第五章 第7話 没頭
滝の音が、
響く。
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その中で。
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別の音が、
重なる。
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打つ音。
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刻む音。
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木が、
噛み合う音。
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速い。
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正確だ。
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アーデルハイトは、
立ち尽くしていた。
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手には、
酒。
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だが、
声をかけられない。
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目の前で。
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組まれていく。
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柱。
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梁。
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屋根。
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迷いがない。
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止まらない。
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ベルンハルトが、
動く。
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指示。
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短い。
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「削れ」
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「合わせろ」
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それだけ。
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ジョーが、
応える。
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言葉はない。
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手だけが、
動く。
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刻む。
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削る。
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合わせる。
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叩く。
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入る。
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繋がる。
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息が、
合っている。
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会話は、
いらない。
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リーネが、
ゆっくりと近づく。
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アーデルハイトの隣へ。
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小さく、
笑う。
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「すごいでしょ」
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静かに。
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アーデルハイトが、
頷く。
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目は、
離さない。
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「……はい」
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本音だ。
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リーネが、
少しだけ肩をすくめる。
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「ジョーもね」
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一拍。
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「夢中になると、ああなるの」
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視線は、
ジョーへ。
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止まらない。
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振り向かない。
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呼んでも、
聞こえないだろう。
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リーネが、
少しだけ頬を膨らませる。
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「相手してくれないんだよね」
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小さく。
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拗ねたように。
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アーデルハイトが、
わずかに笑う。
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「……ベルンハルト様も、同じですね」
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リーネが、
くすっと笑う。
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二人の視線の先。
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ベルンハルトが、
木を組む。
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ジョーが、
応える。
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迷いがない。
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音が、
揃う。
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打つ音。
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噛み合う音。
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流れが、
できている。
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一つの、
作業。
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いや。
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一つの、
“仕事”。
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アーデルハイトが、
ふと手元を見る。
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酒。
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持ってきたもの。
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だが。
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今は、
不要だと分かる。
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リーネが、
小さく言う。
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「……終わるまで待つしかないね」
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納得している。
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滝の音が、
響く。
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その中で。
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木が、
組み上がっていく。
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止まらず。
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迷わず。
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ただ、
形になるまで。




