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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】日曜日
98/121

第11話 日曜日の夕方。川薙大正浪漫ストリート。【天気】曇り

 ホロホロを出ると、雨が止んでいた。


 あれから、あれこれ話し込んだ(りく)たち。しかし結局、海斗(かいと)には鏡が使えない件も知流姫(ちるひめ)が消えた件も、その理由が判明することはなかった。


 そして今は夕方。

 知流姫不在でやるべきことが迷子になった陸は、海斗としいなを元川薙(もとかわなぎ)駅まで送ろうとしていたのだけど……


 ▽ ▽ ▽


 川薙大正浪漫かわなぎたいしょうろまんストリート。


 それは川薙観光の中心部、蔵造りの街並みの導入口に当たるような裏通りで、どこか大正時代の残り()を感じさせる石畳(いしだたみ)が特徴の通りだ。


 元川薙駅方面から氷室神社(ひむろじんじゃ)方面への迂回路(うかいろ)にもなっているので、ちょっと川薙に詳しい人なら、交通量の多い表通りよりもこちらを選択することが多い。


 因みにこの道、裏通りではあるのだけど、川薙熊野神社かわなぎくまのじんじゃの正面鳥居にアクセスできる通りでもある。


 △ △ △


「でもこれ(・・)、オレが持ってていいの?」


 浪漫ストリートに入ってすぐ。

 海斗にそんなことを尋ねたのは、例の桜の枝を持った陸だった。


「うん。だってそれ、ぼくには使える気がしないから。鏡も使えなかったし、ぼく、霊力的なやつがないのかもね」


「や。でもこの前クシナダ様は召喚したじゃん」


「それはそれ。これはこれだよ」


 カラっと笑う海斗に、陸はモヤモヤした。

 海斗が、自分だけ鏡が使えなかったことを気にしているらしいことは伝わって来るのに、なんて声をかければいいのか分からない。


「あ、あのさ――」


「あ。そういえば気になってたんだけど、陸君、知流姫(あのヒト)のことちょっと信用し過ぎじゃない?」


 陸の言葉を(さえぎ)った海斗が声のトーンを落とした。


「え? そ、そう?」


「そうだよ。だってあのヒト、陸君たちを破滅させようとしてたヒトだよ?」


「うーん……そう?」


「そうだよ」


「ん……」


 知流姫は信用できない。と、はっきりと表明してくる海斗に、陸は(うな)った。


 陸だって別に知流姫と親しくしているつもりはない。

 流れで何となくそうなっちゃったから接しているだけだ。

 けど言われてみるとまったくその通りで、破滅騒動のラスボスだった知流姫に対し、あまり敵対心(てきたいしん)(いだ)いていない自分も、たしかにいるのだ。


 もし仮に、今もまだ知流姫が陸を()めようとしているのなら、川薙の破滅もウソと言うことになるのだけど、陸には彼女が悪だと思うことがどうしてもできなくて……


「なにをバカなことを。あれ(・・)悪神(あくじん)であるはずがなかろうに」


「え? そ、そう?」


 突然話に入ってきたしいなに、陸は狼狽(うろた)えた。


「じゃ。そもそもあれは、そなたらにてんい(・・・)をさずけるためつかわされたもの。悪神であるはずがないのじゃ」


 しいなは、ふんすと鼻息を荒くしていた。

 この姿になってからすっかり()りを(ひそ)めていたけれど、この|ババ(くさ)――じゃなくて、お姉さんぶった(・・・・・・・)説教(せっきょう)ぶりは、奇稲田姫(くしなだひめ)そのものだ。


「でもしんなちゃん。あのヒト、この前陸君と咲久(さく)ちゃんを殺そうとしてたんだよ?」


「いやさ。それはそならの思いちがいではないか? わらわにはあのものがかようにあらぶる神だとはとても思えぬ」


 しいなは海斗の意見を否定した。

 そして――


「だってかんがえてもみよ? あのものは、わらわにさくらもちをくれたのじゃぞ? そのようなものが悪神(あくじん)などと、ありえぬではないか」


 案外チョロい理由だった。

 陸と海斗は苦笑した。


 ◇ ◇ ◇


「そう言えばしいなは、もう氷室神社(ひむろじんじゃ)にいなくていいの?」


 横手に熊野神社(くまのじんじゃ)の入口が見えてきた時、氷室神社でのやり取りを思い出した陸は尋ねた。


「よい。今日はもう日もくれる。あね上さまたちもお休みじゃろうし、いてもしかたのないこと」


「???」


 相変らずの要領を得ない返事に、またしても疑問符(ぎもんふ)を浮かべる陸。


 しいなは、咲久が来てドタバタする前、姉がどうとか言って氷室神社から離れることを嫌っていたはず。

 それが今は、姉が休んでるからいい? 本当に何なんだろう?


「ときにそなた。今、氷室の守りはもっておるか?」


「え……? あ! や、ないす」


 急に話題を変えるしいなに、陸はハッとした。


 陸のお守りは、破滅騒動の時に咲久の友人(通称・スッポンさん)に預けたきりだ。

 あのお守り、一見するとただ古いだけのお守りだけど、霊験(れいげん)あらたかな破邪(はじゃ)のアイテムだし、母が(のこ)してくれた物でもある。

 きちんと返してもらわないと。


「む。そうか……」


 しいなは陸がお守りを持ってないと知ると、肩を落とした。


「あー、別にそんな落ち込まなくても、サクに頼めば……」


 スマホを取り出しかけた陸は、そこで動きを止めた。


 スッポンさんは川薙女子高校(通称・川女(かわじょ))の生徒で、陸とは普段接点がない。

 だから仲介役(ちゅうかいやく)が必要になるのだけど、その人選がちょっと難しくて……


 仲介役の候補は二人だった。


 一人目の候補は咲久。

 今連絡しようとした相手でもある。

 けどこれは陸的にはNGだった。

 なぜなら、咲久に仲介を頼もうとすると、お守りがスッポンさんに渡った経緯――つまり破滅騒動のあれこれ――を知られてしまうかも知れないからだ。


「サクがダメなら……やっぱひまセンパイだよなぁ……」


 陸は青息吐息(あおいきといき)になった。


 二人目の候補、ひまセンパイこと長谷(はせ)ひまり。

 咲久の先輩にあたるダーククール系女子高生。


 けど、残念なことに陸はひまりのことが苦手だった。


 彼女、初対面の時からどういうわけだか、陸のことを目の(かたき)にしてきたのだ。

 そのあと和解(わかい)はしたのだけど、陸、どうしてもひまりへの苦手意識が消えなくて……




「むぐぐ……ひまセンパイ……いや。他に手は……」


「ね……ねえ陸君!」


「むむむ……あ、なに?」


 考え込んでいた陸は、海斗の呼びかけに顔を上げた。

 見ると海斗は、ひどく驚いた様子である方向を見つめている。


「……? ――っ!?」


 海斗の視線の先に目を向けた陸は、同じように息を呑んだ。

 なぜならそこには――


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.6. 6 名称間違い修正。

2025.6. 7 桜の枝の所持者を海斗から陸に。微修正。

2025.6.13 微修正。〆方変更。

2025.6.14 微修正


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