第一話 転生特典、まさかの特売チラシ
新作『女神様!異世界転生の特典が特売のチラシなんですけど!?』、略して『メガチラ!?』です!
異世界転生といえば、剣聖や賢者、最強魔法に無限のアイテムボックス。
でも、もし転生特典がスーパーの特売チラシだったら……?
そんな発想から生まれた、食いしん坊主人公とちょっと残念な女神様が織りなす異世界生活コメディです。
美味しいものを安く買って、お腹いっぱい食べる。
果たして特売チラシは、異世界でどこまで通用するのか!?
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それでは、第一話をどうぞ!
「乙訓 康太さん、あなたは死にました」
真っ白な空間で、目の前の女性が告げた。
「……は?」
「ここは天界。わたくしは豊穣と食文化の女神、ブレディアです。享年二十一歳。お悔やみ申し上げます!」
「いやいや、待ってください。俺、いつ、どうやって死んだんですか?」
女神ブレディアは分厚い書類をめくり、首をかしげた。
「死因は……えっと……不明、ですね」
「不明!?」
「たまにあるんです。気にしないでください!」
「気にするわ!」
二十一歳で死んだと言われて、気にするなで済むわけがない。せめて死因くらい教えてくれ。
「では、こちらの転生特典をお選びください!」
俺の抗議を華麗に無視し、女神様はにこにこしながら大量の紙束を差し出してきた。
「……なんですか、これ?」
「転生特典の候補一覧です!全部で一万種類ほどありますよ!」
「一万!?」
「剣聖、賢者、勇者、魔王級魔法、無限アイテムボックス、全属性魔法、万能鑑定……いろいろありますからね!」
女神様が胸を張る。
異世界転生といえば、やはりチート能力だ。
だが、目の前の紙束はあまりにも分厚かった。
「これ、全部確認するんですか?」
「もちろんです!神界時間で三日くらいですかね?」
「長いわ!」
そもそも俺は、戦いたいわけじゃない。
美味しいものを食べて、好きなときに寝て、たまには旅行でもして。
そんなスローライフが理想なのだ。
魔王討伐だの世界の危機だのそういう面倒事は勇者様にお任せしたい。
俺はのんびり暮らせればそれでいい。
「……あの、面倒なので適当に選んでもいいですか?」
「ええっ!?適当にですか!?」
「はいはい、それでお願いします」
女神様は困り顔になった。
「そうですね。転生特典は神界の転生特典開発管理局で専門の神々が設計・製造しております。厳正な審査も行われておりますので、使い物にならないような特典はない……はずです」
「はず?」
「と、とにかく!どの特典にも何かしらの使い道はあるということです!」
女神様は自信満々に胸を張った。
「どんな能力が与えられるかを選ぶのはあなたです。選択した結果については、自己責任でお願いいたします。後悔しても知りませんからね……?」
「大丈夫ですよ。どうせならあっと驚くような面白い能力がいいですし」
「そ、そうですか……。ちなみに、引き直しはできませんからね?」
「わかってますって。くじ引きみたいなものでしょ?」
「くじ引きとは少々違うのですが……」
女神様は何か言いたげだったが、結局それ以上は説明しなかった。
俺は目を閉じ、紙束をよく混ぜその中から一枚を引き抜いた。
そして女神さまにその紙を手渡し、女神様が恐る恐るのぞき込む。
「…………え?」
「どうかしましたか?」
女神様の顔が固まった。
紙を裏返し、表に返し、目をこすり、もう一度裏返している。
「おい、何を引いたんですか!?」
まさか、選んじゃいけないものでもあったのか?
