第1章08話
第1章08話
起きると俺1人で寝ていた。太陽が大分高い所に有る。
「お前、やっと起きたのか」
「もう、とっくに皆働いているぞ」
「朝飯時間は終わっている」
窓辺に座っている小物達が口々に勝手な事を言っている。
俺の枕の所に、おにぎりが置いてあったので小物達に分けてやった。
「済まんな」
「人間にしては良い奴だな」
「美味いな」
リスの変形版のような妖怪が3匹並んで、おにぎりを食べている。
「オハヨー御座います。旦那様」
知世さんが戻って来て、渡してくれた皮袋を懐に入れ、洗面所に行く為に階下に行った。
顔を洗って口を濯いでから、浄化を口にかけて試してみる。
「浄化」
本当に浄化が使えるようだ。サッパリした。手縫いで顔を拭き部屋に戻った。
知世さんの口を浄化してあげると、とても喜んでいた。
「朝飯は食べました?」
「ハイ……ご主人様が起きませでしたので」
「気にしないで良いですよ。一眼姫も食べたの?」
「儂も食べたぞ」
「何か注文しますか?」
「いや、昼飯からにします」
ここに来るのも最後かもしれないので、村を歩いてみることにした。新品の草履が意外と良い感じだ。
街並みというか村並みはごく小規模で、小物屋と中古衣料屋と蕎麦屋、鍛治屋などが有った。
蕎麦屋には既に人が入り非番の役人が酒を飲んでいた。
中古衣料屋の店先にまだそれ程古くない男物のマントが飾って有る。
コートの代わりに買おうか考えていると。
「旦那様のは昨日買っておきました」
知世さんが笑っている。
「私と一眼姫ので結構な金額になったので、オマケさせ半額にさせましたので……」
「さすが知世さんですね」
知世さんがテレて赤くなっている。太陽の下で見ると本当に知世さんが白くなっている。石鹸恐るべし。
中古衣料屋の近くの軒下に半分透き通っている1メートルくらいの大きさの人影が見える。
格好から見ると神様くさい。側に行って話しかけた。
「神様ですか?」
「そうじゃ……すぐ近くの松木神社の守り神じゃ」
「半分透き通ってますよ」
「本殿を乗っ取られたのじゃ!」
「誰に?」
「敗残兵だと思う」
「誰も気が付いてないの?」
「戦乱じゃからな……」
神様の人気が無いようだ。
「透き通って来ているから、何か食べようか」
神様が嬉しそうに頷いている。
宿の食堂で神様に焼き魚と御飯と酒を頼み、俺はビールと桜鱒の天ぷらを頼んでいると、天狗さんが来た。
「天狗さん、ビールと桜鱒の天ぷらは?」
「それは嬉しいぞ! 好物だ」
店主は全然、天狗さんと神様を気にして無い。
「松木さんかい」
「そうじゃ。天狗、お前はまだ悪さをしているのか?」
「人聞きの悪い事を言わんでくれ。悪さなどしておらん!」
神様が食べて飲む毎に透明で無くなってゆく。本殿を取られて栄養不足だったのだろうか。
神様が全部食べて、酒を飲んでから話して来た。
「哲司殿。助けてくれぬか? 神社を乗っ取っている連中を退治して欲しいのだが……」
「何人くらい居ます?」
「50人くらいは居ます」
そのくらいなら何とかなるかと簡単に考えてしまう自分に驚いた。だが毎日力が上がっているし、妖力も上がっているハズ。水郷境では人を斬るチャンスも無くなるなら、今を機会に力を増やすしか無いだろう。
「哲司、行ってやれよ」
天狗さんが気楽に言っている。
「天狗様」
知世さんが天狗さんを睨んでいた。
「知世さん大丈夫だ。哲司は十分強い」
天狗さんがビールを飲みながら知世さんをなだめている。
「神様、俺を本殿の前にでも飛ばせる?」
「出来るぞ。ホレ」
俺は突然境内の真ん中あたりに居た。本殿の前で指揮官スタイルの武将2人が立ち上がった。
相手が動く前に妖力を流した刀で鎧ごと斬ると仰向けに倒れた。隣に陰陽師スタイルの奴が居て結界を張る。
再度刀に妖力を流して結界に切り込むと簡単に結界が壊れて陰陽師が血を吹いて倒れ陰陽師スタイルの男が仰向けに倒れ不思議に消えてしまった。
俺に物凄い力が流れ込んで来た。
矢が飛んで来たので切り落として、出来るだけ弓兵から倒す。
「氷球」
弓兵を10人くらい倒すと後は楽だった。槍兵をやはり遠距離で片付けて行く。投げて来た槍は投げ返し、また氷球のお世話になる。他の妖術も使いたいのだが、妖力を食わないし血で汚れないので氷球ばかり使ってしまう。
かかって来る雑兵を片端から切り捨て、逃げる雑兵を氷球で倒して全滅となった。
「神様と天狗さんが現れた」
「哲司殿、流石ですな!」
神様が駆け寄って来た。
「礼の言葉も無いです。こちらに」
俺を連れて本殿に入ると本尊の前の床を開ける。
「下の宝物庫に奴等の軍資金が有りますので、お持ち下され」
床を降りて行くと宝箱みたいなのが、3箱積んであった。
俺が中を開けると溢れんばかりの金貨だったので蓋を戻して、天狗さんに貰った皮袋にしまった。
「これは私からの礼の品です」
30センチくらいの枝だった。
「飛翔枝と言いましてな、1度行った場所に瞬時に行けます。但し運べるのは5人くらいまでですかな」
「凄い物を……良いのですか?」
「消滅寸前に助けて貰ったのじゃ、受け取って下され」
お礼を言って大事に懐に入れた。
本殿を取り戻した神様は身長からして180センチくらいになっている。
「哲司、奴等の財布だ」
天狗さんが、天狗の皮袋に入れてくれた。
「天狗さんの物にしたら? 奥さんに取られちゃったのでしょう」
天狗さんが少し考えて、一番大きな財布を取り出して残りを俺に渡した。
「これだけ貰う。残りは哲司が受け取れ」
「良いの?」
「今日は笹美城で賭博やってヤクザから巻き上げて来るわ」
天狗さんはニコッとして飛んで行った。
天狗皮袋がまた増えてしまった。
「役人呼んで片付けます?」
「いや」
神様が杖を振ると綺麗に片付いた。俺の練習着も綺麗になった。
「あの陰陽師が悪霊で、私の力を封じ込めていたのじゃ。哲司殿が切り捨てたので、また力が帰って来た」
「ここに来た時は?」
「飛翔枝の力じゃ」
なる程と思った。
神様に礼を言って飛翔枝で村に帰ると、知世さんと一眼姫が待っていた。
「2人共、部屋に来て」
皆で部屋に入って障子を閉める。
2人に事情を話して一眼姫に硬貨を分類して貰った。
金貨が宝箱と今日のカツアゲと自分の皮袋を合わせて3324枚。大銀貨が112枚、銀貨が407枚となった。
普通の皮袋が沢山有るので一眼姫に新品にして貰い、1袋金貨100枚が33袋になった。大銀貨が1袋《赤い皮袋》、銀貨がパンパンの皮袋を天狗皮袋に入れて何とかした。
金貨24枚は俺と知世さんで支出用にと思ったが、知世さんに拒否された。仕方無いので普段使いの財布に入れた。
銅貨は知世さんを説得して天狗皮袋を使って貰った。今日使った以上に増えてしまっている。
知世さんが一眼姫に中銅貨、銅貨、粒銅に分けて貰っていた。