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想い出  作者: 彼岸  章華


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18/20

認識にて


「それで?どんな奇天烈な夏だったんだい?」


 季節外れの太陽を眺めながら、雄一郎さんに尋ねた。


 すると、雄一郎さんは驚きと怒りを孕みながら

「はい?貴方(きみ)、先程の僕の話を聞いていなかったのですか?」と言ってきたのだ。


 私は、その言葉に驚いてしまった。


 雄一郎さんの言っている言葉が、私の頭に混乱を招いたからである。


「えっ。ちゃんと聞いてたよ。なんで、そんなに怒るんだい」


 想像力が貧相な私には、雄一郎さんの怒る理由が一切見当つかなかったのだ。


 すると、その思いが伝わったのだろう。


 雄一郎さんが顔を顰めながら、徐に説明を始めた。


「なぜ?なぜですって?これが怒らずにいられますか。貴方は先程、僕が何を言ったのか覚えていないと言ったのですよ」


 いつも浮かべている子守熊(コアラ)のような穏やかな表情は見る影もない。


 そこにあるのは、怒りに染まった蛇のように鋭い視線のみである。


 そして、その雄一郎さんの言動が、さらに私の困惑を強めた。


「覚えて、ない?貴方はさっきから一体、何を言っているんだい?それこそ、私が言ったじゃないか。奇想天外な、不思議な夏だって」


 これは、私の認識が、頭が、可笑しいのだろうか。


 思わず、そう思った。しかし、私は目の前で紅茶を啜る老紳士から、その奇天烈な夏の思い出話を聞いたのだ。


 間違っている筈がない。記憶力に誓う。


「不思議な夏ではありません。そこが、間違っているのです。貴方(きみ)の記憶力は飾りですか?代り映えしない、普通の夏だったと、そのように言ったではないですか」


 いま、なんと、言った?


「普通の夏?え、私の聞き間違いだったの?だからさっき、あんなに動揺して?」


 それでは確かに、辻褄は合う。だが、それにして何か可笑しい。理由は解らないが、何かが可笑しいのだ。


 けれど、それを言うのは今ではない。


 これ以上話を長引かせると、雄一郎さんの表情が普段私が浮かべているような狐顔の不機嫌な顔になってしまう。


 すると、雄一郎さんが、言った。


「しない、理由がないでしょう。先程の貴方の言葉は、僕の思い出を否定する言葉だったのですよ」


「それは、ごめんなさい」


 ようやく、雄一郎さんの憤っていた理由が解った。


 確かに、これは気分が悪い。


「まったく、困ったものですね。ですが、聞き間違いは誰にでもあります。それに、僕も少し大人げなかった部分もありましたから、そんなに気にしないでください」


 そう言って雄一郎さんは、紅茶で喉を潤しながら、困ったような素振りで、さらに言葉を続けた。


「しかし、危なかったですね?もし、貴方があのまま頓珍漢な話を続けていたのなら、僕は驚きのあまり、お店の陶器(コップ)を割っていたかもしれません」


 その言葉を理解するのに、随分と時間を要した。現実を受け入れる事が出来なかったという方が正しいのだろうか。


 その理由は単純だ。雄一郎さんの言葉が、私にとって衝撃的だったからである。


 もし、今の言葉を、この喫茶店を利用していない人が聞けば、意地悪な老紳士が貧弱な青年を脅しているように感じるだろう。


 だが、喫茶店の利用者である私からすれば、今の雄一郎さんの台詞は、さらに恐ろしいものに様変わりするのだ。


 例えるのであれば、明日の天気を告げるように平然と、私の紅茶に毒を盛ったと告げたようなものだろうか。


 まず、間違いなく言える事は、雄一郎さんには、人を脅す才能があるという事だろう。


「は?ああ、不味いな。私、もう一度病院に行ったほうが良いかもしれない。幻覚と幻聴が、頭の中で西班牙舞踏(フラメンコ)を踊ってるよ」


 ならば、私が行う事は一つ。


 頭を空にして、思考を停止させるのだ。世の中では、これを現実逃避と呼ぶらしい。


 そんな事をしていた罰だろうか。雄一郎さんが、滑稽だと言うかのように

「おや。随分と面白いな頭ですね。一体、どのように踊っているのです?」等と、恐ろしい事を聞いてきたのだ。


 現実逃避に走った脳内空虚(アッパラパー)な思考に、随分と酷な事をする。


 しかし、こうなったら、現実逃避を維持するのも難しい。


 私は、心の中で数分前の自分を恨みながら「驚かないでね?目の前にいる素敵な老紳士が、紅茶片手に優雅に寛ぎながら、お店の陶器を割るって言ってるんだ。悪夢だよ。現実だったら逃げてるね」と、雄一郎さんに向かって言った。


