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第五話

「今日はどうされたんですか、山本さん?」

 山本と上田は五條に会っていた。突然の訪問にも関係なく、五條は二人を招き入れ、世間話でも始めるかのように話しかけてきた。

「いや、この前会った時に、五條さんは影山と親しくなかったと言っておられたんですが、あなたの同期の坂本君から、会社関係のアドバイスをもらって仲良くしていたと聞いたので、なぜ嘘をついたのかを教えてもらいたかったんですよ。」

 山本が聞くと、五條は笑いながら、

「ばれてしまいましたか。影山とは確かに仲が良かったですよ。ただ、彼のことを思い出すと涙が出てくる時があるのであまりお話ししたくなかったんですよ。」

「それだけですか?」山本が疑いのまなざしを向ける。

「ええ、影山の葬式の日の帰り道もタクシーの中で大号泣して、運転手さんを困らせてしまいましたよ。」

 五條は笑いながらも少し目に涙がにじんでいる。

「それでは、話を変えて、銀行強盗があった日に金の受け渡し場所になったスーパーに行ってましたよね。よく使うんですか?」

「いえ、秘書をやってくれている人が、あのスーパーは安いと言っていたので、試しに行ってみたんですよ。広いし、色んなものが売っていたので1時間近くいてしまいましたよ。」

 あくまで五條は笑顔で話している。

「その秘書の方に後で確認をしても大丈夫ですか?」

 山本が聞くと五條はさらに満面の笑みになり、

「どうぞ、次の日に彼女に感想を言って、その話で盛り上がったので覚えていてくれると思いますよ。」

「そうですか・・・」

 山本は、五條の態度から秘書の勧めでスーパーを利用したというのは本当であろうことを理解した。

「それでは、篠田さんに頼んだ5億の融資についてなのですが・・・」

「何で、僕が融資を頼んだことを知っているんですか?」

 五條がびっくりしたといった顔で聞いてきた。

「支店長の長田さんが、我々が、篠田さんが犯人グループの一員なのではないかと疑っていることに気付いて、彼の潔白を証明するために教えてくれました。」

「なるほど、篠田君は色々と責任を取ったと聞いたので、心配していたんですが、まさか警察にも疑われていたなんて不憫ですね。」

 かわいそうにといった感じで五條は言い、

「僕も疑われているということでよかったですか?」と聞いた。

山本は微笑みを浮かべながら、

「そうですね。」と言った。

 横で話を黙って聞いていた上田は、警部の微笑みを見たのも初めてではないかと思いながら、疑っている本人に対して、真正面から「疑っています」なんて言えば警戒されて、話が聞けなくなると思っていると五條が、

「僕が銀行強盗犯だとして、その目的は何ですか?

自分で言うのもなんですが、お金には不自由してませんよ。」

 五條は怒るでもなく笑うでもなく、いたって普通の顔で聞いていた。

「影山光輝を死に追いやった三橋への復讐でしょうか。」

「あははは、面白いですね。確かに涙を流すほど、彼の死を悲しんでいますが、復讐をするほど恨んでいるのかというと微妙なところですね。」

「確かにそうですね。じゃあ、本当に三橋を殺したいと思うくらい恨んでいる篠田さん達を殺人犯にしないようにするため、というのはどうですか?」

「そうきますか、『たち』の部分が誰なのか気になりますが、友人が犯罪者になりそうなら、手を貸すかもしれませんね。まあ、あくまで仮定で実際にそんなことはないと思いますけど。」

 山本と五條の議論は白熱している。上田は、ここで口を挟めばまた山本に怒られると思い傍観することを決めていた。

大体、警部はまだ小田の話をしていない。切り札にするつもりかもしれないと思い、黙って議論を見守ることにした。

「では、また話を変えて、佐々木アナウンサーをご存知ですか?」

「ああ、三橋教授を言い負かしてくれた彼女ですか。知ってますよ。」

「それは、友人としてですか?」

「なるほど、佐々木アナの勉強会についても調べが進んでいるということですか?」

「参加したことを認めるんですか?」

「ええ、2・3回影山に誘われていきましたよ。ただ、たくさん人が来られていたときに行ったので、佐々木アナが僕を覚えているかはわかりませんが。」

「そうですね、篠田さんも佐々木アナもあなたを知らないと言っていましたが、篠田さんは融資先のあなたを知らないはずがないのに知らないと言っていましたし、佐々木アナもあなたをかばうために知らないふりをしているということもあると思いますが、その点はどうでしょうか?」

 山本と五條の議論は少しずつ腹の探り合いになっていた。山本は、何かぼろを出さないかと聞くが、五條はどの質問も難なくかわしている。

「それでは、タクシー運転手の林さんについてご存知ですか?」

「さあ、タクシー運転手の名前をいちいち確認しませんし、林という名前はよくありますから、どの林さんの話か分かりませんね。」

 山本は腹の探り合いに意味がないことを感じ、

「それでは、もしも自分の事業計画書が知らないところで、部下に対して迷惑をかけていたとして、あなたならどうしますか?」

 五條は今までと趣旨の違う質問に面食らったようで

「何ですか、それは?」と聞いた。

「いえ、この前、上田に自分の報告書のせいで俺に迷惑をかけることになるならお前はどうするって聞いたら、自分が怒られるのは俺のせいだから何もしないと言ったんですよ。部下にそんなこと言われたら、さすがに傷つきましてね。五條さんならどうするかなと思いまして。」

 五條は、これが世間話なのか、それともまだ聞き込みは続いているのかを判断しきれずに、どう答えるべきかを考えていた。

 山本は五條の様子をうかがっていた。五條は世間話だと切り替えて話してくるか、それともまだ、捜査の途中だと思いはぐらかしに来るか。

 二人の間に沈黙が落ち、考え込む五條を山本がじっと見つめるという様相が続いていた。そして、口を開いたのは五條だった。

「たぶん僕なら、部下に迷惑がかからないように、計画を一部修正して、最終的に自分の望んだ結果を出す方法がないかを考えます。」

「なるほど。」

 山本は微笑んでいる。

「いや、さすがですね。僕もこんな上司の方がよかったと思いんすよ。」

 上田が、状況に耐え切れず割って入る。怒られるかと思って山本を見るが、

「まあ、上田の言う通りですね。すみませんね、最後の質問が世間話程度に考えといてください。それでは帰りますね、お時間頂いてありがとうございました。」

そう言って、山本は部屋を出て行った。上田も挨拶をして、後に続いた。


「警部、収穫ゼロでしたね。」

 車の中で、上田が山本に聞く。山本も

「確かにそうだな。まさか、林の話で、『どの林ですか?』って返してくると思ってなかったよ。

 林のことは確かに世間一般に知れ渡っているから、名前は知っているかも知れないが、そこで強盗の運び役をした林の話に行かないところが、さすがに頭が切れると思ったよ。」

「完敗ってことですか?」上田が聞く、

「いや、五條が犯人だとすると、俺の思い違っていたかもしれない点にも納得がいく気がしたよ。」

「何ですか?」

「もし計画に支障が出たらって質問にあいつなんて答えた?」

 山本は少し楽しそうに聞く、上田が、

「迷惑をかけないように修正して、自分の思い通りの結果の出る方法を探すでしたか。」

「ああ、そうだ。」山本は相変わらず楽しそうである。

「それが何なんですか?」上田は全く分からずイライラしていた。

「もし、五條の最初の計画が銀行強盗と週刊誌での暴露だけだったとして、そこに予想外のトラブルが起こったとして、怪文書を送り、三橋本人に金を送るという作業が追加されたとしたらどうだ。」

「そのトラブルが何のことかわからないですけど、確かにそう考えると、この前警部の言ってた怪文書の送られてきた時期にも納得する余地はありますよね。

 で、トラブルって何ですか?」

「佐々木アナが三橋を言い負かしたことだ。三橋は色んなコネを持っているから佐々木アナ一人テレビに出れなくすることくらいできただろう。」

「じゃあ、五條は佐々木アナを守るためにわざわざ過程を増やしたんですか?

でも、最初っから全部計画のうちってことも考えられますよね?」

「いや、銀行強盗の手口は真犯人の手掛かりゼロ、週刊誌の件なんて、三橋のゼミ生なら誰でもできるし、特定は不可能だろう。

つまりこの二つに関しては、証拠を全く残さずに行われているが、怪文書の送付と金を送り付けるのには、郵便局を介したり、バイク便を使ったりと、調べれば何かしらの証拠が出そうなものばかりで、それまでの完璧な手口からは、考えられないほど雑だ。

 急遽、考えた付け焼刃だったんだろうと考えると、納得できるだろう?」

「そうですね。ただ警部、署でそんなこと言わないでくださいよ、本庁の人とかに聞かれたら何言われるか分かったものじゃないですよ。」

「そうだな・・・」

 山本は確かにそうだなと思って気を付けようと思った。


「おや、今日は上田君はおられないんですか?」

 声がしたので、振り返ると署長が立っていた。

「少し調べものに出てますよ。」

「そうですか、彼は佐々木アナのファンだから話してて楽しいんですけどね。」

「署長はどこで、我々が佐々木アナを調べているということを知ったんですか?」

「人聞きが悪いですね、ただファンだから知っていることを話したとは思わないんですか?」

署長は、普段からつかみどころのない人間なだけに、山本は常にこの人に警戒感を抱いていた。

「都合よく、我々の知らない情報を提供いただけたら、疑ってしまうのが刑事の性ってものじゃないですか?」

「そうですね。それでは、監視役を一人置いたところで、対象者のすべてを把握できると警部はお思いになられますか?」

「上田にも監視役が付いているということですか?」

「例えばですよ。」署長は怪しく笑う。

「三浦ですね。」山本が言うと、署長は笑い、

「さすがですね。そうですよ、三浦君には監視役の監視役をして貰っています。」

「何のためにですか?」

「そうですね、人というものは、いくら疑って対象者に接近したとしても、その人を知ることでその人の言うことが正しいと誤認しかねない。簡単に言うならミイラ取りがミイラになるということですよ。ひとり、ふたり監視役を付けてもその監視役が役に立たなくなれば意味がないですからね。」

