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30 眉唾物(まゆつばもの)

 翌土曜日は少し雨が降っており、二人は朝食後もファームハウスの中で過ごした。


「莉子ちゃん、先生直伝の射撃が上手になるおまじないかけたろか?」


「うん、どんなおまじないや?」


「私がな射撃を初めてまだ日が浅いころ、今、莉子ちゃんがしてるように、主に前から飛んでくるクレーを撃つ練習しててんけどな、どうしてもその初心者ルールで満点が出んかったんや。あとちょっとで満点になるいう状況には何回もなってんけど、どっかでミスして中々全部いうわけにはいかんかってん。私の中で次の段階に進む前に満射出してからいうのがあったから先へ進めんかったんや。そしたら先生が、奈央はまだ銃や弾薬と一体感ができてないんやないかいうてな、おまじないをかけてくれたんや。そしたらなんと次に射撃場に行った時にいとも簡単に満射が出たんや。それも立て続けに二回もや。それで次の段階のジャパンルールに胸を張って進めてん。そういう霊験あらたかなおまじないや」


「具体的にはどんなんや?」


「それがおまじないをする前にあんまり具体的な話を聞くと効果が半減するらしいねん。それにそれを聞くと莉子ちゃんが躊躇するんやないかと思て、心配やから敢えて具体的な内容には言及して欲しないんや。おんなじことして効果が薄いのとフルスペックで効果があるんとでは、やっぱり後者の方がええやろ?」


「そらまぁ、せやな」


「せやろ。はじめに多少の痛みと不快感があるかもしれんけど、それはまぁ、どんな行にもありがちなことやからちょっとだけ辛抱してくれたら嬉しい」


「ほな、お願いしよかな」


「わかった。ちょっと用意してくるわな」


 三木は水槽に入れられた適当な大きさのビー玉を三つとって納屋に消えいき、十分ほど経って戻ってきた。


「じゃあ、莉子ちゃん、始めよか。まず、腸骨てわかるか、腰骨の前面で一番飛び出してる骨な。それを私の膝の上のクッションに乗せてくれるか」


 蓮水は言われる通りにクッションの上に腰を乗せた。三木は徐々に膝を立てて、適切な位置まで上げ、蓮水にスウェットパンツを下ろすように伝えた。


「ちょっとこの体勢でスウェット脱ぐの難しいで。せやけど、なんでスウェット下さなあかんのや?」


「いや脱げ言うんやったら脱ぐけど、一体、どんなおまじないなんや?」


「私も経験してることや。安心し」


「それは任せるわ」


「ちょっと恥ずかしいな」


 三木は適当な高さまで膝を上げると、左下肢を蓮見の背中に乗せた。


「そんなとこに足乗せたら動けんやないか」


「莉子ちゃんは動かんでええ。逆に動かれるとおまじないがかけにくなる」


「ちょっと何を塗ったんや?」


「これは気にせんでええよ。安全なもんや」


「安全て、なんか危険なことするんやないやろな?」


「せえへんて。私も先生にしてもろたんや。先生が私に危険なことするわけないやろな」


「そらまぁ、そうやろけど、なんか常軌を逸したことされてる気分がしてならんのやけど」


「神事いうのは多かれ少なかれ、そういう部分があるもんや。緊張してたらしにくいからリラックスしといてくれへんか」


「いや、どう考えてもリラックスできる状況やないがな」


「莉子ちゃんが動けへんて約束してくれて、そうせんほうが落ち着けるんやったら左足は乗せんとくけど」


「そうしてくれる。動けへんから」


「わかった。ただ、ええ言うまで動いたらあかんで」


「かんながらたまちはえませおおあした」


「痛ったー。ちょっと、奈央ちゃん。何してんの!」


「ちょっ、ちょっ、ちょっ。足バタバタしたらあかん。抜けてしまうがな。ゆっくり深呼吸して、無理に押し出したりしたら余計に痛いから」


「ええから、はよ抜いて。お尻が破裂する」


「空薬莢やから破裂せぇへんから」


「そう言う意味ちゃう。痛うてお尻が裂けそうや」


「そんな太いもん入れてる訳やないねんから、痛みは徐々に治ってくるから。今抜いたらおまじないの効力がなくなってまうがな。私も最初は先生に対して、こいつ何すんねん、て思たけど、言う通りにしてたら痛みはすぐに引いてきたから。ほら、膝下ろすからそのままじっとしてて」


