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第7話 魔界四天王の長、冒険者になる。

 冒険者ギルド、その建物内に、俺様はいた。

 古ぼけた木造り、当時は大勢で賑わっていたであろうテーブル、受付用のカウンター、今は使われていない隣接酒場。


 壁には無数の傷跡が残っている。

 昔は乱暴者が多かったのだろう。黒ずんだ痕を見ると、心が和らぐ。


「リグレット、またお願いしていいかしら?」


 そして俺様の上司、ミーヤ・オリヴィア。

 冒険者ギルド設立当初からここで働いており、今もまだ現役である。


「承知した。行ってまいる」

「はあい、終わったら直帰じゃなくて戻ってきてもらっていい? 話があるのよね」


 ブラウンの透き通るような長い髪に、嫌味のない天使のような笑顔。

 オリヴィア曰く、当時は冒険者たちからの求愛行動が凄まじかったらしい。

 今でも可愛いと思うが、人間たちの好みはよくわからないな。


 ミルクの家に居候してから、早いもので一週間が経過した。

 仕事の面接は合格、無事冒険者となり、今俺様はオストラバ王国を支えている一人だ。


 今までは戦うことしか能がなかった。

 魔族の繁栄、魔王様の右腕として世界征服をしようと目論んでいた。


 だが今は違う。いち冒険者として頑張っているのだ。


 ギルドを出ると、少し見慣れた街中を歩き、いつもの屋台に到着する。

 大柄の筋肉質の彼の名前は、ボイド。

 果物屋さんだ。


「こんにちはだ、ボイド」

「よお、リグレックさん! 今日も依頼かい」

「うむ。ボルドーを五つ、それとルイミーヤを二つ、最後に水をこの樽に頼む」

「あいよ! 流石っ、一流冒険者(・・・・・)は違うねえ! おまけつけとくよ!」

「それは助かる」


 メモ書き通りに物品を購入すると、ウィンダーロインまで歩く。

 南大陸の中でも名高いオストラバ王国といえども、貧困の差はまだ埋められておらず、この付近の住民は、まだ生活に苦しんでいる人が多い。


 それに伴って、少々治安が悪いとも言われている。

 平和な世の中、だがそれもまだ完璧ではないということだ。


 俺様は、とある建物で足を止めた。

 ボロボロの外装は、年月を思わせる。

 木製の扉をコンコンと叩くと、少し時間が経った後、おばあさんが現れた。年齢は90前後、まだピチピチだ。


「リグレットさんや、いつもすまんねえ」

「こちらボルドーと、ルイミーヤ、後は水だ。おまけもついてきたので、これも渡しておくが、費用は頂かない」

「ありがとねえ、ごめんねえ、大した費用も払えていないというのに……」

「問題ない。冒険者は、誰かの為に働くことが仕事だ」

「ありがとね、それじゃあまたよろしくねえ」

「ああ、それと今日は夜冷えるらしい。暖かくして眠るが良い」


 バタリと扉が閉まる。

 F級依頼で料金も安いが、お得意様でもある。


 今は大型の依頼はほとんどない。

 それに伴って、冒険者時代のランクも撤廃された。

 昔はC級やらD級、果てはS級まであり、試験などもあったらしいが、今は全て一括りだ。


 戦争が終わって時代が変わって、冒険者たちは次々に剣を置き、杖を納屋に投げ入れた。

 もちろんそれは仕方ないことだった。平和な世の中、依頼がなくなると仕事もない。


 それから人々は、農業や娯楽を提供する仕事に就くことが理想とされはじめた。


 今の冒険者の仕事は華やかではなく、小さな依頼、主に困窮した人たちを助けることを尽力を注いでいる。

 

