54話:つかの間の休息
タリム小隊(と、第二騎士団からかってに命名された)私たちは無事にコーラシル砦に到着した。
停戦合意の知らせは早馬ですでに届いており、砦はちょっと浮かれた雰囲気に包まれていた。
「役目、ご苦労だった。しばらく休むと良い」
「仰せの通りにいたしたいと思います」
私自身かなり疲れ切っていた。
緊張の糸が切れたことが原因だと思うのだけれど、ニホニ奪還戦までの行軍はかなり極限状態だった。
暖かい食べ物があって安心して眠ることができるとはいえ、所詮は野営。
女の子のやることではないと自分でも思う。
コーラシル砦に一泊し、翌日にはタリムの町に戻ってこれた。
「お帰りなさいミリア」
今回は母にぎゅっと抱きしめられた。
なぜか涙がこぼれてしまい、妹にハンカチをもらう羽目になった。
「辛いことが多かったでしょう、しばらくは何もせず休んでいてよいわ」
「はい、お母様」
その日はゆっくりとお風呂に入り、全身をマッサージされて久々に迷彩服ではなく動きやすい部屋着を着せてもらって何もせずに過ごすことができた。
母と妹共に食べた夕飯があまりにもおいしくてまた泣いてしまったため、完全に目が真っ赤になってしまったが…
翌日、ある程度落ちつけたので護衛を連れてタリムの町に出てみれば、町もお祭り騒ぎだった。
多くあったお菓子工場も稼働を再開したらしく、露店による直売なんかが始まっていた。
少々物価は高くなっているが、20年前の戦争の時ほどではないという。
町の平民たちの顔も穏やかだった。
そしてやたらと売り物をくれる人が多かった。
「やっぱり停戦とはいえ合意されたことは大きいのね」
「それにお嬢様はタリムの栄誉でございますから、この扱いも仕方がないかと思います」
さっき露店商人にもらった鳥の素揚げにかぶりつく。
なかなか脂がのっていておいしいわね。
戦争の前なら食べるものをかなり気にしたけれど、今は気にせず食べることにしているしお抱えの医者からも食べなさいと言われている。
戦争に従事してから体重がごっそり落ちてしまったのだ。
実に10kgに届くかという落ち方で、せめて5kgは戻したいところ…
おかげで気にせずつまみ食いができる。
そして、正式に私が「アヤタル」であると王国から公表された。
1週間後にはガリム伯爵領で正式に騎士爵を受爵して名誉少尉に任命される。
これ、正式に尉官教育を受けていないながらも素晴らしい功績を挙げたものに対して名誉称号として王国軍から発行されるもの。
これを持てるとただの貴族から少なからず軍人としての発言権を持てるようになる。
ちなみに、お父様は臨時特例で少佐の称号をもらっており、終戦すると返上することになるらしい。
私のほうは名誉称号なので返上とかはない。
もっとも、正式に尉官として仕事するわけではないので、尉官教育だとかも無く、本当に名誉だけの扱いだ。
軍における発言権もない。
その代わり実際に戦場に出た場合はある程度の独自裁量権があるので自由に動けるようになる。
しばらく戦場に出ることはないだろうけれど、自由に動けるのは狙撃手としていいかもしれない。




