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第5章13話

第5章13話


「知世さん、善姫さん、呉服屋から連絡が入ったから正月用の着物を作ってきなよ」


 2人の顔が思い切り明るくなった。


「いつもの顔ぶれ全員で。また3着までね。帯も何時もと同じ。襦袢でも帯留めでもどうぞ。ヤヤさんもスミさんを誘って。

 依能さんは大ナマズさんの所に居ると思うよ」


 返事もそこそこに一眼姫とピョコリ瓢箪を連れて飛んで行った。


『やっと自由になったな。水の里に行くか?』


『そうしよう』


 風呂に入ってゆっくりしながら体力を整える。実は少し前から水美から妖術の特訓を受けている。


『今日も光の精霊を使って練習するか?』


『余り長く見ていたくは無いけど、代わりになる練習台が他に無いからね』


 今やっている練習がヤマコに言う事を聞かせる事と、光の精霊に治療や再生をする時に強めの妖力をまとめてぶつけることだ。

 簡単な話、今まではビームみたいにして妖力を送っていたので、とても無駄が多かったので《光球》《水球》みたいに妖力の固まりを飛ばすようにする練習だ。

 こうする事によって、より少ない力で大きな効果を得られる。


 俺と水美は光の精霊の正面に有る木の枝に透明化して座っている。距離としては15メートルくらいだろうか。


『初心者では無いのだから必死に念じる必要は無い。取りあえず、光の精霊の正面のヤマコを排除してみろ』


 今までは水美がやってくれていたが、今日からは全部自分でやるようだ。


『良いか。《傀儡》を唱えてから排除するのは凄く手間になる。1匹のヤマコに集中してから傀儡を強く意識して命令を飛ばす感じだ』


 水美に言われた通りにやってみる。


『女の正面から居なくなれ』


 一番手前のヤマコが横に避けた。


『哲司。上手いぞ』


 次のヤマコにも同じ事をすると光の精霊の姿が見えた。

 大分老けて来て30歳くらいに見える。体力の消耗と寝不足なのだろうか。

 汚くて見にくいので浄化をする。


『次は光の精霊への治療だ。遠眼で光の精霊を確認して治療場所に妖力を飛ばすのだ』


『今日から、部分的に治すの?』


『当然だ。きちんと治療しないと長持ちせんからな』


 顔を拡大して見ると光の精霊の唇の両端に炎症が目立っている。

 唇の治療に意識を集中する。


『治療』


 上手く行ったようだ。力の断片が飛んで行ったような気がする。光の精霊の口元は治療されていた。

 ゴキゲンになって炎症を起こしている所を全部治療した。


『中々上手くなったな』


 水美が光の精霊の全身に治療をした。


『背中側も有るからな。次は全身再生だやってみろ』


 俺は光の精霊の全身を再生することに意識した。


『再生』


 やはり力の断片が飛んで行く感じがして、光の精霊だけ再生されたようだ。

 水美が何か光の精霊に術を掛けたようだ。


『哲司。凄く良いぞ。先程のヤマコ達の術解除をしてやれ』


 術解除をするとまた光の精霊はヤマコ達の中に埋もれた。


『哲司。依怙をヤマコ達に掛けろ。広範囲の練習だ』


『良いけど何て思い込ますの?』


『そうだな……最初の頃より光の精霊の人気が減っているからな。皆、光の精霊が大好きとでも掛けておけ』


 確かに光の精霊は身体も緩み老けて来ているからな。

 依怙を強く意識して広範囲のヤマコ達に命令した。


『お前達は光の精霊を常に愛おしく思い、その魅力を感じ続けよ』


 ヤマコ達が光の精霊の周りに結集仕出した。


『哲司。なかなか良い指示だったな。簡潔にしないと掛からない事を覚えておけ』


『水美。さっき光の精霊に何をしたの』


『ただの精神安定だ。狂ったりしないように、現状が幸せで仕方ないと思うようにしている。風の精霊や依能が来た時も、同じようにしている筈だ』


 皆で打ち合わせが出来ているようだ。


『風の精霊などは恨み骨髄だからな』


 恨まれても仕方無い事をしたのだから、素直に罰を受けるべきだろう。


 久しぶりにサンリン町のシグ改めリブズに会いに行く。一軒家を買って店を出している。


「旦那、久しぶりだね。もっと来てくれよ」


「ドタバタしていてね」


「今日は姫様は来ないのかい?」


「我が家の奥様方は現在忙しい最中さ」


「そうなんだ。あんな美人が居ないと寂しいだろう」


 リブズが笑って話している。


 リブズの店は大通りから1本入り込んだ場所に有る。周りも店ばかりだが、2階に住めるようになっている。結構高かったと思う。


「服も売るようになったんだ」


「外に出る時にすぐ着れるのが良いらしくてね。結構売れるんだよ」


 上から被るようなワンピース風のが多い。


「コートも有るんだ」


「コートだけ着ても不自然じゃ無いように作ったんだ。凄く売れてるよ。どっちも姫様が喜ぶと思うよ」


 この町には善姫さんと同じ趣味の女性が多いと聞いたことが有るが本当だったんだ。一軒家に住める人中心のようだが。


「そういうのは白人系が多いの?」


「いや、バラバラだよ。獸人さんも買ってくれるしね」


 リブズによると、年齢に関係なく存在するみたいだ。


『年寄りだった頃の依能もそれで宿代がかかると言っていたな』


「実はこの町では着てなくてはならないという法律が無いからね」


「本当に!」


「無いよ。獸人さんや亜人さんも居るから。奴隷も居るしね。昼間から着ないで歩いても田舎者以外は気にもしないよ。ただ馬鹿が襲ったり、絡んだりする事が有るから皆、着ているのさ」


 予想と全然違った答えだった。だが腰に布を巻いただけの奴隷とか、裸の獸人さんや亜人さんは見たような気がする。


「少し高めの食堂に行くと女の半分近くは裸だよ」


「男は?」


「女を守らないとマズいだろう。軽めの防具と剣が必要だからな。後は個室を取るかしか無いな」


 なるほどと思った。


「この1本先が高めの食堂が沢山有るよ。外に武装した店員が立っている店は安心だよ」


 世界が変わると常識や習慣が全く違うことに驚いてしまう。


「今日は良い話しが沢山聞けた。今度、善姫さんを連れて、また来るよ。買い物はその時にね」


「買い物無しでも来ておくれよ。旦那は恩人だからね」


 昼ご飯を食べに水郷城に帰ることにした。


『水美。何を食べようか』


『余り重くない物が良いな』


『焼いた魚か蕎麦かな』


 水美と掘りの辺りを歩いていると、人集りが見えた。


『まさか、まだ選んでいるのか?』


『みたいだな』


 人集りは呉服屋の前だった。


『ヤバいな。寿司屋にするか』


 俺と水美は回れ右して立ち去ろうとした。


「「旦那様~」」


 知世さんと善姫さんに見つかってしまった。二2人が駆け寄って来た。


「まだ決まらないの?」


「はい。特に水神様が……」


「またか……俺は昼ご飯で寿司屋に居るから、終わった人は食べにおいで」


「「はーい」」


 水神様は美人だし良い神なのだが、決断力の無さは特筆すべき特技だと思う。


『水の里で食べれば良かったな』


 水美の言う通りだと思った。




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