「 こんなんしても射撃が上手になる訳ないやん。その前に痔になるわ」


「十二番プラケースの直径は二十ミリぐらいや。それぐらいのもん入れたかて痔にならへんよ。莉子ちゃんかて、その3倍ぐらいの太さの固形排泄物出すやろ?」


「直径が六センチのウンコなんかする訳ないやろ」


「まぁ、ウンコの太さはええわ。そろそろ痛みも減ってきたやろな」


「それは減ってきたけど、違和感が半端ない。出かかったウンコが切れへん感じや」


「ウンコ、ウンコて、若い女の子が連発する言葉やないで」


「奈央ちゃんが変なもん押し込むからやがな。だいたい、そこは基本的に一方通行やねんから」


「最初から多少の痛みと違和感があるて言うたやん」


「すごい痛みと違和感がある」


「そら痛みやとか、違和感なんて主観的なもんやから表現の差はあるがな」


「わかったから、どないしたら抜いてくれるんや」


「まず、心を落ち着けて、深呼吸し。ほんで今入ってる射撃道具と一体感を感じるんや」


「どうやってこんなもんと一体感を得るんや?しかも、射撃道具いうたかて、本来なら破棄する空薬莢やないか」


「せやかて、銃自体はいくら分解したいうたかて、大きすぎてそれこそ痔になるどころか大怪我してしまうし、実包使うてもええけど、万が一、奥の方まで入ってしもて、取り出せんようになったら、取り出す医者かて困るやろな。場合によっては警察沙汰にもなりかねんし」


「いや、どちらかというと今入ってる物品の説明より、一体感の得方の方が知りたい」


「それは人それぞれやから、こうすればできるいう確固としたもんはないで」


「後は自分で考えるから、導入部だけでも教えてもらえんか?」


「せやなぁ、まず空薬莢を適切な位置に誘導するから、今、どういう状況か見せてくれへんか」


「どないしたらええんや?」


「ちょっと両手でお尻広げてもらえるか」


「わかった」


「ちょっと浅いな。途中で抜けてしもたら、せっかくの努力が水の泡やからちょっとだけ押し込むで」


「また押し込むんか?痛いんやないか?」


「もう痛ないよ」


「痛なかったやろ?」


「いや、多少は痛かった。我慢できんほどではない」


「うん。まず、目をつぶってその薬莢が装弾やと考えるんや。その装弾を薬室に入れて、クレーに向けて発射するやろ。散弾が銃口を出てカップワッズが離れて、散開しながら飛んでいって、その中心がクレーに真っ直ぐに当たるのを想像してみ。それを何回か繰り返したら必ず一体感が得られるはずや」


「わかった。やってみる」


 蓮水はしばらく沈思黙孝している様子だったが、その後、目を開け


「よし、これで大丈夫や。完全に一体になれた」


「ほんまか、よかったなぁ。これで必ず当たるようになるから心配せんでええ」


「ほんまかいな」


「ほんまや。間違いない」


 三木はさらに小さなビー玉を手に持たせ、呼吸を整えながらイメージトレーニングを行うように促した。道具と自分の動作が一体になる感覚を思い描き、発射から命中までの流れを静かに繰り返し想像するように伝えた。


「現に今、空薬莢を尻に入れたまま普通に話してる。違和感がなくなった証拠や」


「慣れただけの気がするけど」


「まぁ、明日にでも撃ってみたらようわかるて。空薬莢取り出そか?それとももうしばらく入れとくか?」


「できれば早急に取り出してほしい」


こうして有情が考案したというおまじないの行は終わった。





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