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CUBE TRIGGER  作者: 焼菓子P
ファントム編
2/2

Episode 1 発火

三年前の“事案”以来この街は変わった。

表向きは、何も変わっていないがな、

人は働き、学生は通学し、夜になれば繁華街にネオンが灯る。

いつも通りの街、いつも通りの日常。


ただ一つ違うのは、その“裏側”にあるものだ。

コピー品のC(キューブ)カード。

正規の管理を外れ、裏社会で流通するそれは、時に人間に“過剰な力”を与え、簡単に日常を壊す。

そんな裏側を取り締まるために作られた組織、超常犯罪対策機関、通称《C対》。

俺はその一員として、日々この街の“異常”を処理している。


「ハヤトさん!お疲れ様っす。なんか飲みもん入りますか?」


ベースルームに戻るなり、元気な声が飛んできた。

振り向くと、情報捜査官の前田がこちらに手を振っている、相変わらず無駄に明るい。


「おう、じゃ缶コーラ頼む」


「コーラっすね!了解っす!」


軽快な返事とともに、前田は自販機の方へ走っていく。

……あいつ、仕事中でもテンション変わらないな。

椅子に腰を下ろし、息を吐く。

今日は小規模な案件が一件、違法カードの使用者を一人、無力化して回収。

被害は車のミラーが外れたほどで軽く済んだ、報告書も短く済みそうだ、

あっためたおしぼりを袋から取り出し顔の上に乗せて上を向く。


「……増えてんなー」


思わず、独り言が漏れてしまう。

件数が、明らかに増えているのだ。

三年前の流出事件、

あれ以降、裏市場に流れた技術は完全には止められていない。

むしろ、時間が経つほどに精度が上がっている気さえする。

“コピー品”のはずなのに、だ。


「考えすぎか……」


そう呟いたとき、扉が開いた。

慌てておしぼりを取って使用済みボックスへ丸めて投げる。


前田ではない。

黒いスーツに身を包んだ、体格のいい男、そしていつ見ても顔が濃い。

装備主任の太田だ。

片手には、見慣れたアタッシュケース。


「ハヤト、この前の任務で負傷した装備のメンテナンスが終わった。持ってきたぞ」


無駄のない口調でそう言いながら、ケースを机の上に置く。


「ありがとうございます。助かります」


留め具を外し、中を確認する。

量産型C(キューブ)トリガー【03】。

そして、俺の使用する赤色のカード【R-3】固有能力は《発火(イグニッション)》。

俺のスタンダード装備だ。


「みた感じ大丈夫そうですね、」


「ああ。出力も安定してる。しばらくはそのまま使えるはずだ」


太田は短くそう言って、視線を外した。


「ただし、無茶はするなよ。最近は“質”が変わってきてる」


「質?」


「コピー品の話だ。前みたいな粗悪品ばかりじゃない。

……妙に、出来がいいのが混ざってる」


一瞬、言葉に詰まる。

それはつまり

「アレに近いってことですか」


「断言はしない。ただ、現場の報告を見る限りじゃ……そう考えた方がいいかもな…」


重たい沈黙が落ちる。

三年前の技術が、まだどこかで生きているわけだ、それも、どこかで進化しながら。


「……面倒な話っすね」


気づけば、前田が戻ってきていた、手にはコーラ。


「はい、どうぞっす」


「おう、サンキュ」


受け取って、軽く一口…炭酸の刺激が、やけに強く感じた。


そのときだった


ベース内にに、短い警告音が鳴る。


全員がデスクに付く。


「……来たな」


太田が低く呟く。

壁面のモニターに、発生地点や被害状況などが自動で情報が表示される。

そして――

Cカード反応検出の文字


「現場、中心街の商業区っす!」


前田が素早く情報を読み上げる。


「反応がかなり強い……これ、ちょっとやばくないっすか?」


強い反応、つまり出力が高いということ、

そして高出力のカードは、大抵ロクな使われ方をしない。


「ハヤト」


太田がこちらを見る。

言葉はそれだけで十分だった。


「了解」


アタッシュケースの中身を取りガレージへ走る。

胸の奥が、わずかにざわつく…

理由は分からない。

ただ


「……嫌な予感がするな」


小さく呟く。

それは、いつもの“勘”だった。

外へ出ると、遠くの空にうっすらと煙が見えた。

日常の向こう側で、何かが起きている。


「車の準備できました!巻きでいきましょう!」


「おう」


現場はコンビナートの一角、正門の中からは断続的に衝撃音が響いている。


「……いるな」


柵を乗り越え中へ踏み込む。

次の瞬間、上から何かが落ちてくる。


「ッ――!」


反射的に後ろに飛び退く、

煙の向こうには人型のバケモノがいた。

黒い殻が全身を覆い、腕の一部は異様に膨張している。

キューブファントム。


「ガァァ……ッ!」


咆哮と同時に突っ込んでくる。

 

