第6章05話
第6章05話
「御屋形様に両替して貰って助かります」
タマ次郎さんが銅貨全部と銀貨で、金貨3000枚分の換金をしてくれた。
「世の中に銀貨が不足していて、両替屋が手数料を上げて来ていたのです。本当に助かります」
感謝したいのはこっちなのだが黙っていた。
『相当変えて貰ったのだが銀貨は減らんな』
水美がブツブツ言っている。
『有り過ぎなんだよ。銀貨不足は我々が原因の一つかも知れないよ』
屋敷の2階に帰ると2人と2妖怪がヒマそうにしているので散歩に出掛けた。
知世さんと善姫さんを連れて散歩していると喉が渇いて来た。
何時もの味噌おでん屋で味噌おでんと田楽とビールを飲むことにした。何故か来なかった筈の一眼姫とピョコリ瓢箪が現れて注文している。
「旦那様はこの屋台が好きですね」
知世さんが笑っている。
「美味しいのと呉服屋に近いからね」
「女は着物選びに時間が掛かりますから」
善姫さんが自嘲的に応えている。
「暖かい日ですね」
「平和な良い日ですよね」
知世さんと善姫さんがビールと味噌おでんを楽しんでいる。
「御屋形様」
話題の呉服屋の店主が目の前に居た。
「もし宜しければ古着の和装外套など如何でしょう?」
奥様方の目の色が一瞬で変わり、平和な日が消えてゆくことを感じた。
「どうしたのです」
「笹美城も樫園城も不景気で高級品が大量に売られているのですが、需要より物の方が多い上に商品が高級過ぎて水郷城では捌き切れないのです。
返せば良いのですが相手が長い付き合いなので少しでも売れればと思い、失礼ながら御屋形様に声を掛けさせていただきました。
当然お値段は相当勉強させていただきます」
「良いよ」
喜んだのは店主より隣の2人だった。万歳をしている。
「何時もの顔ぶれを全員集めて。1人6着もあれば足りるでしょう?」
2人がすっ飛んで行った。
「そんなに買っていただけるのですか!」
「物は足りる?」
「それはもう」
「春夏物も有るの?」
「今回は冬物で、その為に値段が張ってしまって……高級過ぎなのです」
「ちなみに一着いくらくらい?」
「勉強させていただきます! 30金貨を最高で如何でしょう?」
「なら7着にしょうか。一眼姫に合うの有る?」
「お任せ下さい」
一眼姫が嬉しそうだ。
「そんなに良いのか?」
「気にしないで、可愛いのを選んで貰いなよ」
ニコッとして田楽を食べている。
「店主さん。全部銀貨で払うけど良い?」
「願っても無いことです。ご存知か知りませんが銀貨不足で両替屋で1割5分も両替手数料を取られます」
『これでは大して減らんな』
『外套だからね』
依能さんとヤヤさんが最初に来た。
「哲司さん。何時も済みません」
依能さんは仕事以外では哲司さんと呼んでくれる。仕事の時もそうしてくれると嬉しいのだが。
「御屋形様、毎回私にまで……本当に感謝しております」
城組も現れた。後ろの方でスミさんがペコペコしている。
「哲司殿。毎回済まないな」
水神様が本当に済まなそうな顔をしている。
「一人7着にしたから」
大歓声と万歳が聞こえ、全員呉服屋に突入して行った。
『また何時間も掛かるぞ』
『仕方ないよ』
天狗さんが現れ、ビールを注文して味噌おでんを勝手に食べ始めた。
「今日は何だ?」
「冬物の和装外套」
水神様が大声で何か言っているのが聞こえる。
「相変わらず大騒ぎだな」
何故か天狗さんが大人しい。
「何か有った?」
「……実はな、風の精霊の体調が良く無い。今も風の里で休んでいる」
「1回しか治療して無いしね。またやる?」
「そうしてくれるか」
「目立つからサピカ村の家でやろう」
「わかった」
俺は田楽とビールを無くしてからサピカ村に飛んだ。
天狗さんが待っていた。
「裏庭でやろう。広いし誰も見えない」
『哲司殿、手数と掛けて済みません』
風の精霊さんの声がした。
『いいえ、何時でも言って下さい。間を置いて3回くらい必要みたいです』
『大変失礼なんですけど、俺の力で実体化して治療します。実体化してないと効果が弱いですし風の精霊さんが自分で実体化すると、辛いと本能的に実体化を止めてしまう可能性が有りますから』
『はい、ご自由に。十分理解してますから』
風の精霊さんが覚悟を決めているようだ。
水美が1階の風呂に湯を入れて来た。
『現実化』
アッサリと風の精霊さんが姿を表した。相変わらず美人でスタイルが良いが、凄く疲れた顔をしている。
『始めます。風の精霊さんの力も使いますから俺の手を上からつかんで』
風の精霊さんが、俺と水美が両手を繋いで風の精霊さんを囲んでいる手を両手で掴んだ。
全員が集中している。
『『『術解除』』』
水美主導で術解除をした。
「アアアー」
風の精霊さんが苦しそうだ。真上をのけぞって向いている。
『『術解除』』
口から煙りみたいな物が上がっている。風の精霊さんは手を凄い力で握っているが、術解除を唱える事が出来ないようだ。
『『術解除』』
水美が構わずに続ける。
「ヴォー」
風の精霊さんの唸り声が凄い。
『ナンカ変だよ。邪魔されている』
俺が言うと水美も頷いている。
中断して風の精霊さんの身体を調べてみる。上半身には何も無い。申し訳無いが下半身を調べてみると内股の付け根に、隠れるように凄く小さい刺青が有る。
『これじゃない?』
『それ臭いな』
『『治療』』
2人で治療すると、サッと刺青が消えた。
風の精霊さんを立たせ、また手を繋ぐ。
『『術解除』』
口と下半身から煙りが出ている。
『『術解除』』
より一層、煙りみたいな物が口と下半身から出て筋肉が緩み排泄を始めた。
凄く臭い。
「ギャー」
風の精霊さんが悲鳴を上げた。
『『術解除』』
勢い良く口と下半身から煙りが出て、風の精霊さんが失神した。
『今日は限界だな』
「今日は限界です。1階の風呂に湯が張ってありますので、天狗さんが洗ってあげて下さい」
俺が現実化を解くと風の精霊さんの姿が消えた。
「済まない」
天狗さんが風の精霊さんを運んで風呂に行った。
水美と2人で排泄物を消してから浄化した。
『前回程は臭くないけど、臭いね』
『あの刺青はヤマコではないぞ。少し古い』
『じゃ誰?』
『天狗がお楽しみ用に付けた物が術解除の邪魔をしていたような気がする』
『あれ、ムフフ用途なの』
『だから刺青が妖力を帯びていて術解除の邪魔をしていたと思う』
『困った趣味だね』
天狗さんが帰った後で1階の風呂を徹底的に浄化して、我々も浄化してから水の里に飛んだ。
『風呂で綺麗になろう』
水美に頭まで風呂に沈められてしまった。
『風呂に浄化して貰うのだから諦めろ』
水美は自分で風呂に潜っている。
風呂から上がってビールとウナギの白焼きを楽しんでから水郷城に帰ると、まだ呉服屋は大騒ぎの最中だった。




