1-27.旅立ち
王都に向かうため先ずはカセント町へ行くと決めてから数日後、ついに出発だ。この数日はレティの教会仕事の合間に色々と教えてもらったり、エドから冒険者の手解きを受けたりしていた。
剣の扱いはある程度様になってきたと言ってもらえたが、やはりまだ魔物とは言え生き物を殺すのに抵抗がある。何体かゴブリンや『角ウサギ』と呼ばれる角の生えたウサギを倒したが気分が悪くなってしまった。
だがそれ以上に魔物以外の生き物を仕留める方が苦しかった。冒険者はどうしてもサバイバルを強いられることがあるそうだ。そういった場合魔物ではない普通の動物を狩って食料を確保する必要がある。
動物を狩り食べられるように処理するのは元の世界でも当たり前のように行われていた行為であるはずなのに、その生々しさからかくるものがあった。対して魔物はたまにゲームで言うアイテムドロップのように一部が残ることがあるようだが、基本的には青白い光に変わり溶けるように消えてしまうので、命のやり取りをしているという実感が薄かった。
ちなみに何故魔物は消えてしまうのかよく分かっていないらしい。と言うよりも死んだら消えるものを魔物と呼び、そうでないものを動物と定義しているそうだ。非常に難しいのが生きている状態だと魔物なのか動物なのか素人には区別がつかないことだ。基本的に魔物である種と動物である種は分かれているため知っていれば事前に分かるのだが、それが分からない状態では食料確保のために何かを倒しても、消えてなくなってしまったということがあった。この部分に関しては経験によるものが大きいらしく、魔物の方が狂暴で人を襲いがち程度のふわっとしたアドバイスしか貰えなかった。
そんな過酷なトレーニングの傍らで続けられていた森の調査の結果、やはり異変は収まり安定を取り戻したと結論付けられ、ついにアストフ村から旅立つ。メンバーは自分の他に聖女見習いのレティ、冒険者パーティ「ヨジン」の3人の計5人だ。ちなみに商人のジョンは急用ができたから先に帰ると言い、ヨジンに依頼した護衛の体裁のためだけに荷馬車を一つ残して先に行ってしまった。レティと二人でそれは大丈夫なのかと首をかしげたが、よくあることで何の問題もないらしい。何だったら次に会ったときに手合わせしてもらえばいいと言われたので、きっとジョン本人も腕が立つのだろう。
◆
「ヒロさん!」
荷馬車の最終確認等を面々が行っている間に一息ついていると、少年が駆け寄ってきた。この世界で初めて出会い、助けた人間であるシンだ。後ろからは普通に外を出歩けるまでに回復したシンの姉、ジルがゆっくり歩いてくる。
「ヒロさん、ヒロさん。本当に行っちゃうの?」
「うん、ごめんね。シン君ともっと遊びたかったけどやらないといけないことがあるんだ。」
がっくりとシンが肩を落としたと思えば、腰のあたりにぎゅっと抱き着いてくる。どうやら泣いてくれているようだ。この数日でとても懐いてくれたので正直自分も寂しいが、たとえ僅かな可能性だとしても元の世界に戻るために、それから欠けた記憶を取り戻すために前に進むことを決心したのだ。ここに留まるわけにはいかない。
「すみません、ヒロさん。シン、ヒロさんが困っちゃうでしょ。しっかりと行ってらっしゃいしてあげないと。」
「全然平気ですよ。ジルさんこそ、もう体調は大丈夫ですか?」
「ええ、お陰様で。本当にどうお礼をすれば良いものか。私もシンもヒロさんに救っていただいたので。」
「そんなそんな、村長からしっかりとお礼を頂いているので。気にしないでください。」
「そうだねぇ。冒険者の相場に比べたらむしろ払い過ぎな位じゃないかい?」
話を聞いていたのか、意図的だろうが相変わらずの調子の村長が会話に割り込んでくる。
「ちょっと、村長!流石にそれは……。」
「いえいえ、事実ですから大丈夫ですよ。」
「ほら、本人もこう言ってるんだからそれで良いんだよ。だからジル、シン、お前さんらはお礼をしっかりと言えればそれでいいのさ。」
村長がジルとシンの頭を順番にわしゃわしゃと撫でる。
「さて、ヒロ。私からも改めて本当にありがとう。お前さんが来なかったらこの二人は今頃逝っちまってただろうからねぇ。これからどうするのか知らないが、気を付けるんだよ!」
「はい、こちらこそ色々とありがとうございました。村長もお元気で!」
握手を交わし、村長は他の面々の所へ去っていった。村長に鼓舞されてか、シンが離れ姉の隣に並ぶ。
「『ヒロさん、ありがとう』ございました!」