 上手く回らない頭を必死に回転させながら言ったにしては、上出来である。


 それに、絶賛、脳内逃避行の最中なのだ。間違っていないだろう。


 すると、雄一郎さんは少し驚いたような素振りで

「それはまた、随分と具体的な内容ですね」と言ったのだ。


 なので私は、雄一郎さんの言葉に重ねるようにしながら、こう言った。


「だろう?でも、そんな事ある訳がないよね?この喫茶店の品、一つ一つが西洋の骨董品(アンティーク)なんだから」


 この言葉には、確認の意味もあった。


 この店を利用するなら、陶器の貴重性など、常識の範疇なのだ。知らない筈がないのである。


 もし、知っている上で言っているのであれば、狂れているか、頭の螺子が外れているか、そのどちらかだろう。


 すると、雄一郎さんが事実を告げるように、口を開いた。


「おやおや。勿論、知っていますよ。では、混乱しているであろう貴方に、ここで一つ良い事を教えてあげましょう」


 秘密話をするように、雄一郎さんが声を潜めて言った。その声が、やけに自信に満ちていた事は解った。


「良い事?貴方の言う良い事が想像つかないんだけど。それ、本当に良い事?」


 信用が、出来なかったのである。


「ええ、勿論。では、失礼して」


 そこで言葉を区切りながら、雄一郎さんは、意地の悪そうな顔をして

「先程の言葉は、悪夢ではなく、現実ですよ」と、言ったのだ。


 その言葉は、甘い夢を見ていた私を苦い現実に突き落とす、目覚まし時計のような残酷な代物だった。


「やめてくれよ。幻覚とか、幻聴であってほしかっただけだよ。これが現実なのは解ってるって」


 そうだ。解っていた。知っていたのだ。


 これが、雄一郎さんの忠告であるという事は解っていたのだ。


 恐らく雄一郎さんは、これ以上巫山戯た事を抜かさないように、先程のような金銭的な脅しの言葉を言ったのだろう。


 そんな事は、既に理解していた。それでも、巫山戯ないとやっていられなかったのである。


「これは失礼。随分と貴方が面白い反応をするものですから。つい、悪戯心に火がつきまして」


「ついって、貴方ね。いや。貴方の事だから、随分と良い趣味を持っている事は解っていたけどさ。でも、今回は流石に精神にきたよ。お陰で胃痛の嵐さ」


 今度、薬局に行こう。


 睡眠薬を買った時の薬局と、同じ店で良いだろう。あそこの薬は安いのだ。家系的にも優しいだろう。


 そう思いながら、心の内をこぼすように

「だけど。そうか、そう考えてみると、()()も間違ってるかもしれないな」 と、呟いた。


「これ?何の事です?」


 その私の言葉に、雄一郎さんが不思議そうに首を傾げた。私の言っている内容の一切が理解出来ていないらしい。


「何って、話の内容だよ。大事だろう?」


 故に私は、大袈裟に芝居の真似事をするかのような口調で言った。


 これ以上、会話の主導権を握らせないようにする為である。


 すると、雄一郎さんは笑いながら

「それはそれは、大事ですね。貴方の記憶力が正常に働いている事を願いますよ」と言った。


 その言葉を聞いた瞬間、確信した。


 やはり、雄一郎さんは、この現状を楽しんでいるのだ。


 先程の奇天烈な言動も、その一環だったのだろう。


 恐らく、私がどんな狂れた言動をするのか、それを肴に弄ぶつもりなのだ。


「願うって、一体だれに?」


 だから、こんな事を尋ねた。少しでも、頭の思考を遮りたかったのだ。これ以上弄ばれては、たまらない。


 すると、雄一郎さんは笑顔を崩さず、相手の名を告げた。


「天におわす、貴いお方に」


「貴方、無神論者じゃなかった?」


 思わず、言った。反射だった。会話の主導権云々は頭の中から消えていた。


 無神論者が神頼みをするという行為が、私には意味が解らず、可笑しいと感じたのだ。


「おや、無神論者が神頼みをしてはいけない、という法律はありませんよ。願うだけなら問題はないのです」


「それは」


「それにしても、貴方は僕の事を何だと思っているのですか?僕も神頼みをしたくなる時だってありますよ」


「え?」


「新年のお参りの時には、神社にも行きますし、お参りにも参加します。それに、今回の様に人に頼っても意味がない時には、特に有効でしょう?」


 雄一郎さんが饒舌に、無邪気な顔をして楽しそうに言った。


「それは、その通りなんだけどね?でも、参ったな。貴方今、人に頼っても意味がないって言っただろう。まったく、いつもの優しさはどこに行ってしまったんだい?随分と辛辣じゃないか」