「じゃあ、三浦にも監視役がいるということですか?イタチごっこですよね。」

「正確な情報というものは、ありませんからね。結局はとらえる側の求めている情報が真実として受け取られてしまいます。それが社会というものですよ。」

「それで、今日はどのような情報を下さるんですか?俺の推理は課長に却下されて、本庁の人にも認められてないですよ。」

「ミイラ取りがミイラになったという話に関連しますが、勉強会に参加したテレビ局関係者の中に、その会が気に入って、そのまま毎回参加するようになった人もいたそうですよ。まあ、やめさせるために行っていたのに、自分も毎回参加するようになるなんて、まさにそれでしょう。」

「なるほど興味深いですね。で、最後の一人についての情報も持ってらっしゃるんじゃないですか?」

「大学院生・銀行員・商社マンですか?」

「ええ、私の見立てでは、影山・篠田・五條だと思っていますが、本人たちは否定していますから。」

「山本警部、私の話では証拠になりませんし、本人たちは認めないことくらいわかっていますよね。それでも聞きますか?」

 署長は笑うのをやめ、真剣な顔で山本を見ていた。

「ご存知であるなら教えて頂けますか。署長が言ったんですよ、とらえる側が求めている情報が真実なのだと。」

 署長はまた笑いながら、

「そうですね。それでは、商社マンは五條です。そして、彼等こそが『完全犯罪研究会』と呼ばれたグループです。」

「やっぱりそうですか。情報源をお聞きしても?」

「残念ながら、私も多くの人を介している情報ですので、発信元はわかりませんね~」

「そうですか、ありがとうございます。それでは、キーマンはミイラになったテレビ局関係者ということでいいですか?」

「さあ、どうでしょう。」

 署長は相変わらずニコニコと笑っている。その笑顔の裏にいったいどんな本性を秘めているのだろうと山本は思い、署長に対して、

「とんだたぬきですね、あなたは」と言った。

 署長は笑顔を崩さずに、

「誉め言葉として受け取っておきますよ。」

 そう言って、部屋を出て行った。


「へぇ~。署長がそんなこと言ってたんですか。」

 上田が調べ物から帰り、一連の話をすると上田は特に驚くでもなく、普通に返してきたこと驚き、山本が聞いた。

「おまえ、知ってたのか?」

「いや~、三浦が怪しいのは何となくわかってました。仲のいい後輩の話ではあいつは、怪文書の捜査担当で監視カメラの担当じゃなかったそうなので、なんで五條を見つけられたんだろうと思ってたんで。」

「何で、その時に言わなかったんだよ。」

「まあ、三浦自体は悪い奴じゃないですし、情報もあってましたから、いいかなと思ったんです。それに、その件であいつに言ったら、何でもするって言ってたので五條の指紋のサンプルを渡しときました。」

「おまえ、抜け目がないな。で、なんかわかったのか?」

「まだ何もないですね。まあ、ゆっくり待ちましょうよ。1億分の金と怪文書全部についてないか調べさせてますから。」

「お前鬼だな。」

「警部ほどじゃないですよ」

「そっちの収穫は?」

「面白い情報がわかりました。」

「そうか」

 そう言って、二人はにやりと笑った。



「もう勘弁してくださいよ。」

 三浦が疲れ果てた顔で、上田に頭を下げながら、資料を広げていた。

「5万枚の1万円札全部を調べた上に、2・30枚の怪文書まで調べて、まだ何やるんですか?」

「どうせ、鑑識に丸投げしたんだろう?」

 山本が聞くと、三浦は肩を落として、

「そうしようと思ったらさすがに怒られて一緒にやらされたんですよ。」

「つまり、一人でやっていたわけじゃないだろう。」

 上田の一言で、三浦は「そうですけど」と小さくつぶやいた後で、

「でも、僕が上田さんを監視していたのも、上からの命令だったわけですし、上田さんが、警部を監視しているのと一緒じゃないですか。何で僕だけ責められなければいけないんですか?」

 三浦が必死に言っているが、上田がさらりと、

「えっ、別に責めてないけど。お前が勝手に、何でもするって言ったから手伝ってもらっただけだよ。」

「まじですか?」三浦が力なく聞く、

「マジだ。というか、別にお前がそうだと思ってたし、何かショックを受けたわけでもないし、何でお前は謝ってるんだろうと不思議に思ってたくらいだよ。

 まあ、とりあえずお疲れ、もう帰っていいぞ。」

「いや、さすがになんか教えてくださいよ。頑張ったんですから。」

 山本は、上田と三浦のやり取りから、上田は一切怒っている感じもなく、ただの取り越し苦労で三浦は大変な目にあっていたのかと思うと、上田も署長に負けず劣らずのタヌキなのかもしれないと思って、

「三浦、とりあえず結果を教えてくれ。」

「警部も鬼じゃないですか。まあ、いいですよ。

 5万枚あった一万円札には、事件関係者では、篠田・長田と集めるのを手伝った銀行員の指紋しかついていませんでした。手袋などを使用して、金をかばんに移したものと思われます。怪文書についてですが、全てテレビ局関係者の指紋だけでした。」

「収穫なしか。」上田がつぶやくと

「でも、金の入っていたカバンのチャックの部分から篠田の指紋が出ました。」

「篠田の指紋が?」山本が聞き、

「何で早く言わないんだよ。」と上田が少し怒った声で言う。

「しかしですね、鑑識の人が指紋のついていた位置と指が不自然だというんですよ。」三浦は、自分は悪くないといった感じで言い、

「どういうことだ?」山本が聞く、

「チャックの部分なんですけど閉じた後のかみ合った状態の部分に人差し指の指紋しかなかったんです。鑑識の人の言う話では、チャックを占める時にかばんを抑えたのだとすると、かばんの上面に他の指の指紋が付いているはずだが、それもないし、留め金のところには指紋がなかったので、人差し指一本だけ出してわざと付けたような感じだったそうです。手袋が破れてという感じでもなく、くっきりと人差し指の指紋だけがついていたそうです。」

「警部どう思います?」上田が聞く、

「篠田がミスで付けたとは考え得にくいな。何か自分を犯人だと言いたい事情があったのかもしれない。あるいは、犯人宅でたまたま触ったかばんを犯人が知らずに使ったために篠田の指紋がついていたのかもしれない。」

「あと、本業の方の話なんですが・・・」三浦が言い、

「監視か?」と上田がいい、

「違いますよ。怪文書の送られた郵便局とか調べる方なんですけど、いろんな場所から出されていたんですが、一カ所だけコンビニの前にあるポストに投函されていたのがあって、他のもポストに入れられていたんですけど、そのコンビニ前のポストだけ、コンビニのATMの近くにあったので投函している人が写っていたんですけど、そこに黒い手袋を付けた男が投函しているのが写ってて、その日にそのポストを利用したのは5人で、その男以外利用者が特定できたんですけど、その男だけわからずじまいなんですよ。」

「その映像見れるか?」山本が聞く、

「そう言うと思って、その部分だけコピーして持ってきましたよ。」

 三浦はそう言って、DVDを取り出し、プレイヤーに入れて再生した。

顔までは写っていないが、確かに黒い手袋の男が投函しているところが写っている。

山本と上田は何回も繰り返してみて、何かないかと探していると、上田が、

「三浦少し戻してくれ・・・、ここで止めてくれ。」

 三浦は言われるとおりに巻き戻し、映像を止める。

「警部、この襟元に何かバッチのようなものついてませんか?」

 そう言いながら、上田は映像の男の襟元を指さす。山本は確認してから、

「どこかの会社の社員バッチってことか?」

「このバッチ、五條がしていたものと似ていると思うんですけど、どうですか?」

 上田が言うが、山本はそんなところを確認したことがなかったので、

「悪いな、五條の会話の内容はしっかり覚えてるんだが、服に何がついていたかまでは見てなかったんだよ。」

「そうですか。三浦この画面拡大して、五條の会社のバッチか確認しといてくれ。」上田の指示に対して、

「僕まだ働くんですか?結構役に立ってるじゃないですか。ねえ、警部?」

 三浦の助けて下さいよと言った感じの質問を山本が、

「三浦、この男、車に乗ってるぞ。この車の確認はしたのか?」

「えっ?どこですか?」そう言って、三浦がのぞき込む、

「ここだ。少し遠いが男が近づいて行くとドアが開いてるようにも見えるな。」

「本当ですね。」上田ものぞき込んでいる。

「これ、タクシーじゃないですか?あの林の会社のタクシーもこんな感じの色ですよ。」三浦が言うと、山本と上田は顔を見合わせて、同時に

「三浦、確認頼む。」と言った。

 三浦は二人の勢いに負けて、「はい」と言うしかなかった。


「今日は、私にご質問ということでしたが、どのような?」

 山本は一人で、テレビ局に来て、ディレクターの相田に会っていた。

「ええ、いくつか聞きたいんですけど・・・。

 そうですね、一つ目は、台本を作るのはあなたの仕事だと聞いたのですが、三橋を追い詰めるようなものを作れば後でどうなるかくらいあなたは理解してましたよね?それとも、こうなることが分かっていたんですか?」

