中央大陸へ
それから半年近くが経過した。大した障害もなく、シャルロットは学園都市セントレアの学校であるコンバラリア学園の中等部に合格した。コンバラリア学園は、中等部三年、高等部三年の計六年の教育をする。
シャルロットは受験での成績が良かったため、初年度の学費が免除になる。ただし、成績が悪くなれば半年で打ち切られる。そのため入学してからもしっかりと勉強する必要はあった。
「ちゃんと服とか入れた?」
「入れたよ。制服も入ってるし。最悪、向こうで商会がなんとかしてくれるでしょ」
「昔からの縁があるからって、甘えすぎないようにしなさいよ? まだ魔族と人間との溝は深いんだから」
「分かってるよ」
中央大陸に行く日であるため、シャルロットは荷物を空間魔法で作った収納の中に入れていた。事前に作っていた制服なども全て収納している。
「はぁ……心配だわ……」
「いやいや、ラスティも行くし、そもそも私魔王だよ。大丈夫だって」
「学校で他の生徒と喧嘩しないか」
「ああ……まぁ、相手による」
「…………」
「痛い痛い!! あっ! 頭がぁ~!!」
シャルロットのお茶目なジョークが、リーシェルの怒りのスイッチに触れた。リーシェルの手は的確にシャルロットが痛みを覚えるこめかみを鷲掴みにしており、シャルロットは呻くしかなかった。
「極力喧嘩しない。喧嘩したらシャルの立場も悪くなるんだから」
「は~い……」
「こっちから仕掛けない。良い?」
「は~い……」
「よし」
解放されたシャルロットは、こめかみを擦る。そこにマザー・ユキムラがやって来る。
「シャルロット。準備は出来たかい?」
「うん。荷物は全部持ったよ」
シャルロットが返事をすると、マザー・ユキムラはシャルロットの頭を優しく撫でる。
「シャルロットの部屋はそのままにしておくからねぇ。いつでも戻ってくると良い」
「……うん。ありがとう」
中央大陸に行き、ダンジョンの調査や魔王としての活動などをしていけば、シャルロットは本格的にキティルリアとして生きていかなければいけなくなる。そうなれば、アコニツムに帰ってくる事が出来るかどうかも分からない。別大陸にいる魔族達を束ねるという仕事もあるからだ。
それをマザー・ユキムラは全て理解した上でその言葉を掛けていた。その意味を理解出来ない程、シャルロットは馬鹿ではない。
例え魔王になったとしても、この教会はいつでもシャルロットの帰る場所である。それをシャルロットに伝えていた。シャルロットも理解しているからこそ、礼を言う。
「危ない事はなるべく控えなさい」
「う~ん……頑張る」
「それじゃあ、いってらっしゃい」
「友達作りも頑張るのよ」
「は~い。いってきます」
シャルロットは、マザー・ユキムラとリーシェルに手を振って教会を出立する。
そして、教会の坂下にいるイリスとユイに遭遇する。今日が出立の日だと知っていたため、見送りに来ていたのだ。
「シャルちゃんが行っちゃうと客足が遠のくわね」
「そんな事ないですよ。イリスさんは名医ですし」
「魔傷の治療は、かなり需要あったのよ。これからは、通常通りの治療になるわね」
「事前に通知してあるから、全然問題はないよ」
「まぁ、普通は聖水ですもんね」
「ちゃんと説明はしておくから、安心して。中央に行っても、うちからシャルちゃんの方に患者は行かないようにするわ」
ここで魔傷の治療を続けていた事もあり、シャルロットが魔傷を根本的に治療出来るという話は広まっている。事前にシャルロットが学業で忙しくなるため、魔傷の根本治療を終了するという通知を出しているが、魔傷の治療に来る患者が途絶えるとは限らない。
そして、シャルロットに治療して貰おうとして、シャルロットの進学先を聞き出そうとしてくる可能性がある。それに対して、イリスはシャルロットの情報を渡さないという意志を固めていた。
「来ても医者に行って下さいで済ませます。それでトラブルになるかもしれませんが、私がぽんぽん治療していたら、医者の立場がなくなってしまいますから」
この辺りはシャルロットも考えている。事故などですぐに治療しなければ死んでしまうという状況に遭遇した時は、積極的に治療するが、勝手に治療を期待してくるような人間は、病院に促す。そうでなければ、病院の客を奪う事に繋がる。下手すれば、対価すら支払わない可能性もある。
こうした前例は作らない越した事はない。
「そうね。そうしてくれると助かるわ。そろそろ時間でしょう? いってらっしゃい。元気でやるのよ」
「シャルちゃんなら大丈夫だと思うけど、学校は勉強だけが全てじゃないからね。色々と頑張って!!」
ユイは全てをはっきりとは言わない。それは言える事ではないからだ。この言葉を受けて、魔王としての活動を頑張ってと言っているとは分からないだろう。友人作りなどの学業とは異なる事に対して言っているとしか思えないからだ。
「はい。いってきます!」
シャルロットは、二人に手を振ると、ラスティーナが待っている地点まで走っていく。ラスティーナは車の前で直立不動の状態で待っていた。
「挨拶は終わりましたか?」
「うん。行こう」
シャルロットはラスティーナが運転する車に乗って、港街サラビアへと向かって行く。二つの街を経由するため、三日程でサラビアに到着する。
サラビアからは船に乗り、中央大陸を目指す。先に届いている学生証を利用する事によって、この船の代金は無料となる。厳密には中央大陸の学園都市セントレアが支払うという形だ。
これは生徒にしか適用されないものであるため、ラスティーナは自費で乗船する。
「船旅は初めてだなぁ」
「お気をつけを。海にも魔物は生息しています。船が襲われる事も少なからずあります」
「まぁ、昔と似たようなものでしょ。上から見た感じそう変わりなかったし」
シャルロットは一度中央大陸を訪れている。厳密に言えば、シャルロットではなくキティルリアだ。全力飛行で一気に中央大陸まで飛び、軽く姿を見せた後、再び姿を消してアコニツムに戻る。三日程教会を留守にしたが、合格が分かった後、成績優秀者の学費免除を安定させるために勉強に打ち込んでいるという設定になっていた。実際、そういった子供は多いので、違和感はない。
こうして先にキティルリアが中央大陸にいるという事を出しておけば、シャルロットを追ってきたという点から、少しだけ引き剥がす事が出来る。
(下準備はした。後は、私の身体の元……ダンジョンに入るにはだ。学校の授業で入る事は叶いそうだけど、最下層まで行けるのか……というか、私の身体は最下層にあるのか? 中央大陸に行った時、私の魔素を感じ取れなかった。私のところにある聖剣が阻害しているとみるべきか……下手に動けば、動きづらくなる。難しいな)
東大陸を離れ、自身の身体が存在する中央大陸へ。表向きはシャルロットとして学生生活を送り、裏では魔族の王として、人間との交渉が出来る自分自身を探しつつ魔族達の説得を行う。
全ては、全ての人間と魔族が平和に暮らせる世を取り戻すため。




