親衛隊長とエルフの少女
クリスくん転移編です。さーて、いよいよクライマックスかなぁ……
クリスはブライトナー王国の本拠に帰還する(エルブラン城か陥落していたので、一時的に同盟国であるブライトナー王国に逃げ込んでいた)と、とある人物を探して城中を駆け回った。
エルブラン公国から落ち延びた兵たちは、人数も多いので多くのものが城外で野営を余儀なくされていたが、主だった身分のもの達には、城内に個室をあてがわれてひとまずはそこにいるはずだった。
クリスはそれらの部屋のうちの1つの扉をドンドンッ!と叩くと、返事も待たずに中に入った。
「レーネ!」
「なによクリス!レディの部屋に入る時の礼儀を弁えていないわね!」
クリスを迎えたのは、クリスよりもさらに2、3歳年下と思われる金髪の少女。アイリ姫の妹のレーネ姫だった。クリスはアイリ姫と比べてツンケンしていて、やかましくて、子どもっぽくて、ガサツな彼女がどうも苦手だった。しかも相手は姫とはいえアイリ姫とは腹違い、妾の子なのである。したがってクリスも彼女にあまり敬意は払わないし、年下なので呼び捨てで呼ぶ。しかし今は彼女の他に頼るあてはなかった。
「なにがレディだ。聞いて呆れる。それよりも頼みがあるんだが」
「それが人にものを頼む態度かしら……はぁ、まあいいけど」
レーネは解いていた髪をツインテールに結び直すと、部屋に用意されていた2つの椅子の内の1つに腰をかけて、クリスに椅子を勧めた。
「アイリ姫の居場所は分かるか?」
クリスは椅子に腰かけると単刀直入に切り出した。
「うーん、なんとなくかな……でもちょっと問題があって…」
強力な錬金術師であり、アイリ姫の妹であるレーネは、マナの行方を辿ってアイリ姫の場所がだいたいわかるのであった。
「なんだその問題って…」
「それが……お姉ちゃんがいるのはこの世界ではない別の世界っぽいのよ…」
「……ほぁっ!?」
クリスは気の抜けた奇声を上げた。
別の世界に行ってしまうなんて現象はそうそう耳にするものでは無い。
「さっきもお姉ちゃんのテンペストボルトの反応があったから探ってみたんだけど、なんだか繋がりも希薄ではっきりしないのよね……探しに行きたいのはやまやまだけど、私異世界に転移する魔法なんか知らないし……」
どうやらアイリ姫を探したいのはレーネも同じのようで、悔しそうに続けた。
「レーネの師匠はあのシモン殿なんだろ?彼からなにか教わってないのかよ…」
「ないわよ。転移系ってことなら光属性なんだろうけど、私光と闇は専門外だし…」
「はーっ、天才錬金術師サマもつっかえねーな!」
クリスが煽る。自尊心の高いレーネはこうやって煽るとだいたい乗ってきて「やってやろうじゃない!」とやる気を見せることがあるが、今回ばかりは本当に不可能なことらしく、俯いたまま言い返す素振りを見せない。
「……」
「……」
しばしの沈黙が続いた。アイリ姫は異世界に行ってしまい、追いかける方法もないのであればもう諦めるしかないのか……クリスがそう思いかけたとき、背後でガタッ!という物音がして、ある人影が部屋に入ってきた。
「そういうことなら、自分に心当たりがあるっすよ」
そう言ったのは、身動きしやすい独特の衣装に身を包んだ〝シノビ〟と呼ばれる一族だった。
「シノビが何の用だ?こっちは真面目な話をしてるんだぞ?」
「実は……」
シノビは顔を覆っていた黒い布を外す。端正な少女の顔が現れた。このシノビの少女はクリスよりも2、3歳年上だろうか。
訝しげなクリスとレーネに、シノビの少女はエルブラン城で起こった出来事を逐一話して聞かせた。
そして、自分がマイズナー帝国軍の足止めに失敗したせいでアイリ姫が1人城に残ることになり、転移魔法で逃げようとしたらしいということまで話したところで、クリスとレーネは口々にシノビの少女を罵った。
「なにやってるんだよ……お前のせいで姫様は…」
「できないことを引き受けるんじゃないわよ」
少女は一言、ごめんなさいと謝った。
でも、と少女は続ける。
「だからこそなんとしてもアイリ姫を取り戻したいんす!そのために力を貸したいです!」
少女の思いが伝わったのか、そういうことならまあ…と顔を見合わせるクリスとレーネ。
「で、考えって何?」
「知ってるっすか?このブライトナー王国には、かの大魔術師、シモン殿と張り合えるくらいの優秀な魔法使いがいるんす!しかも城の中に!」
「「なんだって!?」」
少女の言葉に驚く2人
その数刻後、忍び足で城の地下へと向かう3人の姿があった。
先頭を行くのは、カスミと名乗ったシノビの少女で、どこからか手に入れたという古びた地図を見ながら後ろの2人を案内してドンドン地下へと進んでいく。
ブライトナー王国の居城はその大きさに見合うだけの地下空間が存在しているようで、降りても降りても同じようなレイアウトの空間が出現した。
クリスが何階降りたか考えるのを放棄したくらいのところで、やっと城の地下の奥底までたどり着いたようだ。しかし不思議なことにここに来るまでほとんど城の兵士に遭遇していない。もし遭遇してしまえば同盟国の客人とはいえ機密を脅かすものとして捕らえられてしまうだろう。クリスはその疑問をカスミにぶつけると、
「足音が聞こえるんで迂回して避けてるんすよ」
とカスミはさも当然のように言った。確かに何回か無意味な遠回りがあった気もするが、それはそんな理由があったのか……さすが隠密行動を得意とするシノビ、といったところだろうか。
