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後編

 

 もうひとつの声は白銀の騎士に語りかけていた。



『お前の命は後3ヶ月だ』


 白銀の騎士ランバートが懺悔室で祈りを捧げていると奥から厳かな声が聞こえてきた。


 ランバートがその澄み切った美しい瞳で真っ直ぐ見上げると、また声が聞こえた。


『お前がこの国を救った事は誉められるべきであるし、我々も感謝している。

 しかし、お前の力は強大過ぎて、いつまでもこの世界に留めるわけにはいかなくなった』


 ランバートは薄々こんな日が来ると覚悟していた。

 強大な聖なる力を持つナディアの盾となりこの広大な国を守り切ったその時から。


 声はまだ続いた。

『しかしこの国の為に誠心誠意尽くしたお前をこのまま連れて行っては不憫だと言う声もあってな』


 詭弁だなとランバートは遠い目をして考えた。

 結局は皆が強大な力を忌み嫌い排除しようとしているだけだ。


『何か最後の願いがあればひとつだけきいてやろうと言う事になった。

 ただし、お前の命を助けると言う願いは無しだ』


 やはりな、とランバートは薄笑いを浮かべる。


『何か願いはあるか?』


 そう言われてランバートは少し考えた。


 ずっと願い続けたこの国の平和は成し遂げた。

 魔物が大量発生し、瘴気に溢れたこの国を浄化したナディアを守り切った。


 ランバート自身については命が尽きるなら何の願いも無い。

 寧ろあれだけの力を見せつければ何か弊害があるだろう事はわかっていた。

 恐らく人外の力として脅威になるだろうと予想していたが、やはり存在そのものを抹消されるのかと理不尽に憤った。


 願いはただひとつ。

 愛しいナディアを守り切る事。


「それではわたしの最後の願いを聞いてもらおう。

 わたしの願いはナディアがずっと幸せである事のみ」


 何の迷いも憂いも無く雄々しくランバートは願った。


『ナディアとは最強聖女の事だな』

「その通りです」


 流石に知らぬとは言わせない。

 ナディアはこの国を守るために命を賭して戦った。

 ナディアは孤児だ。

 生まれて間も無く教会の前に捨てられていた。

 でもそんな生い立ちも透き通った水のように美しく凛としたナディアの心を歪ませる事は無かった。



 ランバートは幼い頃からナディアを守って来た。

 ランバートは権力闘争に巻き込まれ止むなく教会に身を置いていた。

 周りの人達がランバートの存在の強すぎる影響を恐れる中、ナディアだけはお兄さまと慕ってくれた。

 ふたりの絆はどんな縁より強く結ばれている。


 ランバートはやがて教会の騎士となり、かなりの腕前になった。

 その煌めく銀髪と佇まいにて、いつしか白銀の騎士と呼ばれた。


 そしてかなりの魔力もあったので、魔法剣士としてあちこちから引き抜きが来るが、ランバートの出自を知ればその話も瞬く間に消えた。

 ランバートにしてみれば、はなからナディアを守る為に教会に残るつもりだったし、教会を離れれば余計な権力闘争に巻き込まれるのは明らかだった。


 あの浄化はナディアが命をかけて成し遂げた。

 ランバートは補助魔法で助ける事しか出来なかった。

 励ます事しか出来なかった。


「最早ナディアの幸せ以外は何も望まない」


 そう言ったランバートは気付いていた。

 この国が何をしようとしているか、またその訳を。


『………』


 声は沈黙した。


 ランバートは静かに立ち上がった。

「まさかおとなしく言われるまま殺されるなどとは幾ら貴方でも甘すぎませんかね?」


 声は震えながら言った。

『…お前たちを生かしておけば…』


「たしかにこの国でも世界でも思いのままに出来るでしょうね」


 ランバートは静かに怒りのボルテージを上げた。

「だからと言ってナディアに傷ひとつでもつけたらわたしが許さない。

 たとえ世界を滅ぼしても阻止します!

 もちろん貴方の命を屠るなど容易い事だ。

 兄上!」


『!!』

 声の主である国王は身の危険を感じ司祭部屋の椅子から転げ落ちた。

 これ程の力を持つランバートを近衛騎士たちと言えど屠る事は難しい。


 せめて聖女ナディアだけでも亡き者にと愚王が声を上げようとした瞬間、声帯は瞬時に潰されそのまま崩折れた。


 ランバートは懺悔室を取り囲んでいた数多の近衛騎士を魔法剣で瞬時に凍らせると、急いで祭壇まで走った。


「お兄さま!」

 そこにはナディアが結界魔法を使い大司教や神官たちと対峙していた。


 ランバートは瞬足でナディアの横に着く。

「教会も国も聖女ナディアへの大恩を忘れ屠ろうとするな神をも畏れぬ所業。

 よもや聖女の加護が続くとは思うな」


 その刹那教会に、王都に、そしてこの国に張られたいた最強聖女ナディアの結界が消滅した。


 ランバートは魔法剣で大炎上を起こし、その火力で教会はガタガタと崩壊を始めた。


 逃げ惑う大司教等を尻目に

 ランバートとナディアは走り出し、教会の裏手に繋いでいた愛馬ランスロットに飛び乗る。


 ナディアは最後に教会に向けて真実の魔法をかけると、ランバートは素早くランスロットの脇腹を優しく蹴った。


 世界で一番速い馬ランスロットは瞬く間に地平線の彼方へと消えて行った。


 教会は跡形もなく焼け落ちたが

 聖女と王弟を謀略にかけた者たちは誰一人命を落とさなかった。


 しかし、真実の魔法をかけられていた為、国王も大司教も事の次第を国民皆の前で告白したため、悪事は露見し、多くの非難を浴びたが、民たちも誰一人として薄々気付いていたこの悪事を止めようとしなかったのも事実だった。


 そして時を移さず、魔の山にてスタンピードが起こり、ナディア聖女の結界が消滅していたこの国はあっという間に滅亡することになる。

 もちろん、あの国王も、大司教も、見て見ぬふりをした民たちも。



 ランスロットで大地を駆け抜け、遠い国へと向かうナディアとランバートは二人だけの静かな生活を望んでいたが、また新たな戦いへと巻き込まれていく。

 しかしそれはまた別の話。



 最強聖女と白銀の騎士の旅は続く。





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