「生憎、優しさは欠品していますので」


 雄一郎さんが茶目っ気たっぷりに、そう言った。


 その言葉を聞いて、私は極寒の吹雪の中に一人虚しく佇んでいる迷い人のような感覚になった。


 暖かい温もりが、ほしくなった瞬間である。


「それは、残念だ。次回の補充が楽しみだね?でも、私は相手の都合を待てない性分なんだ。答え合わせの時間だよ」


 これ以上話すと、全ての会話の主導権を握られると思ったのだ。


 それに、これ以上冷たい言葉を吐かれると、号泣すると悟ったのだ。

 私の心は弱いのである。


 すると、雄一郎さんが片眉をあげて「おや、もう宜しいので?」と言った。


 その言葉には、真意を探っているようなそんな危うい雰囲気があった。


 しかし、そんな事はどうでも良い。雄一郎さんの勘の良さは常に蛇のような鋭さをしているのだ。特に、普段と変わりないだろう。


 そのような事を心の中で考えながら、私は皮肉げに、こう言った。


「勿論、宜しいよ。それで?私の記憶力。つまり、貴方の言っていた飾りのような貧相な海馬は、今回の思い出の事を暴力的な話一切ないお話だって言ってるんだ」


 なにせ、最優先事項は私の精神的安心と記憶力の保証なのだ。


 勘の良さなど、気にするだけ無駄なのである。

 

「どうだい?私の海馬は合っているかい?」


 それに、これは単純な答え合わせではない。失った信頼と自信を取り戻す勝負なのだ。


 そして、その瞬間が、やってきた。


「どうやら、神頼みの必要はなかったようですね」


 雄一郎さんが、笑いながら穏やかな口調でそう言った。


 それは、短い、勝利宣言だった。


「その言葉を聞けて、とても嬉しいよ。代わりと言っては何だけど、さっきの私の言動の全てを、綺麗さっぱり忘れてほしいね」


 私は、出来る限り緩んだ口元を手で隠しながら、雄一郎さんに向かって言った。


 しかし、自分で言っていながら、先程の記憶違いは一体何だったのか、気になった。


 恐らくは、聴覚情報が視覚情報に惑わされてしまった故の産物だったのだろうと思ったが、それではないような気がしたのだ。


 けれど、もう終わった事なのだ。態々、蒸し返される事もないだろう。


 すると、そんな私の顔を見て、雄一郎さんが首をすくめながら、静かに、こう言った。


「貴方に言われずとも、忘れますよ。では、僕の思い出話に移りましょうかね」


「ようやくだ」


「ですが、今回の話は先程申し上げた通り、何の変哲もない、お付の老紳士に品位が何なのかを教わっただけの話ですよ」


「それはそうだけど、気になるのさ」


「まったく。貴方の記憶力が正しかった事は嬉しいですがね。第一、暴力的な話になる内容をしていないではないですか。もう少し、老人を労ってください」


 その姿は、先程の不機嫌な姿とはかけ離れていた。


「呆れているところ悪いけど、話し相手が貴方じゃなかったら、信じられたよ」


「おやおや」


「春の時の事を思い出してほしいね。それにしても、本当に貴方が品位が何たるかを理解していなかった時があったのかい?品位が服着て歩いてるような、貴方だよ?」


 今でも到底、信じられない事なのだ。


 雄一郎さんの事を知っていれば知っている程、何かが減っていくような感覚が拭えない。


 まるで、小遣い稼ぎ(アルバイト)だ。

 あれは、仕事をすればする程、精神がすり減っていく。


 出勤しようと家を出た瞬間に、豪雨のような涙が止まらなくなった時の意味の解らない涙が、新しい雄一郎さん一面を知った時の何とも言えない感情にそっくりだ。


 違いはあるが、両方、理解出来ないのだから、似ている事には変わりないだろう。


 すると、雄一郎さんが不機嫌そうな声で言った。


「品位が服を、ですか」


「ああ」


「おやおや。貴方は一体、僕の事を何だと思っているのですか?前にも、言ったでしょう」


「何を?」


「僕の子供時代の事です。幼少の頃の僕は水溜りに足を突っ込んで泥だらけになり、野を這いずり回って傷だらけになるような子供だったのです。そんな子供が品位を理解している訳がないでしょう」