「いいえ、私の目的は三橋教授を最初にお呼びした時に、佐々木が言いすぎてしまったので、その責任を私の指示でやったことにするために、2回目であえてああいう台本を作りました。

 佐々木の代わりにやってくれたアナウンサーには申し訳ないことをしたと思っていますが、結果として三橋教授が捕まったおかげで、我々の責任は追及されませんでした。」

相田は、特に救われたという感じではなく、淡々と話している。

「そうですか、では次の質問です。

佐々木アナが新人だった頃の勉強会について、あなたも参加されましたか?」

「ええ、私も参加しましたよ。交代で参加することになっていましたから。」

 相田はあっさりと認めた。この程度なら調べればすぐにわかることだと判断したのかもしれないと山本は思い、

「何人か参加したという人に聞いたのですが、あなたは途中から毎回参加されていたそうですね。どうしてですか?」

「別に大した理由ではありませんよ。私は疑り深くて、話について行けずに途中で寝てしまう奴もいたのでそういう奴に任せておけなくなったんですよ。」

 相田の言うことにも納得できる。張り込み中に寝落ちする奴がいたとしたら、自分で張り込んだ方がいいと山本自身も思ったからだ。

「それでは、その勉強会に五條という商社マンが来てませんでしたか?」

相田は少しためらいを見せながら、

「来て・・・、ましたね。」と言った。

「佐々木アナやご友人の篠田さんは来てなかったと言ってましたけど?」

 山本がほころびを見つけたと思い切り込む、

「五條さんは多く来ていた中の一人でしたし、あまり会話にも入ってこない方でした。印象が薄かったので二人は忘れているのでしょう。」

 相田の言うことは、五條と一緒だなと思っていると、相田が、

「警部さんは、今回の事件で誰を何のために捕まえたいんですか?」と聞いた。

「言われている意味が分かりませんね。5億円が奪われたという社会に大きな影響を与えた事件を警察が放置することは社会秩序の維持に問題が発生します。

なにより、犯罪を行った者は法によって裁かれなければいけないですから。」

「社会の秩序なんて、上辺だけじゃないですか。裏では権力者が金に物を言わして、事件をもみ消したり、自分に不都合な報道を指し止めたり、社会は権力者のためにあるのかと言いたくなるようなことばかりではないですか。弱き者が虐げられて、自分の命を絶つ、そんな社会ならむしろ一度崩壊させて再構築させる方がいいと思いませんか?」

「確かにいじめられて、自殺する子供が増えています、上司の無茶な命令に従って、本当に一緒に居たいと思う人を裏切らなければいけないことだってあります。社会は確かに権力者が作る、権力者のための社会なのかもしれません。

でも、諦めて立ち止まれば、前には進めません。

前に進めば、どこかの分岐点で権力者を追い抜かせるかもしれません。可能性を信じてむやみに進めば可能性は広がります。でも立ち止まって無理だと決めつければ結果は変わりません。むしろ、可能性を狭めた分だけ自分がつらくなります。

社会に守られるべきは加害者ではなく、法律を守り、幸せになりたいと思っていた被害者です。

犯罪者を保護したり、更生を信じて刑務所に入れても、再犯者としてまた刑務所に入る人間も増えています。

ならいっそのこと一生閉じ込めておけばいいとも思いますが、今回の事件の様にやりたくもない犯罪をやらざるを得ない人もいます。彼らは更生してまっとうに生きていくでしょう。

でも、それができない人もいます。

だからと言って、犯罪者だからと諦めたら、可能性を失った彼らは、いつまでも犯罪を繰り返すでしょう。どこかで、彼らの可能性を信じて、受け入れる社会ができなければいけない。」

「それでも、犯罪者を許せない人はいますよね。子供を・親を・友人を殺された人は一生そのことを心の傷に今日を生きているんじゃないですか。それでも、犯罪者の更生の可能性を信じろとそういう人に言うのですか?」

「はい。」山本が強く言う。

「あなたはそういうことをされたことがないから、そう言えるのではないですか?対岸の火事に誰も慌てないのと一緒ですよね。」

「私は、小学生のころ両親を殺されました。その犯人は今も刑務所の中で生きています。死刑を宣告されながらもう30年以上刑務所の中でいつ執行されるのかと怯えながら、それでもずっと生きています。」

 相田は驚き言葉も出ない様子だったので山本が続けた。

「私も、その犯人を許せません。ただの逆恨みから両親が殺されたからです。

でも、その犯人は毎日毎日「すみません」と書き続けているそうです。彼は後悔して、何度も何度も私に謝罪の手紙を書いています。死刑が決まったから命乞いかよと思ったこともありましたが。残念ながら彼には、もう何も考える能力がなくなっていただけでした。

死刑への恐怖から気が狂い、廃人の様になり、あの事件の日と、死刑宣告された日を繰り返しているそうです。彼に救いはありません。あるとするなら、それは死刑が執行されることだけでしょう。」

 山本の言葉は、最初は、淡々と、次第に語気が強まり、最後はまた淡々と、言い放つ。相田はまるで身内の人間が死刑囚になったかのように、その人に同情しているかのような最期の言葉が気になったが、

「何も知らずに失礼なことを言いました、すみません。」と言うと山本が、

「いえ、重い話になりすぎましたね。今回の事件の犯人を逮捕する意味ですが、法律を守り、毎日を一生懸命生きている人を守るため、そして、そういう人が犯罪者にならないためです。

今回の事件でも実行犯になった二人は、辛く厳しい状況の中、一生懸命に家族とともに生きていました。でも彼らは、今、犯罪者として裁かれるのを待っています。

誰かの法益を守るために誰かを犠牲にしなくてはいけない、そんな悲しい事件が今後起こらないためにも、しっかりと今取締っておくことが重要なんです。

 おそらく、この事件が引き金となって、刑法の法整備は進むでしょう。

実務で対応できない問題が起これば、そのための法整備が行われるからです。そうして、法律が少しずつでも国民の幸せな生活を守るための法律に変えていくしかないんです。」

「未来の犯罪者を減らすために、今の犯罪者を重く罰するということですか、刑事政策の特別予防というやつですよね。それでは、完全な法律ができるまで国民は我慢しろということですか?」相田が問いかける。

「いいえ、一つ壁を壊せばきっと視野が広がり、次々に問題を発見でき、その改正が進む。そうなれば、今の停滞した状況は改善され完全な法律ができると信じています。」山本は前もって準備していたかのようにすらすらと答えた。

「空想論ですよね。壁を壊せずに、防波堤に波が押し寄せては帰っていくように従来のやり方の中でどうすればいいかを考えることしかできないのではないですか。法の整備は進まない。そして、枝分かれした法律に少しずつ特別法という名のその場しのぎを行うことしかできない。それが今の政治家ですよ。」

「そうかもしれませんね。」山本はあっさりと認めた。

 山本はスーツの内ポケットから写真を取り出して、相田に見せて、

「ところで、この写真に写っているのはあなたですよね?」と聞いた。

 相田は、写真を見て驚いたが平静を装い、

「そのようですね。」とだけ答えた。

「あなたが林さんの借金を返済した人ということで間違いないですよね?」

「ええ、彼には何度もお世話になってますし、この写真が出てきた以上知らないとも言えませんからね。」

「そうですか。ありがとうございます。」

 そう言って、山本は写真をポケットにしまった。そして、

「お時間頂きありがとうございました。

あなたとの議論はとても楽しかったですよ。ただ時間に余裕がなくて、もっとお話ししたいことが山ほどあったので残念ですよ。」と言って帰ろうとする。その背中に向かって相田が、

