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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
六日目 決着・そして……
77/121

第48.1話 六日目。午後。1-A(一)

 県立川薙(かわなぎ)女子高等学校。4階。1-A教室。

 

 氷室咲久(ひむろさく)の破滅を巡る一連の事件は、顕現(けんげん)した奇稲田(くしなだ)の活躍によって終息した。


 そして、この事件に関わった高校生――(りく)海斗(かいと)朱音(あかね)、そして神霊から解放されたひまり――の四人は、始まったばかりの二柱(ふたはしら)の神の話し合いの行方を、静かに見守っていた。




「では始めるとするが、まずは、そなたの名を申してみよ」

「……木花(このはな)……知流姫(ちるひめ)

「正気ではあるようじゃな。では次の質問じゃが――」

「――。――」


 これは長くなる。始まったばかりのヒアリングに、陸は思った。


 奇稲田が話している相手は、破滅をもたらそうとしたあの神霊だ。半ば強引に依り代(よりしろ)(うつ)された彼女、今、「木花知流姫」と名乗ったようだけど……


 ▽ ▼ ▽


 木花知流姫(このはなちるひめ)


 古事記に登場する国津神(くにつかみ)で、大山津見神(おおやまつみのかみ)が一女。

 その名が示す通り、木花さくらが散る様子を神格化した存在。

 けれど、今回はその権能・領分を超え、陸の命を散らすことに執心していた。


 △ ▲ △


 知流姫? 誰? ――聞いたことのない神様に、陸は疑念を覚えた。

 けれど、今は神同士の話し合いの場。その質問はあとでもいい。


 陸は咲久に目を向けた。

 咲久は今、朱音に膝枕されてすうすうと寝息を立てている。


「よく寝てんな……ま。その方が都合いいけど」


 つい笑った陸。


 今回の件、咲久に知られずに済んで本当によかった。

 もし咲久が知ってしまえば、きっと感謝されただろう。いまいちだった自分の評価も、爆上がりになるはず。


 けど、陸はそれを望まなかった。


 咲久には今まで通りでいて欲しい。

 自分から告白する度胸はないくせに、幸運にも頼りたくない。そんな陸だ。


 それから陸は、教室の光景に目を向けた。




 教室の惨状は目に余るものだった。知流姫が放った「枯れ」のせいで、あらゆる物が「枯れ」てしまったのだ。

 金物は錆び、窓は煤け、合板もボロボロ。

 中でも特にひどいのが震源地周辺で、ひまりのいた床タイルなんかは、完全に塵と化してしまっている。


 もしこの「枯れ」が、校舎全体に波及していたら。奇稲田が現れなかったら。

 自分が今こうしていられるのも、単なる幸運でしかない。




「そう言えば小宮山君さあ」


 気が重くなった陸は、気晴らしに海斗に話しかけた。


あの人(・・・)、誰だか知ってる?」


「知ってるよ。神様でしょ」


「知ってたの?」


「そりゃ神様呼んだのぼくだし」


「ええっ!?」


 驚かせるつもりが、逆に驚いた陸。


「さっきぼくの所に庶民派さんからメッセージが来てさ。言う通りにしてみたら出てきた」


「あ。うん」


 陸はげんなりした。


 なんだそのざっくり過ぎる説明は? あの奇稲田姫の召喚だぞ? もっとカッコいい言い方はなかったの?


「でもぼくも初めて知ったんだけどさあ、神様ってホンットうるさいんだね。こっちはちゃんとやってんのに、『違う、そうじゃない』とか言ってくるし。あ。あと、水槽割れてんの見つけたんだけど――」


「あー、けどクシナダ様の召喚って、どうやったの? やっぱ魔方陣的な?」


「魔法陣……じゃ、ないかなあ? 注連縄(しめなわ)は使ったけど」


「注連縄? そんなのどこに?」


「陸君のバッグ」


「は?」


 また驚かされた陸。

 海斗が自分のバッグを(あさ)ったのは勿論全然いい。けど、注連縄なんて入れたっけ?


