決意にて
選択権のない人生を歩んだ人間は、成長する過程で選択という権利を、責任という石を、極度に恐れるようになる。
私が、子供の頃に知りたかった事だ。
ああ。
これは私が、ようやく雄一郎さんの思い出話が聞ける、と安堵して
「それで貴方の秋は、どんな思い出だったんだい?」
と、事の子細を追求した時の事である。
私は、 驚いた。
ああ。
とても、驚いたとも。
それは、なぜか?
単純である、簡単である。
その理由は……。
いや。
先に原因を述べた方が良いだろう。
「そうですね。色々とありますが、貴方はどのような思い出が聞きたいですか?」
これだ。
この雄一郎さんが私に純粋な善意で言った、この言葉が原因だった。
もう、理由は解るだろう?
「え。選んで良いの?」
そう。
私は、自分に話を決める決定権があると、欠片も思っていなかったのだ。
だから、驚いたのである。
そして同時に、先程の雄一郎さんの言葉から、私は雄一郎さんが正気だと思えなくなってしまった。
なにせ、私の性格は……。
ああ、いや。
今、重要な事は、なぜ今になって雄一郎さんがそんな事を気にしたのか、という事だろう。
だが、これは簡単だ。
多分、恐らく、八割九割。
この原因は、雄一郎さんが私の優柔不断な性格を知らなかった事が、起因しているのである。
だから雄一郎さんは、私にこのような事を言ったのだ。
なにせ、雄一郎さんは好奇心に浮かされた私の姿しか見ていないのである。
そう。
出先でつまらないと感じた瞬間に知り合いとの約束を断り帰宅する私のあの姿を、雄一郎さんは知らないのだ。
ああ。
そう思うと先程の言動も、納得が出来た。
それにしても、やはり私は動揺しているのだろうか。
つい思考が、様々な方向に先走ってしまうのである。
いや。
これは、いつもの事か。
だが、そこまで自分の思考を理解しているのであれば、単純だ。
これ以上、思考を混濁させなければ良いのである。
そう。
今までと同じように、雄一郎さんの好きなように好きなだけ、雄一郎さんが話したい事を話せば良いのでは?
まさか、何かを企んでいるのだろうか?
そう。
この私の心の中にある疑問の蕾を、早々に摘み、他の感情の華を咲かせれば良いのだ。
まあ。
他にも、自分の感情を制御しなければ、雄一郎さんに嫌われてしまう可能性がある事も危惧していたのだが。
いや。
こんな事を考えても意味はないという事に、先に気付くべきだったな。
なにせ、自問自答に正解はないのだ。
そして、この時。
私は危機感と共に、こう思った。
ああ。
だが、これは素晴らしい事ではないか。
そう。
私は、こう思ったのである。
この理由は明白だ。
なにせ、小・中学生の修学旅行中の定番である淡い春の話や、夏の夜の定番である様々な恐怖体験などの話を聞き出す事が出来ると考えたからである。
そして、ああ。
そう考えた時だった。
哀しき事に私は、雄一郎さんの言葉に恐怖を抱いていると、気付いてしまったのである。
なにせ私は、たった一つ選択肢を間違えただけで、場の雰囲気が凍ってしまうという現実を知っているのだ。
そう。
私は、その事を理解している。
相手に選択をさせた後で、その選択が自身の葬り去りたい過去であった時に向けられる、あの理不尽な苛立ちを、私は理解しているのである。
断言しよう。
あれは、面倒臭い。
なにせ貧乏ゆすりをしながら、足音で精神を揺さぶり、視線だけで人を射殺すのだ。
あれは、こわい。
ああ。
だから私は恐怖に怯え、そして同時に困ってしまった。
なにせ私は、怒りに触れた後に訪れる、あの終わりの見えないご機嫌取りを、一瞬で想像出来てしまったのである。
ああ、終わった。
なにせ私は、人を苛立たせる才能に恵まれているのだ。
そして同時に、心から何かを望んで選択した事がないのである。
そう。
私は、これまでの人生の多くを他者の意志に従って生きてきたのだ。
理由は……。
私が人に意見する事すら出来ない、極度の人見知りであった事、他者の意見が必ず正しいと認識していた事。
他にも大概は性格上の問題だが、色々ある。
まあ。
これは数えだしたら、きりがないだろう。
これぐらいにしておく。
なにせ私には、未だ問題が残っているのだ。
そう。
「どうしよう。何を聞こう。まず、私の聞きたい事って何?」
これである。
いや。
第一、思い出話で選択権を与えるって一体なんだ。
可笑しいだろ。
どうして、そんなに多くの話題を……。
これでは私の秋の思い出が、霧のように霞んでしまうではないか。
まあ。
私の思い出は、山で焼き芋を作ろうとして、顔が燃えかけたくらいだからな。
これは、仕方ない。
それに恐らく、どのような話題であっても、頭の捻子の二、三本は飛んでいるのだ。
だから、私は覚悟は決めなければならない。
変な事を聞いて、訝しげな表情で見つめられる、その未来を、想像しなければならないのである。
いや、辛い。
せめて、どんな話があるのかだけでも、聞いておくべきだろうか。
すると、その時だった。
ずっと無言な私に、不安を抱いたのだろう。
雄一郎さんが
「どのような話でも、大丈夫ですよ。駄目な理由が、ありませんからね」
と、私に言ってくれたのである。
その瞬間。
私は感激した。
やはり、持つべき友は優しい人だったのだと、そう確信したからである。
ああ。
それでは、その言葉を信じよう。
貴方の言葉を信じて、自分の選択を打ち明けよう。
ああ。
その前に聞く思い出だけは、決めておいた方が良いだろう。
良し、決めた。
私は、雄一郎さんのやらかしを聞く。
絶対に、聞くのだ。
それが、私の聞きたい事なのだから、多分。
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