お姫様の決断
更新が遅くなりましたが過去編の後編です。
時系列的にはこのシーンの次に、物語冒頭のシーンが続きます。
「で、詳しい段取りは決まっているのか?」
と、エルブラン元首。会議の場でなにかを提案する時は、細部まで詰めてから提案しろというのが、父が昔から私に言い聞かせてきたことでした。
「もちろんです」
私は後ろに控えていた召使いに視線を送って合図をすると、召使いは2人がかりで会議室の机の上に大きな地図を広げました。すかさず地図を覗き込む一同。
私は地図の中央に青く光る魔法石を置き
「ここがエルブラン城です。カスミさん、敵の位置は?」
「ここら辺っす」
続けてカスミが赤く光る魔法石を地図の一点に乗せました。
私は頷くと、筆を取り出して城から敵と反対方向に線を引きます。もちろんこの筆にも魔力が込められているので、引いた線は緑色に輝き始めました。
「父上はできるだけの住民と兵士、兵糧や宝物などをともなってこちらから迂回します」
そのままカーブさせて線を引きつづけて
「途中で邪龍討伐の分隊と合流して、ブライトナー王国との国境を目指し、王国へ逃げます」
途中の山から降りてきた黄色い光る線が、緑の線と合流して、赤く区切られた国境を越え、白く輝く大きな城に到達しました。
「で、姫はどうされるのですか?」
とアロイジウス。
「私は残った兵を指揮して、城や城下町に残っためぼしいものをできるだけ城の宝物庫に詰め込んで魔法で封印します。漆黒騎士にはびた一文差し上げる気はありません」
そうはっきりそういうと、場がおおっ!とどよめきました。
「その後、私も殿を務めながら父上を追いかけますので」
私が得意げに締めくくると、カスミがこちらを伺いながら
「では自分は敵の足止めをしてみるっす。2日は稼げるはずっす」
シノビは不可能なことは提案しません。カスミができると言っているということは、ほんとに2日は足止めをしてくれるのでしょう。
「くれぐれもお気をつけて」
「アイリ様も」
そう言うと、カスミはそそくさと会議室を出ていきました。早速敵の撹乱に向かったのでしょう。小さい頃から側にいて、よく遊んでくれていたカスミは実の姉のように慕っていましたが、私が大きくなるにつれて彼女は「姫の配下の1人」に徹するようになりました。が、いつになっても私のことを名前で呼んでくれる数少ない仲間の1人でもありました。
「うむ、では我々も早速とりかかろう。城にいる間の指示はアイリに任せる。せいぜい兵と民を上手く動かせ」
と元首が行ったところで、全員席を立ちました。
真っ先に私のところに来たのがラザファムで
「姫様の計画には、漆黒騎士を打ち倒すところまでは入ってるんでしょうな?このままやられっぱなしというわけにはいきませんぞ!」
「大丈夫です。敵はこの城を占拠しても兵糧や物資を得られません。無駄に補給線が伸びて疲弊したところを、散らばった味方と共に叩けばよいのです」
「……むっ、そういうことなら……」
そして私は、近くにいたアロイジウスとラザファムを交互に見つめながら
「ラザファム卿とアロイジウス卿は王国に逃げる際、また城を取り返す際のキーマンですから、父上と共に先に逃げてください」
「……仕方ないですね」
「承知した」
次に私の元にやってきたのはカールでした。
「随分と立派になられましたな、姫」
小さな頃から私の成長を見てきたカールは、そういいながら、私の頭をポンポンと叩きます。
「そ、そんなことないです。私はただ、無駄な戦をしたくないだけで……」
「それが、君主としてはなによりも大切な考え方です。くれぐれも大切にされるように」
「はい…」
「…では、私も残って姫のお手伝いをしましょう」
指揮官クラスでは1人で城に残るつもりではありましたが、心のどこかで不安な気持ちがあった私は、カールのその言葉に少し驚きました。
「良いのですか?この街を復興する時はカール卿の力が不可欠ですが…」
「私はこの城を知り尽くしてますから、姫よりも上手く物を隠せるでしょう。お手伝いしますよ」
「あ、ありがとうございます!実は1人ではちょっと不安だったんです」
「ははは、そうだと思ってました」
そしてカールは豪快に笑うのでした。
その後、私とカールは寝る間を惜しんで兵を指揮して兵糧、宝物をまとめ、エルブラン元首が民と兵のほとんどを連れて城を引き上げるのを見送りました。そして残りの兵糧や宝物を隠して魔法で封印を施している最中……
私が城の最上階にある自室でしばしの休息をとっていると、微かな地響きを感じました。
窓から外を眺めると、遥か地平線の方から何かが近づいてくるようでした。風属性の初歩魔法「スコープ」で詳細を確認した私は驚きました。
マイズナー帝国軍がすぐそこまで近づいています!
私は急いで自室から飛び出すと、風属性魔法を使って階段を飛び降り、カールの部屋の扉を半ば蹴破るように開けました。
「なにごとですか姫!?」
自室でくつろいでいたカールはただならぬ様子に慌てた声で尋ねてきます。
「大変です!マイズナー帝国軍がすぐ近くに!」
「なんですと!?確か敵はカスミ殿が足止めをしているはずでは?」
「えぇ、そのはずですが……」
シノビが自分で申し出た任務に失敗することはまずないし、失敗したにしてもなんらかの合図を送ってくるはずなので、よほどのことがあったのでしょうか…
「このままでは先に逃げた父上の部隊が十分な距離を稼げません!追撃されたら民を伴ったままではひとたまりも……」
「姫、お逃げください!ここは私が籠城して時間を稼ぎます!」
「いいえ、私が残ります!」
私はカールの目を真っ直ぐに見据えながら言いました。
「この城には私の師であるシモンの仕掛けた魔法が数多く残っています。それを使えば時間稼ぎはできます。できるだけ敵を引き付けてから私は転移魔法を使って脱出します」
「転移魔法……?そんなものが?」
「ええ、まだ試したことはありませんが、シモンから教わりました」
カールはしばし悩むような仕草をしていましたが
「わかりました。そういうことであればお任せします。ですがくれぐれも無理はしないように。姫を失えばこの国の大損失ですから」
「ええ、わかっています。それと、1つお願いがあるのですが……」
「……何ですかな?」
私は恐怖と罪悪感震える声を必死に抑えながら
「……城下町に火を放っても?」
「……火ですか?」
「ええ、燃え盛る街の中を進むのは一苦労です。だいぶ時間が稼げると思うのですが…」
するとカールは、はははと笑いながら
「いいですとも、どうせ防火対策工事の最中だったんです。住民もほとんど残ってませんし、大事なものは封印しました。好きにしてください」
「ありがとうございますっ…」
こうしてカールと残った兵を送り出した私は、1人城に残ることになりました。正直、不安と恐怖ですぐにでも逃げ出したい状況でしたが、私が逃げると先に逃げた父上以下エルブラン城の人々が危険にさらされます。一国の姫としてそれは許されないことでした。
「……私に何かあったら、邪龍討伐軍にいるレーネか、ブライトナー王国への援軍に行っているクリスに伝えてください。彼らなら何とかしてくれるはずです」
「……わかりました」
さて、次からはいよいよお姫様が自分の世界に帰るために奮闘努力する探索編です。
お楽しみに




