Episode 0 前日章
海は、すべてを暗い青のベールで隠す。
五年前
小笠原諸島近海、深度3000メートル。
人類未踏の深海の底で、それは発見された。
光を吸い込むような海底に沈んでいたとは思えないほど、その遺跡の構造は崩れていなかった。
まるで、誰かが“ここにあるべきもの”として置いたかのように。
遺跡の底の底で彼らは「それ」を発見した。
白と黒の、二つの立方体。
手のひらに収まるほどの大きさ。
しかし内部には、観測機器が飽和するほどのエネルギー反応、
物質か、装置か、それとも――。
誰も答えを持たないまま、遺物は回収された。
政府は発見を完全に秘匿し、設立された特務機関のもとで、キューブの研究は静かに、しかし確実に進められていった。
キューブ発見から3年
キューブの正体は、最後まで解明されなかった。
だが
人は、それを扱う術を手に入れていた。
地下深くの研究区画。
幾重もの隔壁に守られたその空間で、実験は繰り返されていた。
やがて一つの結論が導き出された。
キューブのエネルギーは、媒介を通じて形を持つ
それは光でも炎でもない。
人の身体を覆い、強化する”装甲”
簡単に例えるとするのならば人体に強靭な殻を生成するようなものだ。
試作デバイス《Cキューブシューター00》は、その発現を制御するための装置として完成する。
同時に、エネルギーはカード状へと圧縮・安定化された。
白と黒。
二つのキューブは、明確に異なる挙動を示した。
白のカード【W1】
エネルギー出力は安定しており、すべてが制御可能な範囲に収まった。
使用者の身体能力は飛躍的に向上し、銃弾をももろともしない強靭な装甲。
そして安全装置も正常に機能し、過負荷がかかれば強制的に解除される。
“完成された技術”に最も近い存在だった。
対して、黒――B1。
最初の実験で、計測器の針が振り切れた。
故障などではない、モニターに表示されたのは「計測不能」の文字
出力が上限を突き抜け、数値して計測できなかったのだ。
装甲は熱により赤く発光しながらも、出力が際限なく上昇していく。
やがて強制停止措置が決行され装甲が強制解除されたとき、被験者は全身に大火傷を負いながら意識を失いその場に崩れ落ちた。
報告書は、簡潔に「運用には極めて高いリスクを伴う」とまとめられた。
それでもなお、黒のカードは魅力的だった。
白では届かない領域に、黒は容易く手が届く。
一瞬で、すべてを覆す力。
制御できさえすれば絶対的な優位となる。
だが、その「制御できさえすれば」は、最後まで証明されなかった。
やがて結論は、静かに下される。
【B1】は、廃棄。
研究は中止、データは削除し存在そのものを抹消する、と。
処理当日。
地下施設の一室で、五人の技術者を白い光が照らしていた。
中央の抹消装置に、黒のカードが固定されている。
起動コードが入力されカウントが始まる。
そのとき銃声が響いた。
一発、二発、三発、四発
発砲したのは技術者になりすました黒いカードの適合者。
彼がゆっくりと銃を下ろす。
手にしているのは、改造されたCシューター。
次に彼は抹消装置を銃で壊して内部の黒のカードを取り出した。
「……使い方の問題だろ」
独り言のように呟く。
男はカードを握りしめ、彼は姿を消した。
♦︎♢♦︎♢♦︎
それから、しばらくして。
裏社会に、奇妙な“商品”が出回り始める。
黒のカードの不完全な粗悪なコピー品。
すべての始点は、あの日消えるはずだった一枚のカードにある。
だが一つだけ、確かなことがある。
この世界はすでに、取り返しのつかない領域へと踏み込んでいる。
――物語は、ここから始まる。
この作品を見ていただきありがとうございます!
初の長期連載なので至らぬ点などあるとは思いますが、温かい目で見ていただけると幸いです!




