第3話 校門と桜
慌てふためく陸を無視した海斗が指差したのは、どんな学校にも一つはあるただの校門――ではなく、そこに出来た人だかりだった。
「ねーあの人なんかめっちゃエモくなかった? ほら。アタシ動画も撮ったし。ね、これSNSに上げてもいい?」
「えー? それ絶対止めといたほーがいーって。だってほら。あの人、なんかヤバそーなオーラ出てたし、バレたらマジヤバいよ?」
「そういやお前さあ、ギャルが好きとか言ってなかったっけ? なんで声かけなかったん?」
「いや俺が興味あるのはギャル語な。つかなんだったんだ、あの木。魔法?」
「いやマジそれな! 何だあれ? マジシャン?」
部活動そっちのけで野次馬になっていたらしい生徒たちの満足そうな会話が耳に入る。
「ねえ小宮山君。あれ、どゆことか分かる?」
「んー、ヤバい系のギャル……ん~」
陸が意見を求めると、海斗は興味深そうに唸り始めた。
エモい。ヤバい。ギャル。そして、木に魔法。――と、なんだか取っ散らかりすぎてさっぱり意味が分からない。
けれど海斗はすぐにポンと手を叩くと、
「……あそっか! カチコミ!」
「昭和の発想!」
陸はツッコんだ。
たしかにヤバい系ギャルってだけなら、そんなことも天文学的確率でワンチャン……いや、ないな。
それに、それだとエモいが抜けてるし、木も魔法ない。そもそも今の時代にカチコミって。
「んん~……あそっか! エモコワ系ギャルが木を魔法の杖にしてカチコミに?」
「昭和の発想!」
陸はツッコんだ。
確かにそれならすべてのキーワードは入っている。けど、入ってたらなんでもいいってもんでもない。
あとツッコんどいて何だけど、これちっとも昭和じゃない。
「えー? なら何だと思うの? 陸君の意見も聞かせてよ」
「え? あ~、と……」
逆に聞かれた陸は困りきった。
そんなの分かるわけない。分かってたらこんなワケ分からん漫才なんてするわけがなくて――
「――や。どうせすぐそこなんだから、見に行けばいいだけなんじゃ?」
「That’s right! じゃあそうしよっか」
こうして二人は人だかりの原因を確かめるため、校門に向かった。
◇ ◇ ◇
陸たちが校門の次馬に加わってみると、そこにいたのは一人の女子だった。
その女子、校門の壁に背を預け、ただただ退屈そうに空を眺めたりなどしている。
それにしても彼女、ずいぶんと目立つ容姿をしていた。
満開の桜のような艶髪をもったいないぐらい無造作に束ね、目尻には目の醒めるような朱のアイシャドウ。
ミニ丈のキャミソールに、デニムのジャケットを羽織り、ダメージ系のスキニーパンツに白のスニーカー。
なるほど。これは噂通りのエモくてヤバそうなギャルだ。
「陸君」
「うん」
二人は彼女の存在を認めると、目を見張った。
別に彼女の外見に魅入られたわけじゃない。
彼女がエモくてヤバいのはたしかにその通りだけど、それ以上にエモくてヤバい物を彼女が持っていたのだ。
それは木の枝だった。
どこにでもありそうな桜の枝。
長さ20~30cmぐらいだろうか。途中で二股に分かれていて、それぞれに3~5輪ほどの桜花をつけている。
その桜の枝、ずいぶんとおかしな枝だった。
今は5月だ。それももうすぐ6月になろうかと言うほどのギリッギリの5月。だというのに、あの桜は今が盛りと花を咲かせている。
すると――
『わっ――!!』
周囲から一斉に歓声が上がった。
彼女の持つ桜の枝に通常じゃあり得ない変化が起きたのだ。
それは、たった今まで咲いていた桜花がはらはらと散ったかと思うと、もう次の花を咲かせていたのだ。
その変化、陸たちが来る前からもう何度も繰り返してたようで、彼女の足元は桜の花びらで埋め尽くされ、さしずめ桜のカーペットと言った様相を呈していた。
「……陸君」
「……うん」
二人はさっきとまったく同じセリフを言い合った。
けれどその表情は苦々しく、周囲の盛り上がり方とは正反対の感情が滲んでいる。
「……やっと来たし」
「う」
ギャルと目が合た陸は思わずたじろいだ。
彼女、今はもう無害になったとは言え、元を正せば紛う方なき陸の敵だった者。
そう。陸たちはこのギャルのことを知っていたのだ。
「つかアンタさあ。今日土曜じゃん。てことはガッコー休みなんじゃん。それが何で来てるし? アンタがガッコーなんか行ったせーで、こっちは見世物みてーにされて、マジ最悪なんだけど?」
桜のギャルこと木花知流姫が、以前と変わらない態度で陸に文句を言った。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
海斗 ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。
埼先生 ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。
木花知流姫……桜の神様。ギャルっぽい。
川薙 ……S県南中部にある古都。
【更新履歴】
2026.3.11 微修正
2026.3.12 微修正
2026.3.29 微修正
2026.7. 3 超微修正