 恐らく、雄一郎さんは不服なのだ。自分の子供時代を美化されているように感じているのだろう。


「いや、泥だらけになってた子供の時でも、品位が備わっていたと思ってたんだよ」


 しかし、美化して話せる話題があるだけで尊敬に値する事を雄一郎さんは知らないのだ。


 私には、話す相手も内容も存在しないのである。しかし、これでは理想を押し付ける信者の方が聞き分けがあるだろう。


 その時だった。


「貴方、赤ん坊が生まれた時から歩けると思っているので?」


 鋭い声で、雄一郎さんが言った。

 言葉の刃が、的確に私の精神に突き刺さった瞬間である。


「いや、そうは思っていないけど。ああ、そういう事か、訂正するよ。貴方は、成長したんだね」


 それなら、不機嫌になる理由も解る。


 努力して勉強した事を、意味がなかったと、元々の才能であったと言われたようなものだ。不機嫌にならない訳がない。


「ご理解感謝します。ええ、確かに僕は成長しましたよ。天才も努力をしなければ、凡才になるとは、良く言うでしょう?」


 そう言った時の雄一郎さんは、少し得意げな様子だった。


 恐らく、雄一郎さんは自身の成長を、誇りに思っているのだろう。


 声の形が刃のような鋭さから、花のような柔らかさに変わっていた。


「残念ながら、私はその言葉を聞いた事がないから、何とも言えないんだ。でも、随分と、貴方にとっては重要な言葉みたいだね?」


「ええ。もちろん」


「そして、それは貴重な成長だったみたいだ。なにせ、その成長がなければ、私と出会っていなかったかもしれないんだ。そう思うだろう?」


 人生は、一期一会なのである。


「そうですね。人生の(えにし)に感謝しなければいけません。勿論、一等の感謝を示す相手は決まっていますが、ね」


 雄一郎さんが、懐かしそうに言った。


「そのお相手は?」


 態々聞く必要のない、決まっているような事実を尋ねた。万が一の事がある。


「素敵な老紳士に。なにせ、この成長は彼のお陰ですから」


「貴方の、ご友人じゃないのか」


 万が一の事があった。私の予想が、大きく外れた瞬間である。


 確かに、話の内容から推測すると、違う事が解るが、それでも感謝を送る相手が想像していた人物と違っていた事には、驚いた。


 その時だった。雄一郎さんの表情が曇った。


「彼には、感謝よりも先に、謝罪を伝えなければなりませんから」


 懺悔を、悔恨を告げるようなそんな言い方だった。


 それに、()()と口にした友人の表情は、故人を見つめ嘆くような、そんな顔だったのだ。


 これ以上踏み込んでは、いけない。そう、思った。


「そう、なんだ。でも、その件の老紳士はそんなに素晴らしい人格者だったのかい?いや、疑う訳じゃないけど」


 だから、話題を変えた。これ以上踏み込めば、なにかに喰われると思ったのだ。


 すると、この判断が功を成した。


 紅茶を飲んでいた雄一郎さんの雰囲気が、先程の不穏な雰囲気から、穏やかな雰囲気に一変したのである。


「おやおや、そうですね。彼は様々な事を知っていましたよ。その知識が、彼を人格者足らしめていたのでしょう。貴方に必要な、上手な人との付き合い方も友人と一緒に教えて頂きましたよ」


 しかも、結果的に件の老紳士が雄一郎さんの尊敬に値する人物なのかを判断する事が出来たのである。


「それは、教わりたいな。悪人と縁を結ばないようにする方法とか、人に嫌われない方法とか、ね」


 これは、私にとっては、とても重要な事である。


 特に友人、知人関係は重要だ。今までの人生において、あまり友人がいなかった事実が私の胸を圧迫してくるのだ。


「おやおや。悪人、ですか」


 しかし、雄一郎さんが興味は、巫山戯で呟やいた方に向いたのだ。


「え?何か、変な事を言ったかい?」


 考えていなかった方に舵を切られたからだろう。少し、不安になった。


「いえ。彼の教えの中に善悪で人を判断するな、というものがあったのを思い出しましてね」


 彼、というのは件のご老人の事だろう。それにしても、随分と独創的な考え方である。


「不思議な教えだね。ひょっとして、その人は、聖人の類なのかな?」


 少し前に読んだ本に、似たような事が書かれていたのを思い出したのだ。少し表記は異なるが、似たような事だろう。


 確か、この喫茶店の店主も似たような考えを持っていた筈だ。


 しかし、そんな考えは一瞬で覆された。


「残念ながら、聖人ではなく、紳士ですね」


 雄一郎さんが、強い口調で、そう言ったのだ。


 どうやら、その線引きがしっかりしているらしい。


 意味の解らない線引だが、雄一郎さんにとっては、大きな意味があるのだろう。


「そう?まあ、それにしても、随分と興味深い考えだね」


「ええ。とても、興味深い考えでしょう?彼の考えでは、善人と悪人は同じ人という種類の生命体であるから区別する理由がなく、人の基準は本などの物と同じだ、という事だそうで」


 その言葉を聞いた時、つい驚いて大きな声をあげてしまった。


「えっ?いや、待って。その考えって、色々と危なくない?さっきとは随分かけ離れてる言い分だよ。えっと、言い方は悪いけど毒蜘蛛と毒のない蜘蛛を、同じ蜘蛛だからって理由で、消滅させる分類の人と同じ考え方だよ、それ。いや、人間関係が面倒臭くなったって言って、一切連絡して来なくなる人と同じかな」


 どちらにしても、悪い事には変わりない。


 その分類の人は、何かに愛着を持つ事がない。それか、愛着をもっていた物があった場合でも、いらなくなったら忘れてしまうのである。


 まだ、善悪で人を判断するなという考えは解る。先入観などで人を判断してはいけないという意味だろう。


 だが、人を区別する云々は話が変わってくる。それに、物と同一だと言ったのであれば、尚更だ。


「だから、言ったでしょう?聖人ではないのだと」


 ようやく、雄一郎さんの線引きの意味が解った。


「納得したよ。確かに、紳士ではあるけど、聖人じゃないね。区別しない云々は置いておいたとしても、それ以前の問題だ。だって、その人は貴方のご友人の事が大切なんだろう?それなら、善悪云々の平等さも危ういじゃないか」


