表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想い出  作者: 彼岸  章華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/43

不憶にて

 水面に石を投げると、波紋が広がる。

 雄一郎さんに知識を与えると、質問をされる。


 その事を、私は忘れてしまっていたのである。




 これは私が記憶の波に逆らい、思考の海を漂っていた時の事だ。


 なにせ雄一郎さんに、

「おや。であれば、お祭りに行かれた経験は?」

 と言われたからである。


 そして、ああ。

 私はこの時、雄一郎さんのある(クセ)を思い出したのだ。


 ……ちなみに。

 その癖とは、一つの事実を知る度に一つの疑問を生み出すというものである。


 そう。

 雄一郎さんは()()()()()だったのだ。


 それにしても、祭りに行った経験、か。

 それなら……。


「あるよ。あれは確か、小学生の時だった」


 すると、私の言葉を聞いた瞬間だった。


 雄一郎さんが間髪入れず

「おや、そうですか。では、貴方が独特だと思った地域特有のお祭りは、何かありますか?」

 と、このような言葉を羅列したのである。


 だから私は、雄一郎さんの質問に答えるために、津波のような強烈な記憶や川のせせらぎのような穏やかな記憶に身を委ねたのだ。


 まあ。その結果は、

「……行った事、ないと思う」

 という、何とも残念なものだったのだが……。


 ……それにしても、雄一郎さんは相も変わらず良い性格をしている。


 ……なにせ。

「え、正気ですか?」

 雄一郎さんは、親切丁寧に記憶を探った私に対して、変人を見るような視線を向けてきたのである。


 これは非道い(愉快だ)

 だが、なぜ私変態を見た時のような目で私を視る?


 別に、独特な祭りに行った事がなくても可笑しくない筈だろう?


「え。私、今変な事言った?」


 ……いや、まさか。

 この世には、幼少の頃に独特な祭り行かなければいけないという法律でもあったのか?


「変、ではありませんが……」


 違った。

 そんな法律はなかった。良かった。


 では、なぜ雄一郎さんは、そんな顔をしているのだ?


 まるで、調理の後で塩と書かれた調味料の中身が砂糖だった事を理解した時のような顔ではないか。


 それに、その目は何だ?


 まるで、有名なだけで内容が一切面白くなかった映画を観た時のような目をしているではないか。


 ……気まずい。

 なにせ人は、他者から無言で見つめられると、何も悪い事をしていなくても精神を疲弊させる生き性質(モノ)なのである。


 まあ、つまり。

 沈黙や黙認は、金になると同時に毒にもなるという事だ。


 だが。

 そんな表情をされても、私の頭には独特なお祭りに行った記憶なんて存在しないのである。


 だから潔く、さっさと、諦めてくれ。


 ……ん?

 いや、ちょっと待て。

 あの祭り、結構独特なのではないか?


「あ、一つだけ。あった、かも……」


 まあ。

 記憶が正しければ、という枕詞は必要だが、それは良い……。


 とりあえず、これ以上落ち込まないでほしい。

 そう思ったのだ。


 すると、雄一郎さんは

「おや。それでは祭りの屋台の数から、風習、供え物まで、一体どのような祭だったのか、教えていただけますか?」

 と、まるで未知との会合を果たした学者のように、こう言ったのである。


「え。そんなに私の行った祭りの事、知りたいの?」


 だから私は驚いて、このような事を聞いてしまったのだ。


 なにせ、ここまで早口な雄一郎さんは、友人の事を話す時以外では見かけた事がなかったのである。


 そもそも雄一郎さん、お祭り、好きだったのか?


 ……いや。

 それ以上に、気になる事がある。


「それにしても、さっきまでとは随分様子が違うね。まるで乗る船を間違えた船乗りみたいな気分だよ」


 そう。

 これだ。


 なにせ今の雄一郎さんの表情は、宝を目の前にした海賊のような、獲物を前にした狩人のような顔付きなのである。


 解りやすく言うなら、漁船だと思って乗り込んだ舟が海賊船だった時のような感覚だ。


 だから私は、この態度の差を追求しようとしたのである。


 だが、残念ながら……。


 この疑問は

「おやおや。乗っている船は同じですよ。ただ貴方は、風を読み間違えてしまっただけです」

 という、雄一郎さんの返答により、終わりを告げる事になった。


 ……だが、その言葉を聞く限り。


 私が勝手に雄一郎さんに傷ついて、意味もなく罪悪感を抱いたという事になるのではないか?


 それは、私の人間性にも問題があるのでは……?


 だが。

 そんな考えとは裏腹に、私の口から出たのは

「いや。味方にする云々の前に、貴方の狐に化ける技術が上手い方が悪いよ」

 という生意気な言葉だった。


 どうやら、思考よりも発語の方が早かったらしい。


 素晴らしい反射神経である。


「おやおや。随分、嬉しい事を言ってくれるではないですか」


 ……は?

 褒めてないが?


「いや。私は事実を言っただけだよ。でも、これも出世術という名の、年の功ってやつなのかい?」


 だが、ここで色々と反論をしても意味がない。


 なにせ、話がずれる。


 それに、雄一郎さんが少し苛つきながら

「さて、どうでしょう。ああ。それよりも貴方の経験した祭りを、はやく僕に聞かせてくれませんか?」

 と言ったのだ。


 ……あれ?

 今日の雄一郎さん、短気?


 それにしても、そのような事を突然言われても困る。


 その理由は……。


「でも、これ私の母方の実家の方で開かれてた祭りだから、名前も、お供え物も、詳しい情報は解らないよ?」


 もちろん、私の記憶が怪しいからである。


 これが、私が親切に

「それでも、本当に良いのかい?」

 と、雄一郎さんに確認しようとした理由だ。


 ……だが、この言葉が私の口から漏れる日は、少なくとも今日ではなかった。


 理由?

 それは……。

お読みくださり、ありがとうございます


それでは、続編をお待ちください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