第5章15話
第5章15話
ヤマコの里に来てから今回は真面目に善姫さんの母上探しに飛び回っている。
初日だけ休んで、5日は毎日ヤマコ狩りをしている。
「母上は見つからないね」
「そうですね。でも見付けた後どうするか考えると気が重くなります」
今更、見つかると考えている事自体考えが甘いと言われても仕方無いのだけれど、万が一見付かった場合を考えると気が重くなる。
善姫さんが17歳でここに来て、母上は半年後32歳で飛ばされて来ている。23年生き残っている事自体が奇跡なのだが、万が一見付かった場合、今更人間社会に帰れるのか疑問なのだ。
「でも、何もしない訳にもいかないでしょう」
実際に相当広範囲で捜索しているのだが、かすりもしない。お金ばかり貯まっている状態だ。
「旦那様、今日はもう止めませか?」
朝にヤマコの群れを2つ程狩っているので問題は無い。サピカ村から相当離れた場所でやっていたのだが、以前に回復不能と判断してヤマコ村に戻した女性をまた助けてしまったのだ。
年齢的にも35歳以下の女性で、善姫さんの母上と同じくらい。善姫さんが考えてしまうのも理解出来る。
「宜しいですよ」
善姫さんが着物を脱いで透明化もせずに飛行を始めた。余程イライラしているのだろう。
飛翔で帰ればすぐなのに飛び回っている善姫さんの気持ちも良く分かる。
探索は以前終わらせた場所に飛翔で来て、飛行で虱潰しで行われる。此処は4つ目くらいの場所なのでサピカ村からは、うんざりする程離れている。
密林の真ん中で周りに人間の村すら無いので、善姫さんがどんな格好をしようと俺の眼の保養でしか無いのだが。
『善姫は相変わらず身体の格好が良いな』
水美の言う通りスタイルが凄く良いのだ。
『水美だって負けないじゃない』
『そうか? 有り難う』
善姫さんに付き合ってしばらく飛んでいると下に街道が見えて来た。
『善姫の速度に付き合って来たが、もうこんな場所なのだな』
街道が有ると言う事は村や町が存在するという事だ。善姫さんは全速力で飛んでいたのだろう。
『哲司。妖力を足してやれ』
俺は飛んでいる善姫さんにしがみ付いて妖力を足してあげた。もう4分の1くらいしか残ってなかった。
俺と善姫さんは街道の近くで空中で止まった。善姫さんの妖力は3分の2くらいまで回復している。
「旦那様、申し訳有りません。何も考えてませんでした」
善姫さんを落ち着かせていると水美が遠くを見ている。
『浪人風の集団に隊商が全滅されそうになっている』
善姫さんも感知したらしく、薙刀をポーチから出してすっ飛ばして行った。
『哲司、善姫が突っ込むつもりだ。追うぞ』
その時にはもう善姫さんが急降下していた。
『斬り込むつもりだ。上空から援護する』
水美が言った時にはすでに善姫さんが浪人達を斬っている。俺と水美は善姫さんに襲いかかって来た浪人達を氷弾で倒しまくっていた。
『善姫さんを囲もうとしている』
善姫さんはお構い無しに斬り倒していた。
「オリャー」
「トー」
善姫さんの掛け声が上空にまで聞こえて来る。
善姫さんと夫婦喧嘩して本気で怒らさないようにしようと心から思った。
俺と水美は囲まれないように周りの浪人達を氷弾で倒していると、善姫さんが氷弾を撃ちながら斬り進んでいる。
『隊商は全滅しているのだから降雹で終わるのに』
『欲求不満の解消なのだろう。諦めろ』
それから10分くらいで浪人達が全滅して終わった。
空からいきなり裸のお姉さんが飛び込んで来て、斬り殺された浪人達も不幸な事故だったと思う。
俺達も降りて息の有る浪人に傀儡を使って質問してみた。
「何処から来た」
「笹美城だ。いきなり暇が出た」
「何故此処に」
「行き所が無かった。笹美の国に居ると町民や農民に襲われる」
「残りの浪人達は?」
「10人くらいだ。残りは我々の家族だ」
場所を聞いたら、この近くの密林の中に集落を作っているそうだ。
「笹美城の侍は余程嫌われているのですね」
善姫さんはスッキリしたのか正気になっている。返り血で真っ赤になっているので浄化してあげた。
「笹美城も末期なのかも知れない」
善姫さんがニヤリとした。恨みしか無いようだ。
『金貨と銀貨、数珠と妖力の通る刀だけ集めておいた。残りはどうする? 浪人達も全滅しているぞ』
話しを聞いていた浪人も死んだようだ。
『隊商は食糧だけだったようだ。死体を運ぶにしても村を探さないと』
『死体を持って行っても嫌がられるだけだぞ』
以前、真面目に運んで行ったら露骨に嫌な顔をされた事が3回程あってから、全て消滅させる事にしている。
『商人は時計を持っていた』
結構な稼ぎになったようだ。
『馬車も全部、消そう』
『そうだな』
水美が一瞬で全部消してくれた。
「浪人達の集落に行きます?」
「女子供と老人でしょう。責任も負えないし殺す理由も無いです。何処の村も笹美城の侍の家族なんて受け入れてくれないし、放置しませんか?」
こういう時の善姫さんは凄く冷静だ。家族も自分達が山賊で食べているのは知っていた訳だから、ツケを払う番が来たと諦めて貰うしか無いようだ。
「裂け目に入って片道覚悟でこちらに来たのに……何故開拓でもしなかったんだろう?」
「ここまで嫌われるとどうにもならないのでしょう。一度悪い事で評判が立つと、ずっとそのまま見られるものですよ。私もそうでした」
自分が獣の女で、汚いとか臭いとか言われ続けた時の事を思い出したのだろう。
そんな事を考えていたら嫌な気分になって来た。
「ヤマコか妖獣が片付けてくれるでしょう。帰りますよ」
サンリン町に寄ってヤマコと狼型の妖獣を売ってから歩いていると、天狗さんが歩いて来た。
「哲司の言う通りに、家と手切れ金を渡して来たところだ。お陰で簡単に稼げて助かった」
「食事に行くけど来る?」
全員でサピカ村に飛んでビールと鹿ステーキを頼んだ。新しいバージョンでステーキにビーフシチューがかけてあり、とでも美味い。
「結局、家を2軒買わされて、他に金貨1000枚だったよ」
「何故です?」
善姫さんが不思議そうだ。善姫さんは服を着ないままだったので、相変わらず天狗さんは目のやり処に困っている。
途中で気が付いたのか善姫さんが服を着たので、天狗さんがホッとしていた。
「1軒は借家にして、月に5金貨くらい稼ぐんだと。面倒だから買ってやった」
相変わらず、お人好しの天狗さんだった。
「これ美味いな」
天狗さんが嬉しそうに食べてエールをガブガブやっている。
「俺も、こっちに家を買おうかなぁ」
天狗さんがポツリと言っていた。




