第9話 なぜかあったもの、なぜか無かったもの
火曜日の午前中、珠子は、「前の学校で、すでに単位取得済みの教科であるため」という名目で授業を免除され、寄宿舎にて、失踪した二人の部屋の調査を行うこととなった。
一人目の失踪者は、寺内佳苗。四年A組。
失踪に関する記録:
先週日曜日、外出から帰宅後、夕食には顔を見せたが、翌朝、朝食の時間に食堂へ現れなかった。
監督生の薫子が部屋をノックするも、反応はなし。
寮母の柏木先生が合鍵を使って開けたが、本人はおらず、消息が不明であることが発覚。
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おしゃべりな琴美から得た情報では、たいそうお洒落好きな人ではあったが、勉学を疎かにするタイプではなく、成績は優秀で、薫子と一二を争うほどであったと言う。
部屋は、造りは珠子の部屋と変わらないものであった。
部屋の突き当たりに窓があり、その前に勉強机が置かれ、壁沿いにベッド、本棚、箪笥などが備え付けられている。すべての部屋に鍵がついており、本人と、寮母の柏木先生がマスターキーを管理している。
珠子は念のため手袋をつけてから、調べ始めた。いよいよと言う時には警察が調べることになる可能性があるので、余計な指紋を残すわけにはいかないのだ。
部屋は荒らされた様子もなく、綺麗に整えられていた。
窓は柏木先生が所在を確認するために部屋を開けた時から閉まっていたと言う。
まず目についたのは、机の上に飾られた色とりどりのリボンだった。琴美が言っていた通り、随分とお洒落が好きな生徒のようだ。女学生のリボンというのは、濃い紫や、紺など、色味が渋く落ち着いたものが多い。しかし、佳苗のリボンには明るい色が多かった。
珠子がその中からひと際目立つ、赤色のリボンを手にすると、女学生に似つかわしくない香りがした。…タバコの匂いだ。
佳苗は、影では相当の不良だったのかもしれないと、珠子は感じた。
そして、そのリボンのコレクションの中から、いくつか持ち出されたような痕跡があることに気づいた。
更に箪笥を調べると、やはり数箇所、衣類が抜き取られている様子があった。
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次に、二人目の失踪者の部屋へと向かった。
二人目の失踪者は、石井鈴子。
三年生で、薫子のエスの妹であった。
校長らが依頼しに来た時の話では、最近縁談が決まったということだった。
失踪に関する記録:
先週水曜日、寄宿舎へ戻った後、夕食には姿を見せたが、木曜日の朝、朝食の時間に食堂へ現れなかった。
佳苗のこともあったので薫子と柏木先生とで急いで部屋を確認しに行くと、鍵がかかっていた。マスターキーで開けたが、鈴子はいなかった。
夜から朝にかけていなくなった点、部屋の鍵がかかっていたという点が寺内佳苗の失踪と類似しており、関連しているものと思われた。
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鈴子の部屋に入ると、そこには薫子をモデルとした描きかけの油絵が、立てかけられていた。
他にも、ノートや教科書などに、薫子は描かれていた。きっと授業中も、彼女を想って描いていたのだろう。薫子への思いの深さが感じられた。
また、様々な素敵なレタアセットが見つかった。きっと薫子に送るためのものであろう。
エス同士は、毎日顔を合わせるにもかかわらず、学校の下駄箱にお互い手紙を入れておくものなのだ。毎日のように。
しかし、珠子が予想していたあるものが見つからなかった。
本来なら、沢山あるはずであろう、あるものが…
午前の授業の終わりが近づいていたため、珠子はそれ以上の調査を断念した。




