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第11話 夜の寄宿舎にて

 消灯時間から30分ほど待って、珠子は静かに廊下に出た。


 廊下の明かりは消灯後は消されているので、手持ちの燭台に火をつけ、静かに正面玄関を目指すことにした。


 寮母室の前を通ると、すでに寮母室の灯りは消えていた。音を立てないように、正面玄関の扉へ向かう。


 正面玄関の扉を調べてみると、内側からは誰もが鍵を開け締めできる造りになっていた。


 なるほど。物理的には、ここから「出るだけ」なら可能か…と珠子思案していると、ふと、後ろに人の気配を感じたので、どきりとして振り返った。


 すると、そこには物凄い形相の柏木先生が立っていた。


 瞬間的に「怒られる!」と思い、身を固くし、目をつぶったが、お叱りの言葉は降っては来なかった。


 恐る恐る目を開けてみると、柏木先生は安堵している様子だった。


「良かった。貴方だったのですね。」

「すみません。ちょっとした実験と調査をしていたもので…」

「そういうことなら、構いません。また誰か…ここから居なくなるのではと、心配しました。」


 そう言った柏木先生は、涙目になっているようだった。怒られると思い込んだ自分を珠子は恥じた。


 この真面目な先生が、生徒の失踪に、深く責任を感じていないはずなどなく、今も失踪者の安否を気にかけ、次の事件が起こらないようにと常に気を張っていることは明白なのに…と。


「それで、実験と調査は済んだのですか?」

「あと、半分…というところですね。」

「そう…もう遅いですし、貴女自身の身体も大切にしてちょうだいね。」

「はい。ありがとうございます。では、お休みなさい。」

「おやすみなさい」


 柏木先生と別れると、珠子は今度は西玄関へと向かった。


 三年生の部屋の前を過ぎて、角を曲がると、西玄関の方から、同じように手持ちの燭台に灯りを灯した人が珠子の方へ歩いてきた。


「眞子さん?こんな遅くに、どうされたの?」


 そう声をかけてきたのは薫子だった。


「消灯前にトイレに行きそびれてしまって。夜目がきかないものですから、トイレから出た後で、あさっての方向へ進んでしまいました。」

「まぁ、仕方のない方。でも…まだ、宿舎に慣れませんものね。」

「すみません。薫子さんは、見回りか何かですか?」

「えぇ。その…。上の階でどうも二年生がはしゃいでいたようなので見回りに。私が上がってきたのが分かったのか、すぐ静かになりましたけれど。」

「監督生は大変ですね。」

「好きでやっているから、良いのよ。それでは、おやすみなさい。」

「はい。おやすみなさい。」


 そう言って別れると、珠子は今夜は調査を控えようと思い、素直に部屋に戻った。


 しかし、なぜか言い知れぬ違和感を、薫子に感じたのだった。


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