「必要な物は全部ジャージ袋に入ってたよ。人形(ひとかた)とか御神酒(おみき)とか。なんか神社のハッピーセットみたいな感じだったけど、知らない?」


「……? ああっ!」


 ちょっと考えた陸は、すぐに思い当たった。

 雨綺(うき)だ。「使えそうな物入れといた」とは聞いていた。けどまさかそんな物を入れてたなんて。


「ん? てことは、くー様=クシナダ様なのか?」


 陸は考えた。

 なるほど。言われて見ればあのメンドクサさは、奇稲田そのものだ。

 でもそれならそうと、最初から言ってくれればいいのに。


 なんか悔しくなった陸は、スマホを取り出した。


[How are you?]


 このぐらいの英文ならギリ分かる陸だ。そして送信。


「あれ? 陸君、今なにかした?」


「まあ見ててって」


 すると、向こうの方で知流姫と話し合っていた奇稲田が、体をピクッとさせて、


「なんじゃ? わらわ今とっても忙しいから、ノットファインなんじゃが?」


「あ。ごめんなさい」


 ムッとする奇稲田に、陸は謝った。

 けれど、妙な可笑(おか)しさがこみ上げてきて、海斗と二人、クックッと笑い合う。


「貴方たち……なにやってんのよ……」


 そんな陸たちに呆れたのはひまりだった。

 彼女、知流姫に()かれた影響か、ぐったりと壁に体を預けて、起きているのがやっとだ。


「そういうの……あまり、感心しないわね」


「ひまセンパイ。やっぱ保健室行きません?」


「大丈夫よ……ちょっと、疲れてるだけ……」


「でも……」


「あ。だったらアタシ、氷室さん連れてくから一緒に行く?」


 陸が心配していると、そう提案してきたのは朱音だった。

 彼女、咲久を膝枕なんてしていて、ほんの数時間前まで迷惑系で通していたとは思えない献身(けんしん)ぶり。


 けれど、そんな提案にひまりは、


「ほっといて。ここまで来て私だけ蚊帳(かや)の外はないでしょう?」


 意地でも最後まで見届けるつもりらしい。




 とにかく。破滅の件は解決した。

 陸たちは話し合いが終わるのを待った。


 ◇ ◇ ◇


 奇稲田がこっちに来るのを見た陸たちは、彼女たちを出迎えた。


「で、結論は出たんすか?」


「ああうむ。まだもう少し詰めねばならぬこともあるが……実は……ちと、面倒な――ああいや。相当マズいことが判明しての」


 言いにくそうな奇稲田。

 彼女がこういう言い方をする時は、大抵破滅関連の話なのだけど――


「ハッキリ言ってくれていいすよ。どうせ神託(しんたく)の期限まではあと1日あるんだし、オレ、別に驚かないすから」


 察した陸は、奇稲田を励ました。


 そうだ。神託では、破滅は最長で7日だって言っていた。

 なら、あと1日ぐらいどうってことはない。こっちは最初から7日のつもりでやってたんだから。


「そうか。そなた、強くなったな」


 気丈な陸に、奇稲田が微笑んだ。そして――


「ならば、わらわも腹を(くく)るとするが……実は、氷室の娘じゃがな。あやつが目を覚ますことは、もう二度とない」


「……え?」


 陸は凍り付いた。


(りく)  ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく) ……ヒロイン。高1。氷室神社の娘。

奇稲田(くしなだ)……氷室神社の御祭神の一柱。陸に協力する。

海斗(かいと) ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

ひまり……咲久の先輩。高2。弓道部。

雨綺(うき) ……咲久の弟。小6。やんちゃな犬みたいな子。

朱音(あかね) ……迷惑系・女子。高1。通称・シュオン。

知流姫(ちるひめ)……破滅の導き手だった神霊。木花知流姫(このはなちるひめ)


川薙市(わかなぎし)……S県南中部にある古都。小江戸。江戸情緒が香るけど、実は明治の街並み。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほあ!? 雨綺くん海斗くんナイスプレー。これで、解決かと。思ったところからの!! 目を覚まさないとは、いったいどういうことで。奇稲田さま、ご説明をぉおおおーーーっ!!(´°̥̥̥ω°̥̥̥…
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