半年後の帰還
諸々の事件から二日が経過した。警察からの本拠地制圧の報告とラスティーナの情報収集により、ひとまず犯罪組織の中核達が捕まった事が分かった。犯罪の証拠がある程度残っていた事もあり、そう簡単に釈放する事はない。
これでシャルロットも普通に外に出られるようになった。犯罪組織の構成員がまだいる可能性はあるが、それを気にし続ければ、一生外に出られなくなる。
構成員のほとんどを逮捕出来た時点で、もう大丈夫という判断になるのはそのためだった。
そうして、堂々と街を歩けるようになったシャルロットは、ラスティーナと共にまた次の街に向かう事になった。
それから半年掛けて、シャルロットは様々な街を巡りながら魔族の集落を訪れて話を広めていく。多少揉める事もあるが、キティルリアとラスティーナが直接説得していき何とか協力を得る事は出来ていた。
更に時折起こる街での問題でシャルロットとしてもキティルリアとしても名を売る事が出来た。
シャルロットが教会に所属しない存在である事もどんどんと広める事が出来ている。名前が広まる事自体はそこまで嬉しくはないシャルロットだが、自分が教会の人間ではないという事が広まるのは嬉しいものだった。
しっかりと目的を果たしたシャルロットは、アコニツムの教会に帰ってくる。ラスティーナは、教会の入口で別れて、自分が泊まっているホテルに向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい。シャル、手洗いうがい終えたら、そこに座って」
「えっ……うん」
迎えてくれたリーシェルが怖い笑みを浮かべているところから、シャルロットは嫌な予感を覚えながら手洗いうがいをして、リーシェルの前に座る。
「来週の試験の勉強は順調?」
「うん。移動時間とかホテルにいる時にちゃんと勉強したから、問題ないと思う。科学も問題で出て来たら分かるくらいにはなってるから」
「そう。ちゃんと勉強しているなら良かった。まぁ、それはさておき」
リーシェルはそう言いながら、近くにあった箱から何枚もの紙を取り出してシャルロットの前に並べる。それは、新聞の記事であり、そのどれもがシャルロットもしくはキティルリアに関するものだった。
「この半年で、大分色々とやったようで」
「あははは……まぁ、全部成り行きで」
「やっている事が人助けだったりするから、あまり強く言えないけど、シャルロットとキティルリアの動きが一致する可能性もあるんだから、ちゃんと気を付けなさい。ほら、この記事とか見てみなさい」
「えっと……魔王が野良聖女を保護している? 野良聖女って変な造語だね」
「そこじゃない。キティルリアがシャルロットを気に掛けるようになっているって点が、そのまま怪しいって風に捉えられかねないでしょ? 幸い、キティルリアの活動は三回くらいで、基本的に犯罪組織の確保、壊滅をしているだけだから、偶々知見を広げているシャルロットとかち合ったって感じになっているけれど、もう少し意識しなさい」
「は~い」
ここはシャルロットも少し失念していた事だった。キティルリアの介入は、本当に必要になった時にのみやっていたが、シャルロットの目撃情報と合わせると疑われる可能性は高くなってしまう。
「中央に行ったら、バレバレかな?」
「ある程度関係があるって事になるかな。何か隠れ蓑が欲しいところね」
「隠れ蓑……」
シャルロットは少し考えながら、自分が扱われた記事を見ていく。その中にフリージアでの一件に関するものがある事に気付く。
「これは?」
「ん? これってフリージアの記事ね。そういえば、襲撃されたのよね?」
「うん。聖剣も持ち出されたのは、ここが初めて」
「は?」
聖剣の言葉を聞いたリーシェルは目を丸くする。シャルロットももう一度記事に目を通すが、聖剣が扱われたという記述はなかった。
(教会の圧力か……そもそもその情報自体が最初から出回っていないか……警察は知っているはずだけど、教会から盗まれたって話は、あまり広げたくないだろうし仕方ないか)
組織の本拠地で遭遇した聖剣に関しては、いつどのように持ち出されたのか謎のままだが、短剣に関しては教会から盗まれたものだという事は分かっている。
それを教会が隠蔽しようとしていたという事も、後になって分かった。その圧力が新聞社にも届いたという風に考えるのが一番自然となる。
「聖剣が使われたって……大丈夫なの!?」
「ああ、うん。あんな出来損ないでどうにか出来る魔素はしてないよ。使い手も弱かったしね。やろうと思えば対処のしようはいくらでもある。破壊する方法も分かったしね」
シャルロットはそう言って、手から聖女の力を出す。シャルロットが自分の意思で聖女の力を操っている事に気付き、リーシェルは驚いていた。
「えっ、もう操れるの?」
「滅茶苦茶弱い力だけどね。癒そうと思って使う時と比べると、微々たるものだけど、聖剣の力に干渉して私の魔素で強化した攻撃もしっかりと届くようになるから。ああなったら、ただの鉄の塊だよ」
「そう……シャルが無事だったなら良いんだけど……はぁ……中央に送り出すのが心配になってきた……」
「リーシェルは心配し過ぎだよ。私だって伊達に千年以上も生きてないよ。こっちの常識に割と疎いけど、戦闘に関してはあのくらい余裕で捌けるって」
「常識に疎いのが心配なのよね」
「えぇ~……」
十年以上人間として生きてきてある程度の常識は分かって来ているシャルロットとしては、若干不満げな表情となる。
「まぁ、何はともあれ、キティルリアが人間に対して友好的な存在である事が分かったのは良い事なんじゃない?」
リーシェルはそう言って、何枚かの紙面をシャルロットに渡す。そこに書かれているのは、キティルリアに関してだった。
『人間に友好的な魔王』
『聖女を救う魔王』
『魔族とは本当に敵なのか!?』
そういった内容になっている。魔族との関係について改めて考えるきっかけになっている。これは、キティルリアにとって、かなり良い傾向と言える。
「好感触なら、割と時間を掛けずに解決出来るかも。中央に行っても頑張ろ」
「まぁ、中央での活動が一番大事かもね。そのためにも、まずは試験よ」
「は~い」
来週の試験に向けて、シャルロットは自室で勉強する。リーシェルは、久しぶりにシャルロットが帰って来た事で、少しだけ上機嫌になっていた。




