お姫様、おうちに帰る
さて!ついに完結です!どのような最後を迎えるのでしょうか!わくわく!わくわくですよ!
「こいつらの身柄は私が預かるワ!」
エマが気を失ったアロハシャツ男と、後からカスミ、クリス、リュウジの3人が捕まえて連れてきたスーツ男 (いくら大柄な男はとはいえ、魔法剣や便利道具を駆使するクリスやカスミには敵わなかったようです。)をなんと両肩に抱えあげると、私たちに向かって笑いかけました。
「え、エマ殿って……」
クリスが困惑したように言います。
「黙ってたけど、私は〝救済軍〟という組織に所属するエージェントで、この〝死神〟を追っていたのヨ。怪異や超能力者を狩るのが彼らの仕事なら、私は怪異や超能力者を守るのが仕事ってことネ」
「な、なるほど?じゃあここでさよならってこと?」
「仕事は終わったし、本部に報告しなきゃいけないワ」
寂しそうなアキにエマは首を振りながら答えました。確かに彼女たちはよく波長が合っていて、一緒にいて楽しそうでもありました。
「キミたちのおかげで、楽に仕事ができたワ!ありがとう!あっ、キミたちが着てるその衣装はお土産だから、あげるヨ!」
「いえ、こちらこそ、協力していただきありがとうございましたっ」
私は代表してエマにお礼を言いました。するとエマは「バイバーイ!」と言いながら大の男2人を担いで去っていきました。
私たちがエマを見送っていると、背後からパチパチと手を叩く音がしました。
「いやー、君たち!最高のパフォーマンスだったよ!」
私たちが振り向くと、そこには怪しげな帽子をかぶり、黒いマントを身につけた背の高い人影がありました。……この声、このシルエット……まさか!
「「……シモ……っ!?」」
私と、アキとカスミに支えられた状態のレーネは同時に叫びかけて、その人影が人差し指を口に当てて「しーっ!」とやったのを見て無理やり声を押さえ込みました。
「……詳しい話は移動しながらいたしましょう」
シモンは私に近づくと、耳元でそう囁きました。私は小さく頷くと、リュウジたちについてくるようにとジェスチャーで伝えます。リュウジたちも理解したようで、私とシモンに続いてついてきました。
こうして私たちは、特になにもイベントを楽しむことなく会場を後にしたのでした。
「……私にたどり着いてくれると信じてましたよアイリ姫様」
人気のないところまでやってくると、シモンは口を開きました。
「……で、なぜシモンはこの世界にいたのですか…」
「あははっ、実は私はシャインゲートを使っていろいろな異世界を旅してきたのですが、たまたまこの世界にやってきてしまって、戻れなくなってしまったんですよ。ほら、この世界はマナがほとんど存在しないでしょう?」
「なーんだ、師匠でも打つ手なしだったのかぁ…」
レーネが残念そうな声を上げます。
「ただ、私はちゃんと帰る方法がわかってました。そのための準備を今まで進めていたのです」
「帰る方法ですか…」
「ええ、…これです」
シモンが懐から取り出したのは、なにやら拳大の球状の物体でした。物体の表面では赤や青、緑や黄色の模様が混ざり合い、今もうねうねと動いています。気持ち悪いです。
「……これは?」
私が顔を顰めながら尋ねると
「マナの塊です。私は3年間かけて自分の体内マナを少しずつ抽出してこのような形にしました。カスミの使うものと似た原理です。あと少しで完成します」
「はい!シモン殿にはマナの塊の作り方を教わったっす!」
シモンの言葉にカスミが元気いっぱいに返事しました。なるほど、そのようなやり取りがあったのですね。
「あとはこの属性の入り交じったマナの塊を、全て光のマナに変換します。これはレーネに教えたとおりです」
「師匠からやり方は教わったことがあるわ。マナの変換は錬金術の基礎よ」
レーネも頷きながら答えます。
「でも、これだけではシャインゲートは唱えられません。マナの総量が足りないので魔力の増幅が必要ですが…」
「あっ、それは僕もシモン殿に教えてもらったことがあります!体内マナの少ない僕が魔法剣が使えるように、マナの増幅の仕方を教わってました」
クリスがハッとした表情でいいました。みんな、なんだかんだで様々なことをシモンに教わっていたではありませんか!
