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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai
【第2幕】再来
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第2話 陸と海斗、家庭科調理室に行く

「失礼しまーす」


 海斗が家庭科室に入ると、そこにいたのは一人のメガネをかけた先生だった。


(さき)先生。今日はお願いします」


「……え?」


 きちんとあいさつをする海斗に、調理台に向き合っていたその先生がキョトンとした顔を向けた。


 ▼ ▽ ▼


 土曜日だと言うのにこんな所で作業をしていたこの先生は、家庭科教諭(きょうゆ)(さき)(ゆう)

 1年2組――つまり朱音のクラス担任だ。

 この先生、齢は若く外見もまあまあで、そして何よりも人当たりがよい。そんなだから当然のように生徒に好かれている先生なのだけど、どうにも抜けたところがあるようで……


 ▲ △ ▲


「あれ? 先生、もしかして忘れてました? 福士(ふくし)さんちに行くの、今日ですよ?」


 先生の反応に不審を抱いた海斗が眉をひそめて言った。


「……いや? 忘れてない。忘れてはないですよ? ……忘れてはないんですけど……ただ今ちょっと、次回あなたたちがやる実習の予行をしてまして……」


 と、ちょっと胡乱(うろん)な感じで言い訳を始める埼先生。

 けれどそう言うわりに、先生の前にあるのは甘い匂いのするクリーム状の液体が入ったボールと、火にかけられたフライパンで。


「……でも今度の調理実習、弁当作りでしたよね?」


「いや! ですからですね! これはつまり、次の次の実習の予行なわけでして……」


「……」


 見当違いの言い訳を重ねる先生に、だんだんと失望をあらわにしてゆく海斗。




 土曜日の今日、陸たちがわざわざ家庭科室へと足を運んだのは、不登校を続ける福士(ふくし)朱音(あかね)に会いに行くためだった。

 実は埼先生、朱音の担任と言うことで彼女とは定期的にコンタクトを取っていたのだけど、その朱音が、近頃あまり好ましくない意向(いこう)を示すようになったらしいのだ。

 けれど、その対応に追われることになった埼先生。彼は為人(ひととなり)自体は好いけれどクラス担任としてはまだ経験が浅く、不登校の生徒の悩みにどう向き合えばいいのか分からなかったのだ。

 そこで彼は、一体どこで聞きつけたのか、朱音の友人だという陸と海斗の二人にこの問題を解決するためのサポートを頼むべく白羽の矢を立てたわけなのだ。

 

 けれど、その肝心の埼先生が、今日の予定をすっかり忘れていたようで――。




「先生。そんなことはどうでもいいですけど、ここから駅まで15分として、もう出た方がいいんじゃないですか?」


「いや! 大丈夫。そこは大丈夫です! 今日は車で行くので! ……でですね。悪いんですが、二人は駐車場で待っててくれません? これ片付けたらすぐ追いかけますので」


 埼先生はそう言うと、フライパンにボールの中身を垂らし薄く伸ばし始めた。

 これだけ時間が迫ってもまだやるのか。

 変なところでブレない埼先生に、海斗と陸は失望が一周回って苦笑するしかなかった。


 ◇ ◇ ◇


 職員用駐車場。

 空模様がちょっとずつ怪しくなってくる中、家庭科室を出た陸たちは、言われた通り駐車場で埼先生を待っていた。


「ぼく思ったんだけどさあ。埼先生って、ちょっと咲久(さく)ちゃんに似てる気しない?」


「は?」


 突拍子(とっぴょうし)もないことを言い出す海斗に、陸は心外な顔をする。


 似てる? 先生が? サクと?

 ――どこが!?


「あ。見た目じゃなくて、性格とか仕草とか――」

「似てないよ」


「でもさっきみたいにうっかりなところなんかは結構――」

「似てないよ」


「謝る時のポーズなんかは、すごく咲久ちゃんぽく――」

「ないよ」


 二人の共通点を並べる海斗に、有無を言わせない勢いの陸。


「えー? でもやっぱり似てるような気がするんだけど。他にもさあ――」

「あのね――」


 先生と咲久は似ていない。どうしてもそのことを認めようとしない海斗に、とうとう陸は語り出した。




 あのね。

 サクは先生なんかよりももっとうっかりだし、もっと雑なのよ。

 お節介(せっかい)なのにいい加減で、なんでも首を突っ込む割にすぐ飽きる。

 興味ないことは何回教えても憶えないけど、興味があることでもほどほど。


 そんなサクが先生なんかと同じ? はっ! そんなわけないでしょ!


 あーそうね……じゃあさっきの「『今日の予定、忘れてました?』『忘れてないよ』」ってヤツで考えてみよっか?

 あれがもしサクだったら「『今日の予定、忘れてました?』て聞かれたら『なんだっけ、それ?』」てなるのよ。そのあとの謝り方だって「あーゴメーン」で終わらせるし。


 ……でもまあそれは別にいいよ。

 人にどんな印象を抱こうと、それぞれ感性ってものがあるもの。


 けどね。これだけは言わせて欲しい。

 これはオレが思った中で、サクと埼先生の一番の違いなんだけど。


 埼先生は!


 男じゃないか!




「――ね? だから先生とサクは全然似てないんだって。第一、サクみたいなのが先生やってたら、その学校はもう終わりだよ? オレ、サクに英語教わったことあるんだけど――」


 陸は語った。

 こんこんと語って聞かせた。

 埼先生と咲久がどれだけ違うのかということを。


 けれど海斗はそんな陸を見るにつけ、妙にニヤニヤしだして、


「な、なによ?」


「ううん別に。ただ、やっぱり普段から咲久ちゃんのことをよく見てる人は違うなあって」


「は、はあ!?」


「でもまあそうだよね。こないだ知り合ったばっかりのぼくより、咲久ちゃんのためなら神様にもケンカ売っちゃう陸君の方が詳しいのは当たり前か~」


「ええっ!? や……え!?」


 陸は動揺(どうよう)した。


 そりゃあ、咲久とは付き合いが長いし、その分彼女のことに詳しいのはその通りだ。

 でもそれは、あくまでも付き合いが長いから(・・・・・・・・・)知ってるだけ。

 海斗が陸の本心をどこまで知っているのか知らないけれど、そこは陸的には絶対に譲りたくない一線なわけで。


「違っ! 違うよ! や、違わないトコもあるんだけどそうじゃなくて――!」


 陸はと、一生懸命に口を動かした。


 けれど海斗は、そんな陸に取り合うことはなく――


「あ。なんだろあれ?」


 必死な陸を脇に置いて、もうとっくに他のことに興味が移っていた海斗が、向こうを指差した。


(りく)  ……主人公君。高1。へたれ。

海斗(かいと) ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

(さき)先生……朱音(あかね)の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


川薙(かわなぎ) ……S県南中部にある古都。


【更新履歴】

2025.4.20 微修正

2026.3. 9 微修正


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