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「それで、そのナッド・レッドと、ハーマー・オールという人間達が、見当たらんのだな。」


「はっ、それと、騎兵も一騎。」


不精髭を口にこさえ、それを銀箔の中から、唯一露出させる兵士。それは、前方の同様の姿形の甲冑に、赤いケープと、エンブレムを身に纏う男に頷いてみせた。


彼らの背後には、燃え盛り、木が軋むような音を立て、崩れ落ちる家屋が、複数に渡って点在した。

それに照らされる男の表情は、若さを持たせながらも、荘厳さを兼ね備えている。

しかし、その荘厳から這い出る卑屈さや、下衆の臭いも、微かに漂わせる表情であった。



「合流を待つか、それとも宿営地に戻るか。」


報告を受け、赤いケープを鎧に纏わせた男は、煙が自身の肺へ吸い込まれるのを避けるために、生臭さを感じさせるバイザーを閉じる。


呼吸が鉄に跳ね返り、籠る音がして、赤く染まる景色は、一筋の線からしか確認が出来なくなった。


「村人の生き残りを見つけましたが。」


別の兵士が、駆け足で歩み寄る。その後ろでは、騎兵

アイアンメイデンが、荷台兼寝台となる、鉄造りのキャリッジへ、体を寝かし込ませ始めていた。


「すべて殺せ。馬は奪って、犬も逃すな。」


「なぜ、犬も。」


その男は、吐き捨てた言葉の肩に手をかけられたように感じて、上品さを取り繕う足取りが、本来の粗雑なものに変化した。


「犬は、索敵に長けているからだ。我々の血から、肛門の臭いまで覚えて、土に鼻を埋めて、どこまでも、どこまでもだ。我々を追いかけるのだぞ。」


「それを殺さず、なんとするか!貴様の主への信奉と、代行としての粛正は、そんな犬畜生一匹で、秤にかけられるものなのか!」


その兵士は、怒鳴りつけられ、肩を揺らしながら、足早にその場を離れた。




「張り切っておられる。ゲディ卿」


「当たり前だ、アーレ家の男。この遠征の核となる主への信奉は建前で、あれは自家の名前を広めようと、人を殺してるにすぎんよ。」


「それも建前だろうな。あれは、長男でないから、そう必死にやるだけさ。それに、随分な言い草だが、お前も馬や金欲しさにやってるんだろ。」


「……主のためだ、当たり前だ。」


「会話を出来てしまうお前が、そうには思えんな。」


若干嘲笑気味に言うのは、アイアンメイデンを格納した、キャリッジの、段差に腰掛ける兵士たちであった。そして、ゲディを笑った兵士は、図星を突かれて、小さく鼻で笑い、自身の筒の手入れを始める。