「そして、シャインゲートの呪文は姫様に伝授しましたね?」
「はい!」
「……ではやってみましょうか、みんな!」
「「「「はぁ!?」」」」
私たち4人は唐突の提案に、素っ頓狂な声を上げました。まさかここに来て私たちでやれと言われるとは……
「なにを驚いているんですか、私の教えたとおりにやればできますよ?」
「し、しかしこのマナは代わりがないのですよ?もし、失敗でもしたら……」
「その時はその時です」
シモンはいたずらっぽいニヤニヤ笑いを浮かべます。弟子を試す時のシモンの表情でした。
「ちょっと待ってくれ、これが成功したら、本当にお姫様たちはもといた世界に帰れるんだよな?」
リュウジがシモンに尋ねました。
「ええ、シャインゲートは異世界転移の魔法ですが、目的地を明確に指定しておけば、ちゃんと元の世界に帰ることができます。現に、レーネたちも迷わずにこの世界へやってこれたでしょう?」
「ま、まあ……お姉ちゃんのマナを探知できたからっていうのもあるけど…」
「ただ、目的地をイメージしなければ、とんでもない場所に飛ばされることもあります。それは姫様の腕の見せどころですね」
「が、がんばります……」
私は拳を握って気合を入れました。
「もう一つだけいい?」
と、アキ。
「はい、どうぞ?」
シモンは完全に教師気取りです。まあもともとそのような性格の人物ではあったのですが……
「なんでアイリちゃんにシャインゲートを教えたの?異世界への転移魔法だってことを隠して…」
そ、そうです!それがこの一連の異世界転移の根本的な問題であって、私たちはそれを問いただす権利があります!
「私にとって、アイリ・エルブランという弟子は一番出来がよかった……でも彼女はあまり城の外の世界を知らない。知ろうとする気持ちは強かったと思うのですが、姫という立場がそれを許さなかった……」
シモンは静かに語り始めました。誰も口を挟むものはおらず、皆シモンの話に耳を傾けています。
「彼女はとても優秀な魔法使いになる可能性を秘めていました。でもそのためにはさまざまな所に旅をして、自分で技を磨かなくてはいけない。私が教えられることも限られているのです」
シモンは遠くを見つめながら話します。まさに遠い故郷の昔、小さかった頃の私に思いを馳せるように。
「なので、シャインゲートを教えたのも、使用方法をぼかしたのも一種の悪戯心なのです。願わくば彼女がどこかの異世界で経験を積んでくれれば良いなと…」
「でもそれは教え子を危険に晒すことになったんだぞ?」
リュウジが少し強い口調で追及します。
「承知の上です。私は弟子を信じていますから、必ず切り抜けてくれると思っていました」
「シモン……」
「今のアイリ姫は前よりも2倍も3倍も成長されています。それは魔法使いとしてだけでなく、エルブラン公国の姫として……ゆくゆくは公国を治める領主として、大切なものをこの旅で学んだはずです」
「はいっ!」
シモンはとても嬉しそうな顔をしていました。彼のこのような表情を見るのは初めてかも知れません。
「さあ!名残惜しいけど、そろそろ帰りましょう!エルブラン城を取り返さないといけませんから!」
クリスが言いました。そうです!私は当初の目的を忘れていました。向こうの世界では皆さんが待っています!
「じゃあやってみましょうか。上手く帰れればこれであなたたちの修行は本当に完了しますよ。集大成です」
とシモン。
「じゃあまずは自分っすね!」
カスミが前に進み出て、シモンからマナの塊を受け取ります。そして目を閉じると、右手を塊に翳して「すぅぅぅぅっ」と深呼吸をします。すると、マナの塊は輝きを増し、一回り大きくなったようでした。
「次は私ね…」
マナの変換は大したことではないのか、余裕の表情のレーネは、そう呟くと、パチンッと指を鳴らしました。すると、マナの塊の色が輝く白色に変わりました。
「……だいぶ上達しましたね」
「当たり前でしょ」
次にクリスが白くなったマナの塊を2、3回撫でると、マナの塊の形が変わり、細長い棒のような形に変化しました。
「球体型で使用するよりも、こうやって円筒型にしてあげた方が、効率よくマナを使用することができるんです。結果出力も上がるので、〝増幅〟と言われています」
とクリスは私に解説してくれました。そうだったのですね。私はそのような事は意識したことがなかったので、初めて知りました。
「最後は私ですか……」
口にすべき呪文はもちろん頭に入っています。あとは唱えるだけですが……その前に……
私はリュウジとアキに近づくと、深々と頭を下げました。