 私は、件のご老人が聖人ではない事実に、ある種の安堵を覚えながら、私は言った。


「そうですね。それに彼は、区別するなと言いながら彼自身が、他者を区別していましたから」


「それは、貴方のご友人と、その他の人だろう?多少の矛盾は仕方ないだろうさ。人間なんだ」


「いいえ。それ以外でも、様々な区別をしていましたよ」


「一体、どうなってるんだよ。その人は」


 全く持って、意味が解らない。


 教師が子供に危険行為を教える傍ら、教師自身は危険行為を率先して行っているようなものではないか。


「言うだけなら、罪はないのですよ。人は矛盾がある生き物ですから」


 先程の、神頼みの話と同じ理論だろうか。


「それは、善い人になろうとして、結果的に悪人になる人みたいな?」


 とても、良い例だろう。私の好きな登場人物も、そのような人生を歩んでいた。


「合っていますが、それは一体、どこの知識なのですか?」


 雄一郎さんが、心底不思議そうに聞いてきた。


「漫画」


 随分前に打ち切りになってしまった代物だが、あれは面白かったのだ。打ち切りになった事が今でも悔やまれる作品である。


「成程、漫画とはそのような事を学べるのですね」


 雄一郎さんが、感心したように言った。


「貴方が子供時も、漫画はあったと思うけど?」


 その言葉に疑問を持った私は、思わずそんな事を聞いてしまった。


 すると、その言葉を聞いた雄一郎さんは、少し照れ臭そうに笑った。


「確かに、僕が子供の時にも漫画はありましたよ。しかし、僕は外に出る事が多かったですから、読んでいなかったのですよ」


 衝撃だった。漫画を読まない人生など、私には考えられなかったのだ。


「それは、さっきの言葉通りの子供だったという事かな?でも、今は?今は運動していないのかい?」


 そんなに運動をしていたのなら、今でも行っていると思ったのだ。


 その瞬間だ。雄一郎さんは少し考え込むような素振りを見せたのである。


「そうですね。日々の散歩はしますが、山奥を走り回ったり、川辺で魚取りをする事がなくなりましたね。今は、本を読む事の方が多いですから。 それに、子供と大人では、見える世界が異なるのですよ」


 先程の雄一郎さんが言っていた成長と同じ意味だろうか。


「それは、昔見た映画をもう一度見た時に違う感想が出るのと似てるかな?それにしても、昔の貴方は、随分健康的だったんだね。でも、その時と比べたら駄目だと思うよ。体力の衰えとか色々な理由があるんだ。それに、本を読んで頭の運動はしてるじゃないか。十分、運動してるさ」


 心からの言葉である。


 ちなみに、この言葉は私が体力不足を相談した時の両親から貰った受け売りである。


 その言葉を聞いた雄一郎さんが、目を細めて言った。


「頭の、運動ですか。随分と嬉しい事を言ってくれますね。その発想はありませんでしたよ。確かに、体を動かす事だけが、運動ではないですからね」


 どうやら、新たな発見が、嬉しいようだ。


 その言葉に、私は両親から言われた時の事を思い出しながら、胸にある思いを告げた。


「それは、そうだよ。それに、散歩も立派な運動さ。私が保証する。入院した時に学んだ事だ」


 あれは、素晴らしい学びだった。


「それは随分と、説得力がある言葉ですね」


 それは、そうだろう。伊達に留年の危機に晒されていない。何も学ばなかったのでは話にならないのである。


 だから、私は自慢話をするような口調で「だろう?それで、どうして老紳士のお方に仕草との勉強をする事になったんだい?」と、言った。


 すると、私の言葉を聞いた雄一郎さんが、少し照れたように顔を逸らして

「それは、ですね。僕の態度が、その、あまりにもなっていなかったのですよ」と、言った。


 私は内心、珍しい事もあるものだと思った。


 なにせ、このような仕草は常日頃の彼なら、あり得ないのだ。


 とても面白い奇天烈な話をしてきた時だって、淀みなく答えていたのである。


 だから、私は胸の内の疑問を雄一郎さんに尋ねた。


「なっていなかった?それは、そのままの意味かい?」


 その言葉を聞いた雄一郎さんは覚悟を決めたのか、私の方を向いていた。


「ええ。詳細に言うのであれば、僕には品性というものが欠片もなく、所作も美しくなかったという事です」


 これが、先程の雄一郎さんの言葉にあった、成長という奴なのだろう。


「今とは、かけ離れてるね。でも、どうやって仕草とか学んだの?日頃の行動とかを矯正するのって大変でしょ?」


 私も、少し前に口調を直すために努力してした過去があるのだ。


 しかし、常日頃からの行動を直すという事は、その数倍、難しい事なのだろう。


 そんな考えを巡らせている時だった。雄一郎さんの声が、響いた。


「大変でしたよ。間違える度に彼の持っている杖で足元を叩かれた挙げ句、書物を一冊ずつ読まなければいけないという独特な特訓(ペナルティ)がありましたからね。しかし、そのような勉強をしていたら、自然と作法なども身に付きましてね」


 いま、雄一郎さんは、何と言った?

