疑問にて
如何でしたか?
物語の序章に相応しい、実に王道的で滑稽な出逢いでしょう?
もしや、皆様の中にも、其のような出逢いを経験した方がいらっしゃるのでは?
さて。
其の真偽はさておき、彼の思い出噺は、先へ、先へ、と続いて参ります。
しかし、此処までの噺の中で、皆様の中に或る疑問を持たれた方がいらっしゃるかもしれません。
何を不思議に思うことがあったのか、で御座いますか?
全く、冗談がお上手でいらっしゃる。
しかし、疑問の印を浮かべている方もいらっしゃるご様子ですので、念の為ご説明致しましょうか。
此の老人は彼の性格などは、詳細に説明してくださいました。其れは皆様、ご存じの通り、ご覧の通りで御座います。
しかし、皆様は肝心の彼の名前を分っている方はおりません。
ええ。人を説明をする時に、一等重要な情報である名前を此の老人は告げていないので御座います。
何故、青年は尋ねないのでしょう。
名前など些細なことだ、とでも思っているのでしょうか?
何故、老人は彼の名前を言わなかったのでしょう。
言う必要性がない、とでも思っているのでしょうか?
其れとも、言えない理由でもあったのでしょうか。
さて、真実はどうであれ、噺は先へ参ります。
なにせ、其の事実を分る者は、誰もいないのですから。ええ、誰にも分りません。
ならば、語るは無駄というもので御座います。
何故なら、映画の中の出来事など、映画の外にいる者には、知らぬことなので御座いますから、致し方ありません。
まず、舞台の中と外は決して交わらぬ、鉄則というものがあることを、皆様もご存じのはず。
此の規則の前には、我々はどのような事をしたとしても、意味を成さないので御座います。
おや、其のようなことをしている内に、彼らの物語は、次に進むような気配が致します。
遅れてしまってはいけません。
皆様、ご着席願います。
其れでは、彼らの物語を引き続き、見てみることに致しましょう。
ご準備は宜しいですね?
嗚呼、言い忘れておりました。
此の舞台は稀に、舞台、其の物が狂う場合が御座います。
では、改めて
心行くまで、ご堪能あれ
ー章
あゝ、つまらない。
面白みのない、本の山。
面白みのない、じいやとの会話。
あゝ、分らない。
何故、家の中は、安全なのか。
何故、外へ行くのは、駄目なのか。
あゝ、だが、一度だけ外に出たことがあつたのだ。
じいやと一緒に、
彼と一緒に。
あゝ、輝いてゐた。
爺やは、彼を心配してゐて、その姿は、月のやうだつた。
彼は、色々な事を知つてゐて、その姿は、星のやうだつた。
あゝ、花弁が、散つてゐる。
ずつと前から、解つてゐた。
ずつと前から、言われてゐた。
けれど、人と話すのは新鮮で、大事なことを、忘れてゐた。
じいや以外と話しては、駄目なのだ。
じいや以外と会つては、駄目なのだ。
そんな事、絶対にあつたら駄目なのに、
あゝ、彼と出会つてしまつた。
どうか、君よ、忘れておくれ。
どうか、君よ、幸せになつておくれ。
それが、君の不幸でも、願わずにはいられない。
ー章? ー完ー