彼らは、人の悲鳴が入り混じる火の中を見つめ。

大声で怒鳴り散らす、ゲディ・アーレと逃げ惑う村民や、犬を見ては、笑い声を上げていた。





「ゲディ卿、キャリッジを運ぶ二角馬が、腹を空かせていると……担当の兵士から報告が。」


「なぜ、貴様らは何かあれば私の元へ来るのだ。少しは頭を使わないか!餌を与えろ!それだけだ!そこらに転がっているものを使えば良いのだ。」


ゲディは、再び自分に駆け寄る兵士が、先の兵士達でなく、別の声のものであるとわかると、酷く苛立つ。


「処女の肉は、駄目だ。必ず女で、破瓜したものを選べ。そうでなければ、アレらは餌を食わんからな。並の馬では騎兵を運べんのだから、労わってやれ!」


「はっ、卿はいかがなさいますか。」


兵士は、一通りの指示を受け、去り際に再びゲディへ振り返る。


「私は、周辺の監査と指示を出し終えたら、暫く休もう。十五分後に、ナッドとハーマーという男が現れなければ、即座に撤収!皆に知らせよ!」


ゲディはそう叫んで、逃げ惑う子供を筒で撃ち抜き、その死体を踏み越えて、火をもつ家屋を品定めするように見上げていった。


***



「このゴブリンはどうするの。」


アイアンメイデンを介して聞こえるユラの声は、震えていて、ナッドへの怒りも再発したようであった。


「殺せない。これを殺せば、我々の旅団は確実に群れに追われ続ける。ガサンタへも帰れなくなる。」


ナッドは呟き、そのゴブリンの周辺を円を作るように歩き回った。


「その程度の器量で、よくも私の村を焼いてくれた!」


ユラは叫び、森のざわめきに合わせて、アイアンメイデン 自身も唸りを上げたように感じられた。

そう思えたのは、ユラの怒声に合わせて、この騎兵自体も瞳の赤を周囲にではなく、ナッド単体に向けたからであった。


「そうさ、私はその程度さ!だから、こうやって君の村を焼いて、ゴブリンの殺しは、戸惑っているんだろ!」


ナッドは、自身に一身に浴びせられる赤い光を、腕の装甲で遮りながら叫ぶ。月明かりを塗りつぶすその光は、浴びていると自分の精力を吸い尽くされる錯覚をさせた。


「頭が悪いんだ!ゴブリンだけでなく、人間にもそれが出来るということ、よく考えればわかることだろ!」


「しかし、言葉が通じるものと、意思疎通さえも出来んものでは、ワケが違うのだ!」



「通じているか、これが!通じているように思えるか!私は全くだけどね!」



ユラは、騎兵のコックピットの中で、肩を揺らしながらその操縦桿を強く握る。暑苦しく、それで興奮気味に叫んだものだから、内部の鉄臭さは増していた。


深呼吸をすると、その鉄臭さは生臭さをもって、胃に満たされるから、吐き気を誘う。


「クソ……ナッド・レッド。こうも、情け情けの男とくっつけば、病気を移される!」


「その、病気と上手く付き合うことを選んだのが、きみだろう!」


「聞こえているのか。律儀に拾わなくて良いんだよ!」


ユラは、アイアンメイデンが魔力で映し出す朧げな

外の景色に怒鳴るが、その鉄は何も言わずに、ただナッドと傷のついたゴブリンを移すだけであった。


ナッド自身も、巨体に身を包むユラ相手には言葉を選びたかったが、貴族主導の遠征軍のやることが、あそこまで凄惨な虐殺とは知らず、布教と聞かされていたから、肩を揺らし、あの鎧の胸部を睨みつけるしかなかった。



「軍隊でやることを、私一人に押し付けるということは、魔法による人の心の肥大を、エガーテ一つに押し付けることと、同義なのだよ。ユラ。」


ナッドは屈み、ゴブリンの側のぬかるんだ土から、泥を掬い上げる。ゴブリンはそれを横目に、全身を揺らしながら見つめた。


ナッドがユラを救った理由の大半は、下腹部の熱に従ったのが大半で、その熱を失う惜しさにあったが、この気の強さと、アイアンメイデンとの適正は、大義名分に置き換える理由付けに感じられて、ナッドは内心喜んだ。


しかし、自分を嫌っているのが、唯一の欠点であるのも確かであった。


「それと、魔力切れによる処刑もな。」


ナッドは呟き、ゴブリンへ視線を向き直そうとする。


その時、ユラが叫んで、茂みが揺れて、ゴブリンの首は吹き飛ばされていた。



「ナッド!!エガーテの次は、ゴブリンへ与しようとは!貴様は、エガーテの女と、ゴブリンを子供に見立てて、家族でも作ろうというのか!!」


そう叫んだ兵士は、筒の発砲音に驚いた馬を手綱で諌めながら、ナッドを見下ろしていた。


「メッグか!?貴様……貴様が殺したゴブリンは、オーガの群れのものだったんだぞ!」


「なに……!?しまった……!」


兵士が、悔恨を叫ぶ頃には、ユラの気合の叫びが響いて、兵士は馬の背中上部共に、抉れて弾き飛んだ。


ユラの騎兵が、盾を振り払い、ナッドの5メートルほど先の上部を削り取ったのであった。


その血と、連結された内臓、馬の臓物が入り混じったものは、ナッドの側まで飛び散った。


「ユラ……」


「どうする……追いかけられるんでしょ……?」


アイアンメイデンは、依然の一本線を赤く輝かせ、残滓を纏っていたが、発された声は震え、ナッドを唯一の頼りとしていた。




*すいません、毎話お決まりの誤字です!


エンブレムを見に→身に


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