震える手で差し出された紙にはこう書いてあった。
『特売チラシ』
「…………」
「…………」
「特売チラシ?……スーパーとかの……」
「……はい」
「転生特典が?」
「……はい」
「剣聖とか賢者とかじゃなくて?」
「……特売チラシです」
「なんでだよ!!」
思わず叫んだ。
新聞の折り込みや、スーパーの入口に置いてあるあのチラシだ。
卵が安いとか豚肉が安いとか書いてあるあの紙。
異世界で何の役に立つというのか。
魔物を倒せるわけでもない。
空を飛べるわけでもない。
これでいったい何をしろというんだ。
「これ、変更できませんか?」
「できません!」
即答だった。
「申し訳ございません。一度選んだ特典は絶っっっ対に変更できない規則なんですよぉ!」
「いやいや、なんでそんな妙に厳しいんだよ!!」
「いやぁね、あたしも変えてあげたいんですよ?でもぉ、神界の規則を破ると始末書が面倒でぇ……」
「お前の心配かよ!!」
「大事ですよ?始末書!始末書が三枚たまると上司に呼び出されちゃうんですからぁ!」
女神様は真顔だった。
「……ちなみに始末書って今何枚目ですか?」
「……二枚目です」
「あと一枚じゃねえか!」
「だからね!穏便にいきたいんですよぉ!ね?チラシ、お得ですよ?ほら、安く買えるのって大事じゃないですか!」
「そういう話じゃねえって!」
「えー、だってぇ……あたしだってスイーツは半額になるまで待つ派ですし?」
「聞いてねえわそんな事!!」
なんだろう、この女神。
神々しさなんて微塵も感じられないどころか、スーパーで半額シールを貼られるのを今か今かと待っている人のような気配がする。
「まあまあ、オトクくん。そんなに怒らないでくださいってば」
「オトクくん言うな!せめてコータって呼んでください!」
「えー!! 特売チラシを引いた『お得に買うた』こと乙訓康太のオトクくんには、ぴったりなあだ名じゃないですか~!」
「ぴったりじゃねえ!」
初対面の相手に勝手なあだ名をつけるな!
しかも、よりによってオトクくんって。
すると、女神様はぽんと手を叩いた。
「あっそうだ、お詫び!さすがにチラシだけは申し訳ないのでぇ!」
空中から革袋が現れ、ドサッと俺の手に落ちた。ずっしり重い。
「異世界のお金、百万ペイ入れておきましたぁ!」
「百万!?」
「百万ペイもあれば当面困らないでしょ?」
「……ところで物価って、確認してます?」
「え?」
「異世界の相場です。百万ペイが、あっちでどのくらいの価値か」
「…………」
女神様の目がすっーと横に泳いだ。
「だ、大丈夫です!百万ですよ、百万!数字が大きいので!」
「確認してないんですね?」
「確認してないというか、確認する前に始末書が頭をよぎったというか……あっいえ、きっと大丈夫です!わたくし、女神ですから!」
一瞬だけ取り繕ったものの、最後の一言にはまったく説得力がなかった。
根拠がゼロだ。
この女神、本当に大丈夫なのか?
だが、くれるものはありがたくもらっておく。
俺は袋を抱えて頭を下げた。
「それと、もう一つ!神界通話もつけておきますね!」
「神界通話?」
「あたしとお話しできる能力です!困ったことがあったらいつでも相談してくださいね!」
おお、それは心強い。
魔物に襲われても、住む場所が見つからなくても女神様に聞けるのだ。
特典の説明は雑だが相談相手がいるのはありがたい。
少なくとも、完全に放り出されるわけではなさそうだ。
「いつでも出てくれるんですか?」
「昼間ならいつでも!」
「異世界の昼間ですか?」
「神界の昼間です!」
「合わせてくださいよ!」
「えー、夜は寝てるので。美容と健康のために睡眠は大事ですから!」
「俺が困ってる夜は誰が助けるんだよ!」
「朝までがんばってください!」
「雑!」
「あっ、それと!神界通話のときは通話料代わりにお供え物をしてくださいね!」
「……ハァ?」
「あっ、必須じゃないです! 必須じゃないですよ? お気持ちでいいんです。お気持ちで!」
「お気持ち?」
「そう! お菓子とか、お料理とか、珍しい美味しいものとか!」
「食い物目当てじゃねえか!」
「だってぇ……神界のケーキって一個で神貨三百枚もするんですよ? あたし、甘いものに目がなくてぇ……」
そこまで言ってから、女神様はハッと口を押さえた。
「あっ、今のは秘密で! 女神の威厳に関わるので!」
「もう遅いです」
この女神、威厳を気にするタイミングがおかしい。
威厳なら、とっくにどこかへ行っていた。
ケチ臭くて食い意地が張っているうえに、自堕落。
食い意地の女神。自堕落な女神。
俺は心の中でこいつの二つ名をつけた。
俺は深く息を吐き、気持ちを切り替えることにした。
何はともあれこれから異世界に転生するのだ。
特典には不安しかないが、せっかくの第二の人生。どうせなら楽しんでやろう。
「気を取り直しまして、それではそろそろ転生のお時間です!」
「あっ、待て!まだチラシの説明がない!」
「あっ、そうでしたそうでした!」
