第6章06話
第6章06話
「御屋形様は先日松並村と二社神社の樫の国の兵隊を退治したとか」
タマ三郎さんが聞いて来た。
「うん、水郷境の開拓地に近いし二社神社を焼いた奴らだからね」
「水郷境と争う気は無いらしく、今の所は近くに来てませんが何時来るかも知れませんですし」
「だよね」
「御屋形様は開拓地に何かする事を忘れていませんか?」
「何だっけ?」
「池です」
急に思い出した。
「……水神様の力も借りないとならないし」
「水神様は何か……問題でも?」
問題は俺が完全に忘れていた事だった。
開拓地の山からの湧き水がそれなりに有り、小川になって何本か川に繋がっているので、池を作る話を俺が自分で提案したのが始まりだった。
その後湧き水が発見されたので相当大きな池と湖の間みたいなのを作り、小川をまとめてから流せば水田にも役立つと言う話しだった。
「湧き水を中心に考えると、少し高い場所が池になるだろう。決壊すると危険だなぁと思って」
「それは御屋形様が決壊しないしっかりとした土木工事をして解決と言う話しだったと思いますが」
「現地に行って来るね」
飛翔でとりあえず逃げて、現地に来てみた。
「哲司殿は池の事で働く気になりました?」
たまたま現地に居た依能さんに皮肉を言われてしまった。
「難しいんですよ。池に深さを求めると川に近い方が絶壁みたいになるんです」
「じゃ、横に広げたら? 林の少し先に湧き水がもう一つ有るから」
「掘り下げるの? 湧き水が駄目になったりしない?」
「ないですよ。地中からのは地脈からの湧き水ですから。山側のは山の保水力に頼ってますけど」
流石に豊饒の精霊だった。2人で林の中の湧き水に行ってみる
「真っ直ぐ川に流れているだけの湧き水で、もったいないですよね。川まで急流になって使い辛いのですよ」
「地脈から、こんな勢いで?」
「そう、珍しいですよ」
「川を止めるのは後にして林を無くして向こうと広場にしてみる?」
「そうですね。哲司さんがやる気の有る時にやってみますか」
やっと仕事の時も哲司さんになって来た。2人で湧き水と池の候補地まで木を切り出して積み上げていると、開拓民から苦情を言われた。
「御屋形様と豊饒の精霊様。早過ぎて木の回収が出来ないですだ」
「ゴメンね。積み上げておくから残りの木を切らせて。池を早く作らないと、俺がまた怒られるのよ」
「仕方ねえな。これから切る残り分は御屋形様が下に下ろしてくれや」
仕方無いので手を打った。依能さんが腹を抱えて笑っている。
「とにかく切り出してしまいましょう」
依能さんが決めた所まで切ってしまう事にした。依能さんと働いている時は水美も自由に動けるので仕事が早い。
「狭いと思うけど、高さを見るには十分な広さと思います」
『依能さんは本気で湖にするつもりなの?』
『その可能性は有るな』
水美も呆れている。
3人で約束の分を下に下ろしてゆく。
「哲司さん、お腹空きません?」
「休みにしょうか」
「ビーフシチューが食べたい!」
サピカ村に行く事になった。
「いらっしゃーい」
サネリちゃんが元気良く迎えてくれた。
「ビーフシチューステーキとエールね」
「今日は美人の奥さんではなくて依能さんとなんだ」
「仕事の途中なのよ」
「御屋形様と依能さんで仕事?」
「大きな池を作るの」
「ここにも有るよ人が作った大きな池」
サネリちゃんが依能さんと話しているのでオヤジさんがエールを持って来てくれた。
「見たい見たい!」
「従姉妹が詳しいから後で紹介するよ」
サネリちゃんがお父さんに何か話している。
「エールを飲もうよ。喉が渇いた」
依能さんと乾杯して2人で一気飲みしてしまった。
「依能さんは最近、良く来るの」
「光の精霊見るだけじゃ気分が悪くなるから、ここで食べる事が多いですね」
「林東村のシチューも美味しいよ。ここの親戚がやってるんだ」
「エー、食べたい!」
「今度連れて行くよ」
「哲司さんは、こっちで体調悪くならないの?」
「全然」