姉弟揃ってお辞儀してくれる。とても仲睦まじい光景だ。
「どういたしまして、二人も元気でね!」
「うん、ヒロさんも元気でね!また遊ぼうね!」
今度は笑顔で駆け寄ってきたシンとハグする。
「ヒロさん、是非また会いに来てください。その時は精一杯おもてなししますから!」
笑った時の目元に姉弟なんだなと思いつつ、差し出された手を握る。
「ちょっと、ジル!ヒロさんが次に来るときも私の宿に泊まってもらうんだから!勝手なこと言わないで!」
「ふふ、ごめんってリンカ。私たち他の人にも挨拶してくるからごゆっくり。」
「もうっ!ジルったら。」
ジルとシンと入れ替わりでリンカがやってきた。
「リンカさん、本当にお世話になりました。」
「こちらこそ、本当にありがとうございました!二人を助けてくれたことも勿論ですし、森の異変も解決してくれたんでしょう?きっとまた冒険者の人が宿に来るようになるはずです。本当にありがとうございました!!」
リンカとも握手を交わす。
「……本当に行っちゃうんですよね?―あっごめんなさい、忘れてください!これから冒険者になろうとしているのに引き留めるようなことを言って……。」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます。リンカさんがそう思ってくれているだけで、死ねない理由が増えましたよ。勇者なので死なないらしいんですけどね……。」
「……えっ?」
「だってそうでしょう?自分に死んでほしくないって思っている人がいたら意地でも死ねませんよ。それにリンカさんのご飯はすごい美味しかったからなぁ。また食べに来ないと。」
「……グスッ。ちょっとごめんなさい。」
彼女は後ろを向き、何度も目元を拭っているようだ。深く深呼吸をして少し落ち着くと、静かに話し始める。
「私、冒険者の人が不安にならないように、いつも笑顔で送り出さなきゃって思ってて……。危険な仕事だから、せめて宿にいる間は日常に戻れるようにって。」
「その心遣いは有り難いのかもしれないですけど、もっとリンカさん自身の気持ちを言っても良いって思いますよ。だって、行かないで欲しいって言ってくれて、あっ絶対に死ねないなって思いましたもん。」
「そっか、そうなんですね……。ありがとうございます……。」
一回両頬をパチンと叩いたリンカがこちら側に向き直る。
「またいつか、絶対に、私の宿に泊まりに来てください!その時は今よりも美味しい料理を作って、毎日食べたいと思わせてみせますから!」
気合の入ったリンカの様子に少し圧倒されるも、思わず笑顔が零れる。
「おい、ヒロ!そろそろ出発するぞ!」
その時、エドから声がかかる。
「では、行きますね。本当にお世話になりました!」
「ヒロさん、行ってらっしゃい!!またいつでも、遊びに来てください!!」
「はい、またいつか!」
リンカが大声を上げながら手をブンブンと振っている。いや、リンカだけではない。村の皆が思い思いの言葉を叫びながら手を振ってくれる。
お世話になった、この世界に来て初めて関わった人々に深くお辞儀をする。そんな彼ら、彼女らの声援を背に受け、一歩踏み出した。
ついに……1章完結です!!
本当にノリで始めたのがこんなに続くとは。もう新しい趣味認定です!
これは何の実績もない素人の小説をトータルで2000回以上も読んでくださったおかげですね。少しですが感想も頂けたりして、うわ、クリエイターってこういう感じなのかなんて思ってみたり。とても貴重な経験でした。本当にありがとうございます!
と、このまま「俺たちの冒険はこれからだエンド」で終わりそうな雰囲気が漂っているかもしれませんが、まだまだ続きます!
細かい所はほとんど決まっておらずどんな展開になるのか自分自身知りませんが、前回の後書きにも書いた通り最初に書きたいと思ったシーンがまだまだ遥か先にあるんですよね……。それに自分が面白いと思う様に作るを第一に書いているからか、実はこの作品とても気に入ってるんです(笑)
ただこのまま突っ走っても迷子確定なので、暫く更新はしないと思います。できれば8月くらいからまた書けたらいいなと思ってますが、趣味なのでその辺りは未定ですね。よろしければ今後もお付き合いいただけますと幸いです。
RPGのチュートリアルである最初の村編がここまでだったので、次章はもっと面白くなると思います。死なない(リスポーンする)勇者がダンジョンアタックするとどうなる?というテーマで送る次章、お楽しみに!




