表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お姫様は異世界人  作者: 早見 羽流
ー幕間②ー
23/36

親衛隊長は異世界人②

毎日更新にも慣れてきました。

ペースを掴めればこっちのもんですね。

このまま完結まで突っ走ります。

「……これは確かに美味だ」


クリスはアイリ姫に分けてもらったパンを1口かじると感心したように呟いた。


「貴族の邸宅の料理として出しても遜色ないな」


その言葉に、パン屋の少女はにっこり笑う。

クリスは少女よりも勉強や剣術の腕前は圧倒的に上かもしれないが、残念ながらこのように美味いパンを焼くことはできない。優秀な貴族のクリスでも、少なくともその1点においては目の前の少女に劣っていると感じざるを得なかった。


「先程の非礼を詫びよう」


クリスは大人しく頭を下げた。普段の彼なら庶民に頭を下げるようなことは断じてしないだろうが、アイリ姫との関わりが、あるいは少女のパンの味がそうさせたのかもしれなかった。


「いえいえ、恐縮ですそんな…」


慌てる少女。そして、ハッと思い出したかのように続けた。


「そうです。アドラー様のお屋敷には先日料理長様から直々のオファーがあって、すでに仕入れさせていただいてます!」


「なんと!?」


クリスは驚愕した。大抵の貴族の屋敷では、選りすぐられた専属の料理人達が毎日自分たちでこだわりの食材を調達して腕を振るい、料理を提供している。その料理長がこの少女のパンを選んだということが、自分たちの食べているパンがこのような庶民の作ったものであったということが(考えてみれば貴族にパンが焼けるわけがないので当然だが)驚きであり、新たな発見であった。


「クリス、私たちの生活は庶民たちの生み出すもので支えられています。その代わりに私たちは全力でその庶民を外敵から守る。それが国というものなのです」


アイリ姫が諭すように言った。


「はい……私はそのようなこと気にしたことすらありませんでした…」


クリスは素直に心情を述べた。

するとアイリ姫は優しく微笑んで


「では、また1つ勉強になりましたね?」


「……はい」


クリスは辺りを見渡した。

庶民たちはそれぞれ派手ではないが楽しそうに働いている。

自分が想像していた薄汚くて野蛮で…といった印象からはどうやらかけ離れているようだ。

クリスは初めて自分の勘違いを恥じた。そして、自分がいかにつまらないことにこだわっていたのかがわかった。


そう、目指すべきは出世ではなく、国を支えてくれるこの庶民たちを、そしてそれを気づかせてくれたアイリ姫を守ることなのだと……


クリスが決意を新たにしていると、スーッと冷たい風が吹いて、突然アイリ姫の傍らに長身の男が現れた。男は黒いマントに怪しげな黒い帽子を目深に被っている。


「何者だっ!?」


クリスは一瞬慌てて携えていた剣の柄に手をかけたが、すぐに緊張を解いた。


「……シモン殿か」


「はははっ、いかにも。姫様、探しましたよ。そろそろ帰りましょうか」


エルブラン公に使えるこのシモンという魔術師は、大陸内でも最強といわれる大魔法使いだった。確かに、その威圧感はクリスが100人束になってかかっても勝てなそうな感覚だ。

アイリ姫はその威圧感を感じとってか否か、残念そうな表情で


「わかりました…」


と大人しく従った。


「クリストファー・アドラー殿。姫様のお守りをしていただいたようで、感謝しますよ」


異国からやってきたという噂のあるシモンは、目深に被った帽子からこの国では珍しい黒い瞳を覗かせながら言う。見つめ返すとまるで深淵を覗いているかのようだ。


「いえとんでない!私の方こそ勉強になりました」


「はははっ、それはなによりですな!では、私どもはこれにて…」


するとシモンはアイリ姫と共にスゥッと消えるように立ち去ってしまった。

魔法で城へ瞬間移動したのだろう。

呆気に取られた表情のクリスとパン屋の少女は互いに顔を見合わせながら目をひたすらパチパチさせていたのだった。


それからクリスは時々学校をサボって庶民の町へ出かけるようになった。

周囲の貴族にはそのようなクリスの悪評はたちまち広がり、あるものはライバルがいなくなったと喜び、あるものはクリスを馬鹿にするような態度をとるようになったが、本人は全く気にしなかった。

最初はすぐには受け入れてくれなかった庶民も、クリスが根気強く接するうちに、また、たまに城から抜け出してくるアイリ姫の助力もあったりして、すぐに庶民と分け隔てなく接することができるようになった。


そしてこれは全く予期していなかったことなのだが、庶民たちやアイリ姫からクリスの噂を聞きつけた執政官のカールがに目をつけられ、次期騎士団長に推薦されたことだった。


しかしクリスはそれを断り、親衛隊に志願した。

アイリ姫を身近で守りたかった。身を守るために鍛えた剣を姫のために振るいたかったのだ。


やがて、クリス少年は青年となり、アイリ姫は名実ともにエルブラン公国の跡取りとしてふさわしい姫君になった。魔術師のシモンはどこかへいなくなってしまったが、シモンの元で直々に手ほどきを受けていた、アイリ姫の妹のレーネ姫が魔術面での要になっていた。


クリスはさらに剣を磨き、いつしかエルブラン公国の双璧と呼ばれるまでの腕前になっていた。


そんな中、事件は起こった。

クリスはエルブラン公国の敵国、マイズナー帝国と睨み合いをするブライトナー王国の援軍として、兵をまとめて出陣するように元首に命じられたのだ。


すでに公国は辺境に住みついた邪竜討伐に兵力を割いており、騎士団長のラザファムや軍事顧問のアロイジウスは元首の元を離れられないので、親衛隊副隊長のクリスに声がかかったのだ。若輩ながら大役を任されたクリスは、勇んで出陣した。


しかし、ブライトナー王国の援軍として到着してから何日経っても両軍は動こうとしない。

そのうち敵のマイズナー帝国軍がそそくさと引き返していったが、ブライトナー王国軍はなおも動かなかった。


不審に思ったクリスの元にやっと届いた知らせは、エルブラン城陥落の知らせと、アイリ姫が行方不明という2つの最悪の知らせだった。







もうお気づきの方いるかもしれませんが、クリスくんは異世界に帰るための鍵のうちのひとつです。

お姫様大好きなクリスくんが今後どのように本編に絡んでくるのか、乞うご期待ということで

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