「あなたが先ほど言っていた法整備に関する話は三橋教授の書いた論文にあった内容と一緒でしたが、あなたは彼の信者か何かですか?」と聞いた。

 山本は、立ち止まり、背中を少しひねってこちらを見て、

「あの論文を書いたのは俺なので、あいつの信者なんてありえませんよ。」

 その言葉にはゾッとするほどの力がこもっていたが、山本はすぐに笑顔になり、「あいつには信者なんていませんよ」と言って、笑いながら去っていった。

 相田は、その背中を見ながら、質問をさせないために余計な話をしたこともバレていたこと等から、あの人は敵にするのはやばいと思った。


「どうでした?あのディレクターの方は。」

 上田が山本に聞く、上田も自分の調べものが終わったので山本に合流するためにテレビ局の駐車場で待っていた。

「ダメだな。なぜ犯罪者を取締るのかという議論が白熱しすぎて、聞きたかったことの3分の一も聞けてない。」

 山本が珍しく、やってしまったという感じで落ち込んでいるように見えたので、それを見て上田はニヤニヤしていると、

「何、ニヤついてるんだよ?」と山本が聞いてきた。

「いえ、なんでも。で収穫は何だったんですか?」

「林の借金を払いに行ったのが相田だったことと、五條は確かに勉強会に参加していて、相田とも面識があったことだろうな。」

「えっ?それだけですか。そんなの確認するだけの項目だったじゃないですか。」

「だから、落ち込んでんだろうが。」

「あの、台本の件はどうだったんですか?」上田が聞き、

「ああ、佐々木が言いすぎたから、その責任を自分が取るためにあえてとか言ってたな。」投げやりに山本が言う。

「まあ、いいじゃないですか。そんな日もありますよ」

 上田は最後の方は笑いを堪えながら言った。

「さっきからなんだよ。」山本が少し怒り気味に言う。

「いえ、珍しく警部に収穫がないので・・・」

「そういうお前はどうなんだよ?」山本が語気も強めに聞いた。

「はい、銀行の行員の話では、五條は来店する時、必ず大きな紙袋を持ってきていたようです。で、帰る時には、その紙袋はなくなっていたということでした。」

「その紙袋に爆弾の偽物を入れて、来店するたびに仕掛けてたということか?」

「いや~、僕も最初はそう思ったんですけど、どうやら手土産が入っていたそうで、篠田や資産運用の担当者、支店長にまではこのお菓子を持って行ってたそうです。」

「ただのご機嫌取りのための差し入れをしていただけだったということか?」

「かもしれないですね・・・。」上田が尻すぼみで言う。

「お前よく俺の収穫のないのを笑えたよな。」山本はあきれたといった感じで言う。上田もここで、何か言い返さないとこの後からが怖いなと思い、

「でも、五條には誰にもわからない空白の時間がありました。」

「どういうことだ?」

「行員の話では、その手土産は必ず自分でその人に渡しに行っていたそうです。その人と色々話しながらだったみたいで人によっては10分~20分話していることもあったそうで、その渡しに行っている間は、行員が案内することもなく、一人で自由に銀行内を歩き回っていたそうです。

そして、毎回来店から1時間半くらいで店を出てました。各種相談には20~30分くらいの時間がかかっているので、それ以外の1時間は手土産をもって話しまわっていたということですが、日によって、それぞれ5・6分くらいしか話していなかったこともあるということなので、それ以外の時間が空白の時間になります。

防犯カメラに写っている時もあればそうじゃない時もあって、行方が分からない時もあったそうなので、この間に仕掛けていたのではないかと考えられます。」

 上田は一応、収穫があったというように報告したが、自分でもこの考えは間違っているだろうと思い、チラッと山本をみる。山本は何か考えている様子で、

「五條はどれくらいのペースで、来店していたかわかるか?」と聞いた。

「来ない時は本当に全く来ないそうですけど、多い時では週に3回くらい来ることもあったそうです。」

「そうか・・・・」山本は考え込んだ後、

「上田、調べてほしいことがある。」と言った。



「俺は忙しいから切るぞ。」

 山本は、久々にかかって来た黒木からの電話に出た後、そう言った。

「まあ、待てよ。この前、坂本君を紹介してやっただろう。」

黒木が切るなよと言いたげに言い、山本が、

「いきなり監査室に呼ばれて、何事かと思ったぞ。」

「いや、そこは坂本君に怒るところであって俺に怒られてもな。」

 そう言って黒木は笑っている。

「で、黒木本題は何だ?」

「お前が全く教えてくれないから、こっちから聞こうと思ったんだよ。」

「捜査情報は部外者には教えられない。」山本がきっぱりという。

「じゃあ、こちら側の情報を教えてやるよ。強要罪についての改正案の策定が急ピッチで行われてるよ。今回の事件で警察も検察もどうしていいかわからないじゃあ世間に何と言っていいかわからないからな。」

「今日、あった人から政治家は特別法という名のその場しのぎしかできないと言われたが、その点についてはどのようにお考えですか黒木衆議院議員様?」

「ふざけるなよ。有識者だ何だって人にいちいち意見聞いてまとまらなくて、仕方なくその場しのぎしてる議員は多いとは俺も思うが、今回は条文の改正を行う予定だから大丈夫だと思いますよ。」

「政治家の信用のなさだろうな。金の問題から失言の連続、何か自分に不都合なことがあると知らんぷりか、秘書に押し付けて自分は安全圏にいる。

そんな政治家しか報道されないから、国民は政治家というものに批判的な考えしか持たない。国家の崩壊につながりかねない重大問題なのにその辺の法整備がされる兆候すらない。」

「政治家として、耳の痛い話だよな。年寄りが力を持ってて、俺みたいに若い方の議員には発言権すらないこともある。学生の部活と同じで先輩にダメな奴しかいないと後輩もダメな奴になるんだよな。」黒木が残念そうに言い、山本が、

「染まらずに自分を持ち続けるか、流されてなりたくなかったものになるかの二択なら、誰でも最初は前者を選ぶのに次第に後者になってるもんなんだよ。」

 上田はこの二人の話は常に難しいと感じていたが、その一番の理由は、この二人の話の着地点がわからないことだ。

そこらの世間話をしている人に対して不毛な話だと思うことはあるが、この二人の話は国を本当にそう変えるかもしれないと思わせるほどの説得力がある。ただ、実現できるものかは不透明であるために理解できない。要するに他の人が何年も何十年も先に考えるようなことを今話しているようなものだからだ。

「まあ、残念ながらそうだよ。力を得ようと思ったら、力を持っている人間に近づく必要がある。そのうちに、そいつのやり方に染まって本来の自分を見失う。

いやな連鎖だよ。」黒木が言う。

「簡単なことだろう。悪いことしてるやつは全員逮捕して政治家を一生できないようにすればいい。

 何なら、人数を減らして、何年かに一度、選挙と同時に解任すべき政治家も選ばせればいい。収賄疑惑の出た政治家は検察に全てをさらしてシロだと判断されなければ逮捕すればいいし、失言の多い政治家は国民から信頼を失えばどんな役職でも政治家でなくなる。そうなれば不用意な発言や信用を失うようなことができなくなる。」

「政治家の在り方自体を変えなければ、もう国民は政治家を信用しないということか山本。寂しい国だね。」

「失ったものは、そう簡単に取り戻せない。それが世界に何個あるかわからない真理って奴の確実に一つだよ。」

「信頼は一度失えば、もう帰ってこないかもしれない。そういう意味では、俺も他の政治家もその辺を考慮して常に行動しろということですか山本警部。」

「そうだな。ついでに今日会った人が言ってたぞ、社会は権力者のためにあるのかってな。」

「今日は、本当に耳の痛くなるような話ばかりだよ。その人にまた会うことがあったら、言っといてくれ。」

「何と?」

「権力者だって全知全能じゃない。だけど、諦めなければ弱者のための社会を作ることはできるから諦めないでくれと伝えてくれ。」

「なるほど。似たようなことを俺がすでに言ってるが、それでも伝えるか?」

「マジでか。じゃあ、止めとくよ。おっ、そろそろ時間だな悪い次の仕事があるから切るぞ。」

「お疲れ様です。」山本は電話を切り、上田に向かって、

「あいつの言うことはいまいちわからんな。」と言った。

 上田は「あはは」と笑いながら内心は、「あなたの言うことも分からなかったよ」と思った。



「あの~、警部・上田さん、こんなにお菓子買ってどうするんですか?」

三浦がお菓子の箱を運びながら、二人に問いかける。

 山本は長田から聞いた覚えている限りの五條からの土産を教えてもらい、いつも持ってきてたという大きな紙袋を用意して、ついでに爆弾の偽物の大きさと同じの箱を用意して、上田の立てた仮説の実験を行っていた。

