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想い出  作者: 彼岸  章華


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不解にて

 人にとっての常識や普通は、他者から見たら非常識の塊である。




 ああ。

 それは、あまりにも突然の事だった。


 今まで感傷に浸っていた雄一郎さんが

「思い返してみれば、あの時の僕の行動は、家宅侵入だったのでしょうね」

 と言ったのである。


「――は」


 今、何と言った?

 家宅侵入、と言ったのか?


 この時の私は、どうやら阿呆のように口を開けたまま、呆然としてしまっていたらしい。


 しかしこれには、少なからず理由があった。


 雄一郎さんの口から出た言葉が、現実とは程遠い夢物語のように聞こえた事が、一つ。

 雄一郎さんのような温厚な人が、そんな犯罪まがいな事をするとは思っていなったという事が、一つ。


 まあ。

 私の心境を示すなら、一体この人は何語を話しているんだろう、という言葉が妥当だろう。


 だがそんな私に、雄一郎さんは現実を見ろとでも言うように

「家宅侵入ですよ。不法侵入の方が、解りやすかったですか?」

 と、追い打ち(オーバーキル)の一撃を与えてきたのである。


 は?

 いったい、それに多分……。


「不法侵入の方が、一般的だよ。多分」


「覚えておきます」


 違う。そうじゃない。


 そのような事、今の私には些事でしかない。

 だから一旦、笑いながら話を再会させようとしないでくれ。


 頭が追いつかないのだ。

 思わず目の前の老紳士に、何がそんなに面白いのか、困惑の眼差しを向けた程である。


 だが、雄一郎さんの笑い(ツボ)は、いつも不思議なのだ。

 このような事を考えた所で、一生その真意を知る事は出来ないのだろう。


 なので私は、未だに笑っている雄一郎さんの姿を見ながら、こう言ったのである。


「まったく。貴方がそんな風になるなんて、珍しい事もあったものだね。まるで、水を得た魚じゃないか」


 そして、そう言いながら、心の中で魚は水の中しか生きられないから、蛙の方が適切だったなと反省した。


 なにせ魚は、陸地では呼吸が出来ないのだ。


 それは、いけない。

 雄一郎さんは、陸地の方が活き活きしているのである。


「まあ。それは置いておいて、気になった事を聞いても良いかな?」


「おや。一体、何でしょう?」

 

 ちなみに、この時雄一郎さんは口元に手を当てながら、とても良い笑い声を喫茶店に轟かせていた。

 どうやら、魚のようだと言われたのが幾分か面白かったらしい。

 普段と変わらない口調を装いながら、その実、少し楽しんでいるのが解った。


 だが私は、この問いを聞かねばならなかったのだ。

 なにせ、今を逃せば、二度とこの質問を聞く機会がなくなってしまうのである。


 だから私は

「さっき言っていた()って誰のことだい?」

 と、胸の中で霧のように渦巻いていた疑問を雄一郎さんにぶつけたのだ。


 なにせ私が今理解している事は、雄一郎さんが山で遭難した事、美しい洋館に目を奪われていたという事だけなのである。


 そう。

 肝心の()の話が、一切出てきていないのだ。

 これは、気にするなと言う方が無理だろう。


 そして、その瞬間だった。


 私の言葉を聞いた雄一郎さんが、虚を突かれたような顔になり、氷のように固まってしまったのである。


 どうやら、本気で忘れていたらしい。

 だが、先程の雄一郎さんの姿を見れば、その理由も解った。


 話す内容が多すぎて、何を言って、何を言っていないのか、頭の中で整理ができていなかったのだろう。


 好きな物の話で盛り上がった時には、良くある事である。


 だから、私は特に責める事もせず、雄一郎さんの次の言葉を待ったのだ。

お読みくださり、ありがとうございます

それでは、続編をお待ちください。

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― 新着の感想 ―
独特、癖はないのでスラスラ読める。私は男性なので女性視点で入り込む純文学は雰囲気を感じ取る為に一回女性目線になってみると感じやすい印象!
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