「リュウジさん、アキさん、突然現れた私にこんなに親切にしてもらって……色んなことを教えてもらって……元の世界に帰る手助けをしてもらって……ほんとに、ほんとにありがとうございました……」
「アイリちゃぁぁぁんっ!もう帰っちゃうんだね!?悲しいよぉぉぉ!!あと500年くらいゆっくりしていっていいんだよ?」
アキが潤んだ瞳を手で拭いながら言います。
「私もこの世界のことが好きになってしまったので、あまり帰りたくはないのですが……姫としての役目がありますから……」
アキは私に抱きついて「うわーん!」とひとしきり泣き、私の体をぎゅうぎゅうと締め付けてから(とても痛いです)やっと解放してくれました。
リュウジはというと
「また遊びに来いよな…」
と顔を逸らしながら言いました。多分寂しそうな顔を見られたくないのでしょう。
「今度はしっかりとお礼をさせてもらいますとも!」
「マナの塊を用意しておかないとね」
私の言葉にレーネが付け加えます。
「……あともし良かったら、俺たちも異世界に連れて行ってくれよ」
ええ、それくらいのことはしてあげないと釣り合いがとれませんね…
「ふふっ、考えておきます!」
私はクリスからマナの塊を受け取りました。
「2人ともお元気で!」
「アイリちゃんも!」
アキが元気に答えて右手を大きく振りました。
リュウジやアキとカップメンを食べて、スカイツリーに登って、暴漢に襲われて、助けられて、和食を食べて、学校に行って授業を受けて、タピオカを飲んでお賽銭を投げて、ゲームをしてコスプレをして……そんな日々がとても、とても楽しかったです。
「光よ…我が元に集いて天空の扉を開け……」
マナの塊が一層輝きを増します。
しかし、私はどうにも先程のリュウジの寂しそうな顔が気になりました。彼には特にお世話になっているのに、なにか……なにかしてあげられることは……
リュウジの喜びそうなこと……なにかないでしょうか……
ふと、私はリュウジが『異世界バケーション』の主人公のコスプレをしていることに気づきました。
そう、リュウジやアキがプレイしていたのを見ていましたが、確か異世界バケーションのシーンにこういうのがあったはずです。ヒロインの、私によく似たヒカリという子が、こう……主人公に……
私はリュウジに駆け寄ると、背伸びをして、面食らったような表情をしているリュウジの唇に自分の唇を重ねました。
……その行為にどのような意味があるのかは分かりませんでしたが、リュウジが「はっ!?」と変な声を出して顔を真っ赤にしたので、私も急に恥ずかしくなって、すぐに後ろを向くと
「シャインゲート!!」
光が辺りを包み込み……
唐突に消えました。
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さて、そんな様子を一部始終、物陰から見ている者がいた。
彼女は頭についた狐の耳をぴょこぴょこ動かすと、こんなことを呟いた。
「はぁ……ほんっとお人好しだよね。あのシモンって人、はなっからこの世界に住み着くつもりだったんでしょ?マナの塊なんかほんとは作ってなかったのに、弟子たちを異世界に帰すためにこんな取引しちゃって……いいのかなぁ?」
狐の耳としっぽのついた彼女は、肩に大きなボストンバッグを担いでいた。その中には満杯に札束が入っている。彼女が身動きする度にゴソゴソと音が鳴っていた。
「ウチもついついお金に目がくらんで持っていたマナを全て渡しちゃったけど、ほんとにあれだけのマナで異世界転移ってできるもんなんだねっ」
彼女は片手に持っていたタピオカドリンクをズズッと飲む。
「魔力はすっからかんだけど、おかげで地縛霊の役割から解放されて自由になったし、ウチもJKライフっていうのを楽しむとしよっかなー。その点ではあのシモンって人には感謝かもねー!」
「よーし、今日から真面目に生きるぞーっ!玉藻御前の一尾、タマちゃんとして!」
夕暮れの路地に、そんな元気なJKの声がこだましたのだった。
さて、ここまで飽きもせずに読んでくれた心優しい皆様。
最終話だけ読んでうわーつまんなとか思ってる皆さん。ありがとうございました。
おかげさまで「お姫様は異世界人」は完結を!完結を迎えることができましたぁ!!
ほんと、一時の休載期間を経てよくぞ完結できたなと思っております!
これもひとえに皆様の励ましあっての事!ありがたやありがたやー!
さてさて、ひとまず完結したのですが、この物語はまだ続く可能性があります。
今度はリュウジやアキが異世界へ飛ぶ話の予定です。が、それはまた別の話。
明日からはまた違う物語を書きます。そちらもどうぞよろしく!
ではまた!




