56話:新たな仕事
応接室にはべリリム女侯爵とその旦那様、お母様がすでに談笑されていた。
「ミリア、こちらに座りなさいな」
母に言われて横に座る。ジェラルドは夫妻のほうに座った。
「ミリア嬢、よく来てくれたわね」
私はこくりと頷く。
「楽にしてくれていいわ。実はあなたにべリリム侯爵家として正式に仕事を依頼したいのよ」
「仕事ですか」
楽にしてよいと言われたので返事をするとご夫妻に頷かれる。
「帝国、厳密には第二皇子派との戦争は停止したわけだけれど、最近べリリム領内で野盗の被害がふえているのよ」
戦争にかこつけて狼藉を働く者が増えることは良くあると言われている。
領軍の一部を王国軍に提供するため領内の治安が一時的に悪化することがあるからだ。
でも、侯爵家ならば幾ら王国軍に提供しても野盗ぐらいどうとでもなるのではないだろうか?
リヒャルド・べリリム様がお答えくださる。
「もちろん、我らもべリリム軍にて討伐を行っているのだが野盗が減る気配がない。
しかも野盗にしては剣や槍の質もよく、撤退も巧みなのだ」
「それって…」
「帝国軍の息がかかっている可能性が高い」
まぁそうだろうな。
だが、べリリム侯爵家は帝国と国境を接していない。
接しているのはその北にあるロッシジャーニ辺境伯領だ。
そこを超えて帝国がべリリム家にちょっかいをかけている?
「それと私への仕事がどう結びつくのでしょう?」
「君たちの働きは既に王国中で有名だ。斥候としての偵察能力に狙撃、野盗たちの物資の流れをつかんで潰してもらいたいのだ」
「え、私“たち”ですか!?」
「侍女のルーナも優秀なのは知っている。軍隊を動員して捜索しても未だにつかめない問題なのだ」
なんとまぁそれで私達に仕事が割り振られるとは…
「タリム家としては恩のあるべリリム家にお返しできるチャンスだからぜひ受けてほしいのだけれども?」
お母様に言われるがそれって私の拒否権ないよね?
「わかりました。お受けいたします」
帰りの馬車でルーナと相談ね…
それにべリリム侯爵領は広大なので私たちへの補給についても考えないといけない。
これは大事だわ…もう少し休みをもらえないのかしら。
*****
パーティーからさらに1週間、私とルーナはべリリム侯爵家へと向かう隊列を組んでいた。
今回馬車には乗らず、あくまで物資輸送用として使う。
今や私は有名人、しかも帝国側からすれば宿敵とか怨敵とよべる存在の為、身動きが取れない馬車での移動は危険と判断され、より柔軟性がある馬での移動となった。
ちなみに荷馬車は既に3日前にタリムを出発してべリリム領へ向かっている。
向かう先はべリリム侯爵領の町ストローン。
べリリム侯爵領の北に位置する町だ。
ここから北には森が広がり、その先にロッシジャーニ辺境伯領がある。
野盗が出るのはこの森の街道沿い。
街道をそれてべリリム軍が捜索した範囲の討伐はしたものの、いまだに壊滅できておらず、たびたび商人が襲われるとのこと。
目的は野盗の討伐と、その支援組織の究明。
ほぼ帝国だろうと思われているが、なぜ辺境伯領を越えて支援ができているのか探るのが目的だ。
辺境伯領が帝国と何か取引をしているかもしれないという線が濃厚だけれど、辺境伯家の利が不明なのと、当然そのような証拠はない。
なかなか骨の折れる仕事になりそうだ…




