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第8話 姉妹(エス)の関係

翌日は月曜日。佐藤眞子にとっての初登校の日となった。


「あら、セーラー服。」

「可愛らしいわよね。今の三年生から標準服でセーラー服が選べるようになったのよ。今年の一年生からは必須だけれど。」


珠子は薫子に導かれ、教室へ向かっていた。昨日、緩やかに下ろしていた髪は、今日は2つのおさげにされ、濃い紫色のリボンが結われていた。


校内には袴姿の上級生と、セーラー服の下級生とが混在している。


「動きやすそうで、素敵ね。」

「あら、眞子さんったら。確かに、動きやすいと、皆、言っているわね。」

「私もセーラー服、着てみたかったかも。」

「…誰か、後輩に頼んでみましょうか?」

「いやぁ、そこまでは…。」


真剣な顔の薫子に、つい吹き出しそうになってしまったが、失礼にあたるかもしれないと堪えた。可愛らしかったり、真面目だったり、忙しい人なのである。



四年生はふた組に分かれており、薫子は四年A組、珠子は隣の四年B組だったが、教室まで同行してくれた。


薫子は本当に優しい少女だ。それに加えて美しく、周囲の人望もあり、寄宿舎でも感じたように、学校でも女学生達の憧れの的であった。それでいて、話してみれば気取っておらず、時折見せるユーモアも、また、魅力的なのであった。


四年生の教室にたどり着くまで、何人もの生徒が彼女を振り返っては、その姿を見られただけで心を踊らせている様子だった。



薫子はB組の教室に入ると、琴美ことみという生徒を呼んだ。


「琴美さん、おはようございます。この方、今日からB組に転入する佐藤眞子さんです。ご案内、お願いできる?」

「おはよう。薫子さん。もちろんよ。眞子さん、私、高木琴美と言います。よろしくね。」

「よろしくお願いします。」

「それでは、またね。眞子さん。」


そう言うと、薫子は、A組の教室へ向かった。


「薫子さん、少し元気になったみたいで良かった。」

「え?」

「ほら、寄宿舎で失踪事件があったじゃない?」

「そうなんですか?」

「あら…これ、言っちゃまずかったかしら…」


実は、寄宿舎での1日目、失踪事件に直接関係する話題が一切出なかったのだ。


琴美は口を滑らせてしまったようだと気づき、バツの悪そうな顔をしたが、お喋りは止まらないようだった。


「それでね、二番目に居なくなった三年生の子が、薫子さんのエスだったものだから、ひどく落ち込まれていて。」


エス…というのは、女学生同士、上級生と下級生で結ぶ、特別な間柄のことである。文通をしたり、二人で出かけたりする、親友とは異なる、まるで恋愛関係にも似た、両思いの関係なのである。


「大切な可愛い妹が突然居なくなったのだもの。私だったら耐えられないわ。きっと薫子さんも本当は、心配で気が気ではないのじゃないかしら…」


昨日、バルコニーで寂しそうな顔をしていたのは、その子を想ってのことだったのかもしれない。珠子は、そう思った。


「早く見つかると良いのだけど。でも、もし、このまま見つからなかったら…誰か紹介して差し上げた方がよろしいかしらとも思うの。けれど、薫子さんは、すずちゃんへの純潔を貫くかしらね。

眞子さんは…、前の学校に残してきた妹はいらっしゃらないの?」

「親しい子は何人か居て、今も手紙を送り合う仲だけど、私、妹は持たなかったので。」

「あら。そうなんですの?眞子さんなら、きっと明日にでも、いえ、下校するときにでも、たくさんお手紙をいただくわ。

もし気に入った子がいらしたらおっしゃってね。取り持ちますから。」


琴美は、そう言って微笑んだ。どうやら彼女はエス同士を結びつけることを、我が役目としているようだった。


「いえ、あの…。私、縁談が決まっているの…。」

「あら!そうだったの!」


珠子は、昨夜、寄宿生の前で披露した『設定』を、再度、琴美にも伝え、流石に婚約者のある身では、妹になる子に申し訳ないと、納得してもらった。


「きっと下級生達が残念がるわ…。でも、なるべく傷つく子が出ないように、私が何とかして差し上げましょう。」


珠子は、これは、数日以内に「転入生 佐藤眞子には婚約者がいる」という噂が、学校中に広まるのだろうなと、予測した。


失踪がおおっぴらにならないよう、内密に調査を…と言う話だったが、こういったお喋りな生徒がいるためか、寄宿生二名が失踪したと言う件は、四年生には周知の事実のようだった。


薫子が失踪について話さなかったのは、学校側に口止めされていたり、人の噂をすることをあまり良く思っていないことに加え、なによりも、失踪した女学生と深い仲にあったために、その傷つきから触れたくなかった…のかもしれない。


これは、調査を急がなければと、珠子は思った。

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