「速ッ…!」


だが


「……やるしかないな」


ブラスターを構え、カードスロットを開く。

赤のC(キューブ)カード【R-2】を装填。


『《burning》set…』


機械音声が低く響く。

息を整え、視界を絞る。


「――煙着ッ!!」


トリガーを引く。

瞬間、赤いエネルギーが煙のように噴き出し、全身を包み込む。


『Equipment the cube system…《burning》』


光が収束し、装甲が完成する。

CA-3《Cアーマー・スリー》 起動だ。


来いよ」


ファントムが再び跳び上がってこっちに飛びついてくる。

今度は迎え撃つ。

ブラスターを構え、引き金を絞る。

赤いエネルギー弾が連射される。

直撃…だが、


「……硬いな」


殻が弾いた。想定通りだ。

こいつらは“中身”を狙う。

視界の端にサーモグラフィーを起動。

熱源を探る。

キューブファントムの本体は、人間の内部に取り込まれたCカード。

その“核”が無理にエネルギーを供給するため異常な発熱をしている。


(……あった)


下腹部の殻の継ぎ目。

トリガーを長押しする事でエネルギーを貯める、

そして照準を合わせ、トリガーを離す。

赤の閃光は核を目掛けて直進する。


だがその瞬間、

「……ッ!?」

ファントムが腕を振りかざした。

衝撃波のような一撃でエネルギー弾が逸れる。


(なんだ今の動き……)


ただの暴走体とは思えないほどに反応が速すぎる。


「グルァァァ!」


(連撃が来る…!)


ギリギリで攻撃を捌く。


(おかしい……!)


通常のファントムなら、ここまでの精度は出ないはずだ。

なのにこいつは…まるで“戦っている”…!

奴が一瞬の隙を見せる、その刹那に俺は滑り込んだ。


「――そこだッ!」


奴の下腹部に銃口を直接つけての至近距離からの一射。

赤い閃光が核を貫く。


「ガ……ッ……!」

 

ファントムの動きが止まる。

次の瞬間、全身の殻が崩れ、灰のように崩落した。

残ったのは、倒れた人間と焦げた一枚のカード。


「……回収対象だな」


トリガーからカードを抜き、装備を解除してからそれを拾い上げる。

表面は焼けているが、刻印は辛うじて読めた。

 

「……いつみても造りが粗悪だな」


「ハヤトさん!無事っすか!」


遅れて駆け込んできた前田の声。


「ああ、終わった……けどな」


俺はカードを見下ろす。

胸の奥に、妙な引っかかりが残っていた。

ただのコピー品にしては出来が良くなってる……


♢♦︎♢♦︎♢


現場処理は、いつも通り、負傷者の搬送、周囲の封鎖、証拠品の回収。

慣れた手順で、すべてが淡々と片付いていく。

俺は一歩引いた場所から、それを眺めていた。

さっきまで命を削るような戦いをしていたはずなのに、こうして終わってしまえば、ただの“作業”になる。


「……やな感じだったな」


愚痴みたいなのを小さく呟く、理由は分からない。

ただ、胸の奥に引っかかるものが残っている気がする。


「ハヤトさん、今日はこれで上がりっすか?」


前田が書類端末を抱えて近づいてくる。


「ああ、報告だけ出して帰る」


「了解っす。あのカード、解析に回すらしいですよ」


「そうか……ま!切り替えて、うまいもんでも食いに行くか」


「そうっすね、先輩の奢りで!」


「ふざけんなよ!」



この時は単なる事案処理だと思っていた。

しかし実際はこれは序章に過ぎず、この街の裏でとんでもない闇が広がろうとしていたことを。

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