「日本から来ると大丈夫なんだ。私も善姫さんも慣れたから問題無いけど知世さんが来ないでしょう。あれは此処に居ると気分が悪くなるからだと思う」
そうだったんだ。
「何が違うの?」
「地脈とか妖力の取り込みとか色々有るみたい」
話しながら依能さんが凄い勢いで食べている。
「御屋形様、林東村の叔父さんと同じようなシチューも始めたんだよ」
「サネリちゃん、早く言ってよ。2つね」
依能さんが期待しているのが分かる。
「そうだ、さっきの話していたのだけど妖力不足で気分が悪くなる人用に魔力を妖力に変えて供給してくれる石で作ったブレスレットが有るよ」
「サネリちゃん、それ何処で売ってるの」
「これから御屋形様と依能さんが行く予定の、私の従姉妹が売っているよ」
シチューをオヤジさんが持って来てくれた。
「これ林東村のと少し違う。コッテリしていて美味いよ」
「本当に美味しい! 楽しみが増えた」
「そう言えば善姫奥さんも年を取らないんだよね」
サネリちゃんが聞いて来た。
「そうだね」
「私達は年を取るけど、迷い人は年を取らなくなる人も居るのは何で?」
「分からないよ」
サネリちゃんが不思議そうな顔をしていた。
食事が終わった頃、サネリちゃんの従姉妹が迎えに来てくれた。
名前はブリュネちゃん。160センチくらいで青い髪に緑色の瞳の可愛い娘だった。16歳くらいだろう。
「サンリン町なんです。飛翔で行きますので」
妖術の道具屋さんだった。
「御屋形様と依能さんは池の事を知りたいのですよね?」
「あの哲司ですよ。御屋形様は止めましょう」
「良いのですか?」
「はい」
「あの池は私のお祖母ちゃんが作って、現在は私が管理しています。お祖母ちゃんは日本人でした」
「お祖母さんは迷い人?」
「はい。哲司さん達と違って環境に適応しなかったみたいで年を取って死んじゃいましたけど」
「御愁傷様です」
「いえ、でもお祖母ちゃんのお陰で私は妖術を少々使えるので、こんな仕事もしているのですよ」
「お祖母さんは妖術使えたんだ」
「6感も。私も受け継いで6感持ちです」
俺が妖術道具を見ていると、説明してくれた。
「ここは妖術を使えない人が簡単な妖術を使えるようにする道具を売っているのです。多少は妖力が有るけど妖術は使えないと言うのが正しいですか」
「ブリュネちゃんが作っているの」
「はい。でも殆どお祖母ちゃんが開発した物ですけど」
「サネリちゃんに聞いたのですけど、魔力を妖力に変えて使えるブレスレットが有るとか」
「これですね」
深い緑色の石が付いている。
「此処は魔力と言うか魔素が少し有るので、魔素を妖力に変換するのです。ここらでは自然に有る石ですけど。
お祖母ちゃんがそれを利用して、全く駄目な人でも妖力を供給して光球くらい出せるようにしたんですよ」
「凄いですね」
「付けてみます?」
付けさせて貰うと、身体が楽な感じがする。
『哲司の妖力が少し上がったぞ。結構吸収するみたいだ』
水美が感心している。
「これ幾らです?」
「50金貨です。それは小さくて純度の高い石で、当店最高の品ですもので」
そんなに安い値段で珍しい物が手に入るとは。
「何個有ります?」
「同じ物は5本です」
「全部下さい」
「本当に! 嬉しい!」
250金貨を払うとブリュネちゃんはマジマジと金貨を見ていた。
「今までで最高の売り上げです」
ブリュネちゃんが俺の数珠を見ている。
「それは何のブレスレットですか?」
「妖力妖術封じ除けの数珠ですよ」
「そちらも余裕が有りますので、今買った物と一つに出来ますよ」
「是非お願いします」
ブリュネちゃんが手慣れた手つきでブレスレットの方にまとめてくれている。確かにブレスレットの方が丈夫そうだ。
「これが噂の水郷城の数珠ですね。こちらで扱えると大金持ちになれますよ。仕入れ価格が高くて私では無理ですけど」
出来上がったブレスレットを俺に渡してくれた。丈夫そうで目立たない。
「うん、妖力が上がっていく」
「これも効く人と効かない人が居るのですよ」
これだけで来た価値が有ったと思った。