女神様は紙束をひっくり返しがさごそと探った。
数秒後。
「説明書は……はい、ありませんね!」
「説明書くらい用意しとけぇぇぇぇ!!」
「でもぉ、あたしも初めて見る転生特典ですしぃ、一万種類もあるんですよ?全部把握してるわけないじゃないですかぁ?」
「なんでそんな堂々としてるんだよ!!」
「使えばわかります!大丈夫、大丈夫!百万ペイありますから!」
「その百万ペイが一番不安なんだって!!」
「通話のお供え物、忘れないでくださいねー!美味しいもの期待してますよー!」
「最後までそれかよぉぉぉぉ!!」
女神様は満面の笑みで手を振った。
まるで、これから始まる俺の第二の人生が何の問題もなく順調に進むと信じているかのように。
いや、絶対何も考えていないだけだ。
足元が光に包まれる。
「ちょっ、待っ――!」
俺の抗議は、最後まで届かなかった。
≪異世界・グランペイア≫
目を開けると、そこは見知らぬ森だった。
青い空。鳥のさえずり。木漏れ日。
いかにも異世界らしい光景だ。
もっとも、異世界に来た実感よりも先ほどの女神への不信感のほうが強かったが。
そして、俺の手には革袋と一枚の紙が握られていた。
「……本当にチラシだ」
紙を広げると、見慣れた赤と黄色の文字が目に飛び込んできた。
【スーパー・マル得今週の大特売!】
━━━━━━━━━━━━━━
国産豚肉100g 128円
鶏もも肉100g 98円
卵10個入り198円
キャベツ1玉158円
玉ねぎ1袋198円
牛乳1L168円
食パン1袋128円
お米5kg2,980円
━━━━━━━━━━━━━━
※お一人様各1点限りの商品がございます。
※価格はすべて税抜きです。
「……いや、マジでチラシじゃねぇか」
日本にいた頃は特売日を狙って買い物するのが好きだった。
節約しながら美味しいものを食べる。
あれはあれで悪くない生活だった。
だが。
「これ、異世界でどうしろと……」
チラシを握りしめても豚肉が降ってくるわけじゃない。
そもそも、この世界にスーパーがあるのかすら分からないのだ。
とりあえず、町を探そう。
食料も必要だし野宿はできれば避けたい。
百万ペイがどれほど使えるのかも現地で確かめるしかない。
俺は革袋を肩にかけ、森の中を歩き始めた。
歩くこと二時間。
ようやく石壁に囲まれた町が見えてきた。
門をくぐると通りは活気にあふれていた。
露店が並び、人々が行き交いいかにも異世界らしい。
これなら食料にも宿にも困らなさそうだ。
……そう思ったのも束の間だった。
「パン一個、二十万ペイ……?」
露店の値札を二度見する。
隣の店では、卵が一個十五万ペイで売られていた。
「卵一個が十五万ペイ!?」
その先の肉屋の看板には、『豚肉100g五十万ペイ』の文字。
俺は思わず革袋を抱え直した。
「い、いやいや。俺には百万ペイがある。大丈夫だ。宿に泊まって、飯を食って、ゆっくり考えよう」
自分に言い聞かせながら、俺は通りで見かけた宿屋に入った。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
恰幅のいい女将が、にこやかに迎えてくれる。
「はい。一泊いくらですか?」
「二十万ペイだよ」
「……二十万?」
「安いほうさ。最近は何でも高くてね。特に食べる物が高いんだよ」
一泊で所持金の五分の一が消える。
五泊すれば、百万ペイがきれいになくなる計算だ。
「食事はつけるかい?」
「……いくらですか」
「朝晩で八十万ペイだよ。パンとスープと干し肉だけさ。肉は貴重品でね」
「八十万!?」
宿代とは別料金。しかも朝晩合わせて八十万ペイ。食事をつけたら、一泊で百万ペイが飛んでいく。
俺の腹がぐうと鳴った。
「…………素泊まりで、お願いします」
「はいよ。二十万ペイね」
泣く泣くお金を差し出す。
残りは八十万ペイ。
「女神ぃぃ……!」
部屋に入るなり、俺は神界通話を試みた。
『はいはーい!豊穣と食文化の女神ブレディア様でーす!あっ、もしかしてあたしの声に恋しくなっちゃった感じですか?わかります。わかりますよー』
「違うわ!!!物価です物価!!!パンが一個二十万ペイですよ!?どんだけ物価高いんですかこの世界!!!」
『えー、でも百万ペイ渡しましたよねー?大丈夫、大丈夫!』
「何が大丈夫なんですか!」
『あっ、お昼休み終わるので切りますね!お供え物、楽しみにしてまーす!』
「お前の仕事だろうが!最後まで聞けぇぇぇ!!!」
ブツッ。
「……切りやがった」
相談窓口が役に立たない。女神様なのに対応時間まで決まっているとは。しかも相談内容は丸投げである。
硬いベッドに寝転がり天井を見上げる。
腹が減った。ものすごく減った。
手元にあるのは、女神にもらった役に立たない紙切れだけ。
俺はなんとなく、あのチラシを広げた。
「国産豚肉100g、128円……卵10個入り、198円……」
読んでいるだけで余計に腹が減ってくる。
「食いたいなあ、卵焼き……」
そのときだった。
ピコン!