一行はとある石造りの扉の前にたどり着いた。辺りは地下深くだからかとても暗い。ところどころに魔法でつけられたと思われる松明が燃えていたが、それも奥底に潜るにつれて少なくなってきていた。
「魔法使いはここでずっと封印されているそうっす。どうやら少し前にやんちゃやらかしたらしくて…」
「なにそれ…」
「ていうか封印を勝手に解除しちゃっていいのか?」
口々に言うクリスとレーネだったが、他にアイリ姫を助ける道がないのは分かっていた。
まあ、バレたら後で謝ればいいだろう。と軽く考えて、3人は覚悟を決める。
「じゃあいくよ!おいで!魔法霊装☆暴食のグラットン改二!」
レーネがなにやら中二くさいことを叫ぶと、金色のゴテゴテした装飾のついた衣装を身にまとった。魔法霊装だ。身体との同調を高めるために一旦衣服を全て燃やしてから身にまとうのだが、その性能は凄まじく、周囲のマナを自動で取り込み、強度を増す。並の魔法や、物理攻撃ではビクともしない鉄壁の鎧……だとレーネは得意げに語っていたことがあった。
レーネは扉にかけられていた魔法結界をいとも簡単に破壊していき、クリスは帯刀していた魔法剣で物理結界を破壊していく。
扉には魔法と物理の結界がこれでもかというくらいかけられていて、並の魔法使いや剣士だけではとても突破できそうになかった。
しかし2人は公国屈指の魔法使いと剣士であり、結界はものの数分で跡形もなく消え去った。
カスミがゆっくりと石の扉を押して中に入る。
少し様子を伺うと、中からクリスとレーネを手招きした。
部屋の中は真っ暗だったが、レーネが光の呪文で照らすと、四畳半くらいの何も無い空間の真ん中に、1人の白髪の少女が横たわっていた。一際目をひいたのが尖った少女の耳だ。どうやらエルフのようだ。
この大陸にエルフは少し珍しい。ましてや警戒心の強い彼らが人前に姿を現すなんてほとんどない。
息を飲む3人。すると、物音に気づいたらしいエルフの少女がゆっくりと体を起こし、寝起きの子供のような仕草でゴシゴシと両目を擦った。
「……何の用さー?人がせっかくいい気分で寝てたのにー……あれ、見覚えのない人たち、もしかして?もしかしてブライトナー王国は滅びた?落城しちゃった?やったざまぁ!!」
唐突にマシンガンのように喋り始めた少女に、3人はポカンとした表情で硬直するしかなかった。
「あれー違うの?じゃあなに?私の力が必要?必要になっちゃった?やっと私を大切にする気になった?」
「……まあそんな感じだ」
とクリスがやっとの思いで口を開く。
「転移魔法は使えるっすか?」
とカスミ
「あー、転移魔法?50個くらいは使えるけどどこまで行くの?私あんまりだるいの嫌だなー、あ、あと霊樹の樹液が飲みたい」
「異世界に転移できるやつよ」
エルフの少女の後半のセリフを無視してレーネが答えた。
「異世界に行けるのはシャインゲートしかないかなー?でもだるいからパスかなー?かなー?」
「なんでよ、つべこべ言わずにやりなさいよ!」
レーネがエルフの少女の肩を掴んで揺さぶる。
すると少女は面倒くさそうな表情で
「だるー、まじだるー、だるいよお前……わかったいいよ。ただし私の封印を解いてくれたら……うそまじ!?封印もう解けてんじゃん!話はやっ!すごっ!やったね!」
「勝手に自己完結するなよ…」
呆れた表情で呟いたクリスに、少女は言った。
「助けてくれたお礼にその願い叶えてあげるよ。ただし、送るのは1人ずつ、1回送ったらマナ補給のために数時間休憩、それを3回やる。終わったら私はここから逃げる。おーけー?」
「いいわ!」
とレーネがすかさず答えた。
「送る場所は……私の中のお姉ちゃんのマナをたどれる?」
「やってみるけどちょっとは誤差出るよ?だいたい数メートルから数キロくらいはズレちゃうかな?どう?それでもやる?」
「……姫様と同じ世界で同じ時間に行けるというなら多少の誤差は仕方ないだろう」
「あとこれは片道切符!帰りは保証しかねます!」
「帰りは……何とかするしかないっすね。確かアイリ姫はシャインゲートを使って転移したんだから、帰りもそれで送ってもらえば……」
「で、誰から行く?」
少女の問にレーネが頷いた。
「私が行くわ」
「りょーかい!」
こうして3人組によるアイリ姫救出の旅が始まるのだった。
クリスが目を開けると、そこは暗い部屋だった。あの後、レーネに続いて数時間後にクリスも少女にシャインゲートをかけてもらったのだが、凄まじい光に包まれたかと思うと、気を失ってしまっていたようだ。しかし身体はしっかりと地面に立っていた。
クリスは目をパチパチさせて目に残った光の残滓を振り落とすと、あたりの状況を確認する。
暗い部屋だと思っていたが、部屋の窓からはうっすらと光が差し込んでいる。周りには見たこともない装飾品が至る所に置いてあり……目の前の寝台のうえでポカンとした表情でこちらをうかがっていたのは……
「や、やったぁぁぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
その人物とクリスは同時に叫び声を上げたのだった。
ここまで読んでいただいた方、ほんとにありがとうございます!
毎日更新初めてから読んでくれる人が多くてとても嬉しいです!
今日はキリのいいところまで進めた関係上、少し長くなって、更新時間も遅くなってしまいました。許してください。
明日からはまたお姫様視点のお姫様ワールドに戻ります。




