする。


追加。


『腹立つけど』


送信。


数秒後。


『それ、かなりアリのやつ』


「違う」


喜咲は。


誰もいない部屋で言った。


一方。


優のスマートフォンにも。


神崎からメッセージが来ていた。


『どうだった?』


優は答える。


『楽しかった』


『夜の相性』


『誤記だった』


少し間。


『解散』


『何がだ』


『夢が終わった』


『お前は何を期待してたんだ』


『で、また会いたい?』


優は。


指を止めた。


東海林喜咲。


名字は読めた。


名前は間違えた。


減点された。


開始五分で帰られそうになった。


笑われた。


怒られた。


また減点された。


怖い。


かなり。


怖い。


なのに。


優は入力した。


『怖いけど、また会いたい』


神崎から。


すぐ返ってきた。


『それ恋じゃね?』


『違う』


『じゃあ何』


優は。


少し考えた。


『経過観察』


『医者やめろ』


優は。


一人で笑った。


その時。


スマートフォンが鳴る。


婚活アプリ。


東海林喜咲から。


メッセージ。


優は。


少し緊張しながら開いた。


《今日はありがとうございました》


ここまでは。


普通。


その下。


《次は、私の名前を間違えなかったら、減点を少し戻します》


優は。


画面を見たまま。


笑った。


そして。


返信する。


《分かりました。東海林喜咲さん》


数秒後。


《しょうじ・きさき》


《知ってます》


《確認です》


《信用ゼロですね》


《現在マイナス二点なので》


《何点になったら合格ですか?》


少し間が空いた。


喜咲から。


返事。


《それは》


続いて。


もう一通。


《次に会ってから決めます》


優は。


その文章を。


二回読んだ。


三回目を読む前に。


神崎へ送った。


『二回目、ありそう』


返信。


『夜?』


優は。


スマートフォンを伏せた。


「もう寝ろ」


画面の向こう。


喜咲も。


自分が送った文章を見ていた。


《次に会ってから決めます》


自分から。


次。


と言った。


「……何やってんだ、私」


でも。


削除はできない。


今度は。


誤記ではなかったから。


婚活アプリは。


恋を保証しない。


条件も。


プロフィールも。


相性診断も。


誰かを好きになれると。


保証してはくれない。


ただ。


たった一つの。


とんでもない誤記が。


もう会うはずのなかった二人を。


二回目のデートへ。


連れていくことくらいは。


あるらしい。


第1話「夜の相性も大切です」 完

次回 第2話

「医者だからって、夜に強いとは限りません」

二回目のデート。


喜咲は念を押す。


「変な意味じゃありませんから」


「分かってます」


「本当に?」


「はい」


そこで喜咲は。


笑ってはいけない質問をする。


「……残念ですか?」


小鳥遊優。


四十五歳。


医師。


完全停止。


そして二人は初めて。


腹の底から笑い合う。

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