60話:夜間狙撃
月明かりと敵陣地に灯る松明のおかげでルーナを見失わずに済んでいる。
単眼鏡で彼女を追いかけるとスッとハンドサインされる。
突入したい建屋に見張りがいるのが分かる。
「距離300、外さないようにしないと…」
乱戦ではない為失敗は許されない。
確実に一撃で仕留める。
アイアンサイトに敵兵士をとらえる。
暗くてもヘッドショットを狙う必要がある。
腕の力をあえて抜き伏せた状態でブレを地面で固定する。
ゆっくりと呼吸して息を止める。
パスッ
狙っていた見張りがぐらりと傾くのが見える。
崩れ落ちる音も不審に思われる材料になるため、ルーナがサッと移動して仕留めた見張りを物陰に運ぶ。
再度単眼鏡でルーナを見ればハンドサインで礼を言われる。
これから建物に入るのだろう。
私は建屋周辺を警戒し、もしもの時は再度攻撃を仕掛けることになる。
ルーナが建屋に入っている間にもう一人見張りを倒した。
交代要員だったのかもしれない。
ということは最初に仕留めた人が戻らない時点で警戒度が上がるはずだ。
仮にルーナが発見されると幾らサブマシンガンが強力とは言え発砲音が大きくて騒ぎが大きくなるのですぐにでも戻ってきてほしい。
外の物音に気が付いたのか私が仕留めてすぐにルーナが建物から出てきてさっと物陰に隠れる。
これから戻るのハンドサインをもらい彼女が陣地を出るまで援護する。
流石ルーナ、誰とも出くわさないルートで進んでいく。
サッと陣地の塀を超えたところで私も撤退を開始する。
ルーナの足の速さだと私のほうが圧倒的に遅いのでこのタイミングで拠点に戻らないといけない。
「なかなかの収穫でした」
帰ってきたルーナがドヤ顔で見せてくれた書類にはフリッツ辺境伯令息の署名が書かれていた。
「真っ黒ね…」
「はい、フリッツ辺境伯令息が帝国とつながっていることは明白です。しかも第二皇子派であることが分かります。宛先が向こうでも有名な第二皇子派の文官閥のものです」
「決定的な証拠になるわね…辺境伯家すべてがかかわっていることも捨てきれないけれど」
「べリリム侯爵家にお渡ししてどうするのか判断を仰いだほうが良いかと思います」
「そうしましょう。侯爵家に直接お渡しするほうが良いわよね?」
「ストローンの代官を通すのもやめたほうがよいでしょう。直接べリリム侯爵へお渡しすべきと思います」
「それはなぜ?」
「あの男爵も信用ならないからです。これだけの陣地を見逃しているのが気にかかります」
なるほど、幾ら騎馬では発見しにくいと言っても私たちを使う前に自領で何とかすべきなのに討伐以上の対策をとっていないというのが気になるのね。
もしかすると討伐自体が出来レースかもしれないという可能性もあるし、何より前線に立っていた野盗は“アルミナ王国民”である可能性が高いのに、陣地は完全に帝国側だからフリッツ辺境伯令息だけでこんな大規模なことはできないということか。
「ではこのままべリリム家まで戻るのね?」
「それがよいと思いますミリア様。私は一度ストローンの屋敷内を調査してから向かいますので先行してください」
「援護は不要?」
「町の中にある屋敷への潜入ならばご心配は無用です」
ルーナがそういうなら本当に心配いらないのだろう。
私だけ先に証拠をもってべリリム侯爵本家に向かうことにする。
これはかなり面倒くさい話になってきた気がするわね…