「長田・篠田・資産担当者の3名にしか土産を持って行ってないのに明らかに大きな紙袋だな。」山本が言うと、上田も

「そうですね、もう一つ分くらい入りそうですよ。」

「あの~、お二人とも僕の存在は無視ですか?」

三浦が自分の問いを無視して、話している二人に聞く。

「ああ、悪いな。もう帰っていいぞ」山本が言い、

「おつかれ。」上田も続く、

「ひどくないですか。お二人に頼まれたこと報告に来たら、いきなりお菓子大量に運ばされるし、その上、報告聞かずに帰っていいって本当に鬼ですね。」

「なんか頼んだか?」山本が言い、

「えーと、何でしたっけ?」上田もいい、二人そろって

「何だった?」と聞いてきたので、

 三浦は怒りながら、

「いや、防犯カメラのバッジについてと、タクシーの確認ですよ。調べるのかなり大変だったんですよ。」

 山本と上田は手を打ち、二人で、

「で、結果は?」と聞いた。

「バッジは、五條の会社の物で、つけているのは上層部の人間だけの限定品でした。あと、タクシーは林の会社の物でした。」

「おお、いいぞ三浦。すごく役に立ってるじゃないか。」

 山本が少し棒読みで言い、上田も「すごいすごい」と繰り返している、

「帰りますよ。」三浦が怒りながら言うと、

「冗談じゃないか。で、乗っていた人も特定できたなんてことはさすがにないよな。」山本が本当にすまんというふうに言う。

「さすがにそこまではしてくれないんじゃないですか。」

上田は少し、三浦を試すように言う。

「わかりましたよ。乗っていた人ですが、五條でしたよ。」

 山本と上田は、最初は冗談だと思って、聞き流したが、三浦が真剣な顔をしているので次第に本当かもと思い、山本が聞いた。

「本当にか?」

「だから、そう言ってるじゃないですか。こんな時に冗談言いませんよ。」

 三浦がまた怒りながら言った。

「どうやって確認したんだ?予約名とかか?」上田が聞き、

「いいえ、ドライブレコーダーですよ。最近のタクシーは強盗とかのために車内向きの防犯カメラ的な感じでレコーダーがついてるんですよ。」

「ばっちり写ってたのか?」山本が念を押す。

「ええ、そんな疑うならこれ見てください。」

 そう言って、三浦はDVDを手渡して、自分の本来の持ち場に帰って行った。

 山本と上田は顔を見合わせた後、渡されたDVDを見つめて、

「見てみるか」と山本が言い、上田が「はい」と答えた。



「さて皆さん、お忙しい中お集まり頂いてありがとうございます。」

 銀行強盗のあった現場の銀行に、山本と上田は、事件の関係者を集めていた。

 土曜日で、銀行には山本達しかいない状況である。

「何なんだね、こんなところに連れてきていったい何のつもりだ、山本君」

 最初に口を開いたのは、強盗グループの疑いでいまだ拘置所暮らしが続いている三橋教授であった。山本は静かに、

「三橋さん、久しぶりの外だからと、はしゃがないでください。今回の事件について、犯人が分かりましたのでそれを皆さんにご説明したくて集まってもらったんですよ。」

「それでは、私の無実が証明されたということだな。」

 三橋が嬉しそうに言うと周囲に嫌悪な雰囲気が漂う。当然ここに集まっている人間は影山のことで三橋を恨んでいる人間ばかりなのだからしょうがない。

「そうですね。銀行強盗についての無実は証明できそうですが、論文の盗用に関していうと、あなたはクロなので、また当分は拘置所暮らしだと思いますよ。」

「どういうことだ。私はそんなことしていない。」

 いまだにしらを切ろうとする三橋に山本が一喝する。

「誰に向かって知らきってんだよ三橋。俺が、お前をクロだと言えば、お前は逃げようがないんだよ。それに黒木が動いてる、もうお前は逃げられないんだよ、諦めろ。」

 三橋は膝から崩れ落ちて、

「お前たちの代がいつも私の邪魔をするな。それでなぜ私をここに連れてきた?捕まえるだけなら拘置所から出す必要がないだろう。」

 三橋は諦めたのか力なく聞く。

「当然、お前は知らなければいけないからだよ。この事件は全てお前の犯した罪が原因で起こったのだから。」

「影山か。全く死んでもなお私に迷惑をかけるとは・・・」

 三橋が言い終わるその前に篠田の拳が三橋の顔面を強打した。

「お前なんかのせいで、光輝が死んだかと思うと今すぐお前を殺したくなるんだよ」

 篠田の怒声が、あまりに人の居ない広い銀行にこだまする。上田が間に入り、篠田を三橋から引き離す。山本が

「三橋、彼は大学時代からの影山の親友で、この銀行の行員の篠田さんだ。

あと、発言には気を付けろよ、この場所にいるのは俺と上田を除いて、全員が影山関係でお前を恨んでいる人ばかりだからな。」

 それを聞いて、三橋はキョロキョロと周囲をうかがう、

「おい、なんであの生意気なアナウンサーがいる?それにそこの男は確か銀行の支店長だろう、なぜその男からも恨まれなければいけない。」

 何が何か全くわからず、三橋はずっと周囲を確認している。

「佐々木アナは、影山の大学の同期で、篠田さん同様に親友だ。そして、この支店の支店長は、お前のせいで自殺した影山光輝の本当の父親の長田さんだ。」

「な・・何だと・・・・」

 三橋は驚きすぎて次の言葉が出てこないといった感じで、先ほどの自分の発言を思い出したのか長田に向かって土下座し、

「申し訳ありませんでした。まさか・・・・」

 三橋は謝罪しようとするが次の言葉が出てこない。すると長田が、

「その謝罪は、息子を死なせたことについてですか、それとも、先ほどの暴言に対してですか、それとも今までのこと全てにですか?」

 長田の声は少しずつ涙声になる、篠田がハンカチを取り出し、長田に渡す。

三橋はいまだに何も言えず、ただ頭を下げた状態で固まっている。

沈黙の後、口を開いたのは、五條だった。

「山本さん、もしかして三橋元教授を除いたすべての人が共謀して、この事件を起こしたと言いたいんですか?」

 そんな馬鹿なといった感じで五條が言う。

「いいえ、この中で今回の事件に加担していない人はいます。」

 山本が三橋を見ながら言う。三橋は口を開いた五條を見ているが、五條に関して思い出せないのか不思議そうな顔で五條をじっと見ている。

五條が、

「僕のことを思い出せないんですか三橋元教授?」

 山本は五條の言う「元」の部分が強調されていることに気付いたが、何も言わないでいると、三橋が顔を上げて

「誰だ、お前は知らんぞ。」と言った。

「24期の五條進です。ああ、あなたは自分に役に立つ論文を書いた人しか覚えてないからそうなるだろうとは思ってましたよ。僕の書いたのは企業のコンプライアンスについて犯罪との関係性に関するもので、あなたは題名を見た段階で見もせずに片付けましたからね。」

 三橋は言われても思い出せないようだった。そんな三橋を見て、五條がさらに続ける。

「あなたに覚えていて欲しいと思ったことはありませんから結構ですよ。

それで山本さん、加担していないというのは誰ですか?」

 五條は冷ややかな目で三橋を見下しながら、山本に聞いた。

「単刀直入に言うと長田さんだけですね。」

 山本の話を聞いて、驚いた様子なのは三橋と長田だけだった。ここで初めて佐々木が口を開いた。

「それは違うと思います。私はただ自分の仕事をしただけです。あと、相田さんに関しては、影山君や篠田君、五條さんとだってそんなに深い関係はありません。

なのになぜ、相田さんまで含まれているんですか?」

「そうですね。相田さんが彼女の勉強会に我々と一緒に参加していただけで、一緒にされては相田さんがかわいそうだと思います。」五條が言う。

「五條さん何を・・・」佐々木が言いかけたところで、相田が、

「私のことはもう警部さんもご存じだから隠す必要はないよ。」と言った。

「そうですか・・・」

 佐々木はまだ納得していないといった感じで黙り込んだ。次に長田が、

「警部さん、篠田は何も悪いことはしていませんよね。彼は彼の仕事をしただけなのだから。お金を用意したのも、融資のためですし、それに、彼には銀行強盗をするメリットがありませんでした。」

 長田は必死に篠田を守ろうとしているが、山本が

「篠田さんのメリットは当初、何もありませんでした。彼にメリットが生まれたのは、小田さんが銀行を出た後でしょう。そうですよね篠田さん?」

「何のことかわかりませんね。銀行マンにとって経歴に傷がつくことは大変なことです。今回のことで次長からの信頼も失いましたし、私にはデメリットだけしか残りませんでしたよ。」

「あなたは、他にも気づいたことはあったと思いますが、今回の事件を利用して、長田さんを銀行の幹部にしようと思ったんじゃないですか?影山さんの父親である長田さんを辞めさせないために。」

「何言ってるんですか?支店長はご病気を理由に退職される予定だったんですよ。私の一存でそんな無理をさせるわけにはいかないじゃないですか?」

「次長さんにお話を伺いました。長田さんに対しての銀行幹部内の意見は割れていたそうですね。次長さんは長田さんに残って欲しがっていたが、敵対派閥からは強硬に反対されていた。そのために長田さんは、自分から幹部入りを断ったと聞きました。今回の事件で敵対派閥も文句が言えなくなった。そのおかげで幹部入りが決まった。」

「例え、そうだったとしても、それは上層部が決めることで私には何もできませんよ。」篠田は必死に反論している。

「次長さんが、事件後すぐに篠田さんから電話があり、今回の責任はすべて自分が負うから、これを契機に長田さんの幹部入りを上層部に打診して欲しいとお願いしたそうですね。」

 篠田は下を向いて、黙り込んだ。そこに長田が

「本当か篠田?何でそこまでしてくれる。光輝の友達だからと言ってそこまでしてくれなくても・・・」

 長田が言い終わるより早く、篠田が

「違うんです。確かに最初は光輝のお父さんだと知って、この人のために何かできたらと思ってました。それで支店の立て直しをすることで少しでも立場が向上すればと思って、必死に仕事をしていると前評判も悪かったですし、そのせいで同僚との仲がうまくいっていない時に、支店長が間を取り持ってくれたことで私はこの支店の皆さんともうまくいくようになりました。このご恩を返すためには、とずっと考えていて、今だと思ったんです。」

篠田は下を向きながら、涙を流している。長田が近づき自分のハンカチを渡していると、五條が

「感動的な場面ですね。篠田君は支店長さんのために動いただけで、強盗自体には全く関係ないですよね。まさか、この感動の話が事件に加担したというのではないですよね?」

「ええ、違います。篠田さんが気付いたことは、長田さんを助けるための手段に利用できるという前に、この状況について思い当たることがあったんじゃないかと思うんですよ。」山本が言う。

「何ですかそれは、篠田君は何に思い当たったんですか?」

「昔、影山さんや佐々木アナ、相田さん、自分そして五條さん。

あなた方が行っていた『完全犯罪研究会』で出た完全犯罪計画に似ているということじゃないですか」

「何のことかわかりませんね。大体、そんな計画をなぜ立てていたんですか?

 まさか、あの事件のために何年も前から計画していたとでもいうんですか?」

 五條がありえないといった感じで言う。

「いいえ、完全犯罪は存在するということを理論上成立させるための研究会だったと教えてくれたのは五條さんですよ。」

「そうですね。『完全犯罪研究会』について教えたのは僕でしたけど、ならなぜ僕は自分たちのことを警部さんに教える必要があるんですか? 