 書物云々は良い。未だ問題ない。問題なのは、後半だ。


「は?杖で足元を?それって随分と。いや、そうか。仕草を学びながら、語彙力も上がったんだね。そうか、良いと思うよ。うん。一番気になった杖で叩くのは、後で聞く事にするよ。うん。」


 そうしなければ、私の頭が追いつかないの思ったのだ。


「解りました。覚えていてくださいね。それでは書物の話からしましょうか」


「お願いするよ」


「ええ。前提として、当時の僕は書物は嫌いだったのですよ。ですから、何としても書物は読みたくなかったのです」


「今とは、違いますね」


「ええ。ですから、間違えないように何度も練習を重ねた訳です。子供が勉強が嫌だからと嘘を学ぶ事のと似ていますね」


「解りやすいね」


「しかし、その効果は凄まじいものでしたよ。貴方もやってみると良い」


 どうしよう。とても、お断りしたい。


 知識の強要は嫌いなのだ。しかし、当の本人に言うのも気が引ける。


 よし。否定も肯定もしないで、有耶無耶にしてやり過ごそう。


「えっと、とても素晴らしいお言葉だけど、間に合ってるから、私は大丈夫だよ」


「おやおや」


「それにしても、その例えは、合っていないような気がするけど。いや、これを言うのは野暮かな。それにしても、中々な勉強法だね」


「そうですか?僕は良く学べなのですがね。これが勉強法の違い、という事ですか。しかし、どうです?在り来りな勉強会の風景でしょう?」


 本人には告げなかったが、雄一郎さんは在り来り、という言葉を辞書で調べ直すべきだと思った。


「そうだね。いや、足元を叩かれた事の説明で変わってくるかな」


「別に普通でしたよ。痛くなかったですし」


 この友人は、どのような判断基準をしているのだろう。


 痛みを伴うか、伴わないか。それは論点が別なのである。


「痛かったか、痛くなかったかの事を聞いているんじゃないんだよ」


「おやおや」


「確かに、その違いは重要だけど今は重要じゃないんだ。肉体に傷がなくても、精神に傷があるかもしれないだろう?」


「そんな事、考えませんでしたね。普通でしたし」


 一体、何が普通なのだろう。


「解った。なら、他に可笑しい事とか、普通だと思う事はあった?」


 これ以上聞いても、私の認識では追いつかないと判断したのだ。


 それに、雄一郎さんと、私の普通の基準が異なる事も解ったのである。


 それだけでも、大きな収穫だ。


「そうですね。一つだけ、ありましたよ。勉強をしている時以外は、基本的に全ての行動が監視されていましたね」


「は?監視?」


 それは、普通に、犯罪では?


「恐らく、大きくて豪華絢爛な洋館でしたから、盗みに警戒していたのでしょうね」


 理屈は理解したが、それでも可笑しいだろう。


「それ、嫌じゃなかったの?」


 だが、雄一郎さんにその事実は可笑しいのだと告げてはいけないと思った。だから、こんな質問をしたのだ。


「嫌ではなかったですね。特に気にしなかったですので」


 当の本人が気にしていないのだから、仕方ないだろう。


「それは、他者の行動に関心がなかったって事?」


「そうですね」


「それにしては随分と。まず、監視ってばれたら意味ないんじゃない?」


 一応、気になる事は聞いておく。


「それは、彼が監視に向いていなかったのが原因ですし、あまり生活に支障もなかったので」


非干渉な権利(プライバシー)の保護は一体どうなってるんだ」


 唯一、私の頭が振り絞った言葉である。


「ありませんよ、そんなもの。何十年前だと思っているのです」


「これが、時代か。知りたくなかったよ」


 可能なら、一生知りたくなかった事である。


「今は随分と、教え方が変わりましたからね」


「それは、平和になったって事だと思うよ」


 そう、捉える事にしよう。


 誰かに平和ぼけと言われようと、それは良い事なのだ。危険な状況より何倍も、良い事なのだ。


「確かに、そうでしょうね。それに、教わる側の人間性と、教える側の人間性が変化したのでしょう」


「人間性?それは、関係あるのかい?」


 あまり、考えた事のない事だ。

 一体、変化の何が関係あると言うのだろう。


「大有りですよ。日常的に暴力を振るう者は、暴力を道具にする事を覚えているのですから」


「えっと、暴力を道具にすると、何が起こるの?」


 私の頭では、ぼんやりとした想像しか出来なかったのだ。


 すると、雄一郎さんが真剣な表情で「獣が人の食事の味を覚えると、どうなります?」と、言った。


「獣が?えっと。多分、もう一度、その食事を食べたいから、人を襲うようになると思う。この答えって、合ってる?」


 放送番組(ニュース)で言っていた言葉の引用だ。


「合っていますよ。それが、野生の獣に食事を与えてはいけない理由です。では、それを暴力に置き換えると、どうなりますか?」


 置き換える?


