エルブラン公国の危機
ごめんなさい、前回嘘つきました……
お姫様再登場です。
お話の展開上ここで過去の話を入れておいた方がいいだろうってことで、過去編入れました。
次回も続きます。
※ここに出てくるおじさん達は異世界転移はしませんのでご了承ください。
エルブラン公国には、古くから……というか、初代エルブラン公国元首がエルブラン公国を建国するはるか昔から、この地に住んでいる『シノビ』と呼ばれる一族がいました。
独自の文化を持ち、一子相伝の技によって偵察、諜報、扇動、内応、様々な裏仕事を得意とする『シノビ』は初代エルブラン元首に重宝され、以後代々エルブラン公国に仕えてきました。
エルブラン公国が小国ながら、列強大国がひしめくこの地に君臨してこられたのは『シノビ』の功績によるところが大きいでしょう。
コンコンッ!
とエルブラン公国の本拠、エルブラン城の中心に位置する大会議室のドアを叩く音がしました。
扉を2回叩くのは私達の国ではあまりマナーの良い事ではないので、避けられています。
それでもあえて2回叩くということは、『シノビ』が大切な知らせを持ってやってきたということを意味していました。
「……入れ」
会議室の中央に設置された長机の一番上座に座る、現エルブラン元首、私の父が低い声で促します。
声に応じて、会議室の大きな扉を開けて入ってきたのは、私のよく見知ったシノビでした。カスミというその少女……といっても私よりも数歳歳上のはずでしたが……
とにかく、カスミは片膝をつくとエルブラン元首を真っ直ぐに見据えて言います。
「大殿!大変っす!マイズナー帝国軍がすぐそこまで迫っています!」
「な、なんだって!?」
真っ先に声を上げたのは、元首のすぐ近くに座っていた30代くらいの長髪の男性、名前をアロイジウス・ブライトナーといいます。エルブラン公国と同盟を結ぶブライトナー王国の王族で、とても頭の切れる男性なのですが、13男という王位継承争いからは遠い身分であるため、このように同盟国の軍事顧問という立場に収まっていました。
「……アロイジウス、これはどういうことだ?マイズナー帝国の主力はブライトナー王国軍と国境付近で睨み合っているのではなかったか?」
とエルブラン元首。
「……のはずですが……いかんせん父王は気まぐれですので、すぐに兵を引いてしまったのやも……」
「はっ、同盟国の危機だからってんでせっかくうちの精鋭部隊を貸し与えていたのに、いざこちらがピンチになるとトンズラこくのか?」
そう吐き捨てたのは、筋骨隆々とした鎧姿の壮年の男性、騎士団長のラザファム・ボレルといいます。ラザファムはどうもアロイジウスのことが気に食わないようで、若造と馬鹿にしたり、よく会議中に食ってかかったりします。
「……で、敵の数は?」
一触即発の空気を断ち切るように、元首が落ち着いた口調で尋ねました。
「『漆黒騎士』のシュミット以下ざっと5万ってとこっすね」
「5万……しかも『漆黒騎士』か……」
場の空気がさらに重苦しいものになりました。
「邪竜討伐に行った部隊は山に釘付けにされて動けん。ブライトナー王国の援軍に出した部隊を呼び戻すか?」
と、ラザファム。
「いや、今からでは間に合わない。仮に間に合ったとしても敵がこの数では焼け石に水だろう」
少しずつ冷静さを取り戻しつつあったアロイジウスが言いました。
そう、今のエルブラン公国は、ブライトナー王国の援軍と、突如として領地の端に居座ってしまった邪竜の討伐に主力のほとんどを駆り出してしまい、城にいる戦力だけではとても5万の大軍を相手にすることは出来ない状態でした。
「父王の援軍が期待できるなら、このまま城に立てこもって時間稼ぎをするのが最善なのだが……」
「アホ、父親なんだろ?お前が責任持って説得してこい!」
「いいのか?そうしたら僕はそのままブライトナー王国に逃げのびるだけだが……」
「あぁ!?」
「……姫様はどう思われますかな?」
今にも殴り合いになりかねない二人を遮って発言したのは、私の隣に座っていた恰幅の良い初老の男性。名前をカール・コロといい、祖父の代からエルブラン公国に仕えている忠臣です。今は執政官として内政を取り仕切っています。
カールの問いに、この場の全ての視線が私に注がれるのを感じます。
大会議室とはいえ、元首、アロイジウス、ラザファム、カール、私の他の皆出払っていて空席なのですが…
私はしばらく考えてから口を開きました。
「私は、城を一旦放棄するべきだと考えます」
「「なんだと!?」」
先程まで大声で罵りあっていたアロイジウスとラザファムが声を揃えて叫びます。
「いくら姫のお考えとはいえ、それは承服できかねますぞ!」
「ここはやはり籠城して救援を待つべきでは!?」
私は父のエルブラン元首の方を伺い、説明を続けてよいか目で問いかけます。
すると父は頷き
「……続けろ、我が娘よ」
すると、私に食ってかかっていた二人は黙るしかなく……
「はい、第一の理由として、私は人命を最優先に考えました。……カール卿、籠城戦になった場合の城下町の人的被害とそれによる経済的損失はどの程度と考えますか?」
「うむ、残念ながらエルブラン城下では現在火災対策を始めたばかりで、仮に火をかけられた場合、延焼は免れませんな。当然人的被害も相当数予想される。……仮に籠城戦に勝利したところで、人が減ってしまっては復興もままならない、ということは言うまでもないことです」
「で、では城下町の住民を一時的に城に避難させればよいのです!幸い今城にいる兵士は少なく、空間的余裕はあるかと!」
とアロイジウス。
「兵士も減ってますが、兵糧も遠征隊が持ち出したために減っています」
「それでも1週間はもちましょう!」
「それでは足りません」
「なっ……!?」
「アロイジウス卿、例えば大軍同士が睨み合っている状態で、片方が突然引き返し始めたら……あなたならどう考えますか?追撃します?」
アロイジウスはしばし考えてから
「……いいえ、はったりの可能性もありますが、罠である可能性も考慮して僕は追撃はしませ……あっ」
やっと気づいたようでした。頭の切れるアロイジウスを取り込んでしまえばこちらのものです。
「つまり、父王の援軍はしばらくは期待できない……ならば籠城する意味は薄れる。むしろ少しでも住民と物資をともなって逃げ、再起を狙った方が……」
アロイジウスの言葉に私はうんうんと頷きました。




