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第17話 月曜日の放課後。市杵島横丁~九家稲荷神社【天気】曇り

 ▽ ▽ ▽


 市杵島(いちきしま)横丁(よこちょう)とは、札の辻(ふだのつじ)から一つ北に行った所にある小路で、かつては芸者街として栄えた横丁だ。

 けれど時代の流れとともにそう言った文化も失われ、今はただの小路になっているのだけど……


 △ △ △


(さき)先生は……家族サービス的な……すか?」


 思いがけず埼先生と出会ってしまった(りく)は、どうにかこうにか話題をひねり出した。

 そう言えば、昼休みに図書室の前で話した時、午後は休むとか言っていた。

 それに先生は今、まあまあの大きさの荷物を抱えながら、キャップを被った小学生低学年ぐらいの色白な男の子を連れている。


「ええまあ、実はそうなんです。――あ。念のために言っておきますと、別に道に迷ったとかじゃないんですよ? 道に迷ったわけじゃないんですが、ほら。こうして子どもも連れてもいますし、なるべく疲れないようにスムーズに事を運びたいと言いますか……」


 と、なぜか勝手に言い訳を始める埼先生。


 迷ったならそう言えばいいのに。

 この辺は小路や横丁の先に隠れた名店的な店があることも多く、こういうふうに迷子になる観光客も珍しくない。

 ともあれ、陸はうっかり気味で子煩悩(こぼんのう)なこの家庭科教師に親近感を覚えると、子どもの方に目を向けた。

 するとその子、陸と目が合うなり、


「こんにちは!」


「あ。こ、こんちは……」


 相手の思いがけない元気さにびっくりした陸は、どうにかこうにかあいさつを返す。


 陸が相手の元気さに驚いたのには理由があった。

 それは、埼先生が連れているこの男の子が何かしらの大病と(たたか)っているように見えたからだ。

 彼、キャップで隠してはいるけれど髪の毛が生えていないみたいだし、眉毛(まゆげ)なんかも一切生えていない。


 色白で、毛がなく、なるべく疲れないような配慮(はいりょ)が必要な子。

 そういった特徴をまとめると、出て来る結論はやっぱりそういう子(・・・・・)になっちゃうわけで…… 


「それでですね。さっきの質問なのですが、氷室神社(ひむろじんじゃ)はどのように行けばいいのか……」


「え? あっはい! それなら、ええと――雨綺(うき)!」


 本来の話題に引き戻された陸はハッとすると、雨綺を呼んだ。


「はい! 氷室神社ならおれが案内します!」


「え? いやしかし……」


「大丈夫です。おれ、氷室雨綺って言って、氷室神社はおれん家なんで。――じゃあリック。おれちょっと、この人案内してくるから!」


「おう」


 陸は雨綺から九家稲荷(ここのつかいなり)の鍵を預かると、「しっかりな」と(うなず)いて見せた。

 雨綺は普段の様子こそどこにでもいるただのやんちゃなハスキー犬だけど、こういう時は率先(そっせん)して動いてくれる善良なハスキー犬でもある。


 すると、その様子を見ていたひまりも、


吉乃(よしの)。あなたも一緒に行ってあげなさい」


「はい?」


 吉乃と呼ばれたスッポンさんが、目を丸くした。

 けれど、スッポンさん。その指示に従うのはイヤだったようで、ひまりをちょっと離れたところまで引っ張って行くと、


「なんでです!? あたしが行く理由なくないですか?」

「荷物持ちよ。ほら。子連れであの荷物の量はちょっと……ね?」

「あ~、な~るほ……いや! でもだったらひまちゃんセンパイが――」

「ええ。できればそうしたいわね。けど見て。あの荷物よ。私に持てると思う?」


 スッポンさん、本人はひそひそ話しているつもりなのだろうけど、話が丸聞こえだった。

 それからも彼女とひまりのやり取りは続き――。


「もぉ~分かりましたよぉ~。――あ。すみませーん。絶対これ余計なお世話だと思うんですけど、もし邪魔じゃなければその荷物あたしが持ち――痛い! センパイ二の腕つねらないで! あぁもぉ~! ――前言撤回(ぜんげんてっかい)するので、その荷物あたしが持ちま~す!」


 内緒話の末、スッポンさんは埼先生の荷物持ちになることを名乗り出た。


 ◇ ◇ ◇


 それから。

 雨綺とスッポンさんが離脱し二人になった一行は、九家稲荷神社の鳥居前に到着していた。

 すると、まず口を開いたのはひまりで――。


「ええと、悪いけどちょっと整理させて……木花知流姫(このはなちるひめ)再来(さいらい)に、|奇稲田姫(くしなだひめ)様の顕現(けんげん)川薙かわなぎの破滅。それにキツネの嫁入りって貴方(あなた)……」


 ひまりは胡乱(うろん)な表情を陸に向けていた。

 実はひまりは、陸の様子から彼が何か事情を抱えていることを見抜いていて、ここまでの道すがらその説明を求めていたのだ。


「や。別にウソは言ってないす。あとクシナダ様は子どもになって顕現してて……」


「分かってるわ。けど、この前のこと(・・・・・・)からまだ一ヶ月経ってないのにもう次の事件を、しかも複数同時にだなんて……」


 と、こめかみを押さえるひまり。けれどすぐに気を取り直すと、


「つまりここに来たのは、川薙を守るためってことになるのね?」


「ま~大体そんな感じっす。まあこれはキツネの依頼の方なんすけど」


 なんだかんだと物分かりの良いひまりを仲間に加えた陸は、雄狐(おぎつね)の依頼をこなすため、神社の調査に入った。



(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

ひまり  ……咲久の先輩。高2。クール系女子。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


雄狐(おぎつね)   ……川薙熊野神社かわなぎくまのじんじゃから出て来たおキツネさん。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.9.6 微修正


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