「暴力に?えっと、教える時に暴力を利用するようになる、かな?でも、これって、何を得るの?獣はご飯を得るでしょう?それなら、人は?」


 私の頭では、ここまでが限界だったのだ。


 すると、雄一郎さんが、勉学を教える教員のような顔で言った。


「一つ、良い事を教えましょう。人は一度でも暴力を行使すると、並大抵の事がない限り、それが(くせ)になるのですよ」


 その言葉に、私は疑問符を浮かべる事しか出来なかった。


「癖?なんで?人を殴るのが楽しくなるの?」


 理解が出来なかったのだ。昔の私でも、そんな事はしていない。


「それは快楽を得る人の考え方ですね。それも、あるにはありますが、最も多い理由は(らく)だからです」


 自分の仕事を他者に押し付けて、掃除当番から逃げようとする子供のようなものだろうか。


「それが、相手を暴力で人を支配する理由か。確かに、いたな。そんな人」


 しかし、あの人は良い人なのだ。


 昔、迷子になっていた私を親切丁寧に目的地まで連れて行ってくれたのだから。


「貴方の交友関係に口を挟む気はありませんが、大丈夫ですか?何か怪我をされたり」


 すると、雄一郎さんが不安そうに聞いてきた。どうやら、私の言葉が悪かったらしい。


「そんな心配そうな顔をしないでよ。大丈夫さ、怪我なんかしてないから。それに、あの人は、その欲求を自分で抑え込めれたからね」


 あの人が、私に暴力を振るってきた事が一度もないのが、良い証明だろう。


 すると、その言葉を聞いた雄一郎さんは、とても驚いたような素振りを見せた。


「おや。その人は、とても強い人ですね。尊敬に値する素晴らしい人です」


「ああ、そうなんだ。欲求を抑えられるなんて、並大抵の精神力じゃ出来ないからね。それで?未だ、重要な事が残ってるの忘れてない?」


「暴力を与えられる側の気持ちですね。しかし、これは言わなくても、自ずと解るのではないですか?」


「拒絶と怒り」


 これは、解る。即答出来る。


「その通りです。僕の説明など必要なかったでしょうに」


「解らないのは、暴力が受けた人が何を得るのか、だよ」


 本題は、これだった。


 私は痛いのは、嫌いだ。苦しいのは、嫌いだ。だから、解らなかったのだ。


「先程、貴方が言った事が答えなのですが。貴方はその答えには納得しないでしょうからね。では、人に何かを教える時、教わる人は何を得ますか?」


「知識、だね」


 だが、これは。


「答えは、でましたね?」


「暴力を受けて、知識を得てるの?でも、それって効率が悪くない?暴力から逃げようとして、途中でその人が逃げたら、どうするのさ」


 あまりにも、非効率的な行動だ。それに、痛いではないか。


「これが、良くできているのですよ。暴力は痛いでしょう?」


 先程、思った事だ。


「当然だね、私は痛いのは嫌いだから、出来れば、逃げたいかな」


 逃げるのは、得意である。何度も何度も逃げてきた。


「そうでしょう?では、この暴力はどのような状況で使われますか?」


「悪い事をした時、かな?あと、当人の都合が悪い時もあるかも」


 もっと他にもあるのだろうが、私の頭に浮かぶのは、これくらいだった。


「そうですね、一般的には状況が悪い時に利用される事が多いのです」


「それに、何の意味があるのさ?」


 質問の意味が、解らなかった。


「先程のような快楽欲求者を除けば、状況が良い時や都合の良い時には、利用されないのですよ」


 雄一郎さんの言葉で、初めて気が付いた。


「あっ、そっか。でも、そんなの一時的な安心でしょ?」


 それでは、意味がないだろう。


 人は永続的な安泰を求めるのだ。一時的な安泰など、すぐに崩れてしまうに違いない。


 私は、そう思ったのだ。


 しかし、雄一郎さんは、首を横に振った。


「その安心が、罠なのですよ」


「罠?」


 一体、何が、罠だと言うのだろう。


「貴方は、先程ご自身の手で答えを出しましたよ」


「それって、あの人の事?でも、あの人は欲求を抑えてるよ」


「欲求を抑えるとは言っても、それは欲求を抑えなけば、暴力的な行動をとる事を知っているからこそ出た言葉でしょう?」


「それは、そうだけど」


 言葉に、詰まった。


 その言葉通りだと、正論だと、そう思ってしまったのだ。


「貴方のお知り合いを悪く言っているのではないのです。先程の言葉を思い出してください」


「それって、暴力を抑える事をしない人の事?」


 話の内容からして、これだろう。


「そうです。例えば、その人がとても気分が良く、暴力を与えてこない時があったとします」


「ひょっとして、何度もその一時的な安心を求めるようになるって言いたいのかい?」


 理解できなかった。火の中に飛び込んで行くようなものではないか。