 おっと、これは僕がそのメンバーだと仮定するならですけど。」

「挑戦状だと思いました。実際に黒木の名前を使ったそう言うものも届いてましたしね。なぜそんなことをする必要があるかはわかりませんが。」

 山本も五條も淡々と話しているが、そこには相手を言い負かすための熱意などなく、ただ事実を棒読みで言っているような雰囲気がある。

「じゃあ、わかりました。そういうことで話を進めるとして、篠田君は銀行強盗の犯人がメンバーの誰かだと気づいたとして、彼は何をしたんですか?

 気づいたのは強盗が去った後なら彼には何もできませんよね?」

「ええ、だから、彼は後日、犯人の部屋であることをしたんですよ。」

 それを聞いて、篠田は長田から受け取ったハンカチで涙を拭いていたのをやめ山本を見ている。

「何をしたんですか、彼は?」まだ余裕のある五條は聞く、

「三橋に送るためのバックに自分の指紋を付けたんですよ」

「なぜそんなことをするんですか?」

「真犯人を守るためですよ。最悪自分に疑いがかかるようにです。」

「じゃあ、篠田君は共犯ということですか?」五條が聞く、

 さすがに少し語気が強くなったように山本は感じた。

「いいえ、おそらく真犯人は否定したでしょう自分ではないと。そのため、ひっそりと指紋を付けたんですよ。」

「そこまでする必要が全く分かりませんね。」五條が落ち着きを取り戻して言う。

「そうですね。今回の事件、俺の推理が正しいなら、関係者が全員をかばおうとしたことで計画が崩れてしまったのではないかと思います。

銀行強盗と週刊誌での三橋の論文盗用暴露までは、犯人に繋がるものは何もありませんでした。

 でも、あることをきっかけに計画は変更されて、そのために我々は犯人を特定する証拠を見つけました。」

「何ですか?そのきっかけとは?」五條が聞く、

「佐々木アナが、番組で三橋を強く追い込んだことです。犯人の計画では、おそらく週刊誌が出た後で、一斉に三橋に対しての批判が高まる予定だったのでしょうが、予想外に早く三橋はテレビに登場し、そして佐々木アナが真っ先に三橋を批判してしまった。」

 相田がこれを聞いて、

「何がいけなかったんですか?それに、三橋教授をキャスティングしたのは私ですよ。」と言った。

「三橋の二回目の出演時あなたが、台本を過激なものにして佐々木アナを守ろうとしたのと一緒ですよ。一斉に批判が始まれば、三橋は誰を責めることもできないが、誰かが突出すればその人に対しての嫌がらせが行われる。

 犯人はテレビで自分の友人の佐々木アナが一番に批判してしまったことで、彼女を守るための何かをしなくてはいけなくなった。」

 佐々木アナが、相田の方を向いて本当ですかと言った顔をしている。相田は下を向いて黙り込んだ。五條が、

「それで結局、犯人は何をしたんですか?というか、それだけで計画を変更する必要性はないですよね。論文の盗用がばれれば三橋元教授の地位は失われ、影響力もなくなるのだから。」

「まあ、他にも予想外のことはあったのですがそれは後にして、犯人がしたことは怪文書を送ることと三橋を犯人グループの一員に仕立て上げることです。

 ちょうど、三橋が犯人を褒めるような言動をしたので、それに便乗したんでしょう。怪文書で三橋を恨んでいる人間がたくさんいるということを世間に知らせ、そして犯人グループとして逮捕させることで信頼を一気になくし、早急に影響力をなくし、かつ、三橋を真っ先に批判した佐々木アナが正しかったような印象を世間に与えた。この点では、成功してますね。」

 五條は黙り込んで、何か考えている。山本は篠田に向かって、

「篠田さん、あなたは犯人に対して、接触し、疑いの目を自分に向けることで捜査をかく乱しようとした。当然、調べればあなたがシロだということがわかる。

 あなたの加担したのは捜査のかく乱です。残念ながら5億円の用意、それの受け渡しに関しては、あなたは業務の中で行っているため、何も罪に問えるようなものはありませんし、奪うために用意したと立証することができないので、あなたに適用できる法律は、犯人蔵匿・隠避罪くらいでしょう。」

「たまたま、そのかばんに私の指紋が付いただけということもできますよね?」

 篠田が言うが、

「いいえ、故意に付けなければ人差し指一本だけの指紋は付きませんし、何よりついていた場所がおかしすぎます。あれはわざと付けたものですね。」

「佐々木アナや相田さんはどんな形で加担したというのですか?」

 考え込んでいた五條が山本に対して聞いた。

「今回の事件が、影山を死に追いやった三橋の社会的立場をなくすことを目的とした復讐だったと仮定すると、知らず知らずのうちに、相田さんはその対象をテレビという公の場に連れ出し、佐々木アナが強烈に批判したことで、世間一般に三橋という人物に対して注目が集まり、そして、週刊誌の存在を知った、相田さんが二回目の時に用意した台本は確実に三橋を追い詰めるためのものだった。

 佐々木アナと相田さんは、知らずに仕事をしただけだが、その中で三橋に対しての恨みから過剰な批判で三橋の社会的立場を失わせることに大きく貢献してしまったんですよ。当然、彼女たちは、いささか行きすぎた部分はありましたが、業務の中で行ったことで他にも同じように報道した人たちもいますから、罪に問うことはできないでしょう。」

 山本が言い終わると、黙って話を聞いていた三橋が、

「じゃあ、誰なんだ、誰が私を・・・」

 三橋はそろっている人間を見渡し、五條で目を止め

「お前かー。」と言って詰め寄ろうとする。

 すかさず上田が間に入り、三橋を止める。五條は平然と、

「この場にいる人間で、消去法で行くと、犯人は僕ということですか?」

と聞いた。山本はうなずき、

「そうなりますね、今回の事件であなたにとってのメリットは多すぎますからね。」

「例えばどんなことですか?」

 何かありましたかと言ったふうに五條は言う。

「そうですね、影山の敵討ち、恩人二人の地獄のような日々の改善と言ったところですか?」

「恩人とは誰ですか?篠田君や佐々木さんですか?」

「いいえ、実行犯をした小田さんと林さんですよ。」山本が言うと、五條は驚き、

「な、何のことかわかりませんね。何を言っているんですか?」と言い、

「五條さん、調べは付いています。窓際社員で、いつリストラされてもおかしくない小田さんに、会社の功労者だとして退職金として5千万渡したことも、小田さんの元部下のやっている会社への再就職を用意したことも、小田さんの奥さんや石塚さんからすでに聞いています。

闇金に金を借りて苦しい生活を送っていた林さんのためにお金を用意して、相田さんに支払ってもらったこと、自分の会社を利用して、彼をクビにしないために抗議を入れさせたこと等、すべてわかっています。」

「小田さんについては、会社の恩人ですが、なぜ僕がタクシーの運転手のかたにまで、恩を感じなければいけないんですか?」

「あなたが初めて林さんのタクシーに乗ったのは1年前ですよね。

影山の葬式の帰りだったんじゃないですか。」

「だからなんで・・・」

 五條が言いかけて下を向き

「もうわかってるんですよね?」と聞いた。

「ええ、林さん本人に、あなたについて聞きました。喪服で乗ってきて、とりあえず出してくださいと言われて、4時間以上、町中を走ったそうですね。」

「そうですね。影山が死んだこと、何でその前に助けることができなかったのかと考えていたら、自分のふがいなさがどうしようもなく嫌になって、そんなときたまたま、ひろったタクシーが林さんのタクシーでした。

あの人は何も聞かずに、走り続けてくれました。降りようとしたときに言われたんです。どんなに苦しい状況でも、一生懸命生きていたら、きっとあなたには挽回のチャンスが来るから、その時を見逃さないようにすればいいんですと。何も言ってないのに、そんな適格なアドバイスされたらまた泣いちゃいましたよ。影山の死というどん底から救ってくれた恩人です。」

「苦しい状況になった小田さんと林さんに挽回のチャンスをあげた違いますか?」

「違いますね。お二人がああいう状況になったから、助け舟を出しただけです。

まず前提が間違ってるんじゃないですか?僕が犯人だという証拠があるんですか。先ほどの消去法以外に。」

 五條はあきらめてすべて話すかと山本は思ったが、どうやらまだしらを切る様子なので、

「怪文書の出した場所を確認させてもらいました。防犯カメラがあなたをとらえていましたし、タクシーに乗りましたよね。その車載カメラにもばっちり写ってましたよ。その場所から出された郵便物は全て持ち主が判明しましたが、怪文書を出した人はわかっていませんでした。それが五條さんあなたでした。

 まだ、言い逃れしますか?」

「それでは、怪文書を出したことは認めます。でも、それは佐々木アナを守るためにしたことで銀行強盗とは関係ありません。」

 山本は、胸の内ポケットから物を取り出しながら、

「これ、何かわかりますか?」と聞いた。

 五條は確認して、

「1万円札ですね。それが何か?」

「はい、1万円札です。あなたの指紋のついた1万円札です。」

「そんなもの社会にはいっぱいあるものではないですか?」

「そうですね。たくさんあるかもしれませんが、これはうちの部下が一枚一枚調べた三橋に送り付けられた1億円の中の一枚です。」

 周囲は騒然となる

「1万枚をすべて調べたんですか?」長田が聞いた。

「ええ、証拠がありませんでしたから、それは必死に探させましたよ。」

 山本が言い、上田が

「まあ、調べたのは僕の部下ですけど・・・」と言った。

「まあ、とりあえず、これが証拠です。あなたが触れられるはずのない1万円札からあなたの指紋が出ました言い逃れしますか?」

「もう・・・・やめときますよ。」

 五條はあきらめた感じで、

「すべて僕が一人でやりました。たまたま気付いた篠田君が、まさかカバンに触っていたとは思いもしませんでしたけど。

この間、山本さんがスーパーの防犯カメラの話をしに来た時にはもう駄目かなとも思ったんですけどね。そう言えば計画を変更した時の予想外のことって何だったんですか?」

「あなたの前に、俺が現れたことですよ。

本来、三橋の論文から警察が自分のところにたどり着くことはないと思っていたはずです。でも、警察が来た。完全に影の存在だった自分に警察が目を付けたと思って焦ったんじゃないですか?」