 帰り道、道角でミルクとバッタリ出会う。


「あ、リグレット、仕事終わり?」

「まだ途中だ。オリヴィアが何やら話があるらしくてな」

「ふうん、そうなんだね。冒険者は……その、どう?」


 何やらチラチラと俺様の顔を伺う。よくわからぬが、何か気にいしているのだろうか。


「楽しいぞ。俺様の天職なのかもしれぬ」


 今や冒険者は不人気職で、昔のように誰もがこぞって羨ましがっていた職業ではない。

 だが俺様は違う。誰かに、ありがとうと言われるのは初めての感覚だった。


 それが、嬉しかった。


「そう……なんだ。ふふ、やっぱり変わってるかも、リグレット」

「当たり前だろう。俺様は魔界四天王の長、そのあたりの奴らと一緒にするんじゃない」

「そうかもしれないわ。私もちょうど仕事終わったし、久しぶりに冒険者ギルドに顔を出そうかな」

「うむ、オリヴィアも喜ぶと思うぞ」


 ギルドに辿り着くと、入口付近にエリアスが立っていた。

 その美貌は、俺様がみてもハッとするほど美しい。

 

 通りすがりの人間ども見惚れているようだ。


「ねえ、あの子めっちゃ可愛くない?」

「エリアスだろ? 可愛いよなあ」

「でも……魔族だろ?」


 男たちは、気まずい顔で速足で去っていった。


「エリアス、何をしている」

「ん……あれ? 何で二人一緒なの?」

「たまたまそこで会ったのだ。それより、俺様かギルドに用か?」

「早くに仕事終わったから、昔話に花でも咲かせながら飲みにいきたいなー、なんて思って」

「あらエリ、私は誘ってくれない予定だったの?」

「え、ええ?! も、もちろん誘う予定だったよ? て、手間が省けたなー、なんて!」

「ふふふ、ごめんね意地悪しちゃって。二人でしか話せないこととかあるわよね」

「あ、いや……、でも三人一緒に昔話もそれはそれで楽しそうだしね! 行こ行こ!」


 慌てふためいたり、思いつめたり、最後は元気にミルクの腕を掴むエリアス。

 ふむ、いつもと少し様子が違うようだが――。


「すまぬが、まだ終わっておらんのだ。オリヴィアから話があると言われておってな。二人で先にいっててくれ」

「だったらオリヴィアさんも誘う? 私も顔見知りだよ」

「ならばみんなで中に入るとするか」


 扉を開いて中に入る。

 オリヴィアは座して待っていた。


「任務完了だ。オリヴィア殿」

「ご苦労様、あれ……エリちゃんにミルちゃん、久しぶりじゃない」

「はい、お久しぶりです」

「あんまり顔出してなくてごめんね、オリヴィアさん」


 聞けば二人とも、平和な世になってから何度か冒険者に訪れていたとのことだ。

 任務する側ではなく、依頼側で。

 詳しくは守秘義務ということで教えてくれなかったが、オリヴィア殿は大勢から慕われている。


「はい、お茶をどうぞ。リグレットは、冷たいのにしといたわ」

「うむ、すまぬな」

「あらリグ、まだ悪魔舌なの? 私はもうあったかいの飲めるわよ」

「80年もの間封印されていたのだ。まだ慣れるのには時間がかかる」

「ふふふ、その事実を知った時、もっと炎魔法を学んでおけばよかったと思ったわ」


 それから四人でテーブルを囲って、昔話をたくさんした。

 あの時の戦争、国、実はこんな裏話があった、こういう作戦だった、ギルド内ではこんなことが起きていた、など。


 今でしか言えないことばかりで、楽しくて楽しくて、思わず大口を開けて笑ってしまった。


「ふふふははは、愉快だ。しかしオリヴィア殿、お主がまだ冒険者ギルドを続けてくれて嬉しいぞ。でなければ俺様は路頭に迷っていたかもしれぬ」

「あら、今も路頭に迷ってるから私の家にいるんじゃないの?」

「そ、それは言わぬ約束だろう!」

「ミルは意地悪ねえ、ふふふ」


 楽しい時間――だがよく見ると、オリヴィアはいつもより少し悲し気だ。

 様子が違う。思えば、今朝も変だったのだ。溜息ばかりついていた。


「そういえばオリヴィア殿、話とはなんだ?」

「……ごめんね、リグレット。今朝、言い出せなかったのよ。あまりに突然だったから」

「む? どうしたのだ?」


 その後、オリヴィアは衝撃的な事を言い放った。


「冒険者ギルドは……解体されることになったの」


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