「ええ。嫌な事をされても安心があるのであれば、話は別なのですよ」


「本当に?」


「本当です。それが危険な事であっても、その安心を求めるようになるのです。それに、仕事や勉学の場合は上達をすれば安心を得る事ができますからね」


 そう言った雄一郎さんは、嫌そうな雰囲気は一切なく、事実を告げている事が解った。


「嫌な安心だな。でも、効率は?教育は結局、知識を得たのか、得なかったのか。それが重要でしょ?」


 効率が悪ければ、意味がないだろう。

 大学の勉強でも、効率を重視しながら行うのだ。


「残念ながら、上手くいくのですよ」


「なんでだい?反発したらどうするのさ。あっ」


 その言葉を言いながら、自分自身の言葉の事実に気付いた。


「その顔は、気が付きましたね?そうです。ある程度の反乱因子は暴力で抑え込めるのです。過度な反感は、無理ですがね」


「その無理だった時の最たる例が、革命か」


 まったくもって、嫌な思い付きである。


「ええ。しかし、これで暴力を利用する人の心理が少し解ったでしょう?」


「そうだね。非人道的で、とても効率的だ」


 理解したくないが、納得してしまった。嫌な事ばかり良く出来ている。


「貴方の先程言った、精神的な痛みも該当しますよ」


 その言葉に、私は思わず、「そうだね。なら、やっぱり貴方の話は暴力的だったんだね」と言ってしまった。


 すると、雄一郎さんは苦笑いしながら

「痛いところを言わないでください。ですが、これも一つの時代の変化なのですよ」と、言ったのだ。


「そうなの?時代の?」


 口には出さなかったが、とても面白い意見だと思った。


 そんな私を置いて、雄一郎さんは言葉を続ける。


「ええ。変化しているのですよ。人々は時代と共に変化しているのですから」


「確かに、それもそうか」


 歴史が、証明している事だ。


 その時だった。


 雄一郎さんが、紅茶を飲み干しながら

「ええ。理解が早くて助かります。さて、僕の夏の思い出は、これでお終いですよ。満足して頂けましたか?」と、言ったのである。


 そんな質問、態々しなくても答えは決まっている。


「大満足だよ。色々と学ぶ事もあったからね。でも、貴方とは認識には差があるって事が一番大きい勉強かな」


 次からの会話で、気をつけなけばならない事でもある。


「これが、世代間に生じる差ですよ」


 雄一郎さんが、静かに言った。


「成程ね。それなら、理解できないのも納得だ」 


「おや、そうですか?」


「それぞれの普通が通じないんだよ。仕方がないだろう?」


 常識が違うのだ。それぞれの生き方や考え方があるという現代社会の思想と同様だろう。


「そう言われてみれば、確かにそうですね」


「だろう?でも、理解できなくても、知る事はできるよ」


 同じ言語で、話しているのだ。知ろうと思えば、幾らでも手はある。


「おやおや。ですが、そうですね。僕も相互理解と相互認識の重要性を、改めて痛感しましたよ」


 雄一郎さんが、真剣な口調で言った。


「そうだね。大事だなって思ったよ」


「まったくです。世の人達の苦労は絶えないですね」


 最たる例は、年代別(ジェネレーション)認識誤差(ギャップ)だろう。


 たまに、両親との会話でも噛み合わない部分があるのだ。


 仕事をしている人達は、本当に凄い。様々な年代の人達を相手にしているのだ。尊敬の意を評する。


「その通りだね。さて、今日はこれくらいで終わろうか。空が暗い」


 夕暮れを、悠々と通り越している暗さだった。


「おやおや。もう、そのような時間になっていましたか。あっという間ですね」


「そうさ。でも、それはこの話し合いが楽しかったからでしょ?」


 時間の経過感覚の差という奴だ。


「そうですね。僕は思い出を人に共有できますし、貴方の話は面白いですから」


「ありがたいお言葉だね。それじゃ、また会おうか」


 その言葉を合図に、それぞれ支度を済ませて、店を出た。


 代金は既に雄一郎さんが支払っていたのだ。相も変わらず、抜け目のない人である。


 だが、想像以上に遅い時間になってしまった。両親にまた要らぬ心配をかけてしまうかもしれない。


 入院した一件から、過保護の度合いが増してしまったのだ。


 しかし、今日は迷子になる事はないだろう。そんな事を思いながら、帰路についた。


 涼しい風が、紅茶で温まった体を掠めていった。


二章 ー完ー


大変、お待たせ致しました。

日々、様々な事を学びながら語彙力を向上させるよう、過ごしております。

それでは、次回作をご期待ください。

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