「そこは・・・、あんまりないですね。

 確かに最初はどんな要件かわからなかったんですが、僕の犯行を立証できないと思ってましたから。」

 黙り込んでいた三橋が立ち上がり、

「何で影山なんかのためにこんなことまでして私を・・・」

 その言葉は五條の言葉で途切れた

「影山なんかじゃない!影山はこの社会に必要な存在だった。あんたは、自分のゼミ生の論文しか読んでいないから知らないと思うが、あいつの書いた論文は海外でも注目されるほどのものだった。あいつがいるだけで日本の法学は外国の10年・20年先の議論が可能だと言われるほどの逸材だったんだ。

 それをお前程度の人間がその将来をつぶしたんだ。お前が何事もなかったように生きているだけで殺してやりたくなったよ。

 でも、お前のすべてを否定して、そして影山を死に追いやったことを後悔させてやろうと思ったんだよ。あの頃、影山とみんなで考えた完全犯罪で。」

 三橋は、何も言えずに立ちすくんでいる。山本が、

「三橋に送った1億以外の金はどうした?そこから退職金や借金の返済をしたのか?」

「いいえ、あの金は僕個人の貯金から出しました。ちょうどこの支店なので、調べてもらえばわかりますよ。あと残り4億は燃やしました。決定的証拠ですからね。」

「長田さん、確認してもらってもいいですか?」山本が聞くと、

「わかりました」と言って、長田は銀行の奥に入っていた。

「上田、三橋をパトカーに連れてけ、時間切れだ。」

「はい。」と言って上田が無理やり三橋を連れて行った。

 その場に居るすべての人間が軽蔑の視線で三橋を見送った。

「ここにいる全員に聞きたいんですが、完全犯罪は存在すると思いますか?」

「何でそんなことを聞くんですか、私たちの計画は間違いだったということですか?」佐々木が聞く。

「そうですよ。五條さんが私たちを守るために計画を変えなければ、警察は何も証拠がつかめなかったんじゃないですか?」相田も続く、

「いや、完全犯罪はたぶんないよ。」篠田が言い、

「そうだな、影山も結局はこの計画は前提から間違っていると言ってたしな。」

五條が言うと佐々木と相田が「どういうことですか?」と聞いた。

その問いに答えたのは五條でも篠田でもなく、山本だった。

「犯罪とはそもそも人が自分の欲求を満たすために他人の法益を侵害することをいう。でも、あんたらの計画には人間の感情がなかったんだよ。」

「言われている意味が分かりません。」佐々木が詰め寄る。

「犯罪を行って何かを手にしたとしても、その喜びを感じるのは終わった瞬間や手に入れた瞬間だけで、その後には後悔や罪悪感しかない。

 あんたらの計画は確かに完璧だよ。警察に捕まることもないだろう。でも、罪を償えないということは一生、罪悪感を感じながら、いつ捕まるかもしれない恐怖の中で暮らすことになる。いわば地獄だよ。」山本が言うと、五條が、

「計画に人間の感情という前提を付けずに理論上だけ成立させても、きっと犯人は耐え切れずに自首する。そうなれば犯人が捕まるから完全犯罪ではなくなると影山も言ってたよ。」

「そんな・・・」佐々木が崩れ落ち、床に座る。

「なぜ私と佐々木はそれを知らないんですか?」相田が聞く。

「理論上とはいえ、三橋の持論を覆したことに大喜びだった二人には言えなくて、3人になってから、光輝が言ったんだよ。」篠田が答えた。

「結局、僕も罪悪感から逃げられずに、1万円に指紋を付けてしまったしね。」

 五條が言う。

「やっぱりわざとだったんですか。篠田さんの付け方とよく似ていたので、もしかしたらと思ってたんですよ。」

「そうですね。自分でもなんでとは思いますけど、やらずにはいられなかった。」

 五條は不思議そうに言う。山本は一瞬鋭い目で五條を睨んで、直ぐに戻し、

「いくつか伺いたいのですがいいですか?」と聞いた。

「どうぞ。」五條が落ち着いていう、

「それでは、まず爆弾の仕掛け方の確認ですが、支店を訪れる際に手土産を毎回篠田さん、資産運用の担当者、そして長田さんに手渡しで渡していたそうですが、その渡しに行くどこかのタイミングで仕掛けていたと俺は見ていますがその点はどうですか?」山本が聞くと、あっさりと、

「そうですよ。毎回タイミングは違いましたが、大体が二人目と三人目の間ということが多かったですかね。でも、よくわかりましたね?」

「偽物の爆弾の上に積もったほこりの量が違いましたからね。毎回仕掛けていると怪しまれるので訪れる何回かに一度とかいう感じで長期間かけて仕掛けたのではないかと思いました。」

「そうですよ。さすがに、4つ分入る紙袋に毎回満杯入れていくと怪しいかなと思ったので、紙袋の大きさはそのままで、箱を3つの時とかも入れていたので、仕掛けるのには手間取りました。」

 そこへ、長田が戻ってきて、

「警部さん、五條さんの口座情報です。」

 そう言いながら、紙を渡してきたので、確認すると、預金残高が20億以上あり、つい最近6千万を引き出したことが記載されている。事件後の入金がないので、奪った金がこの口座に入っていることはない。そう思ってみていると五條が、

「残りの4億は入ってませんよ。」と言った。

「30歳で預金20億以上とはどういうことですか?」

 山本の問いに長田と篠田以外の二人は驚いていた。五條は二人を気にせず、

「簡単なことですよ。一応副社長ですし、理事もやっているので月収もそこそこですし、僕は篠田君みたいにいい服を着たり、高い買い物もしません。それに両親も早世しているのでお金を使うこともないですから貯まる一方ですし、株とかもやっているので、気づいたらそんな金額になってました。ああ、安心してください、しっかりと申告して税金も納めてますよ。」

「銀行に預けてるんだからそうでしょうね。」山本が言うと、

「山本さん、三橋元教授に送り付けた1億は銀行に変換されますか?」

「ええ、捜査が終われば。」山本が言うと、五條が、

「それでは、残りの4億は僕の預金からお返しします。手続きをお願いしてもいいですか長田さん?」

 長田はチラリと山本を見る。山本も黙ってうなずき、

「それでは書類を持ってきます。」そう言って、また銀行の奥に入っていた。

「これで迷惑をかけることが何もなくなりましたね。まあ、篠田君の行動は予想外すぎて対処できなかったことが悔やまれますね。」

 五條はさわやかな様子でそういう。

「五條さん、迷惑が掛からなければ何をしてもいいということではないことはお分かりですよね?あなたは強盗罪と誘拐罪と強要罪に問われます。動機に関しても勝手な復讐のための犯行ですし、社会に与えた影響も考慮されると5年以上の実刑は覚悟すべきです。」山本が言う、

「そんな、三橋のせいで辛い目にあった人は光輝だけじゃないんですよ。」

 篠田が反論しようとする、佐々木も続いて、

「今回の事件で幸せになった人もいるんじゃないですか。」というが、

「篠田君・佐々木さん、どんな理由があろうと、結果的に救われた人がいたとしても犯罪は犯罪だよ。小田さんと林さんを助けるだけならもっと違う方法もあった。影山のことだって、三橋元教授一人がしたことじゃない。学会の関係者や影山が辛い立場にいることすら知らずに安穏と暮らしていた僕たちにもその一因はあるんじゃないかと思うんだよ。もしあの時、何か声をかけることができていたら、もっと早く三橋の論文盗用を世間に訴える人がいたら、今でもずっと考えてるんだよ、もしあの時、もしあの時って・・・」

 五條の言葉には強い後悔がにじむ、それを聞いて二人も黙り込む。

「五條さんの言うとおりだよ。どんな正論を言っても犯罪は犯罪だ。許されていい犯罪はないんだよ。」山本が言う。

「山本さん、他の聞きたいこととは何ですか?」五條が聞く、

「そうだな、『完全犯罪研究会』は三橋の持論を覆すためのグループだったと言っていたが、覆してどうするつもりだった?」

「ああ、あれはもともと坂本が黒木さんの論文を読んで熱く語っていたんですよ。完全犯罪はあるんだって。当の本人は一回も参加してませんけどね。何気ない一言が他人を熱くさせるようなそんな変わったやつですから、坂本は。」

「坂本さんが言ったことと、三橋への当てつけに始めたってことか?」

 山本が聞く、五條は肩をすくめて、

「影山が言ったんですよ。あの三橋教授に一泡吹かせられたら最高ですねって。

でも、結局は三橋元教授の持論である完全犯罪はないということを証明してしまっただけだったのかもしれませんね。」

「今回の事件でということか?」山本が聞く、

 五條は一瞬考えて、

「いいえ、あの研究会の最後の方にはすでに出ていたことかもしれませんし、今回の事件が完全犯罪じゃないと僕は言いたくない。」

 五條は山本の目を見て、強い口調で言った。しばらく、二人はにらみ合っていた。篠田たちからすればこの言葉は、自分たちの計画は完璧だったと主張しているだけのように聞こえたかもしれないが山本は違う意味があるような気がしていた。