部屋に場違いな電子音が響いた。
「……え?」
目の前に半透明のウィンドウが現れる。
『固有スキル《特売チラシ》が発動しました』
「……はい?」
『掲載商品を購入できます』
「…………はい?」
『価格は一円=一ペイで換算されます』
俺は固まった。
「…………」
一円が、一ペイ。
つまり、チラシに書かれた値段が、そのまま異世界での購入価格になるということか?
卵10個入りが、198円。つまり、198ペイ。
町の卵は、一個十五万ペイだった。
「……百九十八ペイ?」
豚肉100gなら、百二十八ペイ。
町では五十万ペイの豚肉が、だ。
この世界の豚肉100gは五十万ペイ。俺のチラシなら百二十八ペイ。
「……マジかよ」
さらにウィンドウが続く。
『冷蔵庫の展開・収納は任意。庫内は冷却のみ、時間は流れます。チラシは毎朝届きます』
「毎朝!?」
明日の朝になれば、別のチラシが届く。
肉も、野菜も、卵も。場合によっては調味料やお菓子だって。
しかも、冷蔵庫まで使えるらしい。
購入した食材を保管できるなら、すぐに食べきる必要もない。
説明書がなかったせいでここまでの機能を知るのに半日近くかかった。
駄女神にはあとで文句を言ってやる。
試しに豚肉を購入してみる。
『豚肉100g。購入しますか?』
「はい」
『購入しました』
表示された金額は百二十八ペイ。異世界に消費税はないらしい。
手持ちの残高が減ったことを確認する間もなく目の前の床が光った。
ドン!
「うおっ!?」
突然、巨大な箱が現れた。
「……冷蔵庫?」
銀色の扉。上が冷蔵室で下が冷凍室。
一人暮らし用の小さなやつじゃない。四人家族が使うようなファミリーサイズの冷蔵庫だった。
どうやら、購入した商品を収納するための設備らしい。
恐る恐る扉を開けるとひんやりした冷気が流れてくる。
棚の真ん中に、きれいに包装された豚肉が一つちょこんと置かれていた。
俺は豚肉を見つめた。
チラシを見た。もう一度豚肉を見た。
「……勝ったな」
何に勝ったのかは分からない。
だが、確信した。
八十万ペイしかなくても、この世界の物価がどれだけ狂っていても、俺にはこのチラシがある。
剣聖でも勇者でもない。魔法だって使えない。
それでも、食材をこの値段で手に入れられるなら少なくとも食べるものには困らないはずだ。
「よし。明日から本気で特売生活を始めよう!」
俺は拳を握りしめた。
美味しいものを安く、お腹いっぱい食べるために。
一方、神界の執務室。
女神様は頬杖をつきながら、のんきに呟いていた。
「異世界のスイーツ、どんな味かなぁ?早くお供えしてくれないかなー」
机の端には、下界の経済統計レポートが積まれている。
そこには表紙に赤字で書かれている冊子があった。
『要確認:グランペイアにおける食料品価格の異常高騰について』
女神様はそれに気づかないまま、ぱたんと上に別の書類を重ねた。
「ま、百万ペイもあれば大丈夫でしょ!」
――この女神、やはり駄女神である。
次回予告
第二話
家が一千万ペイなのに、卵が十五万ペイってどういうことですか?
冒険者登録を済ませ、薬草採取で宿代を稼ぐコータ。
物価の歪みに気づいた彼は三日で家を買う計画を立てる。
「家が千万ペイ!?卵六十七個ぶん!?」
「……買うか?」
――コータの異世界マイホーム計画が、始まろうとしていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
新作『メガチラ!?』、いよいよスタートです!
転生特典はまさかのスーパーの特売チラシ!
しかも担当の女神様は始末書を恐れ半額スイーツを愛する駄女神でした。
家が一千万ペイなのに卵一個が十五万ペイ!?
果たしてコータは異世界で生き抜けるのか!?
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『メガチラ!?』をどうぞよろしくお願いします!
※ブレディア様へのお供え物は任意です。
……たぶん。




