第6章15話
第6章15話
花火大会が終わってから、事故が起きないように交通整理を手伝うしかなかった。皆が一斉に水郷境神社に動き始めたので、押し合いが起きている。
「宣姫さんは水神様の所へ行って餅撒きね。後の人達は上から転んだ人が居ないか見て、転んでいたら引き上げて」
「「「「「はーい」」」」」
とにかく神社まで人の波になって押し合っている。守備所の侍達が必死に整理しているがどうにもならない。
「このままでは事故が起きる。依能さん、林弧ちゃん、ブリュネちゃん移転で人を分散するよ」
移転の完全版を持っている者でやるしか無い。
「御屋形様。何処に飛ばすですか?」
林弧ちゃんが聞いて来た。
「守備所の人達に聞いたら正門前は誰も居ないようだ」
「ぎゅうぎゅうの所から間引くと転倒するから、その後を狙って」
依能さんが冷静だ。
水美も手伝ってくれて5人で移転を連発して、少し余裕が出た所で守備所の侍達が棒を持って押し戻してくれている。何とか大事故は避けられそうだ。
「御屋形様。正門前は混乱も無いし怪我人も居ないです」
林弧ちゃんが見て来てくれた。
「御屋形様。餅撒きが始まりましたぞ」
守備所の侍さんが教えてくれた。仕方無いので会場に飛んだ行く。
水神様とゲストの神様達が餅撒きを始めているのだが、手前にしか撒かれて無いのでまた押し合ってが始まっている。
間に守備所の侍さんが入って来たが負けそうだ。
「皆で侍さん達の後ろに空から餅を撒くぞ!」
善姫さんと知世さんと俺で、空から餅を撒きだした。
「御屋形様ー、こっちにも撒いてー」
リクエストが、あちこちから出て来る。
善姫様ーとか、知世様ーとか名指しになって来ている。
依能さん達も空中餅撒きに参加を始めて、混乱が収まって来た。
水神様達は、お構い無しにマイペースで餅を撒いている。
30分くらい経つた所で水神様達が勝手に休みに行ってしまった! 餅撒きの台には宣姫さんしか居ない。
『知世さん、善姫さん、撒き台に行って』
2人が宣姫さんの手伝いに飛んで行った。餅撒きも最高潮だというのに……
一眼姫とピョコリ瓢箪まで空から餅撒きを手伝っている。
『哲司。撒き台に行ってやれ』
一眼姫に言われて撒き台に乗ると凄い迫力だった。
「ウォー」
歓声が上がってしまった。
『哲司。人気が良いな』
水美にからかわれながら餅を撒いている。
『タマ左右衛門さん餅は2時間もつ?』
『それだけは絶対大丈夫です!』
大混乱の中水神様達が台の下に現れた。その時神社の鈴が一斉に鳴り響いた。
「ジャラジャラジャラ」
「皆さん! 円夕4年です! 明けましておめでとう!」
水神様達が台に乗って無かったので、俺が新年挨拶をしてしまった。
「ヴォォー」
凄い歓声だった。
「今年も宜しく! 水郷境と水郷城だけは平和でありますように」
「ヴォォー」
水神様達が困った顔で現れたので、後を任せて俺は後ろに下がった。
『ワガママだから、一番目立てる所で失敗したな』
『仕方無いよ。基本的に何も考えて無い神様だから』
『新年が来た。行くぞ!』
俺と水美は、この時を狙って笹美城の両替屋を狙っていた。侍さんの借用書は全部期限が大晦日だったので、今行けばゴッソリ取れる筈だ。
大体、5金貨かそこらで侍の嫁さんを狙うのが気に入らない。まして、女郎屋まで兼業しているらしい。
水美と何時ものように両替屋の屋根に行った。中では宴会でも開いているようだ。
『『術解除』』
『『術解除』』
簡単に外れてしまった。
『『収集』』
『『収集』』
懐の皮袋にどんどん入って来た。皮袋がこぼれ落ちそうになった時水美が水の里に飛んでくれた。
『全部置いて、もう一度行くぞ!』
また、両替屋の屋根に来て2人で術を唱える。
『『術解除』』
結界は無かった。宴会も進行中らしい。女の悲鳴みたいのも聞こえる。
『『収集』』
『『収集』』
また凄い勢いで皮袋が満杯になって行った。
『帰るぞ』
水美がまた水の里に飛んでくれた。懐から満杯の皮袋を取り出して本日の作戦は成功した。
『捕らわれた女房らしい悲鳴が聞こえたな』
『笹美城の中で何をしても構わないよ。家の侍に手を出すのは許さないけどね』
『それもそうだな。笹美城の中の問題だな』
水美も気にして無いようだ。
『随分有るね』
『それだけ悪どいのだ。金貨は4袋だが銀貨が29袋有る。銀貨不足を演出していたのは、こいつではないか?』
水美の見立てが正しそうだ。破産でもすれば良い。
借金のカタらしく凄い量の数珠も手に入った。何があるのか楽しみだが時間が無い。
0時30分を超えているので慌てて水郷境神社に行った。全然人が減らないで、皆で空から餅を撒いている。
0時40分頃に水神様から終了宣言がされた。
侍さんと奥さん達には帳面所に集合を掛けておいたので全員集まっている。守備所が増えたので結構な人数だ。
「皆さん。明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます!」
侍さん達は元気が良い。
「すぐに終わります。我慢して下さい」
笑いが起きた。
「集まって貰ったのは他でも有りません。私が生まれ育った日本では、正月の朝に《お年玉》と言う物を親などから子へ配る習慣が有ります。正月の朝に会いそうも無いので、本日は私が皆さんに配らせて頂きます。奥様、お母様、全員居ますか?」
問題無さそうだ。
「善姫さんは4列目から、知世さんは8列目からね」
「「はーい」」
俺はお年玉袋をどんどん配って行った。
「本日は本当にご苦労様でした」
奥さん達が恐縮して受け取っている。
中には銀貨10枚が入っている。皆さん中を見て驚いているようだ。
最後にタマ左右衛門さん、タマ次郎さん、タマ三郎さん、タマ四郎さん、タマ五郎さん、蓑田さんの幹部には、お年玉袋を5袋ずつ配っておいた。
「遅くまでご苦労様でした。今年も宜しくお願いします!」
「エイ、エイ、オー」
何故か日本式の掛け声になっていた。
「御屋形様! 本当に有り難う御座いました!」
蓑田さんが涙を浮かべて言うと、侍さん達と奥さん達が全員で頭を下げていた。テレてしまった。
皆で屋敷に帰って知世さん、善姫さん、宣姫さん、依能さん、ブリュネちゃん林弧ちゃん、ヤヤさんにもお年玉袋を配ると全員大喜びだった。
「皆、今日は本当にご苦労様。予約してある。これから寿司屋に行くぞ!」
全員の万歳の声の元、寿司屋に飛んだ。
天狗さんも自分の領地の事を済ませて来ていた。
全員で一つ歳をとってしまった。