「なるほど、まだ捜査は必要なのかもしれませんね。」

「まあ、これ以上の捜査に意味があるとは思いませんけどね。」五條が言い、

「そうかもしれないな。」と山本が言う、

「他にもありますか?」五條がさらに聞く、

「先ほどははぐらかされたが、なぜ俺に『完全犯罪研究会』の話をしたのかと黒木の名前で週刊誌を送って来たのは五條さんかという点だな。」

「そうですよ。僕が週刊誌を送りました。その理由は、研究会の存在を明かしたのと同じ理由ですよ。」五條はあっさりとしてる。

「なんですか?」山本が聞くと五條は笑顔になり、

「あの黒木さんが神童と呼ぶ山本さんがどのくらい凄い人なのかを知りたかったからです。まさか、あの話から研究会のメンバーを見つけ出して、今回の事件をここまで解決できるとは思ってもいませんでした。僕の見込み違いですね、まさかここまで凄い人だとは思ってもいなかったので。」

「買い被りすぎです。あなたがヒントを出し続けたからでしょう。」

「いや、影山のことで初めて、僕のところに来た時点で、山本さんになら捕まってもいいと思いました。まあ、本当に捕まるとは思ってなかったですけど。」

 五條は諦めの中に何か希望を持っているかのように言った。

「捕まりたかったということですか?」山本が聞くと、五條は笑いながら、

「そうかもしれません」と言って、山本をじっと見てから、

「僕に聞きたいことは以上ですか?」と真顔で聞いた。

「では最後に一つだけ。」山本も真剣な顔で言うと、

「何ですか?」五條が穏やかな表情で聞く、

「本当にあなたが真犯人なのですか?」

 山本の問いに五條は驚いたが、

「僕がやったことです。」とだけ言った。

 そこに、他の捜査員が入ってきて、五條を取り囲み、手錠をしようとする。

「その必要はない。彼は逃げないから大丈夫だ。」

 山本が言うと捜査員も手錠をすることなく、五條をパトカーへと連れて行った。佐々木が顔を両手で覆い泣き、そこに相田が近寄り慰める。篠田は下を向いてうなだれている。そこに捜査員が近づき、篠田にも同行を願って連れていかれた。長田が戻ってきたが五條はすでに連れていかれた後で、長田は立ち尽くしていた。


「五條が捕まって、事件は解決。警部は勝手な捜査をしていたにもかかわらず、本庁の人に褒められる。いいことばかり・・・ですか?」

 上田が本当にそう思っているとも思えない口調で聞く。

「小田が長田さんに渡したスマホは、ホームレスが頼まれて作った物だった。そのホームレスも行方不明だってホームレス仲間が言ってた。いくら金を持っているからと言って、そんな事一個人ができるのかわからない。でもその辺も五條ならうまく説明してくれるだろうな。」

山本が悔しそうに言い、上田が、

「納得いかないようですね?」と言った。

山本は胸ポケットから五條に見せた1万円札を取り出して、上田に聞いた。

「これは何だ?」

 上田は、頭を掻きながら、どう言うべきかを考えているのか少し黙ってから、

「それは、三橋に送り付けられた1億円から、警部が適当に持っただけの1万円札です。五條の指紋どころか誰の指紋もなかったものです。」

「ああ、でも五條はこれを見て、自分がやったと認めた。それで俺が納得すると思うか、何も直接的な証拠が出ずに、こんな小細工で認めさせても納得できるわけないだろう。」

 山本は自分への怒りをこらえきれず最後の方は怒鳴り声に近くなっていた。

「でも、五條が認めたということは、後ろにまだ黒幕がいると考えるべきですよね。」上田の問いに、山本は答えられなかった。

 たとえ、黒幕がいたとしても、五條は決して話さないだろうということは火を見るより明らかだ。それに犯人が捕まったため、これ以上の捜査はできない。

黒幕を探すことすらできない、もしかしたら本庁の奴が山本を褒めたのもこれ以上いらないことをするなという釘さしだったのかもしれない。

そう考えると五條を逮捕したことすら悔やまれる。

「五條よりも上の存在が黒幕だとするとあの人しか思いつきませんね」

 黙り込んでいる山本に対して、上田が言った。上田の言う「あの人」に思い当たる人物は一人しかいなかった。

「何の確証もなしにそういうことは言わない方がいいぞ。」

山本が言うと、上田は食い下がろうとしたが、山本が今まで見た中で一番悔しそうに見えたので上田も「すみません」としか言えなかった。



「・・・・というのが今回の事件の顛末だ。色々と協力ありがとう。」

 電話からは山本が今回の事件について教えてくれていた。

「いや、驚いたよ。まさか、五條君が犯人だったなんてな。でも、犯人捕まってよかったな。こっちも法改正の流れで審議入りできそうで、次からは警察も対処しやすいようにできそうだよ。」

 黒木は情報をくれた友人にこちらも情報を提供した。

「これで、、お前の理想に一歩近づいたってことか?」

 山本が聞くと、黒木は笑いながら

「まだまだ道の途中だよ。でも、お前の考え方には近づいてるかもしれないよ。少しでもいいから改正していけば完全な刑法ができる。」

 電話の向こうの山本は今どんな表情で自分に電話しているだろうと考えるだけで黒木は楽しかった。山本はしばらく黙っていたが、

「黒木、完全犯罪とは何だと思う?」

 山本の問いに黒木は笑ってしまった。

「その問いは学生の時にされてから2回目だな。あの時は、答えられなかったけど、今なら少しわかったかもしれないよ。」

「で、答えは?」山本は低い声で聞く、

「そうだな、人の不完全な知能の産物であり、罪から逃げようとする防衛本能の結晶ってところか。」

「難しい言葉だな。要するに人間の作る法律が不完全で、捕まらない方法はあるから、それを探した結果ってことだろう?」

「そうだな。さすが山本だよ。他の奴ならどういう意味ですかって聞かれるとこだった。」

 黒木は楽しそうに話す、山本はどこか落ち着いたような、冷めたように話している。黒木が、

「じゃあ、俺も聞くが、完全犯罪とは何だ?山本。」

「完全犯罪なんてものはない。人が完全な存在じゃない以上、自分の一つの欲望を満たすために犯罪を一つしても、次から次に欲望が増えることで新たな犯罪が発生する。それに、誰かを傷付けて得た幸福は続かない。この世の中に完全なものがないなら犯罪にもない。」

「不完全から完全は生まれないということか?」黒木が聞く、

「どうだろうな。ただ、犯罪行為をするという社会的に不完全な行為に対して、その完全を求めることこそが論外だ。完全な犯罪とは誰の法益も侵害せず、誰にも悪影響を与えないこと、つまり、法律を守ることでしか成立しない。

俺の考える完全犯罪は、法律を守り、普通に生活することで犯罪をしないことを言うと思う。そういう点では、お前の論文の通り、社会には完全犯罪がたくさんあると思う。」

 黒木は笑いかけてやめた。確かに犯罪が起こらなければ、それが人として完全な状態であるとも思えるからだ。やっぱりこいつは面白いとそう思っていると、

「誰かに迷惑をかけ、社会に悪影響を与えたという点では、今回の事件は完全な犯罪から遠いものだな。」と山本が言った。

「そうだな、三橋の持論で言うなら、確かに誰も死んだり、怪我したりしていないけど犯人が捕まったのでは、三橋の持論からしても論外だったしな。」

「ああ、とりあえず報告までにだ。 色々ご協力ありがとうございました、黒木衆議院議員様」

「なんだよその言い方、じゃあ、また今度飲みにでも・・・」

 黒木が笑いながら言いかけると、

「犯人が捕まらない犯罪なんてない、だから完全犯罪はない。」と山本が言った。

「どうした?」黒木が聞くと、

「いや、完全犯罪をなくそうと思ったら、警察が全部捕まえればいい。

それの意思表示みたいなものだ。気にするな。それじゃあ。」

 そう言って、山本は電話を切った。

「全く、飲みの誘いの返事はなしかよ。」

そうぼやいた時に、ドアをノックする音が鳴り、秘書がスーツケースを持って入ってきて、

「坂本様という方からお荷物ですがどうしましょうか?」と言った。

 秘書は不思議そうであったので、

「ああ、旅行に行くけどいい大きさのが、ないから貸して欲しいと大学の後輩に頼まれてね。」

「でも、かなり重いですよ。」

「お土産を大量に買って来てくれと冗談で言ったんだが、本気にしたのかもしれないな。」

 笑いながら言うと秘書もそういうものかと思ったらしく、

「どうしますか?」と聞いた。

「今暇だし、確認しとくよ。そこにでも置いといてくれ。」

「わかりました。」

 そう言って、秘書はスーツケースを机の前に置き、部屋から出て行った。

 黒木は、部屋の鍵を閉め、ブラインドも閉めて、スーツケースを机の上に置き、

開いて、中身を確認する。ぎゅうぎゅうに敷き詰められた1万円札を眺めながら、

「悪いな山本。完全犯罪は存在する。なぜなら真犯人(オ レ)は捕まってないからな。」

 そう言って、黒木はにやりと笑った。


                                                      終


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